おかげさまでUAも123617、お気に入り件数も782件、しおりも339件、感想も397件(2022/8/4 23:00現在)となりました。毎度毎度どうもありがとうございます。いやホント拙作をお気に入りに入れて下さる方々の数がグンと増える瞬間見てると毎度毎度驚きます。
それとAitoyukiさん、al iksirさん、jonさん、拙作を評価及び再評価していただきありがとうございます。皆様が評価してくださったおかげでまた前に進むための力をいただきました。本当に感謝でいっぱいです。
今回の話は長め(13000字程度)ですのでご注意ください。では本編をどうぞ。
「どうした勇猛なる者達よ!!」
「我等を前に屈するのか!」
「死の化身たる多頭の蛇を屠った貴様等の実力はそんなものか!!」
「まだ――まだだっ!!」
ヒュドラとの激戦を繰り広げた例の場所で光輝達は四方八方から来る
「――そこだ!!」
相手の刃を受けた瞬間、手首の返しで剣撃を逸らし、同時に逆手に持ち替えて切り上げる――八重樫流刀術
白く輝く
「はっ!」
「やぁっ!!」
「そこっ!」
一振りの刃がそれぞれ三方向に振るわれる。浩介と同様に実態のある分身を作れるようになった雫は、光輝の死角より迫る一撃を愛刀『
これは以前ハジメから作ってもらったタウル鉱石製のあの刀であり、生成魔法で“風爪”を付与したことで最大六十センチほど風の刃で刃先を伸長したり、刀身の両サイドに更に二本の風の刃を形成したり、更にはその刃を飛ばすことも出来るようになったのだ。ちなみに名前は愛する人の名前に近しいものをつけたいと雫が頭をひねって考えたものだったりする。当然光輝は照れて、大介らは茶化し、そして当然のように浩介は発狂してた。
「助かる雫!」
「「「構わないわ! 今は向かってくるのに集中!!」」」
「ふっ……やはり耀騎士と影の守護者、容易くは倒せぬか」
「この深淵を前にしてもなお乱れぬ連携よ――クソ羨ましい」
雫も光輝も互いに背中を向けあいながらも不敵に笑い、構えも息も乱さない。その様子に相手の何人かは歯ぎしりしていたが、それを意に介することなく二人は戦いを続ける。
「“風爪”っ! そこだぁあぁぁ!!」
ハイリヒ王国にいた頃から身に着けていた籠手から衝撃波を発生させ、蹴りと共に“風爪”を使い、“浸透破壊”の乗った拳の一撃を相手へと叩き込む。
全て当てるどころか五割いけば順当なぐらいの命中率であったが、それで龍太郎は焦ることは
「やっぱり数が多いと、厄介、だねっ!!」
戦闘が始まってから鈴と共に“聖絶・桜花”を発動し続けている香織は、今も光の花弁を散らしては容赦なく相手を切り刻み、龍太郎へと向かう相手の数と動きをコントロールしている。愛する彼と背中合わせになりながら、彼女は自分のなすべきことをやっていた。
“ハジメくん、メツェライはまだ保つ!?”
“あと二分が限界!! 一号機の方もまだ七分は冷却しないと動かないし、恵里と鈴に頑張ってもらうしかないよ!!”
