あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

95 / 208
まずはこうして拙作を読んでくださる皆様への多大な感謝を。

おかげさまでUAも127976、お気に入り件数も790件、しおりも347件、感想数も417件(2022/8/28 6:39現在)となりました。誠にありがとうございます。拙作をご愛顧いただき、ありがとうございます。

それとAitoyukiさん、今回も拙作を再評価していただき誠にありがとうございます。またしても筆を進める力が湧いてきました。いつもいつもこうして再評価いただけて恐悦至極であります。

そして例によって例のごとくまた分割しました。うん、もうお家芸です(白目)
その分今回のお話も少し少な目(9200字程度)です。それに注意して本編をどうぞ。


五十三話 砂漠の中の国、アンカジ公国にて(前編)

 赤銅色の世界。

 

 【グリューエン大砂漠】は、まさにそう表現する以外にない場所だった。砂の色が赤銅色なのはもちろんだが、砂自体が微細なのだろう。常に一定方向から吹く風により易々と舞い上げられた砂が大気の色をも赤銅色に染め上げ、三百六十度、見渡す限り一色となっているのだ。

 

 また、大小様々な砂丘が無数に存在しており、その表面は風に煽られて常に波立っている。刻一刻と表面の模様や砂丘の形を変えていく様は、砂丘全体が“生きている”と表現したくなる程だ。照りつける太陽と、その太陽からの熱を余さず溜め込む砂の大地が強烈な熱気を放っており、四十度は軽く超えているだろう。舞う砂と合わせて、旅の道としては最悪の環境だ。

 

 もっとも、それは“普通の”旅人の場合である。

 

 現在、そんな過酷な環境を、知ったことではないと突き進む長方形の箱型の乗り物――ハジメ達が苦労して造りあげたバスが砂埃を後方に巻き上げながら爆走していた。

 

 計二日かけてライセン大峡谷を登り、誰もいないことを確認してから各々があてがわれた車両に乗って別れてから半日ほど。地理に詳しいメルドの指示の通りに進み、道なき道へと突入しても車内に設置した方位磁石とメルドの知識を頼りに目的地へと突き進んでいたのである。

 

「流石ハジメくんだよねぇ~。こんなところでも余裕で走っていけるんだからさぁ~」

 

「うん。こんなところを歩いてたら普通干からびちゃうよ。そうならないで済むのもハジメくんのおかげだね」

 

「もう、二人とも……えへへ」

 

 恵里はひどく上機嫌になりながら椅子の肘掛けを愛おし気になで、鈴も微笑みながら運転席にいるハジメを見つめる。そして二人から言葉をもらってにへら~としながらもハジメはバスの運転をおろそかにはしていない。冷房の効いた車内で三人はいつものように寸劇を繰り広げていた。

 

「……こんな状況でもお構いなしなんてな。ハジメ、お前の造ったものの凄さを改めて思い知ったよ」

 

 バスの座席で窓にビシバシと当たる砂と赤銅色の世界を見て遠い目になりながらメルドはそんなことをつぶやく。事実、こんな激しい砂嵐の中を突っ切るのはハッキリ言って自殺行為としか言えないし、こんな灼熱の砂漠の中を取り付けられた冷房のおかげで快適に進むことが出来るのだ。

 

 オルクス大迷宮を進む際の拠点づくりやベッドにソファー、簡易的とはいえ風呂を造ったことも思い出し、何から何までハジメ抜きには語れないなと頭が下がる思いであった。

 

「いえ、皆が手伝ってくれたおかげですよ。僕一人じゃここまでちゃんとしたものを造れたかわからないですし」

 

 一方、運転席にいるハジメも謙遜しているものの、ほのかに口角が上がっている辺り嬉しくはあるようだ。

 

「そうでしょそうでしょ。流石ハジメくんだよ。こんな悪路をものともしないものを造り上げたんだからさぁ~」

 

「恵里が誇ることじゃないでしょ……でも、うん。すごいよハジメくん」

 

 ハジメが褒められたことで嬉しくなった恵里は喜色満面といった様子となり、そんな恵里を見て軽く呆れた鈴もハジメの成したことを認められたことが喜ばしくあったためか一言述べるだけであった。

 

「……これ、先生がバス造ってなかったらこんな状況でも歩かなきゃいけなかったんだよな。マジで感謝しかねーわ」

 

