あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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こちらは朝の8:00に投稿された話の後編のお話となっております。前の話を読まないとちんぷんかんぷんになるので先に目を通してくださると助かります。

それとこちらの方は少し長め(12000字程度)となっております。
では後編の方もどうぞ。

2022/8/31
文章を一部修正しました。


五十二話 この空の下で歓喜と憂うつを(後編)

「……よし。食事も終わったし、これから街で買い出しを担当するメンバーを決めようか」

 

 崖の三分の一を登っていき、少し日が暮れたところで一同は崖に穴をあけて寝泊まりすることにした。やはり魔力は相当持っていかれて厳しくはあったものの、それでもオルクス大迷宮で慣れた彼らにとってはそこまで苦となる作業ではない。

 

 魔力の消費を抑えるため今回は風呂は作らず、男女を分ける仕切りを岩で作り、ちょっとほつれたタオルを魔法で出した水で濡らして絞り、それで体をサッとふいていく。

 

 そうして全員が体をふき終わった後、すぐに着替えて調理なり配膳に移った。材料は崖に階段を作っている際に襲いかかってきた魔物の肉である。そして作り終えると宝物庫から取り出したベッドとソファーに皆が腰をかけ、口にしていく。

 

 バスを降りた後もしばし憂うつな気分に皆浸っていたものの、体を動かしたのとご飯を食べたことである程度紛れ、いくらか空気が和らいだのを確認した光輝は調理の最中に話題に上がった「他の食料or衣類の購入」についての話し合いをすることにした。

 

「私、行くよ。龍太郎くんと一緒に参加するから」

 

 と、いきなり香織が挙手して参加を申し出る。当然のように龍太郎も巻き込まれたが、これに関して彼は特に何も言わなかった。ずっと香織のあることを気にかけていたからだ。

 

「……ねぇ香織、やっぱりブラジャーが――」

 

「……うん、うん!! もう、嫌なの。革の部分がムレるし、サイズ合ってないからやっぱり辛いの!! 早く新しいブラジャーが欲しいの!!!」

 

 雫からの問いかけに香織は号泣しながら答えていく……実は女子の下着関連、それもブラジャーに関する問題はまだちゃんと解決していなかったのである。

 

 魔物肉を食べたことで女子~ズは胸がサイズアップ(一名除く)し、その結果として身につけていたブラが合わなくなってしまった。そこで女子~ズ同士で身につけていたブラジャーのサイズを比較し合い、近しいもしくはマシなサイズの物を交換しながら身につけていたのだ(なお一名除く)。

 

 しかし香織だけは前の自分が身に着けていたものが一番マシであり、サイズアップした自身の胸で何度となくブラジャーをダメにしていた。そこで千切れた個所を革でつなぐなどして補修して使っていたのだ……ただ、香織が叫んだ通り、そこの部分がムレる上に結局サイズが合ってないから辛かったりするのだが。

 

「……出来れば、私も」

 

 なおアレーティアも体型が合う人間がいなかったため、ブラジャーの代わりに革のベルトみたいなものを胸に巻いている。無いよりはマシらしいのだがやはりムレているらしく、そのことを大介を通じてボヤいていた。

 

「あー、コホン……それじゃあとりあえず龍太郎と香織、それと大介とアレーティアさん。まずはこの四名から。それと、他には……」

 

「待てお前達――まずは金をどうするかが残っているだろう」

 

 そこで食事の際にも話題になったお金の工面のことがメルドによって再度議題に挙げられる……そう、実は一行は先立つものをほとんど持っていなかったのだ。

 

「そうですよね……一応ギルドで魔物の素材を売却できるんですよね?」

 

「あぁ、確かそうだ……が、あまりに多くの量、それと質のいいものを持ち込むと目を付けられる可能性は高い。理想は換金と買い出しを行う場所の近辺、それもある程度の量だ。それならいくらかは怪しまれ辛くなるはずだ」

 

 そしてハジメがメルドに問いかければ、メルドもその際どうするべきかを自分なりに考えた上で恵里達に伝える。とりあえず理屈としては問題ないものの、ある一点が皆気がかりとなり、そのことを鈴が代表して尋ねた。

 

「でもそれだとあんまりお金稼げないですよね……」

 