迫りくる相手の三割近くを倒すというとんでもない所業をやってのけているグループの一つが恵里達であった。
「くっ、やっぱり数が多いね!! リロードも楽じゃない!!」
また空いた手にはドンナーが握られており、顔の上半分を覆う“魔眼鏡”と名付けたゴーグルを身に着けながら分身を一体ずつ撃ち抜いていく。
このゴーグルは以前浩介が深淵卿となった時や、それ以降
単なるガラスでは一つしか技能を付与することが出来ず、そのため皆に頭を何度も下げ倒して――なお一度頭を下げただけで快諾してくれたが、その後何度も何度も頭を下げまくったからである――神水を出さなくなった神結晶を譲ってもらい、材料にしたのである。視界を確保出来る程度に薄く“錬成”で加工し、“魔力感知”“先読”を付与することで身に着けている間は通常とは異なる特殊な視界を得ることが出来るようになった。しかもそれだけでなく、魔力の流れや強弱、属性を色で認識できるようになった上、発動した魔法の核が見えるようにもなったのだ。
魔法の核とは、魔法の発動を維持・操作するためのもの……のようだ。発動した後の魔法の操作は魔法陣の式によるということは知っていたが、では、その式は遠隔の魔法とどうやってリンクしているのかは考えたこともなかった。実際、ハジメが利用した書物にも、魔法の指導をしていた教官やメルドからもその辺りの話は一切出てきていない。魔法のエキスパートたるアレーティアも知らなかったことから、新発見である可能性が高い。
通常の〝魔力感知〟では、〝気配感知〟などと同じく、漠然とどれくらいの位置に何体いるかという事しかわからなかった。気配を隠せる魔物に有効といった程度のものだ。しかし、このゴーグルにより、相手がどんな魔法を、どれくらいの威力で放つかを事前に知ることができる上、発動されても核を撃ち抜くことで魔法を破壊することができるようになったのだ。ただし、核を狙い撃つのは針の穴を通すような精密射撃が必要ではあったが。
「み、ごと……!」
「フッ、やはり創造の魔王にはそうそう届かぬか!!」
「頼むからそのあだ名やめてくれないかな!?」
寸劇をしつつもハジメはドンナーのシリンダーをスイングアウトし、排莢すると同時に弾丸が規則正しく薬室へと入っていく。素早くシリンダーを装填し直すと、すぐさまハジメは分身の魔法の核を狙い、分身を一撃で消滅させていく。
メルドからのシゴきの時にも感じたある問題――ドンナーのリロードに手間がかかるということも感じていたのだが、実はそれも既に解消していた。一瞬だけ“瞬光”を使い、宝物庫から弾丸を転送することで空中リロードするという曲芸を身に着けたからである。以前トータス会議の時に弾切れも無しにリボルバーを撃ち続けていたことを思い出し、そこで宝物庫を使うことを思いついたのだ。
とはいえ直接弾丸をシリンダーの薬室内に転送するほど精密な操作をやっている訳ではないし、それは出来なかった。弾丸の向きを揃えて一定範囲に規則的に転送するので限界だったのである。もっと転送の扱いに習熟すれば出来るようになるかもしれなかったが、時間の関係からハジメはそれを選ばず、前述した方法でリロードする方法の取得に勤しんだのである。もちろんそれを身に着けるのにも相応の時間は要することとなったが。
“やっぱり後でもう一台増やした方がいいかもね! その間はボクらでどうにかするよ、鈴!!”
「――“緋槍”!!」
そして恵里もようやく乱射出来るようになった上級炎属性魔法の“緋槍”を放ち、迫りくる相手を貫き、火だるまにしていく。今やってる訓練をする時は神の使徒に操られることを前提のものであったため、耳栓を使用して“念話”を経由してハジメや鈴と意思疎通を図っている。
“慣れはしたけどホント厄介だね!!”
「――“聖絶・光散華”!!」
そして鈴も切り札である無数の光の破片を爆破する“聖絶・光散華”をまたしても発動し、一気に迫り来る相手を爆砕していく。無論使った分はすぐさま“聖絶・桜花”を発動することで補充し、わずかな隙も見せないようにしている。そこかしこから相手の振るう刃や魔法での一撃が迫ってくるため、ほんの少し隙を見せるだけであっさりやられてしまうことを何度となく経験して身に染みていたからだ。
「温い、温いぞ!!」
「その程度で我等深淵を超えられると思ったか!!」
「思いあがるなよ――汝等の深淵は未だ浅い! 真に、否、
