おかげさまでUAも125916、感想数も412件(2022/8/16 05:49現在)となりました。一日でここまで伸びるなんてありがたい限りです。というかあの展開があってお気に入り件数が全然減らないことに滅茶苦茶驚きましたけれど。皆さん訓練されまくってる……!(戦慄)
それとAitoyukiさん、今回もまた拙作を再評価してくださり、本当にありがとうございます。厳しい評価が来てもおかしくないと覚悟していましたが、こうしてお眼鏡にかなったのであれば喜ばしい限りです。
今回も前後編です。はい、毎度のやらかしです(遠い目)
では本編をどうぞ。
五十一話 この空の下で歓喜と憂うつを(前編)
魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の澱よどんだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気に全員の頬が自然と緩む。
やがて光が収まり目を開けた彼らの視界に写ったものは……洞窟だった。
「うぉおおおぉぉおぉー-----い!!!」
「違ぇーだろ!! なんでまだ洞窟にいるんだよ!!」
「なんでやねん」
「……むー」
「また洞窟かよぉおぉおぉ!? 俺お日様の光浴びたいの! しおれる!!」
魔法陣の向こうは地上だと無条件に信じていた礼一らは、代わり映えしない光景に思わずツッコミを入れる。ハジメも鈴もまたすぐに地上に出れるだろうと思ってワクワクしていたため、半眼になって関西弁でツッコんだりブー垂れる程度にはガッカリしていた。
「お前ら……こうして隠しでもしなかったら魔物とかが入ってくるだろうが」
「うん。メルドさんの言う通り、こういうの普通隠すでしょ? そうじゃなきゃ何かの拍子にここに人や魔物が来る可能性だってあるんだよ?……もう、ハジメくんも鈴も」
呆れた様子のメルドと落ち込んだ二人を見て困ったような笑みを浮かべる恵里の言葉に五人は一斉に撃沈する。至極ご尤も。そういった考えが浮かんでいなかった自分や人前でバラされたことへの恥ずかしさでもう悶えるしかなかった。
(危ねぇ……ハジメと谷口には悪いけど犠牲になってくれて助かったぜー)
(そういやそうだな……俺も大分浮かれてたんだな)
(よ、良かった……口に出してたらすっごく恥ずかしくて動けなくなってた……龍太郎くんに呆れられなくてよかったよ……)
(よ、良かったぁ~……幸利、っちや皆からあんな目で見られたらすごい恥ずかしかったし)
(ゴメンねぇ~、五人ともぉ~。おかげで私、恥かかなくて済んだよぉ~~)
なお同類は割といたりするが。信治らが大声を上げて文句を言ったため、ツッコミやら非難の声を上げるタイミングを逸してしまったのだ。おかげで助かったのではあったが。なお彼らは自分も浮かれてたと見られるのが嫌であったため自白はしなかった。容赦なく良樹達を生贄にしたのである。
「……コホン。ハジメ達が外に出たいと思ってたのは十分わかった。じゃあこれから外に向かおうか。でも、外に誰かいるかもしれないし、念のため慎重にな」
ともあれここで立ち止まっていてはどうにもならないと判断した光輝は一度咳ばらいをし、全員に言葉をかける。その後立ち直った五人共々皆で洞窟の中を歩いていった。
緑光石の輝きもなく真っ暗な洞窟ではあったが、それが気に掛かっているのは軽くげんなりした様子のユグドラシル(鉢植え)ぐらいだったため、そのまま道なりに進むことにした。
途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。誰もが警戒しながら進んでいたのだが、拍子抜けするほど何事もなく遂に外から漏れているであろう光を見つけた。恵里達はこの数ヶ月、アレーティアに至っては三百年間、求めてやまなかった光を。
「っしゃオラぁぁぁあぁ一番乗り――」
「待てコラ抜け駆けさせ――」