「ああ。流石にここまで悪い天候で歩くのは普通やらないだろうけどさ、そういうのお構いなしに進めるんだからハジメがいてくれて良かったって心の底から思うよ……」

 

 そしてメルドと同じく悪天候を眺めながらしみじみと礼一と浩介もつぶやく。ここまで過酷な環境をハジメの造った車無しで渡る気力が微塵も湧いてこないからである。マジで友達で良かったと思いながらシートに体を預けたり、肘掛けに手をついて頬杖を突きながらため息を吐く二人であった。

 

 太陽は既に中天を過ぎ、ややもすれば日も暮れる頃となるだろう。未だ強い日差しが照り付ける中、バスはこの大砂漠を突っ走っていく。目的はその先にあるアンカジ公国であり、他にももう一つあった。

 

「ハジメくん。気づいてると思うけどここから二時の方向、魔物の群れがいるみたいだよ。パッと行って素材を回収しちゃおうよ」

 

「うん、もちろん――じゃあ皆、メルドさんも。ちょっと捕まってて下さい。それと魔法の展開をお願いします」

 

 それは換金用の素材の確保である。換金の際に最も怪しまれづらいであろうものを考えた時、全員それぐらいしか浮かばなかったのだ。ライセン大峡谷の魔物の素材も一応回収はしたのだが、こんなものを出したら間違いなく怪しまれてしまう。オルクス大迷宮のものなら尚更だ。

 

 目先の金欲しさにそれらの素材を提供したがために追い回されるのは御免である。そのため採った手段が現地の魔物の討伐とその素材の回収だ。ただし、その際彼らが心掛けていることがあった。

 

「うん。それじゃあ“火球”」

 

「「“風球”」」

 

「“礫球”」

 

 それはあまり上手に敵を倒さず、素材をある程度傷つけてから回収することだ。理由は簡単。買取を依頼した際にその品質の良さから腕の良さを見られ、自分達に繋がる可能性を少しでも低くするためである。

 

 奈落の底にいた魔物と違って一撃で容易に首を吹っ飛ばせる相手ばかりであったが、それはあくまで自分達基準だ。『ちょっと腕が立つ程度の冒険者』ぐらいに装うためにはある程度下手を打つ必要がある。威力を弱め、急所を中々狙えなかった感じに倒した後、すぐさまバスを寄せてハジメは倒した魔物を回収していく。

 

「――よし。魔物の死体は無事に回収しました」

 

「よくやったハジメ。もうアンカジは目と鼻の先だ。周囲を警戒しつつこの場で待機。いいな?」

 

「「「「「了解」」」」」

 

 回収した旨を報告すればすぐにメルドも次の指示を出す。巻き上がる砂のせいでいささか見えづらくはあったものの、メルドの言う通りバスで数分そこらの距離にもうアンカジ公国はあった。厳密に言えば国を包む光のドームがバスの窓から見えるのである。

 

 不規則な形で都を囲む外壁の各所から光の柱が天へと登っており、上空で他の柱と合流してアンカジ全体を覆う強大なドームが形成されている。時折、何かがぶつかったのか波紋のようなものが広がり、まるで水中から揺れる水面を眺めているような不思議で美しい光景が広がっていた。それが恵里達の目には見えるのである。

 

「キレイだね……」

 

「うん。ここら辺本当にファンタジーな異世界だなー、って思う」

 

 以前メルドから聞いた話では、どうやらこのドームが砂の侵入を防いでいるようだ。月に何度か大規模な砂嵐に見舞われるそうだが、このドームのおかげで曇天のような様相になるだけでアンカジ内に砂が侵入することはないとのことである。波紋のようなものが広がるドームを眺めながら恵里と鈴は不意にそんなことをつぶやいた。

 

「太陽、落ちてくな」

 

「そうだな……本当にきれいだ」

 

 そうしてバスの中で燃える夕日を眺めながら礼一と浩介はぼんやりとしながらそんなことをつぶやく。他の街なら“気配遮断”を使って正面から堂々と忍び込めるのではあるが、残念ながらここアンカジ公国の場合は勝手が違った。なんと門でさえも砂の侵入を防ぐためにバリアとなっているのである。

 

「はい皆。そろそろ夕飯にしよっか。今日は()の燻製、それと()()で。砂漠の夜はすごい冷えるし、今のうちに体を温めておこう」

 