……が、自分達に迫ってくる無数の浩介の分身は屁でもないとばかりに増えては突っ込んでくるため倒した実感は恵里達は微塵も感じてなかったが。痛々しさも最高潮なところが余計に。
オルクス大迷宮を攻略し終え、解放者の住処で過ごして明日で二か月を迎えるその日。今日も彼らは『無数の浩介の分身相手に戦いをひたすら続ける』というトンデモ訓練をやっていた。
ちなみにこれを提案したのはメルドである。『この……“深淵卿”? というのを使えば最高の対人戦が出来るな。恵里の話だとあの銀髪の女は無数にいるらしいし、狩りが終わったら奴と戦う際の予行演習として明日からやるぞ』と“深淵卿”の全容が明らかになったその日に言い出したのだ。
城にいた頃や自主的な対人戦の訓練の際も刃を潰した武器や手加減した魔法を使ってやってはいたが、分身自体は致命傷を受けても浩介本人にはダメージがいかないことから、浩介以外は全力でやりあえるだろうとメルドが考え付いてしまったのだ。まぁ“深淵卿”が切れた後の浩介の精神的なダメージは言わずもがな。そこはちゃんと色々とケアをするということで提案したのである。
無論、いくら分身とはいえ人を実際に殺すようなものだから浩介を含むほとんど全員がそれに関して嫌な顔を浮かべた。だが、そこで手を抜いて負けてしまってエヒトにいいようにされるのも嫌がったため、最終的には全員が承諾。こうしてやる運びとなった。もちろん浩介には刃を潰した武器を渡しており、彼は訓練の間は九十九階の広間で分身相手にシャドーボクシングをやっている。身になっているかは不明である。
「あーもういちいちうっさい。“緋槍”、“鋭迅”」
かれこれひと月近くも香ばしい言動を聞き続けていれば嫌でも慣れるというもので、優花は適当にあしらいつつも魔法と投げナイフを交えた攻撃で浩介の分身の脳天を突いたり、焼き払うなり風の刃を体にブッ刺したりしている。
「“辻波”、“冷結”――はい。妙子っち、いいよー」
「ありがとぉ~奈々ぁ~――シッ!」
奈々も特に表情を変えることなく鉄砲水を発生させる“辻波”を放ち、それに吞まれた分身を氷属性の“冷結”で凍らせると、すぐさま妙子も“纏風”を付与された
一本は王国の宝物庫にあったものであるが、もう一本はハジメが作った柄の先から鎖が伸びた代物だ。ヒュドラとの戦いの際に歯がゆい思いをしたことから妙子が彼に頼み込み、作ってもらったものである。貰った当初は二つを一度に扱うことが上手く出来ずに泣くことも多かったものの、今ではそれらを器用に動かして浩介の分身を次々と叩きのめしていく。
「甘いぞ付与術師よ!」
そう言いながら四方から浩介の分身が幸利に襲い掛かるが、幸利は“瞬光”を使いつつ必要最低限の動きで攻撃を避け、時にはハジメから作ってもらったドンナーの同型リボルバー“ファントム”の銃身に纏わせた“金剛”と“纏水”で受け流す。
そして分身が懐に入ったのを見計らってからベーオウルフの杭を突き刺し、引き金を引いて貫くと同時にファントムで他の分身の腹を撃ち抜いていく。
「――誰が甘いって? ナメんなよ浩介」
前方から、上から、下から、両脇から、意識の外から迫りくる様々な攻撃を全員が避けるなり受け流すなりして対処していく。そしてそれは前衛の皆だけでなく、中衛、後衛を担っている子供達にも言えた。
「こう何度も相手してりゃぁ――なぁっ!!」
「俺らの底力を見せつけてやるぜ浩介ぇ!!」
「まだまだそう簡単にくたばってなんてやらねぇからなぁ!!」
礼一、信治、良樹の三人もおそこかしこから来る攻撃をいなしながら、迫りくる浩介達を迎え撃っていく。礼一はこの訓練が始まってからハジメに作ってもらった短槍も使って二刀流ならぬ二槍流で、信治と良樹は時に別々に魔法を展開し、時には協力して炎の竜巻を起こして次々と倒していく。
「アレーティア!!」
「んっ!――“嵐帝”!!」
アレーティアを背負いながら大介は“空力”を使いながらこの場を縦横無尽に駆け巡り、迫ってくる浩介の分身をハジメから作ってもらったダガーで捌くなり、徒手空拳で叩きのめすなどして撃退していく。そしてアレーティアも持ち前の強大な魔力で上級魔法を発動し、数多の浩介の分身を吹っ飛ばす。そこかしこに魔法の雨を降らし、今回もまた浩介の分身の三割そこらを消し飛ばしていく。戦場で勇猛を馳せた元王は伊達ではなかった。
「そこっ!――全く、減った気がしないな!!」