「それも仕方がないだろう……こうなることなら俺が財布の中にもっと蓄えを入れておけば……いや、結局財布も滅茶苦茶になったし、どちらにせよ大した金も残ってないか。とにかく、すまなかった」

 

 鈴の疑問に一度答えた後、メルドは全員に頭を下げる。そもそも神の使徒として遣わされた恵里達は外に出る機会そのものがオルクス大迷宮に行く時ぐらいしかなかったし、金銭の支払いに関しても城の方が色々とやってくれていたため文無しなのだ。

 

 メルドは一応財布を持ってはいたものの、大した額は持ち合わせていない。しかも真のオルクス大迷宮攻略時に敵の攻撃で財布が破けて中身をぶちまけてしまったこともあり、その時は金がデッドウェイトとなってたことから捨て置いたことや、どこで落としたかも忘れてしまったこともあったために回収せずにここまで来てしまったのである。

 

 財布そのものは新たに革で作ったものの、財布に入っていたはずの二万ルタは現在手元に一割程度しか残っていない。つまりちょっとした買い物が出来る程度でしかないため割と詰んでいる状況であった。

 

「……ねぇメルドさん、ここらに金銀財宝が眠ってたりとか、そういうの隠し持ってる盗賊とかがいたりしない? 元とはいえ軍人でしょ? そういう情報ないの?」

 

 そんな時、ふと恵里が死んだ目でそんなことを問いかけた。栄養を得る手段なら魔物の肉とユグドラシルの果実があるからまだどうとでもなるものの、やっぱりちゃんとしたものを買って、ちゃんとした食事を皆摂りたいのだ。解放者の住処で育てた野菜は持ってこれるだけ持ち込みはしたものの、米もパンも久しく食べていない。元現代っ子にとってこれは中々しんどかったのである。

 

「そんなこと言われたってな……ここらにそういった財宝が眠ってるなんて話は聞いたことが無いし、別にこの辺りで野盗の類が出たという話題だってなかったぞ」

 

 そこで手っ取り早く金を稼げる方法を尋ねたものの、旨い話はそうそう転がっていないと理解させられ、恵里だけでなく皆も深いため息を吐いた。

 

「あーマジでよーブチのめしても問題ないような奴とかいねーかなー」

 

「金たんまりしまい込んでる奴なー。ファンタジーの世界だろー、そういうのゴロゴロいるもんじゃねーのかよー」

 

「強い魔物倒すのも数稼ぐのもダメとかどうにもなんねーじゃんかよー……どーせ何度も何度も換金に足運ぶのもダメなんだろー。どーしろってんだよ……」

 

 礼一達も一気にやる気が無くなったためベッドに寝っ転がり、せち辛い現実を前にひたすらクダを巻くばかり。

 

「マジかよぉ……アレーティアと一緒の買い物とかしてみたかったんだけど、適当に食料買ったらそれで終わりじゃねーか」

 

 どうせ地上に出たのだからデートでもやってみたいと密かに思っていた大介もこれには気落ちし、うなだれているところをアレーティアによしよしされて慰められていた。

 

「……お金を稼ぐのって、難しいな」

 

「世界を敵に回してるものね……本当に辛いわね」

 

 天を仰ぐ光輝の横で顔をうつむかせながら雫もボヤく。こうしていざ金策が浮かばなかったこともショックだったのもあって軽い自己嫌悪に二人は陥っていた。

 

「ゲームとか小説なんかでも世界を敵に回す展開はそれなりにあるけどよ、いざやってみるとなると本当に難しいな……」

 

「だよなぁ……飯を自前で用意することが出来る分、まだマシだとは思うんだけどな」

 

 幸利と浩介も頭をかきながら何かないだろうかと考えるも、やはりそう簡単には浮かぶことは無く。すぐに思考は袋小路に追い詰められ、嘆くしか出来なくなった。

 

「そうよね……移動手段も一応の拠点(キャンピングカー)もあるけれど、ご飯がなきゃやってらんないわよねぇ」

 

「うぅ……久しぶりに魔物以外のお肉食べれると思ったのに……」

 

「もぉ~、つらいよぉ~……ちゃんとしたご飯食べたいよぉ~……」

 