「ありがとうハジメくん――そういうところ、大好きだよ」

 

「うん。じゃあ私達も手伝うね」

 

 念のため一度門を“遠見”の技能で全員が見たことで確認もしていた。これではどうにもならないため、予備の案を採用しなければならなくなった。その関係で全員ここで待ちぼうけをくらっている。そこでハジメは宝物庫から金属のトレーや鳥型の魔物の燻製肉、カップを取り出すとすぐに簡単な夕飯の支度に移った。恵里と鈴もすぐにハジメのそばへと寄り、渡されたトレーに今日の夕飯を載せて配っていく。

 

 何度も食べなれたことで味に慣れてはしまっているものの、地球にいた恵里達がこだわりにこだわり抜いて作ったそれは不味いどころか美味い部類だ。そんな燻製をかじってうまうまと感想を述べながらお茶……っぽいものを皆で飲み、和気あいあいと過ごす。そうして日もとっぷりと暮れた頃、ようやく一行は行動に移った。

 

「“錬成”! “錬成”! “錬成”! “れんせぇ”!!!――まだ!? まだなの!?」

 

「も、もうちょっと! 多分もうちょっとだから頑張って恵里!――“錬成”! “錬成”!! “錬成”!!!」

 

 ……現在恵里達は思いっきり凍えながら砂の下でひたすら前に向かって“錬成”を続けていた。

 

 もちろんこれはアンカジ公国が他の街と違って魔法によるバリアで飛んでくる砂を防いでいることが原因だ。無理にバリアを破壊すれば当然大騒ぎになってしまうし、その際アンカジ公国が被るであろう被害も尋常ではなくなるからだ。いくら世界の敵扱いされている可能性が高いといえど、本当にそうなるつもりは全くない。あまりにリスクが大きすぎるからだ。

 

 そのためバリアを壊さずアンカジ公国へと入る方法――地下からの侵入を試みたのである。

 

 まずハジメと鈴を除く全員が“錬成”の付与されたガントレットを装着し、地下に穴をあける。その後、鈴が“聖絶”でトンネル状に壁を構築――“光絶”や“聖壁”だと大量の砂に押しつぶされる可能性があったからだ――しつつ、車から持ってきた方位磁石を確認しながらひたすら前に掘り進めるという力押し以外の何物でもない方法を採っていた。

 

「クソ凍える! 死ぬ! やっぱ暖房出してくれハジメぇ!!」

 

「無理って言ったでしょ近藤君! ハジメくんの作ってくれた暖房も結局火を使うんだよ! あっという間に酸欠になって死ぬんだってば!」

 

 ガタガタ震えながらも砂を横に器用にどかしつつ礼一がボヤけば、同じく歯をガチガチと鳴らしながら必死に“聖絶”を展開している鈴が半ばキレた状態で反論する。

 

 最終的にシュネー雪原に向かうことも視野に入れてハジメは暖房も作ってはいたのだが、鈴が言う通りこれは火が出る代物だ。厳密にいえば出力を調整した火属性の魔法と風属性の魔法で温風を発生させる仕組みなのだが、やはり火属性の魔法を使っているため、当然周囲の酸素を使ってしまうのだ。

 

 ……もし恵里達がちゃんとしたトンネルを造っていたのなら話は別だったのだが、いかんせん侵入経路をごまかす目的もあって前に掘り進めていくだけで“聖絶”の展開する範囲もそれに伴って移動する。つまり後ろは既に砂で閉ざされているのだ。そんな密閉空間で火なんか使ったらアッサリ酸素濃度が低下してそのまま仲良くあの世逝きである。

 

 一応鳥型の魔物の羽を石鹸で根気強く洗って中に詰めた革のジャケットを全員着用しているのだが、行動を起こした当初はともかく、もう陽が落ちてしばらく経った今では冷凍庫にいるかのような心地なのだ。所詮素人の急ごしらえでは限界があったのである。

 

「お前ら、ここで砂に埋もれて死ぬなんて間抜けな死に様を晒したくないだろう! 頼むから全力で掘り進めろぉー!!!」

 

「マジでメルドさんの言う通りだ! 異世界なんかに来て死因がコレとかマジで笑えないからな!!」

 