そしてこの訓練の発案者であるメルドも分身を一太刀で切り伏せ、ひとところに留まることなく進んでいく。何度となく乱戦をこなしたおかげでより動きは洗練されてきており、“魔力感知”だけでなく物音や感じる視線からもある程度動きを把握できるようになっていた。この訓練を提案して三日目には本気で後悔していた人間とは思えぬ動きである(他の皆は二日目で絶望していた)。
「ふっ。流石は我等深淵を凌ぐ者達」
こうして恵里達は過酷な訓練の末に仕上がっていたが、それは浩介もまた同じ。
「我等にまたしても深なる深淵を見せるまで粘ったのは称賛に然るべきか」
むしろ分身を通して幾度も経験を積み続けた浩介こそが真に恐ろしいというべきだろう。
「ならば我等も一層深まった深淵を披露するが道理!! 征くぞ!」
分身を経して幾度も死線を潜り続け、技術を彼は磨き続けていたのだ。
ただ厨二病になってハイになっていた訳でも、物量だけで攻め落とそうという浅はかな考えを抱き続けていた訳でもない。恵里達が一歩踏み出すのならば彼はその経験故に三歩四歩分進めてしまう。浩介の真の恐ろしさはここにあった。
「来るぞ皆! 全力で警戒を!!」
そして彼は
実は術師である皆が必死になって“出盾”を発動し続けながら他の魔法を展開していたりするのだが、これは浩介も同じ。分身の何割かは土属性の魔法を発動しながら攻撃を仕掛けているため、その分動きが鈍っているのが基本やられているのである。こんなことをやっているのも『強敵相手に追い詰められても立ち向かえるようになる』ためだからだ。
だが魔法を併用する分身の数が増えればどうにか保っている均衡はあっさりと崩れる。段々とキレが良くなっていく彼らを相手にこのままでは自分が負けると浩介は確信し、あえてそれを破ったのだ。
「「「「深淵流魔導技が一つ、“
浩介は“瞬光”を使わせて複雑な魔法を展開していく分身の数を更に増やす。そうすれば既に鎖や礫の弾丸が飛び出てくる地面から更に先端の潰れた無数の土くれの刃が現れていく。それは雪の結晶が成長するかのようにそこかしこへと伸びていき、かつ既にやっている攻撃の邪魔にならないように方向を選んで向かってくる。
「「「「「「深淵流魔法・風系奥義“【
「「「「「「深淵流魔導忍術が奥義――“
威力を軽く弱め、消費量を倍にした代わりに弾速を七割増しにした無数の“風球”、“縛岩陣”と“隆槍”の合わせ技で自在に伸びる土くれの刃(最重要事項:切れない)を展開するなど、軽い怪我程度で収まる代わりに速さだけはとてつもない魔法が至る所からカッ飛んでくる。
「相変わらず容赦がねぇー!!!」
「無理無理無理ぃー!!! こんなの捌き切れないよぉ~~~~~~~~~~!!!」
「どうしたどうしたぁ! 弱言を吐いていては深淵には近づけぬぞ!!」
「近づかなくていいぃ~~~~~~~~~!!!」
更にテンションが上がったのか勢いがより増した魔法の弾幕、否、最早津波に襲われた恵里達は今日も皆叩きのめされてしまい、無事に敗北を喫する形となった……“深淵卿”は強い。そのことを改めて皆が思い知ったのであった。
「うっ……ぐすっ……いたいよーいたいよー今日も俺の言動が痛いよー……なんだよ忍術って……あんなエセ忍術なんて鷲三さんからも虎一さんからも教わってねーよーていうか魔法だろアレはぁ……最近は慣れたけどなんか俺こっちに段々と引っ張られてる気がする……もうやだよーもう奈々や妙子から痛々しい目で見られたくないんだよー……うぅ……」
なお“深淵卿”を解除した浩介は今日も自身の言動の痛々しさで憔悴していた。彼とて無敵ではない証左である。
「……いよいよ、だね」
「うん。明日だね」
その日の夜中、書斎のベッドの上でひとしきり
「もうここを出ちゃうんだよね……」
「うん、これからが本番だ」
明日でもう二か月を迎える。ここに籠って旅の準備を整えるための期間が終わる。これから訪れるであろう困難を思い、恵里と鈴は腕枕をしてくれていたハジメの体にすがりつく。
「……やっぱり、怖いね」
「うん……これだけやったんだから十分大丈夫だと思う。でも、でも……怖いよ、ハジメくん」
微かに震える鈴の体、声を湿らせて抱き着く恵里にハジメは手を回す。少しでも二人が安心できるように、と。
「ここでやれることはやったんだ。だから後はさ、大迷宮を攻略してやれることを増やしていこう」
そう述べるハジメの声もまた震えている。彼とてこれで大丈夫かという不安があった。けれども二人を不安にさせまいと必死に背伸びをしている。
