おかげさまでUAも121529、お気に入り件数も771件、しおりも338件、感想数も387件(2022/7/22 9:55現在)となりました。本当にありがとうございます。こうして皆様に継続して読んでいただけるというのは本当にありがたいものです。
それとAitoyukiさん、大菊寿老太さん、拙作の評価及び再評価をしていただきありがとうございます。また作者も筆を執る力が湧きました。
今回の話は前後編二本同時投稿なのですが……読んだ際にとあるキャラの扱いのことで気分を悪くされるかもしれません。いつにも増して人を選ぶ可能性があります。
なのでブラウザバックされても構いませんし、後編の後書きに目を通すだけでも十分ありがたいです。
また前編は短め(9000字足らず)ですので上記の点も含めて注意して見ていただければ幸いです。では本編をどうぞ。
「彼女超欲しい」
「わかる」
心底頭の悪いやり取りが隣の席から聞こえてくる。
解放者の住処で暮らすことになって五日。夕飯を終えた非モテグループの一人である浩介は、居間にいた礼一と良樹の言葉に口にこそ出さなかったものの、心の底から同意していた。
「右見ても左見ても彼女持ちばっかだもんな……先生に光輝、龍太郎と遂に大介の奴まで裏切ったんだぞ」
「ロリ介マジ許さねぇ……アレーティアの奴に命賭けられるのはカッコいいけどそれはそれとして俺らの同類であってほしかった……」
ひどい嫉妬に塗れきった良樹と信治の言葉の応酬に浩介も自然とうなずき、どうして自分に彼女が出来ないのかと天井を見上げる。恋人とイチャつきたい。めっちゃ青春したい。あわよくばその先に行きたい。幼少の頃より見せつけられ続けて抱いた渇望が満たされないことに今日もまた心の中で嘆く。
……安心できる環境に身を置くことが出来たからか、恋人のいる奴らの行動は段々と積極的になってきた気がする。浩介はそう錯覚しようとしているが、それはあくまで大介とアレーティアが新たにカップルになったからより目につくようになっただけであり、元からハジメ達の行動はある
(羨ましい羨ましい羨ましいぃぃいぃいぃぃい!!! 俺だって、俺だってそういうの経験してぇわ! なのにどうして、どうしてなんだよぉ……)
そして今日もまた浩介が血涙を流すがそれ自体はもう誰も気に留めない。せいぜいソファーを濡らすなよー、と心の中で思うだけ。今日もモテない男のひがみと怨嗟に苛まれつつ、あの日のことが脳裏によみがえる――知りたくなかったことを知ってしまった、ここに来て三日目とその翌朝のあの出来事を。
その日は生成魔法についての実験をし、それに関する話で礼一達と大いに盛り上がった。
やれ回復薬が無尽蔵に作れるだの何だのとロクに興奮冷めやらぬ中、消灯時間を過ぎても話をしていたせいで見回りに来たメルドのげんこつが落ち、全員が渋々眠った後のこと。ふと尿意を催して浩介は目を覚ましてしまい、まだ寝てる皆を起こさないようこっそりトイレに行こうとしたのであった。
八重樫道場のシゴきのおかげで暗いところは怖いどころかむしろ安心感を覚えるぐらいであった。浩介は解放者の住処が薄暗いことも特に気に留めず、むしろ通路に差し込んでくる人造の月の光をどこか奇麗だと思いながらも用を足しに急いで向かっていく。
『……奇麗だな。こんな地下で月明かりを見られるなんてな』
そしてトイレも無事に済ませ、頭上から照らされる優しい光にどこかひどく感激していた浩介は、すぐに戻るのももったいないと思ってゆっくりと廊下を歩いていた。この時の行動を後でひどく後悔するとも知らずに。
(川のせせらぎも心地いいし、明かりに照らされる畑や地面なんかも映えるよな……今度から、少し夜更かししようかな)
そんなことを思いながら歩き続けていると、ふとある方向から物音が聞こえた。寝室の方である。一体どうしたと思って近づいていけば、その音はより鮮明に聞こえてきた。
『――! もっと、もっと――!』
『うぁあぁっ!――こんなの、がまん――』
声だ。それもハジメと恵里の声である。一体何事か、とやや寝ぼけた頭で寝室の方へと忍び寄り、もしや何かあったのかもしれないと聞き耳を立ててしまった。
『――ジメくん、もっと、もっと――よぉ!! ボクの――、め――にしてよぉ!!』
(……恵里、だよな? でも、その……この声、どういうことだよ?)