「ふざけんな礼一、良樹テメェらぁああぁ!! 俺が真っ先に――」
「――“縛地陣”」
その途端、良樹達が我先にとそこへ駆け出していくがそれを見越したメルドが即座に“縛地陣”を発動して駆け出した三人の馬鹿の片足を縫い留め、その場で横転させる。魔力の消費が妙に激しいことや眉間にしわが寄るのと頭痛がするのをこらえながらもメルドは口を開いた。
「お前ら……さっき光輝が注意したばかりだろうが。あの銀髪の女が待ち構えてたらどうした?」
「いや、あのー、“気配感知”に引っ掛かってなかったんで大丈夫だと思いまして……」
「いやー、いくらあの場所で光を浴びてても結局人工のヤツじゃないですか。やっぱ本物には勝てねーかなー、って……」
「えーと、えーと……シャバの空気吸いたくて、その……」
「よしわかった。安全を確認したら後でシゴいてやる。覚悟しろ」
悲鳴を上げる三人を横目に恵里達は周囲に人気が無いことを確認しながら、
「……気配は無いな。よし、行こう!」
そして光輝の号令と共に一行は同時に光に飛び込み……待望の地上へ出た。
地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場だ。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。
【ライセン大峡谷】と。
恵里達は、そのライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた。地の底とはいえ頭上の太陽は
たとえどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていた彼らは次第に笑みを浮かべていく。アレーティアであっても誰が見てもわかるほど頬がほころんでしまっていた。
「……戻って、来たんだ」
「うん……やっと、やっと地上に来れたんだ」
一行は、ようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとお互い見つめ合い、そして思いっきり抱きしめ合った。
「地上だー--------!!! 地上に戻って来たー-----!!!」
そして誰もが手放しにその喜びを分かち合った。連れがいる面々はその相手と、連れがいない方も近くにいた仲間と抱き合い、久々の光と風の感触に身もだえする。
「戻った、戻ってこれたー-!!」
「うん!! やっと、やっと地上に出れたんだ!!」
「長かった……本当に長かった! はは……こんなに空気が美味しいんだ……」
恵里達は互いに抱きしめ合いながら地上に戻ってこれたことを実感し、感激する。それは他の面々も変わらず、近間にいた人間や恋人に抱き着き、その喜びを嚙みしめていた。特に大介は小柄なアレーティアを抱きしめたままくるくると廻っており、途中、地面の出っ張りに
しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。だが――。
「……全員構え。二時、十時の方向から魔物だ」
ここは地上の処刑場と称する場所、ライセン大峡谷。その証人となる存在が恵里達へと迫って来たのである。
「はぁ~……マジ空気読めよ。俺らがせっかくいい気分に浸ってたってのによ」
「ボヤいてる場合じゃねーぞ、大介。んじゃ早速準備を――」
「待て皆――さっき俺が魔法を使った際、妙に魔力の消費と魔法の維持が難しく感じた。おそらくここは魔術師殺しのライセン大峡谷だ」
ボヤく大介を横に幸利は持っていた金属製の杖を構える。そして付与魔法を発動しようとして妙に維持と構成が難しく感じたその時、メルドがその理由を説明してくれた。行軍経験のあるメルドはライセン大峡谷の近辺を通ったことが何度かあり、そこが魔法が使えない場所であるということも既に知っていた。