「……ありがとう、ハジメくん。ハジメくんも不安だってわかったら、あんまり心配じゃなくなっちゃった」
「ハジメくんだって不安だもんね……いいよ。一緒に怖がりながら進もうよ」
そんな彼をとても愛おしく感じた恵里と鈴からほんの少しだけ緊張が抜け、腕に回す力がちょっとだけ弱まった。自分達の愛した人だって不安になるのだ。だから自分達だけが不安になっても仕方がない。それに、こうして頑張って引っ張っていこうとしてくれているのだ。そんな彼がとても愛おしい。だから少しだけ、怖くなくなった。
「……ねぇ二人とも。そんなに僕って頼りない?」
一方ハジメの方はそんな二人の反応に少ししょげてしまう。男なんだからここで頼れるところを見せたかったというのに、そんな内心を見透かされてしまって自信を少し喪失してしまう。けれどもそんなハジメに恵里と鈴は頬にキスをしてきた。
「別にハジメくんに強さはそこまで求めてないよ……辛いとき、苦しいときにこうして寄り添ってくれるハジメくんがボク達は好きだから」
「うん。むしろこうして鈴達の不安に応えてくれる。そんなハジメくんだから好きでいたの」
「…………うん。ありがとう。恵里、鈴」
二人の言葉に赤面しつつも、頼られる男になりたいなぁとハジメは密かに願う。そして三人は今日も眠りに就いた。皆で地球に帰ることを夢見て、三人で幸せになることを思い描いて。
「だいじょうぶ……だいじょうぶだよ、龍太郎くん。みんなが、私がいるから」
「……おう。でも忘れるなよ、香織。お前には俺がいる。お前の不安も、俺が抱えるさ」
「……うん。ごめんね、龍太郎くん。強がっちゃって」
「俺だってそうしなきゃやってらんねぇさ。だから、いいんだ」
明日に不安と希望を抱くのは誰もが同じで、香織は自分の胸の中で龍太郎を甘やかしていた。そうすることで『自分は大丈夫』、『皆がいるから問題ない』と思い込んで不安を押し込んでいた。だがそれをすぐに看破した龍太郎に結局は甘える形にもなった。
「ぐがー……ぐがー……アレー、ティア……」
「すぅ……すぅ……だいすけぇ……んんっ」
先程まで激しく肌を重ね合わせて不安を紛らわせていた大介とアレーティアであったが、お互い疲れたことで今は仲良く夢の世界へと旅立っていた。
「……光輝」
「皆で、皆で抱えていこう、雫。皆となら、怖くなんてないさ」
「うん……だから光輝も、来て?」
「……ごめん、雫。ちょっとだけ、ちょっとだけ甘えさせてくれないか――ありがとう」
向き合って抱き合う光輝と雫もお互いの心音を聞き合いながら横になる。そうして互いの不安を共有し合った。
「いよいよ、か……」
「怖ぇな。なんていうかさ」
「……ここに残っててもいいんだぜ? 誰も責めなんてしねぇよ」
「誰も残らねぇよ、礼一……その方がかえってキツいだろうからな」
居間で眠る礼一らも緊張と不安に苛まれていた。誰も二の足を踏む事を咎めなかったが、進む事を諦めたりはしていなかった。
「いざって時は俺の“深淵卿”がある。だからそう簡単に遅れなんてとらないよ。俺に、任せとけって」
けれどもそれはただの無理ではなく、オルクス大迷宮で生活している内により強くなった仲間意識から来ていたからだ。
「……あまり無理はするなよ、浩介。お前は立派な戦力で……俺の、教え子なんだ。もちろんお前達もな」
そしてメルドの言葉を境にやりとりは途絶える。
どこか手のかかる子供のように扱われている気がして、けれどもそれが嫌という訳でもなくて。どこか『家族』を感じさせる雰囲気に少し郷愁を感じてしまったからか、もう何も言えなくなった。
「明日、なんだね……」
「そうね……」
「優花も、奈々も、不安?」
「うん……これで大丈夫かな、って思ったりもするよ。でも……」
「もう当たって砕けろで行くしかないんじゃない? 先延ばしにし続けて後悔なんてしたくないし」
「そうだね……うん」
優花達もベッド三つのベッドを近づけた状態で話し合う。不安も怖さも感じないはずはない。けれども幾度となく窮地を乗り越えてきたことで根付いていった自信が彼女達を支えた。
「……ユキの奴に置いていかれるなんて、イヤだから」
「幸利……とずっと一緒にいたいから」
「? 優花、奈々?」
そして抱いていた想いがぽろりと漏れる。小声であったため気づくことはなかった。妙子も、それを言った本人でさえも。
――そうして迎えた翌日、一同は遂に地上に出ることとなった。
全員の
