あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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それではまず拙作を読んでくださる皆様に多大な感謝を。

おかげさまでUAも128998、しおりも349件、感想も422件(2022/8/31 18:26現在)となりました。皆々様本当にありがとうございます。原作の流れをちょくちょく外す拙作をひいきにしてくださり感謝しております。

それとAitoyukiさん、今回もまた拙作を再評価していただき誠にありがとうございます。こうして良かったと評価をしていただけるだけでまた筆を執る力が湧きました。今回もまた感謝いたします。

ではアンカジ観光ツアーの後編となります。それでは本編をどうぞ。


五十四話 砂漠の中の国、アンカジ公国にて(後編)

「――なるほど。エリセンへ行くためにこちらに寄られたのですね」

 

「はい。そのついでに観光もするつもりでここの通りを歩いてました。活気があってとってもいい所ですね!」

 

 観光がてら通りにある様々な店をウィンドウショッピングしていた一行。そこにたまたま巡回に来ていた兵士から声をかけられると、恵里が人懐っこい笑みを浮かべて兵士に対応したのである。今も思いっきり猫を被って快活な様子で受け答えをする彼女を見て、本性を知っているハジメ達は引きつった笑みを浮かべるか苦笑いをするかしていた。

 

「はは、そうでしょう。エリセンから海産物、ホルアドから魔石などを運ぶ要所ですからねここアンカジは。ここ一帯では最大のオアシスでもありますし、商人や旅人の休憩地としても最適な場所ですから」

 

「はい! 砂漠の中なのに緑が豊かで、色んな所をきれいな水が流れる水路があってとってもびっくりしました! あ、そうだ。この後エリセンに行く予定なんですけれど、安全にそこへ行くためにギルドの方で依頼をしたいんですがどこにあるか教えていただけませんか?」

 

「ええ、構いませんよ。ギルドは――」

 

 見知った相手であれば絶対にやらないであろう振る舞いをしながらも、しっかり情報を得ている辺りに誰もが安心する。ああやっぱりいつもの恵里だ、と。口八丁手八丁で見事に目当ての情報を抜き取りつつ、後のことを踏まえて嘘の情報をしれっと流す様は最早感動すら覚えるレベルだ。

 

(ここに来て良かった……恵里のあんな顔、久しぶりだよ)

 

(恵里、楽しそう……本当に感動してたんだね)

 

 ただ、恵里と付き合いの長い二人は彼女がこのアンカジを見て感動している様子であることには気づいていた。言葉遣いやイントネーション、そういったものから恵里が本気で感激していることを理解していたのである。

 

「――さて、それじゃあギルドの方も聞きだしたし早速……ねぇそこの男子、何か言いたいことでもあるの?」

 

 そして先程まで話しかけていた兵士が人ごみにまぎれていくのを見計らってから恵里は声をかけようとした。だが浩介らは恵里の様子を見て軽く引いていたため、彼女もキレたのである。

 

「なんでもないよ、恵里――ほら、行こう」

 

「あっ――うん」

 

 するとハジメが恵里の手を取り、ゆっくりと彼女の手を引いてギルドの方へと向かっていく。愛しい人に手を繋いでもらったためか、ちょっと頬を染めながらも彼にされるままに恵里は歩く。

 

「恵里のおかげでどこにギルドがあるかもわかったし、すぐに向かおう」

 

「はいはい。わかったよ……」

 

 そしてハジメの後ろをスッと鈴がついていき、何もなかったかのように歩き出した。

 

「……やっぱ一番ヤバいのは先生と谷口だな」

 

「あぁ……あの暴れ馬の手綱を昔っから握ってたからな」

 

 さっきのやり取りなんてなかったかのように恵里と談笑しながら歩く三人を見て残った男子~ズは戦慄する。本当にヤバいのはあの猛獣(恵里)でなく、それを難なく御する二人ではないのか、と。背中にうすら寒いものを感じながらも後をついていきながらメルド達はそう思った……。

 

 

 

 

 

 道すがら露店や通りに面する水路を眺めて異国情緒を堪能しつつ、恵里達は遂にアンカジ公国のギルドへとたどり着いた。建物はやはり他と同じ乳白色であったものの、それ以外と比べて一際大きく、砂漠の真っ只中にある施設なだけあってか扉は金属製である。

 

“本当にいいんだな? お前達まで巻き込むんだぞ? 俺が上手くやれば――”

 

“メルドさんなら上手くやれると思うけど、どこから情報が伝わるかわからないからね”