恵里の声だ。だが一体この声はどういうことなんだろう。どこか色っぽくて、思わずドキドキして生唾を呑んでしまうような声をどうして出しているのだろう。理解したくない事態に混乱しつつも、浩介の耳にまた別の人間の声が飛び込んでくる。
『ほんとうに――はえ――だなぁ!! ほら、ぼくの――でぐちゃぐちゃ――』
今度はハジメの声だ。息を荒げたような言葉づかいで、苦痛以外の
(あ、あれ、だよな……ちょっとしたマッサージだよな。はは、ハジメの奴、結構強い力で押してんじゃん。大丈夫かよ恵里の奴)
浩介は顔を引きつらせながらも二人は強い力でマッサージし合っているんだと想像したのである……脳が、心が、理解することを拒んでいるのだろう。どこかくぐもった音も聞こえる中、勝手に“なんかすごいマッサージ”だと結論付けてふらふらとした足取りで部屋へと戻った浩介であったが、その日はもう眠れなかった。
しかし、そんな現実逃避はいつまでも続きなんてしなかった。とっとと夢から覚めろと言うかのように、翌朝に信じがたい光景を見てしまう。
『お、おはよう。皆……』
あいさつと共にハジメ達は三人一緒に居間へと入って来た。どこか照れている様子を除けば普段と変わらない……問題は恵里と鈴であった。
『おはよう、皆』
『お、おはよう……』
恵里がほんのりと頬を染め、鈴は顔を真っ赤にしながら部屋に入って来たのだ……足運びがどこかぎこちない感じで。
(あ、あれぇー?……な、何があったんだろうなぁー。昨日は何もなかったはずなんだけどなー)
実際に見た覚えこそないものの、小説なんかを読んでいるとわかる動きであった。だがそれでも
『え、恵里ちゃん! 鈴ちゃんも! き、昨日、ハジメ君とえっちなことしたの!?』
ド直球であった。コイツ全力でストレート叩きつけてきやがった。その場にいた全員の意見が一致し、その質問を投げかけられた三人は……。
『えっと、その……』
『……うん。した。しちゃった』
『…………(こくり)』
至してた。めっちゃエロいことをやっていた。自分達が寝ている間にコイツらエッチなことに興じてた。
ハジメだけがどうにか誤魔化そうとしてたみたいだけれど恵里と鈴がとてつもなく能弁に語った。確定であった。
『あ、あぁ……うあぁぁ…………』
それを理解した浩介の心にヒビが入る。コイツらもう大人の階段登りやがった。一足先に卒業しやがった。違いの分かるオトナになりやがった。
羨ましさと妬ましさと恨めしさと悔しさで涙と鼻水が止まらず、程なくしていつものように血涙が流れて来た。
『お、おいハジメ! ま、マジで二人とエロいことしたのか!?』
『エロいことっていうか、その……エロ、そのものだよ信治君』
『マジ、か……クソぉ! 先生ばっかいいよなぁー!! 俺だって女侍らしてーわー!!』
いつもの七割増しで心の中にどす黒い嫉妬の嵐が吹きあがる中、信治がもう一度尋ね、それにハジメが答えたせいでなんかもうよくわからない感情が浩介の中で青天井になった。
ぶっちゃけ良樹が言った通りホントにそういうことやりたくて仕方なくなった……想像したらしたでそれでなんか満たされたりしたし、それ以上となると結局ちょっとしたセクハラを妄想するのが限界だったりするが。
『いや良樹、絶対それ大変だぞ。鈴はともかく恵里は割と人選ぶだろ。そういうのに好かれると結構大変じゃないか?』
幸利がそう述べたが浩介はそんなもん関係なかった。もう好かれるなら面倒でも何でも良かった。
幼少期から何度も何度もカップルの仲睦まじい様子を特等席で見させられる罰ゲームを受け続けてきたのだ。こうなりゃヤンデレだろうが電波だろうがもう構わないとさえ感じていた……理想は自分をドキドキさせてくれるようなどこか可愛らしくて奇麗なお姉さんだけれど。割と浩介は注文が多かった。
『……恵里がちょっと困ったことをするのはわからなくもないけれど、訂正してくれないかな……幸利君?』
『あ、いや、すまん……そりゃ惚れた相手けなされたくないもんな』
『気持ちはわかるから落ち着こう、皆。浩介もだよ……頼むから血涙流すの止めてくれ。割と慣れたけど結構怖いから』
その後ハジメと幸利が何かやり取りをしていたようだが全然耳に入ってこない。光輝からの注意がやっと認識できたぐらいだ。だが浩介はそんなの知ったことかとばかりに腹に溜まった感情をハジメに向けて叩きつける。