 優花もベッドに倒れこみ、虚ろな目で天井を見上げるばかり。奈々もベッドにうつぶせになったまま手を何度かバタつかせ、妙子も横たわりながらさめざめと涙を流すだけであった。

 

「お金が無理なら物々交換……うーん、それもそれで目を付けられる。というか何を交換すればいいんだろ?」

 

「他の冒険者の人とかに頼み込んで換金してもらうのは……無理だよね。どこの誰だかわからない人に頼まれても怖いし、普通は持ち逃げするよね」

 

 ハジメと鈴もどうにかならないかと頭を働かせているものの、中々いい手段は浮かばず。このままだと“瞬光”まで使って考えだしそうな勢いであった。

 

「なんか……なんかねぇか……」

 

「龍太郎くん……駄目なら私、諦めるよ?」

 

「……やらせるか。惚れた女のワガママぐらい、叶えさせろよ」

 

 そしてそれは龍太郎も同じ。頭の回る幼馴染達のようにいい答えが出ないとしても、それでも諦めたくは無かったのだ。前々からブラ関連で悩んでいたのは知っていたし、地上に出てからも変装して色んなお店を回ったり、おいしいご飯を食べてみたい、とどこか寂しそうな笑顔で語っていた香織をもうこれ以上嘆かせたくなかったのだ。

 

 だから必死になって考える。馬鹿には馬鹿なりの意地がある、と。

 

(いねぇか、ねぇのか……金を稼げる方法が、何か、()()()、そう、どこかにそういう――っ!)

 

 そしてその一念が奇跡を起こした。ある考えに至った龍太郎は即座にメルドにあることを問いかける。

 

「メルドさん!!」

 

「うぉっ!?……ど、どうした龍太郎?」

 

「ここじゃなくてもいいです! どこかに、どこかにそういう奴らはいないんですか!!」

 

 発想の転換。つまりいないのならいる場所へと赴けばいい。つまりそういうことであった。

 

「ここを登る前に帝国の奴隷がどうのって言ってましたし、亜人を助けるついでにソイツらから金をぶんどるとか――」

 

「この馬鹿っ! そんなことをしたらお尋ね者に――いや既になってる可能性も高いから微妙か……ってそうじゃなく、て……」

 

 そしてこの際帝国の人間からふんだくることも視野に入れた考えを話した龍太郎に、思いっきりキレそうになって変に冷静になったメルドであったが、その脳裏にあるものが思い浮かんだ――金を巻き上げても問題がなさそうな輩のことが。

 

「……め、メルドさん? ど、どうしたんだよ……や、やっぱり俺、マズかったか……?」

 

 ふと黙り込んだメルドを見て不安になった龍太郎が問いかけるも、メルドも微妙な顔をしながらそれに答える。

 

「………………いるぞ。やっても問題ない奴らが」

 

 そうつぶやくと同時に既に寝ていたイナバとユグドラシル以外の視線がメルドに向けられる。そしてメルドも頭をかきながらその相手の名前をつぶやいた。

 

「……フリートホーフ、フェーゲフォイアー、アップグルンド。この三つの組織に属する奴らだ。さっき挙げたのは中立商業都市フューレンを拠点とする裏組織でな、コイツらの悪名は王都でも事欠かない。ソイツらだったら問題ないはずだ」

 

 裏組織、と聞いてオタクであるハジメと幸利、そしてぶっ潰しても構わないと即座に判断を下した恵里は内心テンションが上がったものの、とりあえずメルドの話に耳を傾けることに。

 

「ただ、おそらく貴族も幾らか噛んでいるんだろう。摘発しようとしても中々証拠を見つけることが出来ないらしくてな……人身売買や誘拐、人間を廃人にするような薬物を流通させているなどしていると聞いた。狙うなら奴らだ」

 

 その言葉に今度は全員が反応する。地球で善性を培った人間からすればこんなことなど見過ごせないし、怒りも存分に沸きたってきたのである。

 

「さてお前ら、どうする?……俺としてもこれは見過ごせない問題でな。叶うことならば何としても潰したいと思ってる。だがコイツらを叩きのめしたら余程上手くやらない限りは俺達の存在が世間にバレるだろう。それでも、やるか?」

 