「“種火”……みたい、ですね――皆! ここは俺と雫、浩介で前衛を! 龍太郎、大介、礼一、それとメルドさん、優花、妙子は後衛の守りを!!」
試しに光輝も初級魔法を発動しようとして微塵も反応が無いことを確認し、すぐに命令を飛ばす。ここにいるメンバーの大多数が術師に類する魔法主体のメンバーであり、ここではマトモに戦えないと判断したためだ。
そこでリーダーである自分と遊撃がこなせる雫と浩介で迫る敵の大半を倒し、他に近接戦闘がやれる仲間に残りの敵の対処をしてもらおうと考えたのだ。だがそれにすぐさま幸利が待ったをかけた。
「待ってくれ光輝……ハジメ、ファントムを出してくれ。銃だったらまだ戦えるはずだ」
彼が考えたのは銃での援護である。たとえ魔法がマトモに発動しない場所であっても、レールガンが使えないとしても銃そのものは使えると考えたからだ。それに納得したハジメはすぐに宝物庫に魔力を流し、いつもより遥かに魔力を持っていかれる感覚に辟易しながらもファントムを幸利の左手に、そしてドンナーとシュラークを自身の手元に転送した。
「宝物庫に魔力を込めた感じだと十倍ぐらいは必要そうだね。でも、これなら――」
「ナイスだハジメ。だったらレールガンもいけるな!」
二人の出した結論に軽く場が沸き立つ。レールガンが使えるのであれば戦力はかなり増えたと言えるからだ。期待出来なかった後衛の戦力が加わったのと同じであるため、すぐに光輝は二人に追加の指示を飛ばした。
「わかった! ハジメと幸利は俺達が仕掛ける前に撃ってくれ!」
「「了解!!」」
「だったら私達も! 皆で少しずつ負担すればもっと早く終わるよ!!」
そこで今度は香織も加わりたいと申し出てきた。十倍もの魔力が必要となると厳しいとは思ったが、ここにいる大半は魔法が主戦力の仲間達だ。なら一発だけでも全員で援護できればかなり変わると考えて述べたものの、すぐに光輝は首を横に振った。
「いや、待つんだ香織! 十倍も魔力が必要な場所で無駄遣いなんて――」
「待ってくれ光輝! これに関してはアレーティアも意見があるみたいだぜ」
すぐさま反論しようとする光輝であったが、アレーティアに袖をクイクイと引かれた大介がすぐに彼女に代わって意思を代弁する。そして間髪入れずにアレーティアは大介の後ろから自分の意見を述べるのであった。
「……確かに分解される。けれど、ここの大迷宮を攻略するとなると、私達術師のやれる範囲も知っておいた方がきっといい」
その言葉に誰もが納得をせざるを得なかった。確かにこのライセン大峡谷にある大迷宮を攻略するにあたって、自分達魔法使いの面々がどれだけ戦えるかも把握しておくべきであろう。オルクス大迷宮で手に入れた生成魔法しかり、魔法を使う恵里達にとって有用な魔法をそこで入手できる可能性だってあるからである。
それに香織が参加を表明したり、アレーティアが自身の意見を述べてきたのもある理由がある。それは神水を生み出さなくなった神結晶を加工してハジメが作ったアクセサリー型の魔力タンク“魔晶石シリーズ”があったからだ。操られる危険性から恵里が主に、他の面々も魔力があふれそうな時に注いでいたこともあって相応のストックがある。それもあって二人は強気に出たのだ。
「そう、ですね……よし、作戦変更! 魔法が使える香織達は一度だけ魔法による攻撃を頼む! ただし、発動するのは中級までで基本は前衛の皆に任せて無理はしない。いいか?」
いつどこで何が起きるかわからない以上は魔力の無駄遣いは避けるべき。しかし、そのリスクをとってでも術師である皆がどれだけ戦力になるのかも計算に入れて損は無い。すぐに算盤を弾き終えた光輝は新たな命令を下し、全員の了解を取りにかかる。
全員の『了解!!』の一声を聞いて前を見据えた光輝は、迫りくる敵を前に普通のロングソードの形にした聖剣を抜き、ハジメと幸利に号令をかける。
「今だ! ハジメ、幸利!!」
「わかった!」
「任せろ!」
