あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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まずは拙作を読んでくださる皆様がたに盛大な感謝を。

おかげさまでUAも129893、お気に入り件数も789件、感想も427件(2022/09/04 21:29現在)となっております。こうして拙作をお気に入りとして登録し、目を通してくださる皆様には頭の上がらない思いでございます。

そしてAitoyukiさん、今回もまた拙作を再評価していただいて本当にありがとうございます。何度も使いまわした言葉で恐縮ですが、こうして拙作を再評価してくださったことでまた筆を執る力と勇気が湧いてきました。いつもいつもありがとうございます。

それと今回もいつものように前後編となりました(白目) それでは本編をどうぞ。


幕間二十八 ブルックの街にて_異聞(前編)

 真夜中のブルックを照らすのはわずかな明かりのみ。ここブルック近郊に夜目が効く魔物や空を飛ぶ夜行性の魔物は生息しておらず、見張り台はあるものの今はそこに誰もいない様子だ。門の方にも人の気配がないことから見張りは全員詰め所で寝ているのだろう。

 

“とりあえず障害物の類はなさそうだな。入るのも楽そうだ”

 

“やっぱりこれしかないのかな……ハァ”

 

“観念しろよ白崎ぃ。普通に入るのは無理なんだし、別に悪さする訳じゃねぇだろ。たまたま門番のいない空から入らせてもらうだけだって”

 

“んっ……今回は仕方がない。機会があったら謝るしかないと思う”

 

 ――だから空から街を見下ろす四つの影に気付けないのは仕方が無いのだろう。念のため“念話”でやり取り――アレーティアだけは大介お手製の“念話”が付与されたイヤリングを使って――している龍太郎らには街の誰も見つけることは出来無かった。

 

“信治、良樹。お前達は引き続きキャンピングカーで待っててくれ。しばらく暇になって悪いが……”

 

“気にすんな龍太郎。さっき言った通り変に神経張り詰めなくて済むんだ。こっちとしても願ったりかなったりだよ”

 

“面白そうな土産話で手を打っといてやる。ヘマこくなよ?”

 

 現在キャンピングカーの中で待機している二人にも“念話”を繋ぐと、特に気にした様子もない二人はそう返してすぐに切った。それを聞いて覚悟を決めた四人は互いに顔を合わせ、すぐに作戦の準備に移った。

 

“よし。じゃあ香織、大介、アレーティアさん。侵入開始だ”

 

 了解、と返事をすると同時に“空力”で足場を作っていた三人は一気に空中を駆け抜けていく。“空力”で展開した足場を“豪脚”で蹴り飛ばし続け、ずっと大介に横抱きにされていたアレーティアは彼の首に回した腕に少し力を入れて風を感じながら。数秒そこらで音すらほとんど立てずに無事に地上にたどり着いた四人はすぐさま路地裏の奥へと向かっていく。

 

“路地裏があったのはいいけど、隠れられそうなボロ屋とかは無ぇな。んじゃハジメが提案してくれたプランBでいくぞ

 

 ハジメが彼等に提案したブルックの侵入方法は二つ。一つは地下からの侵入であり、一体どこに出るかわからないことがリスクとなるためこれはオススメはされなかった。また夜に門が閉まる前に“気配遮断”を使って侵入することも考えられたが、アレーティアがその技能を持っていないことと“気配感知”や“熱源感知”といった技能が付与されたアーティファクトがあちらに無いとも限らなかったため、これは即刻却下された。

 

 そして残るもう一つの方法は……空中からの侵入だ。もし仮に空中から敵を探るようなものが無い場合はこっちの方がいいかもとオススメされている。その際廃屋があるのならそれを利用するのも手だよ、とハジメからアドバイスをもらってはいたものの、同時に地下にスペースを造ってそこでやり過ごすことも提案されていたため、これを採ろうと龍太郎は急遽決める。

 

「それじゃあ行くぞ皆、せーの」

 

「「「「“開穴”」」」」

 

 そして四人で落とし穴を作る魔法である“開穴”を発動して深さと直径が三メートルの縦穴を作り出すと、全員すぐにそこへ飛び込む。スタッと全員が難なく着地するとすぐ、龍太郎は背負っていたリュックから“錬成”の付与されたガントレットを大介へ、金属製の筒を香織へと渡した。