 その言葉に全員がうなずく。提案したメルドすらも見過ごせないと述べたのだ。ならば自分達が立ち上がる他ないと考え、ストッパーとなり得る人物からの問いかけにも再度うなずいて意を示す。

 

「……やろう、皆」

 

「そうね。こうしてる間にも苦しんでる人はいるんだもの。やらない道理なんてないわ」

 

 光輝の言葉、続く雫の言葉にまたしても恵里達がうなずく。いくら違う世界の問題といえど、これを見過ごしてはおけないと誰もがそれに賛成を示した。

 

「だな……ただ、潰すにしたって俺らがただ暴れるだけじゃ不味いだろ? そんなのコイツらと変わんねぇからな――やるんだったら徹底的にだ。悪事の証拠を全部かき集めて、構成員も全員とっ捕まえる。そこまでやらないとな」

 

「そうだね。幸利君の言う通り。一人でも逃したらまた悲しみが広がっていくかもしれない……調査は念入りに、それと僕らの事情を考えると、証拠とか構成員の人とかは全部こっちの警察? の人に任せるべきだと思う」

 

 だがここで幸利がブレーキを、ハジメがそれへの補足を入れた。ただ暴れただけでは自分達が悪党に仕立て上げられかねない。だから自分達はあくまで『組織の壊滅』のみに力を入れ、それを裁くのはこちらの人間に任せるべきだと諭す。

 

「まるで子供向け番組のヒーローみたいだな」

 

「ハハッ、言えてら……でもいいんじゃないか? 俺らの悪評を吹っ飛ばしたり、疑問を持ってもらうには最高のシチュエーションだろ?」

 

 光輝もフフッと笑いながらつぶやくと、幸利もそれに同意しつつ、自分達に撒かれてるであろう悪評を覆す最高の一手となるであろう事を指摘する。それを聞いて一同のモチベーションが更に上がる。

 

「ハジメくんの言う通りだね。下手に動くとロクなことにならないだろうし、そこら辺は全部フューレンの人に任せてボクらは小金を美味しくいただいとく。それでいいでしょ?」

 

 ……が、恵里がそう締めくくると同時に()()全員がズッコけかけた。せっかくいい話にしようとしてたのにコレである。なんてことを言うんだと大介達四馬鹿とアレーティア以外から非難の目が向けられた。

 

「えー、結局ボクらの目的ってそれでしょ? お金、欲しくないの?」

 

「い、いや、それは……」

 

 そう。どう言い繕おうとも元々の目的は『悪党を突き出すついでに人前に出せないお金を幾らかいただく』ことなのだ。金に困ったから出た意見なのだから誰もそれを言い返せず、言葉を詰まらせるだけであった。

 

「それな。先生も光輝達もそこないがしろにしちゃダメだろうよ」

 

「金は俺らでしっかり有効活用すりゃいいんだよ。これも世のため人のため、ってな」

 

「そうそう。あっちの人達もロクでもない組織が潰れて助かる。俺達も金を稼げてハッピー。誰も損しねぇんだからよ」

 

「流石に使う時は色々考えねーといけねーだろうけどな――でもよ、遊びに使える金欲しくねぇ? 服とかさ、飯食う時の金とかさ」

 

「んっ……大介の言う通り。それに、悪人に人権はない」

 

 しかもここぞとばかりに大介達がまくし立ててくる。アレーティアまでどこかで聞いたことのあるフレーズを使って乗っかってくるものだから全員余計に何とも言えない感じになってしまう。

 

「ほ、欲しいけど……ブラジャー買うお金とか龍太郎くんとデートする時のお金とかすっごく欲しいけどっ!!」

 

「香織ぃ!? お、落ち着けって! アイツらの言うことに耳を貸すな!!」

 

「だって、だってぇ!! そんなこと言われたら我慢出来ないもん!!……龍太郎くんは、色んな服を着た私、見たくないの?」

 

「…………すまねぇ。超見てぇ」

 

 そして香織が真っ先に折れた。龍太郎もそんな香織の両肩を掴みながら説得にかかるも、涙目で見上げてくる少女からこんなことを言われては理性が色々と限界を迎えてしまう。結果、陥落。

 

「だ、だったら私もぉ~~!! やっぱりオシャレしたいよぉ~!」

 