そして既に狙いをつけていた二人はたっぷりと電気を纏わせたリボルバーの引き金を引く。普段以上に魔力を食った一撃はいつもと変わらぬ破壊力で向かってくる魔物の頭を射抜き、頭部を吹き飛ばされた魔物はそのまま地面に勢いよく倒れこみ、地面に赤い染みを作っていく。
「――よし! 皆、一斉射撃だ!!」
次いだ号令と共に各属性の魔法の弾丸が雨あられと敵へ迫っていく。光輝の指示通りそれらは中級の魔法であったが、それを発動した全員の顔は険しい。かつて吸血姫と称されたアレーティアも想像以上の消費に思わず顔をしかめ、恵里達もかなりの魔力をこめたはずなのに威力も速度も少し弱々しい自身の魔法を見て歯噛みしていたのだ。普段なら湯水のごとく使える中級魔法であってもかなりの量の魔力を持っていかれてしまうため、ここまで辛くなるのかと実感したからである。
だがそうして苦労して発動した幾つもの魔法は情け容赦なく敵を倒し、数を相応に減らしてくれた。それを見るや光輝は雫と浩介と共に駆け出していき、見事な剣捌きで敵を屠っていく。三人の攻撃を免れた魔物はハジメと幸利による銃撃で対処し、ほどなくして魔物の掃討は完了する。終わってしまえばあまりにあっけないものであった。
「……思ったよりも弱かったな」
「ま、それだけ俺らが強くなったってことだろ、龍太郎」
「そうそう。ま、あそこの魔物とか、めちゃくちゃ多い浩介相手にしてたんだからこれぐらい強くなるだろ。当然だな」
手ごたえの無さに少し困惑する龍太郎に良樹と信治が軽く調子に乗りながらそう答える。いつの間にやら判断基準があのオルクス大迷宮の魔物や浩介相手にしてしまっていることに苦笑いしながらも、すぐに龍太郎は周囲の確認に移る。“気配感知”で悟られることなく迫る敵への警戒であった。これは軽口を叩いていた良樹らも無意識にやっていたりする辺り、彼らも人のことは言えなかったりする。
「……よし。敵もいないみたいだし、これから移動しようか。ハジメ、バスを出してくれ」
「待っててね……はい」
そして光輝の声に応えたハジメはすぐに宝物庫からバスを取り出した。元はクラスメイト全員で移動するための手段として造ったものであり、ウニモグモドキの車を基にしたキャンピングカーやハマーモドキの魔力駆動四輪ではバラバラにならないと全員が乗れないため、今回はこれを使うことにしたのである。
「んじゃ、今回は俺が運転させてもらうからな」
そして話し合いの末、今回バスの運転を担当することになったのは龍太郎であった。バスに襲い掛かってくる魔物を撃退するのは他のメンバーの方が上手く出来るため、近接戦闘の方に戦闘能力が寄っている龍太郎では少し荷が重いと考えたからだ。これに関しては彼自身も思っており、魔法による援護よりも運転をする方が役に立てるだろうと異論は挟んでいない。
ちなみに大介達馬鹿四人はバイクやウニモグ単体、ハマータイプの車の方に乗りたがっているため、今回はゴネていなかったりする。
「頼むよ龍太郎――みんなー、シートベルトは着けたかー?……よし、それじゃあ出発しよう!」
全員が警戒を怠ることなく乗車を終えると、光輝が全員に声をかけて確認を取ったのを聞いてから龍太郎は車体に魔力を流していく。すると音もなくタイヤが動き、車底に仕込まれた“錬成”を発動するギミックを使いながら軽快に悪路を整地してバスは進んでいくのであった。
「こうして見ると壮観だね――あ、えいっ」
「そうだよね。魔物がいなかったら楽しめるんだけど」
途中、幾らか魔物が寄って来たものの、鈴と香織の発動した“聖壁・刃”が数体一気に細切れにしていく。
「まぁ仕方ないよ。今僕らがやってるのは現住生物の縄張りを突っ切ってるようなものだしね」
「だとしてもどっちもヤバいとは思うけどな――そらっ」
また、窓を開けたハジメと幸利がレールガンを叩き込んでミンチを作っていく。