 仲良く凍えるメルドも叱咤、というか必死な叫びを上げ、浩介も八重樫道場の修行がまだマシだったと回想しながら必死に“錬成”を発動し続ける。

 

 たとえ脱水症状を起こしたとしても、開通した際に人と出くわす可能性があったとしても昼間の内にやっておけば良かった。そう後悔するも後の祭り。寒さというものを甘く見ていたツケを痛感しつつ、恵里達一行は夜のグリューエン大砂漠を掘り進めて行くのであった……。

 

 

 

 

 

「さむい……さむいよぉ……もっと、もっと……」

 

 そんなこんなで掘り進め、どうにかアンカジ公国に侵入した恵里達は地上で暖房型のアーティファクトを使って暖をとっていた。鼻水を垂らし、全身をガタガタ震わせ、暖房を中心に仲良く密集しながら温まる様はまるで雪山で遭難した登山者のよう。実態はそれより様にならなかったりするが。

 

「うぅ……ひえる……ひえるぅ……」

 

 一応城壁の隅っこで温まってはいるし、ハジメが開発したこのアーティファクトも煙はあまり出ないようになってて、しかも焚火のように燃えた際に光を出すこともない。真夜中で真っ暗なこともあってまずバレることはないため、こうして最大出力で熱波を浴びている六人だったが、それでも芯から冷えてしまった体はそう簡単に温まることはないようだ。

 

「つ、つぎは……つぎはちゃんと、さむくならないようにしなくちゃ……」

 

「す、すずも……さむさもあつさもぜんぶ、ぜんぶだいじょうぶなバリアつくんなきゃ……」

 

「そうだね……もう、もうさむいのやだぁ……ぜったいやだよぉ……」

 

「マジでたのむぞハジメ、たにぐちぃ……おれもうさむいのきらい……」

 

「もうさむいのやだよー……ふゆにいけにおとされたときよりつらかったよー……」

 

「うぅ……おれはぜったいせつげんにはいかないからな……」

 

 次こそは絶対に苦しむことがないように決意するハジメと鈴。具体的な案も出ず、本当にやれるかもわからないまま口から出た言葉に誰もがうんうんと勢いよくうなずく。余程身に染みたらしく、誰もが言葉少なに寒さを拒絶する言葉をブツブツとつぶやいている。

 

 ……そうして全員仲良く暖房に当たり続けること二十分弱。ようやくいくらか体が温まった恵里達は次の行動を開始した。“夜目”と“気配遮断”を使って真っ暗闇のアンカジの街を進んでいったのである。

 

“流石にこんな夜中だと人もいないね”

 

“うん。見張りもいないから下手に音を立てなきゃ余裕で進めるよ”

 

 余程あのバリアに自信があるのか、それとも他の理由か。いくら真夜中といえど一切動いている人の気配が無いことに安堵しつつも、念のために“魔力感知”を使いながら路地裏を早足で歩いていく。目指すのはあまり人目につかなさそうな行き止まりだ。

 

「――“錬成”」

 

 すぐに目当ての場所を見つけると、ハジメが地面に手をついて“錬成”を発動する。半径一メートル程度の穴をあけると、すぐに中に入って五メートル四方の空間を作り、オルクス大迷宮産の金属を使用して枠を形成していく。これで簡易的な拠点が完成した。

 

“今はしごも取り付けたから皆も降りてきて。穴は僕がふさぐよ”

 

 相も変わらず見事な手際に誰もが感心しつつも、ハジメの指示の通りに地下の拠点へと入っていく。そして全員がそこに入ったのを確認してから、ハジメは取り出した太さ十五センチ大の金属の筒で空気穴を確保しつつ侵入経路を埋めていく。空気穴は地面から十センチほど出ているため、簡単に穴が埋まることもないだろう。

 

「お疲れ様ハジメくん。中は思った通り、そこまで暑くも寒くもないみたいだね」

 

「ハジメくん、お疲れ様。じゃあ後は朝が来るまでここで過ごせばいいんだね」

 

「うん。二人の言う通りだよ」

 

 拠点の中央に恵里達は集まり、そこへと来たハジメに恵里と鈴は労いつつも、感嘆を漏らしたり確認をとった。

 

「しかしすごかったな……こんな砂漠の真っただ中だってのに、広場は緑が生い茂ってたぜ」

 

「そうそう。しかもなんか船も浮いてなかったか? ホントに砂漠の国かよ、って感じだよな」

 