「妙子っち!?」

 

「タエ、アンタぁー!?」

 

 今度は妙子が裏切った。今まで我慢していたものの、やはり年頃の少女としては穴倉生活を続けていて鬱屈するものがあったようだ。それ故に感情が爆発し、優花と奈々の説得にも耳を貸さない。

 

「あぁぁぁ……恵里! お願いだから今すぐ他の皆を説得して!! 収拾つかない!!」

 

「えー? 別にいいでしょ。そ・れ・と・も……ボクと鈴の着飾った姿、見たくない? それに、調味料を買えばお料理のレパートリー増やせるよ? それもぜーんぶ、お金が無いとできないよ?」

 

「ごめんなさいすっごい見たいしレパートリー増やしたいです。あと調味料ないのすっごいつらい」

 

「鈴も……パンでもいいからちゃんとしたご飯食べたいよぉ……」

 

 ハジメと鈴ももう使い物にならなくなった。色々と知恵を絞って皆にご飯を提供していたメンバーの二人であったが、主食も調味料も無しでやるのはもう限界だったようだ。

 

「ご飯……やべぇ、俺マジで米食べたい。来る日も来る日も肉ばっかでたまに野菜食べてたせいでこう、すんごい飢えが……」

 

「おいやめろ幸利、そんなこと言ったら俺だって食べたく――確かどっかの街……そうだ、ウルだ。そこだと米育ててるって話があったはずだ! そこを最優先にしよう!!」

 

 口からダラダラとよだれを垂らしながら幸利が願望を漏らし、それを聞いてしまった浩介が米食べたさに熱弁する。それは瞬く間にアレーティアとメルド以外の全員に伝播し、ほぼ全員がゾンビみたいに『米、米食べたい……』とつぶやき出す。

 

「炊き立てのご飯……食いてぇ」

 

「お茶碗いっぱいのご飯……食べたい、食べたいぃいぃいぃぃいいい!!!!!!!」

 

「あーもう落ち着いてくれ皆ー! 俺だって米食いたいし色んな服を着た雫をすごい見てみたいけれど、それより人助けの方が優先だろう!?……あ、でもお米は……うぅ」

 

「わ、私だってお米食べたいし光輝の素敵な格好を見たいけど……見たいけど! でも、でも、人助けをないがしろにしちゃダメだと思うの!! だ、だからお金は旅に必要な最低限……あ、でも、それだと足らないかも……や、やっぱり毎食ご飯を食べるためにも幾らか余裕があるぐらいにして抑えないと――」

 

 良識派である光輝と雫も既に傾きかかっている。二人とも自覚が無いだけでストレスが溜まっていたのは確かなようで、ギリギリ良識がまだ勝っているものの、このままでは膨れ上がった欲望(主に米)に負けてしまいそうである。

 

「炊き込みご飯……」

 

「ドリア……」

 

「チャーハン……」

 

「カレー……」

 

「え、えーと……お、おこめ……わ、私も食べたい……」

 

(……そこそこ持ち出せば酒も買えるよな? いや、もしかすると奴らが飲んでる、いや、裏で流してる酒もあるんじゃないか? それを保護するためにも……って待て待て! 俺はコイツらの保護者だろう! ここは一度叱って……酒、飲みてぇなぁ)

 

 地球にいた皆が虚ろな目で米料理の名前を口にし、アレーティアもその雰囲気に呑まれて意思表明する中、メルドも色々と負けかかっていた。

 

 恵里達を保護し、彼らの導にならんと振る舞ってはいたものの、彼とてやはり人間だった。長いこと酒を断ってしまっていたために、ここに来て酒を手に入れるための方法も、大義名分も用意できそうなのである。あまりに甘美な誘惑にメルドの心も折れそうになっていた。

 

「ごはーん!!」

 

「お米ー!!」

 

 ここは恐ろしき場所、ライセン大峡谷。

 

 地上の人間にとってそこは地獄にして処刑場。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が住まう場所。

 

「もう肉なんて嫌じゃー!! 時代は米だよ米!!」

 

「俺だって酒飲みたいわー! あーもう悪党どもこらしめるついでに色々拝借するぞー!!」

 