「余裕だなお前ら……っと、前方に結構敵が来たな。ハジメ、ミサイルブッ放していいか?」
「お願い。アザンチウムを使ってるから多分大丈夫だと思うけど、やっぱり無理はしないに限るしね」
「よっしゃ、任せろ」
そして龍太郎が魔力を更に流してギミックを起動し、バスの天井に隠されていたミサイルランチャーから発射されたミサイルで前方の魔物の群れを撃破していった。
「キュゥ……キュゥ~」
「どうしたのイナバ? 何か怖いことでもあった? 大丈夫だよ。私達がいるから」
「なんかユグの奴も怯えてないかしら? あんな化け物ばっかの世界にいたのに、意外と可愛げがあるわね」
そしてイナバとユグドラシルはこの惨劇を作り出しているであろう自分達の飼い主に怯えていた。ヤバい。怒らせたらああなる。死にたくない。絶対に逆らわないようにしよう、と改めて決意する。
ここ最近色んな魔物の肉を食べたりして強さを得たことで内心ちょろっと増長していた二匹だったが、そんな気は一気に消えてしまった。相変わらずペットもしくは家畜コースまっしぐらである……ただそれはそれとして滅茶苦茶心配そうに見つめてくる雫が怖くてイナバは奈々の膝の上に全力で居座った。
ライセン大迷宮の入り口を探すかたわら、どこか観光気分でライセン大峡谷を走っていく一行。途中、空を漂うワイバーンのような魔物であるハイベリアの群れと出くわしたこともあったが、そのいずれもバスに内蔵された兵器やレールガンなどであっさり退治し、一行は順調に突き進んでいた。
「お、あれは――」
そうして運転することしばし。魔物が来なくなって楽が出来ることに期限をよくしていた龍太郎であったが、そんな彼の視界に入って来たものはこのバスの旅の終わりを知らせるものであった。
「……あれって階段よね?」
「ああ、間違いねぇ。あの階段を上ればここを出れるぞ!」
全員が“遠見”を使って前を見れば、岸壁に沿って壁を削って作ったのであろう階段が見えた。五十メートルほど進む度に反対側に折り返すタイプのようで、階段のある岸壁の先には樹海と思しきものも薄らと見える。ライセン大峡谷の出口から、徒歩で半日くらいであの樹海にたどり着けるようになってるようだ。
「いや、ダメだ。ここ以外の場所……いや、ここで車を停止させろ」
だがそこでメルドが待ったをかけた。どこか思案する様子のメルドにその場にいた全員が首をかしげたのだが、そうなる理由も見当たらず。とはいえ彼の頼みである以上聞かない訳にもいかないだろうと龍太郎はバスの動きを止めた。
「どうしたんです、メルドさん。あそこを上ればそのままここを出られるんですよ?」
「あぁ、そうだ。これが俺の杞憂で済めばいいんだが、何分場所が場所だ。アレーティアはともかく、他の皆は座学を受けたはずだ。それなら知っているだろう? ここを出た先に広がっている樹海のことを」
そこで全員が記憶をたどり、あの樹海に関することを思い出そうとする。するといの一番に光輝がそれに答えた。
「……ハルツィナ樹海、ですよね? 確か亜人族が住まうとされている場所で」
「そうだ。それとお前達は聞いたことがあったはずだ、帝国の奴隷狩りをな」
その言葉で光輝達はあることを思い出し、程度の差こそあれど嫌悪感を露わにした。
奴隷狩り。ヘルシャー帝国では亜人が奴隷として扱われており、人身売買がされている。それを座学で彼らは知ったからである。
いくら世界が違うといえど、やはり奴隷という言葉にあまりいいイメージを持たない彼らは当然帝国に対する印象も相当悪い。世界レベルで人として扱われてないのが常識であっても、獣のような特徴があるといっても人が人をモノのように扱うことに光輝達は嫌悪感を催していたのである。
「……まさか出た先にソイツらがいる可能性がある、ってこと?」
「皆無とは言えんな。何かの拍子に出くわす可能性がある。だが、俺が懸念しているのはそれだけじゃない」