 

“俺もそう思う。最悪門を封鎖されたら困るのはこっちの人達だし。やっぱり迷惑かけるにはいかないって”

 

 ギルドの建物から数メートル離れた路地裏にて、メルドは恵里と浩介に説得されていた。それは先程“念話”で決めた取り決め――全員一緒にギルドに入ろうということに対して今一度渋ったからである。その理由は簡単で恵里達も不審者として扱われることへの抵抗感があったからだった。

 

 自分一人で入れば、たとえ追手をつけられたとしても今の自分の能力と技能を駆使すれば十分撒くことは可能だと考えていたし、その間恵里達はいち観光客としてここアンカジを楽しんでもらいたいとメルドは思っていたからだ。だがそれも恵里と浩介が再度出した理由でまた丸め込まれようとしていた。

 

“言っただろメルドさん。最初に来た追っ手を撒くこと『だけ』が簡単なんだ。姿をくらませばすぐに連絡をとって数を増やすだろうし、俺らと合流した姿を見られたら結局変わらない。だったら最初からずっといた方が皆で一斉に動ける分いいんだって”

 

 浩介の述べる通り、追っ手を撒くことが出来たとしてもそこから先が結局繋がらない可能性が十分あるからだ。八重樫の裏を学び、こういった時相手がどう対処するのかがわかっていたからこそ浩介はそれを良しとしない。

 

 追っ手を潰して追加された人員を引きずり出してから本丸を叩くというのであれば話は別だが、自分達は国を混乱に陥れることが目的ではない。あくまで換金のためにここに来たのだ。だからあえて姿と()()をさらすことを主張したのである。

 

「全く……どうなっても知らんぞ」

 

「その時は一緒に逃げちゃいましょう。それでいいと思います」

 

 ため息を吐いてボヤくメルドをハジメがなだめ、他の皆もうんうんとうなずいて返す。自分の教え子達が無駄に覚悟が極まってしまったことを軽く嘆きながらもメルドは再び折れ、ギルドへと向かっていく彼らの後姿を追うばかりであった。

 

「……よーし、行くぜ皆」

 

 そして礼一が金属の扉に手をかけると、全員にその緊張が伝わっていく。見知らぬ場所へ入ることの怖さ、中はどうなっているのかと気になる好奇心。誰もがそれに心臓を高鳴らせながらも礼一が扉を開けるのを見守るだけ。そうして視界に広がったのは以外にも清潔な空間であった。

 

 相応の人間が利用していることもあってか石造りの床は所々擦り減っており、色合いも年季を感じさせる。

 

 だが床の摩耗具合に比例して中は活気にあふれており、併設されている飲食店と思しきスペースは一段と際立っていた。おそらく商人と思われるロクに武装もしていない恰幅の良い男がしっかりとした体躯の青年ら数人と話し合いをしていたり、冒険者と思しきパーティの集団が誰かまたは依頼を待っているかのようにたたずんでいる様子がそこかしこに見られるのだ。

 

 そしてギルドの扉に取り付けられた大きなドアベルが鳴ったのに気づくと同時に周囲から一斉に視線を向けられた。好奇や確認、そういったものが主であったがすぐにそれは霧散する。その視線を寄せたのが依頼待ちであろう武装した人達からのものばかりだったからだ。

 

「通りとはまた別で……すごいね、皆」

 

「警邏していたあの兵士が言ってた通り、ここは交易の要所だからな。エリセンの海産物はアンカジを経由して国中に渡っていくし、ホルアドの魔石も必ずここを通ってこの国やエリセン、他の街へと輸出されていく。こうなっているのも当然だろうさ」

 

 思わず感嘆するハジメにメルドはそう答える。とはいえこういう風景をメルドも実際にこういった風景を見るのは初めてらしく、どこか興奮した様子ではあったが。

 

 『おそらくはキャラバンやここからの護衛の依頼を待っているんじゃないか』とメルドが推測交じりで締めくくると全員に視線でカウンターへと向かうよう促し、それに気づいた恵里達も木造のカウンターにいた美人の受付の一人の方へと向かっていった。

 

「あのー、えっと……二人、とも?」

 

「どうせ鼻の下を伸ばしてたんでしょ、ハジメくん? 『ギルドっていったら美人の受付さんだよねー』って。お見通しだよそれぐらい」

 

「うん。鈴達がいるのに目移りしちゃう浮気性なハジメくんには流石に近寄らせたくないよ」

 