 西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断する大地の傷跡。ここはまさに地獄であった……。

 

 

 

 

 

「……さて、改めて整理しよう」

 

 そしてひとしきり全員が欲望を吐き出しきった後、話し合いが再開された。

 

「とりあえず米最優先で。服は二の次、それでいいな皆?」

 

『異議なし!』

 

 なお地球にいた面々は是が非でも米を食べようと考えていたため、口からよだれをダラダラ流しながら光輝の意に賛同した。アレーティアもそれに流され、メルドも主食の調達そのものには反対していないため即決。かくして行動方針の柱が決まる。

 

「それじゃあ今度はお金の調達だな。別に一つの街に全員で行く必要はないから班を分けて各地に散らばった方がいいと俺は思ってる――ただ、あの銀髪の女が現れることも見越してある程度大人数、六人前後で動きたい。皆はどう思う?」

 

 続く光輝の提案に一同は悩む。何せ相手は恵里を攫い、かつての光輝を容易く足蹴にした存在だ。しかも何体もいるという話だし、こうして地上に出た以上はいつ来るかもわからないのだからたまったものではない。

 

「それはわかった……けどな光輝、もう少し人数を増やしてもよくないか? 相手がどれだけ来るかもわかんねぇしよ」

 

「ボクも龍太郎君に賛成。正直、いつあっちと出くわすかわかんないし、戦える人間は大いに越したことはないんだけれど」

 

 もちろん龍太郎や恵里のようにあまり数を分散させすぎてしまうことへの危機感を抱いた者も少なくなかった。神の使徒の強さを測り切れていないのもあったし、どれだけの数がいつ来るかもわからないからだ。

 

「龍太郎、恵里、皆の懸念はわかる……けれど、あまり多いとその分動ける範囲も狭くなるからな。それと、少し気になっていることがあるんだ」

 

 だが光輝は不安そうな視線を向ける皆にうなずいて返す。不安なのは自分だって同じ。けれどそれだけではないんだ、と。そこで恵里達は話の続きを視線で促せば、光輝も一度首を縦に振ってからその続きを語り始める。

 

「――どうして、恵里の前世でアレーティアさんがすぐに連れ去られなかったんだ?……ここに、付け入るスキがあると思う」

 

 その言葉に一同は思わずハッとした。

 

 そう。恵里の話では数えるのが馬鹿らしいぐらいに神の使徒は存在する。にもかかわらず、その圧倒的な物量を以て奪いとろうとしていないのだ。少なくとも恵里が前世? で裏切ってしばらくしてから相手は動いたとのことで、ならここでもそうなる可能性があるのではないかと彼は賭けたのである。

 

「もちろんそれは恵里の前世での話だ。ここがそうとも限らない……けれど、もし本気で奪うつもりならここで待ち構えてたっておかしくないはずなんだ。だから俺はこうした方がいいと思った――皆、意見を聞かせてくれ」

 

 その言葉に今度こそ誰も何も言い返せなくなった。確かに賭けもいいところではあるが、一切の証拠が無い訳でもない。ならばリスクとリターンを天秤にかけ、リターンをとることを選んだのだと理解できたからだ。

 

「確かにね……うん、わかった。だったらボクも光輝君の意見に賛成するよ――ボクらがこうして怯えたり、尻込みしたりするのを楽しんでると思うと癪に障るからね」

 

「もう、恵里……確かに、そういうことなら僕も光輝君の意見に賛成だよ。恵里のことに関しても()()仕掛けてきてないことを考えれば、猶予はあるのかもしれないから」

 

「二人とも……じゃあ私も。恵里もハジメくんもそう言ってるし、動けるとき位に動いておかないとまずいかもしれないから」

 

 恵里、ハジメ、鈴は真っ先にそれに賛同し、光輝と共に皆を見つめる。すると他の面々もため息を吐きながらも観念したように口を開いた。

 

「だったら俺も乗る。何考えてんのか知らねぇが、簡単にアレーティアを渡してたまるか」

 

「大介……ん、私も。今の私達は四方八方が敵に回ったのと変わらない。なら、こちらから打って出るべき」

 

 大介とアレーティアもすぐに尻馬に乗り、大介は意気込みを、アレーティアは戦争の経験のある元王としての意見を出した。

 