 浩介と礼一の言葉に全員思わず首を縦に振ってしまう。荒涼とした大地の中にある国にしてはあまりに緑や水が豊富な国だったからである。きっと朝になったら相当美しいのだろうとメルド共々実感していると、ハジメが宝物庫からベッドとソファー、テーブルを出して配置していく。こういった話は腰を下ろしてから、と言いたかったのだろう。全員無言でうなずきながら各々家具に腰かけていった。

 

「アンカジ産の果物は質も良くて量も多いからか安価でな。少し不思議に思ってはいたが、ここまで水と緑が豊かな国だとするなら納得しかないな」

 

 ソファーにどっかと腰を下ろしながらつぶやくメルドに誰もがおお、と感嘆の声を上げる。やはり現地人の言葉の重みはすごかった。この世界に来て王宮かオルクス大迷宮、あるいは解放者の住処以外で生活したことがなかった恵里達にとっては実際に生活している人間の言葉ほど重みを感じるものは無かったからだ。

 

「あー、そうなるとここの果物買えないのもったいねーなー」

 

「流石に無断で買うのもなぁ……後で相談か」

 

 頬杖を突きながら深くため息を吐く礼一にひどく惜しい様子の浩介。そんな二人を見て他の四人も同じくため息を吐いてしまう。メルドはここの果物の良さをしっているからなおさらであった。

 

「そうだね……それじゃあ皆、とりあえずもう寝ましょう。働きづめで疲れてるだろうし」

 

 そうしてしばし色々とだべっていた一同であったが、ここでハジメが音頭をとると誰もが首を縦に振って賛成の意を示した。極寒の中の掘削作業は堪えるものがあったようで、すぐに全員が装備を外してベッドに横になると程なくして寝息を立てて眠りにつくのであった。

 

 幸いにも侵入者はおろか空気穴をふさがれることもなく時間は過ぎ、空気穴から差し込む光でうっすらと拠点が明るくなった頃に恵里達は目を覚ました。

 

「これなら……よし、全員支度をしろ。出るぞ」

 

 そして全員が目を覚まし、少し寝ぼけながらも装備を身に着けていると、光の強さからもう問題ないと判断したメルドの言葉に誰もが皆うなずいて返す。念のため浩介が外の様子を確認すれば既に日は昇って明るくなっており、“気配感知”でもそこそこの人間が動いている様子がわかった。

 

「もう大丈夫そうだ。外に出ようぜ」

 

「うん、わかった。ありがとう浩介君」

 

 感謝の言葉をかけるとハジメはすぐに家具を宝物庫にしまい込み、“気配遮断”を使いながら全員はしごを伝って路地裏へと出ていく。ハジメが金属の枠も回収して穴をふさいだのを確認すると、恵里と浩介はそのまま表へと歩き出そうとしていた。

 

「それじゃあ早速、アンカジ公国観光ツアーといこっか皆」

 

「だな。とりあえずギルド探しのついでに色々回ってみようぜ」

 

「お、おい恵里、浩介。いくらなんでも警戒心が無さ過ぎじゃ――」

 

 無論メルドがあわてて小声で話しかけ、他の面々も心配そうに見つめるものの、二人は特に反省するでもなく全員に向けてこう返した。

 

「ハジメくん、鈴。それに皆。こういう時はね、逆に胸を張った方がいいんだよ。そのおかげで前世は悪いことしててもバレなかったし」

 

「いや、その、えぇ……」

 

「そうそう。バレないためにこうして変装してるんだし、下手にオドオドしてたら怪しんでくださいって言ってるようなもんだ。鷲三さんや虎一さんからそう教わったし、実際に撮った映像見せつけられたからな……なんで俺に女装させたんだよぉ」

 

 無駄に説得力のある言葉であった。

 

 前世? の経験から語る恵里に誰もが顔を引きつらせ、受け継いだ知識と経験則を述べた浩介を見てやっぱり忍者/暗殺者だコイツと誰もが実感する。なお浩介の最後のボヤきは全員が無視した。誰だって藪蛇は嫌なのである。

 

「……わかった。なら開き直ってやっちゃおう、皆。どうせ僕らのやることもただの観光みたいなもんだしね」

 

「それもそうだな……うし、んじゃあ色んなトコ見に行こうぜ。どうせだから観光三昧しちまおう」

 