「だ、だって! 僕だって男だよ!? ろ、ロマンの一つや二つ――」

 

「「許さない。ギルティ」」

 

「ぎゃぁあぁぁぁぁぁああぁ!!!」

 

 ……ただ、受付業務をしていた女性を見て『ファンタジー世界の生の美人の受付嬢さんだ!!』と内心はしゃいでいたのを恵里と鈴に見透かされていたハジメは、即座に二人に手を取られ、両の小指をあらぬ方向へと軽く捻じ曲げられて悲鳴を上げる羽目に遭ったが。

 

 そんなハジメ達を尻目にメルド達三人は受付に話しかけ、すぐに買取の手続きを始める。

 

「――そうですか、わかりました。では素材の査定はあちらになります。準備が出来次第、あちらの列でお待ちになってください」

 

「あぁ、ありがとう――おーいお前ら、いつまでやってるんだ? 早くこっちにこーい」

 

「あ、今行きまーす」

 

「ちょっと待ってくださーい」

 

 すぐに手続きを済ませて声をかけたメルドに恵里と鈴はニコニコと笑顔を浮かべながらも脂汗をかいたハジメの手を引いていく。素材の査定を担当しているのは壮年の浅黒い肌の男性であったため、二人的には問題なかったようだ。

 

「では素材の提示を」

 

「えっと、素材はこちらに……っと」

 

 そして自分達の番が来たことでハジメは背負っていたリュックを下ろすと、予め入れておいた素材を取り出してカウンターに出ていた受け取り用の入れ物の中へと並べていく。もちろん取り出したのは昨日あえて下手に討伐をして幾らか損傷していた魔物の皮や爪、それに魔石だ。五匹分程度のそれを置いてから買い取りを頼めば、担当の男性もふむと少し考え込むような素振りを見せ、一つ一つ手に取って調べていく。

 

「では買い取り額はこれぐらいになりますが、よろしいでしょうか」

 

「――ええ、わかりました。ありがとうございます」

 

 そして程なくして査定額を提示してもらえばメルドは何も言わずにそれを了承し、すぐに買取金額の三万二千五百ルタを受け取った。なお額面を提示された瞬間にメルドから“念話”で一切の文句を言わないよう、通達を食らっていたため恵里達は少ないことを口に出してボヤくことは無かった。

 

(たった三万かぁ……でもあれぐらいの損傷で、しかも五匹でだからそれなりに高く買い取ってくれたのかな? なら文句は言えないね)

 

 だがいくら数が少なく文句を言わないよう言われとはいえど正直ガックリくる数字ではあった。いくらなんでも少なすぎる。一体どれだけ米を買う金の足しになるのかと心の中でボヤいていると、すぐにメルドが自分達に声をかけて来た。

 

「……よし。それじゃあお前ら、ひとまず戻るぞ」

 

「「「「はい、わかりました」」」」

 

「ウーッス、わかったよメルドさん」

 

 とはいえ今回ばかりは仕方がない。ひとまずお金のことは諦め、六人全員でギルドを後にしていく――自分達の後をつけてくる人間に気付かないフリをして。

 

“あー、これ気づかれたな”

 

“やっぱりこうなってしまったか……数も相当絞ったはずなんだがな。まぁ仕方がない。全員俺の指示通りに動け。いいな?”

 

 メルドが“念話”でそう伝えると共に恵里達は即座に了解と返す。そしてメルドの指示通り表の通りへと出て、露店の方を見て回る。気づかずに観光していると見せるためだ。

 

「あ、おじさん。その果物美味しそうですね」

 

「おぉ、わかるか? コイツはな――」

 

「ハジメくん見て見て! あっちの屋台の方から美味しそうな匂いがするよ!」

 

「あ、ホントだ。ちょっと寄ってく?」

 

 そして演技を頼んだのは浩介、恵里、ハジメの三名のみ。恵里は言わずもがなであり、浩介も表通りに出る際の力説や違和感なく溶け込んでいた様子から選び、ハジメも恵里のフォローがあればおそらく大丈夫と踏んでの判断だ。

 

“礼一、鈴。お前達も適当に露店や建物を眺めるだけでいい。やってくれ”

 

“わ、わかりました!”

 

“あ、それでイイんすか? はいっ”

 

 思った通り上手くやれていることにメルドは安堵しつつも、どうしたものかと迷っている鈴と礼一にもキョロキョロしてるだけでいいと伝える。そのおかげか追手の方は変な動きをすることは無かった。

 

“なぁメルドさん、やっぱり俺らが狙われたのってアレのせいか?”