「そうね。確かに私もそう思いたい。思いたい、けれど……今こうして仕掛けてくる可能性もあるわ。皆に何かあったら、だから……」

 

「あぁ。警戒はするに越したことはない。今もそうだけど、交代前提で何人か見張りを立てとくのもいいんじゃないか? いつあっちが仕掛けてきても対応できるようにさ」

 

「光輝、お前の意見は理解した。だが雫と浩介の言う通り、警戒はしておいた方がいいだろう。せめてここを出るまではな」

 

 一方、雫と浩介、そしてメルドは慎重な意見を出してきた。全員が同じ方向に突っ走らないためにあえて憎まれ役を買ってくれたようである。もちろん全員がそれを理解しているため、それに意見はしない。

 

「俺も特に言うことはねぇ……じゃあ、次は誰がどこに行くか、決めようぜ」

 

 龍太郎からの一押しもあって話し合いは次の段階へと進む。日が沈みそうな辺りで始まった人員の配置もつつがなく、進んでいく――。

 

 

 

 

 

「皆も結構心配性だよね。ボク達の班に浩介君に近藤君、メルドさん連れてけなんてさ」

 

「僕としてもそれぐらいいてくれないと不安かな。何があるかわかんないしね」

 

「鈴だってそうだよ……特に恵里は耳栓つけてないといけないんだし、これぐらい頼れる人がいたって罰が当たらないってば」

 

 そして話し合いも終わり、恵里達は一緒のベッドで横になって顔を合わせていた。恵里達の班は自分、ハジメ、鈴、浩介、礼一、メルドの六人で構成されており、遠近共にバランスもよく、しかもこの中で最強の存在である浩介もついている。

 

 その人選に恵里は皆が過保護すぎることに軽く呆れていたのだが、ハジメと鈴はそうは思っていなかったらしい。それだけ自分を想ってくれていることを嬉しく感じはしたものの、それで戦力の方は大丈夫なのかと少しばかり不安になっていた。

 

「光輝君の班も龍太郎君の班もバランスはそんなに悪くないはずだし、きっと大丈夫だよ」

 

 苦笑するハジメに頭をなでられ、恵里も反論する気が失せてしまう。確かにハジメの言う通り他の班も決してバランスが悪いとは言えないのだ。光輝の班は雫、幸利、優花、奈々、妙子がいるし、龍太郎の班には香織、大介、アレーティア、信治、良樹が属している。戦力の面からしてそこまで偏っているという訳でもないのだ。

 

「おうよ、任せろー。俺らがいるんだから大船に乗ったつもりでいろって!!」

 

「あーはいはい。せいぜい頑張ってね」

 

「相変わらず先生と谷口以外に辛辣だなオイ!」

 

「ご、ごめんね礼一君!」

 

「あーもう恵里!……ごめんね近藤君。ほら、恵里も謝るの!!」

 

「えー……はいはい悪うございました〜……これでいいでしょ?」

 

「いや、そんな気の抜けた謝り方するぐれーならいらなかったわ」

 

 すると礼一が声を上げてこちらにアピールしてきたため、適当にあしらえばツッコミが返ってくる。すぐさまハジメと鈴が彼に謝り、恵里も二人に合わせて渋々頭を下げたのみ。けれどもこういったじゃれあいは真のオルクス大迷宮を攻略する際に何度もやっているため、雰囲気が悪くなることは全然なかった。いつものじゃれ合いである。

 

「まずはアンカジ公国に行って素材を換金して、それからハルツィナ樹海近郊で合流してグリューエン大火山に行くんだっけ?」

 

「確かそうだったね。この中で一番地理に詳しいメルドさんがいるし、宝物庫も僕の手にあるからね」

 

 班分けが決まった後の行動方針についても話し合いが行われており、確認してきた鈴にハジメは自分の右手を目の前にかざし、中指にはめた宝物庫を見ながらつぶやいた。

 

 恵里達の班はアンカジ公国、光輝達の班はフューレン、そして龍太郎達の班は近くのブルックで換金し、生活雑貨や米を買うための資金を集めることとなった。その後、ハルツィナ樹海近郊で換金した金を持ち寄り、龍太郎達の班のみウルの街へと出向いて物資を購入する手はずとなっている……香織のブラの購入は特例として認められていたりするがそれはまた別の話だ。