『恨めし妬まし羨ましいぃぃいいぃぃ!!……俺だって、俺だって女の子にモテたいんだよ! 苦労なんていくらでも背負っていいから、俺だって好かれたいわぁぁぁああぁぁ!!!』
もう色々と限界であった。『だから浩介っちはモテないんだよ……』と奈々が言ったり、『なんか浩介がかわいそう……』と妙子が言ったが知ったことじゃなかった。同情するなら彼女になってくれ。そう思って視線を向けたら全女子~ズが目を背けた。一層心が荒れた。
そこから先はもう浩介もあまり覚えていない。せいぜいメルドがエロいことに関して解説してくれたことぐらいしか頭に残ってなかったぐらいだ。ただ時折ハジメが実体験を交えてきたため、その都度赤い瞳からまた紅い涙が流れ落ちたが。とりあえずムードは大事だと知った。
……この日から段々と浩介の様子がおかしくなっていったのは言うまでもない。
「うぅ……ぐすっ……はやく一日終われよぉ……」
解放者の住処で過ごすことになって六日目の夜を迎えた。既にもう食事を終え、居間に
「浩介、ドンマイ……」
「俺らだって辛ぇよ……アレはマジでねぇって……」
近くのベッドで仰向けになって天井を見上げている良樹と信治がかけてくれる同情の言葉が心にしみる。あんなことがあってはもう浩介も絶望するしかなかったのだ。
「ロリ介の野郎……龍太郎や光輝より先に大人になりやがってよぉ……一番遅いって思ってたのにぃ」
そう。実は昨晩大介とアレーティアがどうも致していたらしい。今朝がたのアレーティアの歩き方が、どこかで見たことがあったようなぎこちないものだったからだ。思いっきりデジャヴを感じ、全員が視線を向ければアレーティアはりんごのような顔になりながら大介の後ろに隠れ、大介も『お、おう!! お、大人の階段登ってやったぞ!! スッゲー気持ちよかった!!』とのたまったのである。
その後はもうヒドかった。香織が期待とドキドキに満ちた眼差しを龍太郎に送ったり、雫が何故か後方保護者面しながらアレーティアの幸せにひどく感動していたり、光輝がそれにツッコミを入れたり、後ろからアレーティアにポカポカ叩かれてる大介から感じるちょっと落ち着いたような雰囲気とかで自分を含む非モテの面々はもう発狂するしかなかった。
なお幸利は大いに羨んだがそのぐらいである。彼だけ割と冷静だった。
「……お前ら覚悟しとけよ。香織の奴、多分今晩にでも――」
「やめろ幸利」
「その予想はマジでしんどくなるからやめろ」
幸利が発しようとした言葉を先んじて礼一と信治が抑える。そんなことぐらいわかっている。わかっているのだ。だが大介に続いて龍太郎もそっちの仲間入りしたら精神的なダメージが深い。ようやく出血が止まった傷口に塩を刷り込むようなものなのだ。だから勘弁してくれと二人が止めにかかった。
幸利も『そうかよ』と言うだけでもう何も言わなくなった。そんな中、一人浩介は思う。
(どうして俺、こんなみじめなんだろ……)
ここ数日頭を巡る疑問に答える術は彼にない。頼むからどこかから女が湧いて出てくれ。この際空から降ってきてくれてもいい。そんな起こりもしないことを考えるレベルにまで浩介達は追い詰められていた。
(こんな苦痛が続くならいっそ……)
そこでふと、浩介は礼一達に視線を向ける――
(いやいやいや!? お、俺はノーマルだし! あいつらとは親友であってお互いそういう趣味でもねーし無理矢理はダメだろ!……〇西先生……!! エロいことがしたいです……)
一度はそれを振り払うも、今度はムラムラした欲望が鎌首をもたげてくる。いきなり話を振られた安〇先生も勘弁してくれと願うような衝動は一向に治まらず、浩介の精神を苛み続ける。まるで、端の方から少しずつヤスリで削られているかのような耐え難き苦痛であった。
なお幸利が察した通り、龍太郎と香織はその晩ケダモノになり、それが判明した翌朝の非モテ共(ただし幸利を除く)は大いに苦しむこととなった。
「くたばりやがれぇええぇえぇ!!」
解放者の住処で過ごして十六日目。
狩りを兼ねた午前の訓練にて、浩介は憤怒の表情で迫りくる魔物を怒りの赴くままにことごとく叩き潰していた。怒りで動きが幾らか単純化してはいたものの、積んだ経験とある程度強さが隔絶していたということもあって無傷で撃破している。