 そうして逡巡する四人の中でハジメが真っ先に考えを切り替える。このまま考えたところでいい方向にはいかないと直感したからだ。礼一もその言葉を受け、周囲を確認するのを止めてリラックスした様子になる。

 

「こ、近藤君!……は、ハジメくん。いい、の?」

 

「うん。恵里と浩介君の言う通り、周囲を警戒するような動きをしたら逆に『怪しんでください』って言ってるようなものだしね。礼一君や恵里達と一緒に開き直っちゃおうよ」

 

「そうそう。鈴、ハジメくんのお墨付きだよ? どうせだったら思いっきり楽しんじゃおうよ。他の皆を嫉妬させるぐらいにさ」

 

「う、うぅ~……」

 

 それを見てオロオロとする鈴であったが、ハジメと恵里の説得……というかイケない誘いに目をグルグルとさせて迷ってしまう。そんな鈴を横にメルドも大きく息を吐いて警戒を解き、しょうがないなといった面持ちで恵里達の方を見やった。

 

「……そうだな。ここで下手に警戒していたら警邏兵に逆に疑われるだろう。うん、俺達はあくまで善良な冒険者だ。そう振る舞っておけば問題は無い。どうせここに滞在するのもほんの少しの間なんだからな」

 

「め、メルドさん!……うー、わかったよ。じゃあ鈴も楽しむ。鈴だけ仲間はずれなんて嫌だから」

 

 そうしてメルドが宗旨替えをすれば、鈴もあっさりと折れて仲間入りに。そんな鈴の手を恵里とハジメは手に取り、そのまま表通りへと早足で向かっていく。

 

「じゃあ決まり!――ふふっ。久しぶりのハジメくんと鈴とお出かけ。楽しみ!」

 

「まったくもう……じゃあ皆、行こう!」

 

 路地裏から表通りに出れば幾つもの乳白色の建物が視界に入り、通りに面した店には様々な商品が並ぶ。異国情緒溢れる通りを無数の人々が歩き、店主と交渉し、とりとめのない話をしながらどこかへと向かう。活気と喧噪に満ちた場所へと足を踏み入れた恵里達は目を輝かせながら色々な店を見て歩いていく。

 

「おや珍しい恰好だねー! もしかして観光客かい? 良かったらウチに寄ってきなよー!」

 

「そこの色男さん。お連れの二人に似合いそうなアクセサリーが並んでるんだけど見てかないか?」

 

「おいおいそんなナリでアンタ達はここまで来たのか? 砂がキツくて大変だったんじゃないの? ちょっと俺の店に寄ってきなよ。グリューエン大砂漠を渡るなら俺の店の外套がイチバンだぜ!!」

 

 四方八方から寄せられる声。この世界に来てメルド以外にかけてくれた偏見も敵意もない声に恵里、ハジメ、鈴は思わず感極まる。あくまで自分達のことを知らないとはいえこうして親し気に声をかけてくれたのが無性に嬉しくて仕方なかったのだ。

 

「――ふふっ。じゃあハジメくん、もしかするとこっちの方向にギルドがあるかもしれないし、ちょっと行ってみようよ」

 

「あ、もうっ! ダメだってば恵里! せめてどこにあるか尋ねないと――!」

 

「そうだよ恵里! 本当はウィンドウショッピング楽しみたいだけでしょ!」

 

 だがそんな様子はおくびにも出さず。恵里は鈴の手を引きながら街の通りを歩いていく。ハジメも恵里をたしなめつつも目をキラキラとさせながら彼女の後を行く。鈴もそんな恵里に声をかけながらも止める気は一切無く、ただ彼女に手を引かれるままであった。

 

「全く……アイツらは後で説教だ。よし、俺達も行くぞ」

 

 そんな恵里達を見てやれやれといった雰囲気のメルドも浩介達に声をかけ、すぐに彼女の後を追う。喧噪に溶け込んだ偽りの旅人達は今、何もかもを忘れて人々が(かも)す熱気にあてられながら街をさまようだけであった。




早いうちに後編も投稿出来たらいいなーと思ってますまる
……まだ2%そこらしか書きあがってねーのよ(ボソッ)

今回割愛した箇所の話って需要ありますか? あるなら+αして投稿しようか考えております。

  • ある
  • ない
  • いらん
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。