 

“だろうな。だが、あそこでステータスプレートを出してたら一発で終わってた。結局登録せずに換金する以外は無理だったのだから仕方がない――行くぞ”

 

 こうして追われるようになった理由も全員が察しがついていた。それは二つ。『ステータスプレートを提示しなかったこと』と『冒険者登録を済ませなかった』ことだ。

 

 ステータスプレートを出せば当然その場で自分達がお尋ね者として捕まる可能性が高い。何せアレーティアを狙うエヒトとその傀儡の宗教が相手なのだ。自分達を既に指名手配していてもおかしくはない。だから当然身分証明書代わりのコレは出せない。

 

 それに連動する形でもう一つ。冒険者登録を済ませられなかったことが大きなネックになっていた。

 

 冒険者登録の際に手数料を千ルタほど取られるものの、査定額を一割増してくれることやギルドと提携している宿屋や店舗の料金の引き下げなどといったメリットも受けられるからだ。腕に覚えがあってやましいことがないのであるなら基本登録して損はしないのだ。

 

 つまりそれをしないということは腹に一物あるか何かしら事情を抱えているということの証明になってしまう。それ故に疑われたのだろうと全員があたりをつけており、そしてそれは事実であったのだ。

 

“今のところは追手の数は増えてないですね。とりあえずこのまま……”

 

“ああ。下手に増えても厄介だ。そろそろ路地裏へ向かうぞ”

 

 最後に薄々感づいてはいたが確証が無かったために挙げなかったもう一つの理由――自分達は人相書きのせいでバレたのではないかということ。そしてこれもまたその通りであった。

 

 実は恵里達がオルクス大迷宮を出た直後、エヒトから神託を受けた教会は急ぎギルドマスターに連絡を取次ぎ、信託の内容を明かす――オルクス大迷宮で失踪した中村恵里らは存命であり彼の者らを捕えよ、という内容のものを。そして教会は彼らを異端者として認定し、ギルドの方も尽力せよと通達してきたのだ。

 

 当然ギルドマスターであるバルス=ラプタは何を馬鹿なと内心教会からの一方的な通達に呆れ果てていた。かつて“最強”と言われた冒険者がベヒモスに挑んだ際の記録や、何カ月も前に起きた転移の()()での聞き取りの際に彼らが失踪した階層の情報や失踪した彼らの動向は把握している。あんなところから下へと行ったのだからいくら『神の使徒』といえど無事では済むまいと判断していたのだ。

 

 だがこのトータス全土に根を張る教会相手に矛を構えることがどれだけ愚かであるかということもわかっていた。そのため表向きはそれを承諾し、一応ギルドの支部長にもそれを通達。もし見かけたら厳戒態勢のもとで接触するよう言っておいたのだ……()()()その情報が全てのギルドの端役にまで広まっていたが。その結果、とっととギルドを後にした恵里達は追われる身となったのである。

 

“追手の方は見えるな――よし、ハジメ! 頼むぞ!”

 

 そして路地裏に入り込み、あえて行き止まりの方へと向かって追い詰められた体を演出すると、すぐにメルドはハジメに号令をかける。

 

「はいっ!――“錬成”!」

 

 ハジメも即座に“錬成”を発動して自分達のいた場所に大きな穴をあけ、その中へと一気に落ちていく。向こうが焦りを含んだ様子で檄を飛ばしているようだがもう遅い。ハジメは宝物庫から四人分の“錬成”の付与されたガントレット、氷の結晶をあしらったネックレス型の冷房効果を持つアーティファクトを人数分取り出して全員に手渡した。

 

「はいコレ着けて! ここからは時間との勝負だからね!!」

 

「わかってるよハジメくん!――“錬成”!!」

 

「トンネルの維持と追手の対処は鈴に任せて!――“聖絶”!」

 

「よし、お前達! 一気に行くぞ!! “錬成”!!」

 

「「“錬成”!!」」

 

 そして“錬成”が使える五人が一気に前方へと向かって穴をあけていき、こちらを追ってこようと人員の手配や地面の大穴に突入してきたアンカジの人達を尻目に恵里達は外へと進み続ける。後ろは直に砂で遮断され、追手が直接追いかけてくる心配はなくなったことから全員前へ進むことだけを意識し、ひたすら掘削していく。

 

「――っ!!! 一気に熱くなったね!!」

 

「ネックレス型のアーティファクトを起動して!! これで暑さをしのげるはずだから!!」

 