後はどこに出るかわからなかったため、一発で身元が割れないよう全員がハードコンタクトを着用していたり、髪の毛を染めたりしている。コンタクトの方は茶色や黄色に碧といったもので、髪は茶髪か赤――ちなみにアレーティアは大介と茶髪でお揃いにした――である。これも一行がアレコレ考えて試行錯誤の末に生み出した成果だ。
他にもメルドから色々と教えてもらって一般的な冒険者や兵士が扱っているような見た目の武具――革鎧や肩当といったもの――を装備しているといった具合だ。
尤も、それら全ての材料は真のオルクス大迷宮産であるため、地味な見た目に反してあり得ない程に性能は凶悪であったが。それと身軽に見える術師全員やハジメらは服の中にタウル鉱石製の鎖かたびらを着込んでいたりするため、見た目以上に防御力はバッチリであった。ちなみに真のオルクス大迷宮を攻略する際に身に着けていたものは全て宝物庫の中に収まっており、ハジメがその管理を任されている。
ちなみにそんな彼らのステータスを一部抜粋すると大体こんな感じであった。
==================================
中村恵里 16歳 女 レベル:???
天職:闇術師
筋力:8540
体力:10290
耐性:7680
敏捷:10760
魔力:14160
魔耐:14160
技能:闇属性適正[+闇属性効果上昇][+発動速度上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動]・闇属性耐性[+効果上昇]・気配感知[+特定感知]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・言語理解
==================================
==================================
南雲ハジメ 16歳 男 レベル:???
天職:錬成師
筋力:8620
体力:10730
耐性:8320
敏捷:11160
魔力:11980
魔耐:11980
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成]・気配感知[+特定感知]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・言語理解
==================================
==================================
天之河光輝 16歳 男 レベル:???
天職:勇者
筋力:10020
体力:13270
耐性:9940
敏捷:12880
魔力:14820
魔耐:14820
技能:全属性適正[+光属性効果上昇][+発動速度上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動]・全属性耐性[+光属性効果上昇]・物理耐性[+治癒力上昇][+衝撃緩和]・複合魔法・剣術[+無念無想]・剛力・縮地[+爆縮地]・先読・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・魔力感知[+特定感知]・気配感知[+特定感知]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・限界突破・言語理解
==================================
レベルは100を成長限度とするその人物の現在の成長度合いを示す。しかし、魔物の肉を喰いすぎて体が変質し過ぎたのか、ある時期から全員ステータスは上がれどレベルは変動しなくなり、遂には非表示になってしまったのである。
魔物の肉を喰った恵里達の成長は、初期値と成長率から考えれば明らかに異常な上がり方だった。特にハジメがそれが顕著であった。ステータスが上がると同時に肉体の変質に伴って成長限界も上昇していったと推測するなら遂にステータスプレートを以てしても彼らの限界というものが計測できなくなったのかもしれない。
そんな化け物染みた強さとなった一同は三階へと集まると、外に出る魔法陣にハジメが魔力を流していく。すると、リーダーである光輝が全員に言葉をかけてきた。
「……俺達は今も世界中でお尋ね者扱いかもしれない」
誰もが一度は想定したこと。このまま死んだり行方不明扱いしてくれればいいが、恵里から情報がリークされてしまったことを考えればそう簡単に逃がしてはくれないだろう。それをわかっていたからこそそれに誰も反論できない。