 

 またその際恵里達はグリューエン大火山を、光輝達の班はライセン大迷宮の調査と攻略をすることとなっていた。ただしどちらも三日をタイムリミットとし、それまでに再度ハルツィナ樹海近郊までに戻ってくることが決められていた。

 

「もう一台キャンピングカー造っとけばよかったね。ボク達のところはテントで過ごさないとだし」

 

「造るのに結構素材も時間も食うから仕方ないよ。それに他の班の皆はキャンピングカーが使える分、持っていけるものにも限りがあるんだから」

 

 他の班がキャンピングカーの中で快適に過ごせることを羨む恵里に、ハジメは苦笑しながらなだめすかす。

 

 造った車はハマー似の車が一台、キャンピングカーが二台、補助席込みで六十人乗れるバスが一台となっている。そのため宝物庫が使えない他の班はキャンピングカーを融通し、代わりに宝物庫がある恵里達の班はバスで移動することになったのだ。

 

「ないものねだりしても仕方ないよ、恵里。私達は私達で頑張っていこうよ」

 

「うー……わかったよ。これじゃあボクが悪者じゃんか」

 

「もう、恵里ってば……」

 

 そして正論を突きつけられて拗ねる恵里の頭をハジメがなでた。恵里がこんなことを言うのは単に自分の利益だけを考えただけでないことはハジメも鈴も皆も知っている。これが自分達のためを思って言ってくれたことなんだろうと察したからハジメは彼女の頭をなでたのだ。

 

「ちょっとナデナデしただけで済むような安い女じゃないよ、ボクは……もっと、もっとなでて。キスして」

 

「あ、じゃあ私も。ハジメくん、キスしてよ」

 

 ただ恵里の方はそれだけで済むだだっ子扱いされたのが気に食わず、ハジメにそれ以上のものをおねだりしてくる。それは鈴も同様で、しょうがないなぁと思いながらハジメは二人のワガママを叶えてあげる。

 

「雫、あんまりイナバばっかりに構わないでくれ……俺だって、嫉妬ぐらいするんだ」

 

「あ、その……ごめんなさい、光輝。な、ないがしろにしてるつもりなんてなかったんだけど……」

 

「大介、大介……私も、キスして」

 

「ちょ、ちょっと人前じゃ恥ずかしいって……そこの隅行くぞ」

 

「いっぱいお金稼げるといいね!……そしたら、龍太郎くん。好きなブラ、選んでくれるかな?」

 

「お、おいぃっ!? こ、ここ二人だけのスペースじゃねぇんだぞ!? あ、いや、その……黒が、いいな」

 

「うぁああぁあぁぁあぁ!! 嫉妬で、嫉妬で今日も死ねる! ア"ァァアァア"ァ"ァ"アア"ァア"アァァ!!!!!!」

 

 恵里達だけでなくそこかしこでイチャつく恋人達の桃色オーラにあてられて浩介がまた発狂しそうになっていたが、特に誰も構うことはせず。憂うつにこそなれど、今日も皆(一名除く)は穏やかな時間を過ごしていた。

 

 それは死と隣り合わせの真のオルクス大迷宮であっても、その奥地にあった解放者の住処であろうと、ここライセン大峡谷であったとしても。彼らの日常は、変わらない。 




班分けまとめ

恵里班:恵里、ハジメ、鈴、浩介、礼一、メルド
ルート:アンカジ公国→ハルツィナ樹海近郊→グリューエン大火山


光輝班:光輝、雫、幸利、優花、奈々、妙子
ルート:フューレン→ハルツィナ樹海近郊→ライセン大迷宮

龍太郎班:龍太郎、香織、大介、アレーティア、信治、良樹
ルート:ブルック→ハルツィナ樹海近郊→ウルの街

ちなみにイナバは雫が飼い主権限を乱用して光輝班が引き取ることになり、またユグドラシルは龍太郎班の方に組み込まれてます。

なお修正前「ハルツィナ樹海近郊」と書くつもりが「フェアベルゲン近郊」と思いっきり書き間違えてた件。亜人おらんから絶対に無理やんけ……。
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