 外壁の下も掘り進め、そこから更に数メートル進んだ辺りで異変が生じた。サウナに匹敵するかのような凄まじい熱に襲われたのである。ハジメの号令と共に身に着けたアーティファクトを起動したおかげでどうにか耐えることは出来、またその急激な変化から外に出たのだろうと判断した恵里達は坂を上るように掘り進めて行く。

 

「――出たな! ハジメ、バスを出してくれ!!」

 

「はいっ!――皆、今すぐ乗り込んで!! 追手が来る前に逃げるよ!!」

 

 無事に一行は外に出る事に成功すると、メルドの指示と共にハジメは宝物庫からバスを取り出して大声で全員に乗るように伝える。

 

 幸い“気配感知”には自分達以外の気配はまだないものの、ちんたらしてたらいつ追いつかれるかわからない。疲れと酷暑でダルくなった体に鞭を打ちながら恵里達はバスへと乗り込み、見事に逃げおおせたのであった……。

 

 

 

 

 

「……そうか。ハジメ達もお疲れ様。俺達と同じで中々面倒なことになってたんだな」

 

 かくしてアンカジを脱出し、バスを走らせることしばし。恵里達は合流地点として事前に取り決めていたハルツィナ樹海近郊へと辿り着き、先に戻っていた他の班の皆と無事に落合うことが出来た。今は食事をしながらお互いの身に起こっていたことについて話し合っている。

 

「そうだね。光輝君達も龍太郎君達もお疲れ様。でも皆無事に戻ってこられて何よりだよ」

 

「ホントな。でもまぁあの程度じゃ俺らを捕まえるにゃ役不足だろ。腕の立つ奴を百人二百人でも連れてこい、ってな」

 

 生け捕りにしていた魔物を解体し、貴重な脂を使って焼いたステーキを食べながらハジメは皆の無事を喜ぶ。賽の目にカットした肉を食いつつ良樹も、底意地の悪い顔を浮かべながら暗に自分達は絶対に捕まる訳がないと断言する……なお即座に他の博識な面々に役不足のことについてツッコまれて赤っ恥をかいた。

 

「ま、それはそうだけどな……ハジメの方も、光輝達の方も追いかけられたって聞いてやっぱいい気分にゃならねぇよ。周りから敵扱いされるのって結構キツいな……」

 

「……龍太郎君、何があったの? メルドさんがボク達を認めてくれたことでも思い出してしんどくなった?」

 

 一方、龍太郎は適当に切った肉片を雑に口に突っ込みながらそうボヤいた。自分だけでなく友人や愛する人さえも世界から歓迎されていない、という事実に対して思うところがあるようだ。何かと比較したせいでへこんでいるような様子の彼を見てふと恵里は龍太郎に問いかける。

 

「多分そっちじゃないよ恵里ちゃん……多分キャサリンさんとクリスタベルさんのことだよね?」

 

「あぁ……香織の言う通り、あの二人は俺らのことを信じてくれたからな。それを思うとなんかやるせなくてよ……」

 

 苦笑しながら恵里に返事をしつつも問いかけてきた香織に対し、龍太郎も首を縦に振ってそれに答えた。

 

 曰く、会った当初から自分達の素性は見抜かれこそしたものの、色々やり取りをしたことで自分達のことを信じてくれた上に迷惑料として下着を譲ってくれたり今回のことは黙ってくれると述べたのだという。

 

「……どこまで本気だろうね。ねぇ香織、その下着になんか変なモノ付いてたりしないの?」

 

「大丈夫だよ恵里ちゃん。少なくとも感知系統の技能には引っ掛かってなかったし、もし本当にキャサリンさんが噓をついてるなら今頃皆ギルドの人や冒険者に囲まれてるよ」

 

 その場に居合わせていなかった恵里はその説明に思いっきり顔をしかめて怪しんだものの、香織の言葉を聞いて『それもそうか』と納得してステーキを呑み込んだ。

 

「でもよー白崎ー。あのオバチャンが町長とかだったらなー、って思わなかったか? 町長権限効かせて俺らのことかくまってくれたかもしれねーだろー?」

 

「……大介、仕方ない。私達をちゃんと理解してくれる人がいた。それだけでも十分大きい」

 

 既にステーキを食べ終わってテーブルに突っ伏してボヤく大介の背中をアレーティアが撫でる。あのことは龍太郎と同行していた彼らにとっても意外な結果であり、高望みをする彼をなだめるアレーティアを見て香織もちょっと苦笑いを浮かべながらも大介に返事をする。