「聖教教会も敵に回っている。そう考えておけ……今は雌伏の時だ。情報を集め、お前達で十分戦えるとわかってからハイリヒ王国へと戻るんだ。そして神殿騎士とまだいる可能性のある銀髪の女を破ってイシュタル教皇に迫り、お前達の扱いを撤回させる。それでいいな?」
メルドの言葉に全員がうなずく。このまま世界の敵扱いでは間違いなく神代魔法取得の旅に支障が出てしまう。とはいえ二か月も籠っていたから外はどうなっているのかがわからない。だからこそ今は慎重に動くべきだというのは誰もが理解していた。
「まぁでも浩介もいるし、俺達ならどうにかなるんじゃねぇのメルドさん?」
「楽観視し過ぎだ良樹。恵里の話では雲霞の如くいるというからな――それにあの時本気で相手をしていた様子もなかった。本気ならきっとあの場にいた誰もが死んでいただろうからな」
「そうだね。少なくとも分解する能力をフルに活用してなかったんだから最低でもそれは考えとかないと」
良樹の言葉にメルドは静かに反論し、それに恵里もうなずいた。やはり一筋縄ではいかないか、と誰もが緊張を露わにしながらも、今度は恵里が言葉を紡いだ。
「――けれどボク達なら戦える。あの時無様に負けそうになったのとは違うんだ。ここでこうして強くなって、色んな武器も手にして、技術だって磨いた。あの時のボク達じゃない」
そう力強く述べる恵里にこの場にいた全員がうなずいた。ベヒモスのいた階層でいいようにされた時や、二尾狼の群れに最初に襲われたあの苦い記憶。それを思い出して不安に駆られていたりしたが、それももう過去でしかないのだと皆が割り切って考えることが出来たからだ。
「……勝とうぜ」
龍太郎が言葉
「勝とう」
「勝ちましょう」
香織と雫がそれに乗る。並々ならぬ決意を宿して。
「命がけなのは今更だな。ここで怖気づいてなんていられるかよ」
「そうだな。ここで何度も死ぬ目に遭ったんだ。そう簡単にやられてたまるか」
幸利が、浩介が発破をかけてくる。この程度で立ち止まれないという風に。
「だな。だーれも攻略したことのないオルクス大迷宮の一番奥まで行ったんだ。俺らが最強無敵だろ?」
「だよな。ま、でもどれだけ強いのが出てきても俺らが負ける訳ねーし」
「そうそう。むしろここより強い魔物がうじゃうじゃしてたら世界なんてとっくに終わってらぁ」
信治が、礼一が、良樹が、不敵に笑いながら言う。地獄を駆け抜けてきた自分達に恐れるものなんてない、とばかりに言ってのけた。
「あぁ。それにこっちにゃアレーティアもいるんだ。負ける訳がねぇ」
「…………んっ。私もいる。私達は、負けない」
肩に手を回し、自信満々に言う大介と、そんな彼の言葉に軽く頬を赤くするアレーティア。自分達も屈する気はないとばかりに二人も強い語調で訴えきていた。
「そうね。今更尻込みなんてする場所じゃないわ」
「うん! 皆で、皆でやっちゃおう!!」
「そうだねぇ〜! 私達なら、やれるぅ〜!!」
優花、奈々、妙子も叫ぶ。恐怖を振り払って、負けてたまるかとばかりに声を上げて。
「そうだ。お前達ならやれる。やってみせろ」
腕を組みながらメルドもまたそう述べる。自慢の教え子がそう簡単に負けるものか、と。
「行こう、皆。僕らならどんな壁でもきっと越えられる。僕はそう信じてる」
「ハジメくんの言う通りだよ。ここでの経験、ハジメくんの作った道具があるんだから」
「うん。私達の力、見せつけてあげよう」
ハジメが、恵里が、鈴が静かに語る。恵里の知る未来でもハジメはここから進んで神殺しを成し遂げた。不安になる要素はあっても自分達がやれない道理なんてない、と意志を燃やして。
「――じゃあ行こう皆。俺達の旅の、始まりだ!!」
そして光輝の号令と共に魔法陣が起動する。光が溢れ、部屋をまばゆい光が包んでいく――かくして恵里達一行の旅が始まることとなる。
実はこの時、本来の未来では十日ほど時間がズレてしまったことに気付いた者は誰もおらず。それが何をもたらすかは――今は誰も知らない。
以前割烹でも書きましたけれど、原作との時間のズレは『基本』無視します。ええ、『原作通り』ですよ……あるズレを除いてね。ふふっ。
あ、それと今回の話ではあえてカットした箇所の話も近い内に投稿しようかなーと考えております……だって、ちゃんと組み立てた方が絶対『作者的には』面白くなると思いましたから(ニチャァ)