 

「香織、空気穴の確保を頼む」

 

「うん。じゃあ私が穴をふさぐから檜山君は仕上げをお願い」

 

「よっしゃ任せろ――“錬成”」

 

 “空力”で足場を作り、穴の真ん中から筒を何センチか出すと共に香織は土属性の魔法を発動して大まかに穴を塞いでいった。そして大介も“錬成”で土の壁と天井を固め、強固な空間を作り上げる。あっという間に朝を迎えるための準備は整った。

 

「後は朝が来るまで待ってりゃいいのか……マジで暇だな」

 

「仕方ねぇだろ。今の俺らじゃ正規の手段で入れねぇんだからな」

 

「ステータスプレートの名前の方もいじれたら良かったのにね……」

 

「それが出来たら身分を証明するものにならない……こればかりは仕方ない」

 

 そうしてやることも無くなって暇になった四人は思い思いに話をすることに。『普通』に街に入れないことに関する不満や直径十五センチの筒を見て朝になったらまぶしいんだろうかとアレコレ言ったり、早くウルの街に行ってお米を買ってしまいたいといったことまで。

 

(……早く朝、来ないかな)

 

 そうして色々と話をし続けていた一同。そんな折、体育座りをして隣の龍太郎に軽く体を預けていた香織は天井を見上げながら何とはなしにそう思った。

 

 この中で過ごすことを当然想定していたため、全員時間差で昼寝をしてここで寝なくても大丈夫なようにしておいた。それ故睡魔に身を任せることも出来ず、時間が中々過ぎていかないのがもどかしい。

 

 それに何より、“夜目”のおかげで普通に視界は確保出来ているものの、こうして真っ暗な空間にいるとどうしても悪いことをして閉じ込められたような気がしてしまい、自身が少し落ち込んでしまっていることに香織は気づく。

 

(……アレーティアさんはどうなのかな? 辛く、ないのかな?)

 

 そんな時、ふと香織はアレーティアのことが気にかかった。前に話し合いをした際は大丈夫だった様子ではあったものの、こんな真っ暗闇の中で過ごすことにそういえばトラウマが刺激されたりしないのだろうか、と不安になったのである。そうして視線を向けるとアレーティアはそんな彼女の心配をよそに大介に存分に甘えていた。

 

「大介……だいすけぇ……」

 

「はは……ったく、今日は一段と甘えてくるじゃねぇか」

 

 昨晩の食後のひと時と同様、子猫のように体をこすりつけて大介に甘えている。そんな様子を見て香織は安心した。この状況が苦にならないのなら別に構わない。もう暗闇が彼女にとって辛く苦しいだけの世界でないと彼女の甘え具合から推し量ると、今度は自分もと龍太郎にアクションをかける。

 

「? 香織、どうし――」

 

 何か言い終わるよりも前にあぐらをかいた彼の脚の上に腰を下ろす。そして愛しい人を香織は見上げた。

 

「アレーティアさんを見て羨ましくなっちゃった。いいかな?」

 

「とっくにやっといてそりゃねぇだろ……ほら、これでいいか?」

 

 ちょっと悪戯っぽく笑う彼女に、龍太郎は軽くため息を吐きながらも香織を抱きしめて自分の側に寄せる。それだけであったがちょっと彼女の耳の辺りが赤くなってきたのが“夜目”のおかげでわかり、それに少し満足した龍太郎はちょっとだけ腕の力を強めた。

 

「ありがとう龍太郎くん。おかげで少し安心しちゃった。おっきいテディベアに包まれてるみたいだから」

 

「俺は熊のぬいぐるみかよ……だったら」

 

 何気なしにそんなことを言った香織にちょっとむくれた龍太郎は彼女のうなじに息を吹きかける。すると思いっきりびくりと反応し、それがなんだか面白くて龍太郎は笑いをかみ殺した。

 

「う~っ……ひどいよ、龍太郎くん」

 

「悪い悪い……ま、俺だって熊のぬいぐるみと同じ扱いじゃ不満になるんだよ。わかれ」

 