 

「そうだね。キャサリンさんがそういう立場の人だったら良かったなー、って私だって思うよ。でも今は『味方』がいてくれたことに喜ぼうよ檜山君」

 

「そらそうだけどよー……ハァ、世知辛ぇ」

 

「香織の言いたいこともわかるけどねー……檜山君の言う通り世知辛いなー、って」

 

 香織の言葉に一層深くため息を吐く大介に恵里も同意する。自業自得とはいえ、こうも世間が自分達に対して厳しいとなると中々に心が辛い。別段悪意に関しては相変わらず気にすらならないものの、食料や寝床の確保が出来ないことに対する不便さを考えれば憂うつになってしまうのも仕方が無かった。

 

「それなら別の街でもっと質のいい素材を買い取ってもらってよ、色々買っちまえばいいんじゃね?」

 

「そうだよね。斎藤君の言う通り、もうどうせ目をつけられてるんだから人目を気にしないで振る舞っちゃったほうがいいんじゃないかな」

 

「良樹と奈々の言うことも尤もだな。あ、でもどうせだったらライセン大峡谷の素材を持ち込んだ方がいいんじゃねぇか? 周りに対して威圧もかけられるからな」

 

「いや駄目だ幸利。無用な犠牲を出さないためだと言っても限度が――」

 

 そうして話し合いは続いていく。金銭の工面に関するものはもちろん、立ち寄った街の景色はどうだったといった雑談や、今後の立ち振る舞いはどうしたものかという相談、早く米が食べたいといったとりとめのないことも含めて。

 

 そうして時は過ぎ、土属性魔法と“錬成”で造った風呂に皆が入り、キャンピングカーやテントなどで見張りを立てながら彼らは眠りに就く。そして――。

 

「全員乗ったな?……それじゃあ出発するぞ!」

 

 翌日、他の班の皆と別れ、恵里達は【グリューエン大火山】へとバスで向かう。今回は地理に一番詳しいメルドが運転も担当し、アンカジを迂回して北上するルートを通ることとなっている。

 

 移動を含めて三日がタイムリミットであるため、今回はやりたい人がやるのではなくいかに早く目的地にたどり着き、【グリューエン大火山】をどれだけ攻略出来るかに重点が置かれる事となった。

 

 そのため治癒師である鈴と闇術師である恵里は除外。状況に応じてアーティファクトを作れるハジメも運転手には使えず、最強の戦力である浩介の魔力も無駄には出来ない。そこで仲間の中で最もトータスに詳しいメルドが運転手に立候補したのだ。

 

「しかし、かなりのスピードだな……あっという間に樹海が遠ざかっていく」

 

 百キロ以上の速さで景色は移り変わり、もうメルドの目の前には【グリューエン大砂漠】の一端が広がっている。徒歩や馬車ならここまで来るのに一体どれだけの時間がかかるやらと思いながらも、メルドはスピードを緩めはしない。バスは砂塵に負けることなく荒涼とした大地をひた走っていく。

 

「ハジメぇ~、冷房はもう大丈夫なんだよな? アレあんま効かなかったぞ」

 

「安心してよ礼一君。この前の反省を踏まえて思いっきり強いのも用意しといたから! アレーティアさんに頑張ってもらってちょっと弱めの“凍柩”と“砲皇”を付与してもらったんだ!! あと“凍獄”にしてもらったバージョンもあるよ!」

 

「ねぇハジメくん、それ大丈夫なの? 使った直後に死んだりしない……? いきなり氷漬けとか絶対ヤダよ?」

 

「……鈴、火山がそんなに暑くないことを地球の神様に祈りたくなってきた」

 

 この前砂漠の中で掘り進めた際に使用した冷房のアーティファクト――魔力を流すことでネックレスに付属している氷を模した飾りの中心部分に氷を発生させ、その冷気を付与した風属性の魔法を使って全身に行き渡らせるという仕組みである――を更に強化? した代物を作ったことを述べたハジメに珍しく恵里は焦りの表情を浮かべる。こんなヤバい代物を使って本当に大丈夫なのか、と。鈴も遠い目をしながら使わずに済むことを願っていた。

 

 かくしてバスに揺られながら恵里達は灼熱の火山へと向かっていく……思いがけない出会いがそこで待っているとも知らずに。




次回はグリューエン大火山攻略……の前に龍太郎達sideの幕間のお話となります。
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