「すげぇ浩介の奴……」
「なんつーか、スゲーな……」
そしてそれは礼一や良樹達だけでなく、他の皆もそれに圧倒されている。いかに単調で残心も無く、目についたものに片っ端からオーバーキル気味な攻撃を加えていたとしても。その様は悪魔或いは猛獣を彷彿とさせた。
「全く……浩介! 何をやっているんだお前は!! 怒りに心を囚われ過ぎだ! それでは訓練にならんぞ!!」
とはいえメルドの場合、自分の部下がこういう風になって暴れたのを見たのも少なくなかったため、割と普通に対処しようとしていたが。
「……ふふっ。わかんねーだろな、メルドさんには」
「何がだ?」
「女に飢え続けた奴の気持ちってもんがさ!!……わかるか。なぁ。十年近くだぞ十年近く。ほとんど毎日仲のいいカップル二組を間近で見続けるしかなくって、しかもその後仲間だと思ってた奴が新しく友達になった美少女にいきなり惚れ込まれて、新たに出来た女友達に付き合わないかって誘ってみても『存在感が薄くてどこにいるかわかんないからお断り』って言われた俺の気持ちは……わかる訳ねーよなぁ!!」
思った以上にこじらせている様子にハジメ達も『うわぁ……』といった表情で浩介を見る他無く、そう言われたメルドも『いや、そんなこといきなり言われたって困るぞ』とばかりに顔を引きつらせて困惑した様子を見せていた。
「最近フリージアが来てくれたけど……こう、スキンシップしようとしても『作業の邪魔になりますので近づかないでください』以外の言葉を発してくれないんだぞ!! 結局機械っつーかゴーレムだから悪代官ごっことかも出来ねーしさぁ!! 生殺しだわ!!」
「そうだぞ! まだ俺は我慢出来るけどよ、ハジメがフリージアにエロもいける機能をつけてくれれば……!」
「ゴーレムとはいえ女だしな! やっぱこう、期待して悪いかよ!!」
「やっぱり溜まるもんは溜まるんだよ!! このままだと頭がおかしくなっちまいそうで怖ぇんだよ!」
そんなことやってたんかい、と多くの面々からドン引きされたり呆れられるが、幸利以外の非モテは浩介に味方しつつ自分の胸の内を明かした。彼らも彼らで割と限界だったらしいのはわかったが、ぶっちゃけた奴ら以外皆引いていた。
「何が言いたいかよくわからんのもあったがまったく……まぁお前らがそんなに鬱々としているのはわかった。一時間、一時間だ。この訓練を終えて昼飯を食ってから、俺と組み稽古でもしないか? 鬱屈したものは晴れるぞ」
だがそんなメルドのいきなりの提案に皆軽く面食らってしまう。まさかこんな方向に行くとは思わなかったからだ。
「ヤケを起こす前に腹の内に溜まったものを俺が引きずり出してやる。じゃあ浩介、礼一、良樹、信治は俺と――」
「「「あ、すいません。遠慮させていただきます」」」
なお即座に礼一達は手を前に出して断りを入れた。メルドが滅法強いのはわかっているため、いくら稽古といえど本気でやられたらどうなるかわかったものじゃないからだ。
「え、いや、その、でも……め、メルドさんに悪いですし……」
一方、浩介の方は迷いを見せていた。地球にいた時は八重樫道場で散々やりはしていたため、別にやれないという訳でも不慣れということでもなかったからだ。ただ、気を抜いたら死にかねないような一撃がやたらと来るようなものであったため、まさかそういう奴かと誤解していたが。
とはいえ鬱憤が溜まっていたのは事実であったし、折角のメルドの提案を信治達のように無碍にするのもどうかと思って迷ってしまったのだ。だがそんな浩介に、メルドはどこか安心した様子で彼の方へと視線を向けていた。
「そうか。だがその様子なら尚のこと惜しい……殺しのトラウマは消えたようだからな。どうする?」
迷っていた浩介もそれを言われてようやくあのトラウマを越えることが出来たと自覚する。自分を苛んでいたアレはもう過去のことだったらしい。そこで純粋にやってみるかどうか幾らか迷った末、彼は頭を下げた。
それを見てよし、と満足気な表情を浮かべたメルドも浩介と約束を取り付けるとすぐに光輝達に訓練の再開を促すのであった……なお後にメルドはこの時のことをこう述懐する。とんでもなくヤバい奴を育ててしまった、と。