優花の言葉にメルドはうなずきはするも、それが全てではないと述べる。そしてその理由に思い至ったハジメがおずおずと手を挙げると、メルドは視線で促してきた。
「……僕達のこと、ですね」
その発言に恵里と鈴、ハジメとメルド以外の誰もが全員がハッとする。恵里の記憶をエヒトに盗み見られ、十中八九それが原因で是が非でも恵里達をオルクス大迷宮の奥底へと落とそうと聖教教会が画策していたのだ。それも神の使徒と呼ばれる存在も込みで、だ。
「あぁ。恵里があの銀髪の女に連れ去られた。ハジメ達
メルドの語った推測にこの場にいた全員が押し黙ってしまう。話しはしていたし、理解もしていた。けれどもこうして改めて事実を突きつけられたとなると香織達もため息を我慢出来なかった。
「変装しているとはいえ、見つかるリスクは可能な限り減らしたい。ましてやここ、ライセン大峡谷から地上に出たとなれば一層疑われる。そのためにも別ルートで進むべきだ」
その言葉に光輝達は何も言えない。メルドの言ってることもわかるし正しい。だがそのためにこうしてコソコソしないといけないと改めて理解すると憂うつな気分になってしまったのである。
「そうだね。メルドさんの言う通りだし、ここで一旦バスを降りよっか。皆で階段造ってさ、時間をかけてここを登っていこうよ」
そこでほぼノーダメージであった恵里がぽんと手を叩き、メルドの言いたかったことを先回りして伝える。軽く場がざわつき出したものの、それに構うことなく恵里は席を立って降車口へと向かっていく。
「……恵里ちゃん、他に方法はないかな?」
「ちょっと厳しいかな。ボク達なら“気配遮断”とか“気配操作”があるけれど、アレーティアとイナバ、それとユグドラシルは無理でしょ? なんかの拍子に見つかったら面倒だって」
「ねぇ恵里っち。生成魔法でさ、気配断絶を付与した箱を作って、その中にアレーティアさん達を入れられない?」
「うーん……あそこにいた時ならともかく、魔法が発動しづらいここでだと効果も幾らか落ちるんじゃない? どうなの、ハジメくん?」
「そうだね……やれなくはないと思うけれど、やっぱり不安かな。加工するのも生成魔法を使うのもそこそこ魔力持ってかれるだろうし。それに気配断絶を付与しても物音だけは誤魔化せないからね。僕もオススメしないかな」
何か方法はないだろうかと投げかけてきた香織と奈々の言葉にも軽くため息を吐きながら恵里とハジメはそう答える。その返答に二人も『そっか……』と短く返すだけであった。
もちろん『自分達が世界に狙われている』という現実を未だ受け入れられなくて、どうにか逃げたくなって口にしたことに恵里もハジメも気づいている。だからこそあえてこう返したのだ。自分達はそれも覚悟しなきゃいけないんだ、と。
「覚悟、してなかったワケじゃねーけど……嫌だな」
「うん……」
「……皆がショックを受けるのもわかるよ。だからさ、皆で立ち向かっていこうよ」
「そうだね。ハジメくんと恵里の言う通り。私達ならやれるよ。だから、行こう?」
同じく席を立ったハジメと鈴が皆に声をかける。ずっと前から覚悟を決めていたし、そしてそれに一番苦しんでいる自分達があえて明るく振舞ったのだ。残酷で辛い道のりだけれどこればかりは進むしかない。けれども自分達ならこの苦境でも進めるんだと元気づけようとしたのである。
「強いな、ハジメ達は……」
「僕達は、ズルしただけだから……」
「……そう、だね。鈴達は覚悟するための時間があったから」
「ハジメくんも鈴も……黙ってて、ごめん。みんな」
光輝のつぶやきにハジメと鈴は自嘲し、恵里もそんな二人の様子に頭痛を覚えつつも、覚悟するための時間を自分達だけが持っていた事を詫びる。そこからはもう誰も何も話さずにバスを降りていき、どこか重苦しい雰囲気のまま近間の断崖へと皆は行く。そして土属性の魔法や“錬成”を駆使して階段を作り上げていくのであった……。
続きは本日17:00となります。