「ハァッ!!」
「動きが甘い! 緩急のつけ方は悪くないが、いささか正直過ぎだ!!」
そしてその日の午後。本来ならハジメ達の“錬成”による作業の手伝いをするはずであったメルドと浩介はヒュドラのような魔物が出てきたあの場所で模擬戦をしていた。流石に刃を潰した武器を使用しているが、ここならどれだけ派手に暴れても問題ない区画だからとメルドはここを選んだのである。
ちなみに前にハジメ、恵里、鈴、光輝、雫の五人で足りなくなった材料を調達するために外に出た際、いきなり出現したヒュドラに面食らったこともあった。その時は頭が当初は六つで全部倒したら銀頭が出てくる仕様であり、前と違って隙があったためそこまで手こずらずに済んだと述べていた。尤も、それでも満身創痍で戻ってきたため誰もが大いに慌ててたが。
その後どうしてこうなったかを検証し、『五人以下の少人数で出ると一度だけ弱いヒュドラに襲われる。ただし強いのと弱いのを一度ずつ攻略した人間が一人でもメンバーにいれば出ない』という結果が出た。
そこで腕試しをしたがった龍太郎やそんな彼を『しょうがないなぁ』と思いながらも付き合おうと考えた香織、メルドと浩介も加わって弱いヒュドラを攻略している。なお情報が色々と出揃っているせいか大した怪我もせずに終わった。
閑話休題。
「ぐぅっ!?」
「お前ほどの強さの奴が
もうヒュドラが出なくなったこの場所で“気配操作”を使った奇襲、あえて正面から挑んだり、ここ最近使えるようになった幻の分身を発生させる[+夢幻]とその分身に実体を持たせる[+顕幻]のコンボで二方向から仕掛けるなどやってはみたものの、そのいずれもメルドはいなしていく。
「なら、これは――」
「どうだぁ!!」
「ほぅ! 悪くは、ない――だがっ!!」
今度はあえて分身と二人で真正面から切り結ぼうと突っ込み――弾かれると同時に上段下段からの攻撃に分かれて仕掛ける。だが二人分の攻撃を受け止め、迫る上段の一撃は軽く頭をひねり、下段からのは剣で防ぐことでメルドは対処してくる。しかし当然浩介はそれで終わらない。
「“縛地陣”! 背後がガラ空き――」
攻撃をいなされるのも想定の上。上段を担った分身の浩介は“縛地陣”によりメルドの両手足を拘束し、自分の体も岩の鎖で巻き付けて強引に後ろへと持っていき、そのまま背後を取ろうとする。
「“出盾”! “縛岩”!――拘束程度なら読めていた! 背後を狙うともな!」
だが、それすら読まれていたらしく、出現した土塊の盾に阻まれ、今度は分身が雁字搦めにされてしまう。だがそれでもと本体の浩介は迫ろうとする。
「だったら俺が――」
拘束されて満足に剣が動かせないと判断した浩介は、刀を手放して懐から小刀――これももちろん刃を潰した訓練用のものだ――を取り出してインファイトに持ち込もうとする。
「真下がガラ空きだぞ?――“隆槍”」
だが、先端が軽く丸まった岩の棒で股間を軽く小突かれて悶絶してしまう。
もがいていた分身も動きが止まり、拘束が緩んだところで剣を首元に当てられる。勝負あり、であった。
「……股間は、ヒキョーですって……」
「全く、ここでの経験が活かされてないな……真っ当な方法でここを切り抜けられた試しなんてなかっただろうが」
分身を消し、股の間を両手で押さえ、顔を青ざめさせながらもにらむ浩介に悪びれることなくメルドはこう返す。事実、このオルクス大迷宮を突破する際に真っ当な方法で勝ちを収めたことなんてロクにないのだ。
大体は先遣隊が持ち帰った情報を基に作戦を立て、その上で数の暴力を利用しての勝利ばかりなのだから。ただ、その情報がロクにないまま戦う羽目に遭う先遣隊に浩介は所属してた訳だが。
「痛いぃ……〇ん〇ん腫れたぁ……」
「後で回復薬でも煽っておけ。ほれ、戻るぞ」
未だ悶える浩介を背負い、そのままメルドは門をくぐっていく……その後も浩介はよく模擬戦をして溜まったものを発散するようになるも、やはり思春期特有のエロいことへの欲求が満たされている訳でもなかった。そのためこれまた段々とこじれていくことになることに浩介すらも気づけないのであった。
ちなみに浩介が聞き耳を立てた事はバレていません。あと2ラウンド目です。何がとは言いませんが恵里との場合は二戦目です。うん。