「……うん」

 

 突然のことに恨めし気に見つめてくる香織に対し、龍太郎がこう言い返せばそれだけ自分のことを大切に思っていると知って無言になってしまう。今のは自分がちょっと不用意過ぎたと反省しつつ、ただ龍太郎に背を預ける。大好きな彼の体温を、心音を、匂いを感じることにただ集中する。

 

「――ぷはぁ……アレーティア、お前も大概大胆だよな」

 

「――はぁっ……んっ。大介が隣にいるだけで心が安らぐから」

 

「お前なぁ、もう……」

 

 一方、龍太郎らに背中を向けたままアレーティアは大介と唇を合わせていた。ただ体をこすりつけるだけでは我慢出来なくなったか、何度となく普通のキスを繰り返し、今の今まで舌を絡めていたのである。

 

 光すら射さない暗黒の世界にずっと囚われていたアレーティアの脳裏にはやはりあの絶望と苦しみが今も容易に浮かびはする。けれどもそれが愛する()のしてくれたことだと今は思えるし、何より夜明け――大介達が訪れてくれた。だから今のアレーティアにとって暗闇はただ苦しみをもたらすものでも恐れるものでもなかったからだ。

 

 時折思い出してしまう負の記憶も父のことを考え、こうして大介に甘えることで少しずつ塗りつぶしているアレーティア。そんな彼女にされるがままであった大介もぐりぐりと強めに頭を撫でる。まだ暗闇の中が辛いと思っているであろう彼女の心が安らいでほしいと願いながら。

 

「……そろそろかもな。ちょっと確認してくる」

 

 そうして幾何かの時が過ぎ、空気穴から光が差し込み、それが段々と強まって来たところで龍太郎は外の様子を確認しようと考える。そこで香織をそっとどかして三人にそう告げると、“空力”を使いながら外の様子を見に上へと向かう。

 

 魔法で天井に穴をあけ、“気配感知”と“気配遮断”を使って外の様子を探ってみると、既に中天に近いところまで太陽は昇っており、遠くはともかく半径数メートル以内には誰の気配もない。これなら、と確信すると穴をあけたまま龍太郎は一度彼らの元へと戻っていく。

 

「見た感じ大丈夫そうだ。じゃあ三人とも、そろそろここを出ようぜ。あ、でも通りに出る前にちゃんと汚れを落とすぞ」

 

「「「了解」」」

 

 上から声をかけるより近くで言った方があまり響かないため、あえて戻った龍太郎は三人にそう告げる。香織らもそれにうなずき、アレーティアを大介がお姫様抱っこすると同時に四人は“空力”を使ってすぐに上へと向かう。

 

 一息で穴の外へと出た四人はすぐさま魔法で穴を埋め、すぐにアレーティアが発動した風属性の魔法で体に付いた土埃を払う。そして各々パートナーに自分の状態を見てもらってから表通りへと歩いていく。

 

 すると視界に入って来たのは活気溢れる市場であった。昼が近いこともあってかよく見るのは一般人よりも大なり小なり武装をしている人間が多い。

 

「……すっげぇ」

 

 先に言葉を漏らしたのは大介であった。

 

 屋台で受け取ったと思しき軽食にかじりつきながら通りを歩く冒険者と思しき一団だったり、物資の調達を担当しているのか大きめの袋を抱えて陳列された物を品定めしている軽装の男。それ以外にも既に一仕事終えてこちらに戻って来たらしい冒険者達のパーティが話をしながら露店を歩いて回る様なんかも見える。ひどく異世界情緒溢れる光景がそこにはあったのだ。

 

「……こうして見たら、本当に異世界に来たんだなって実感するな」

 

「うん……」

 

 微かに感じた郷愁もこの好奇心を煽る目の前の世界には敵わない。それを三人はひどく実感し、ただ呆然としながらそれを眺めるだけであった。

 

「……今の時代も、人は懸命に生きてる。それがわかっただけでも、嬉しい」

 

 一方、トータスの人間であるアレーティアも、今の時代の人間の営みを見て胸の奥がじんわりと温かくなる。パレードや視察といった機会でしか見ることが叶わなかった生の市井の徒の姿にどこか感激を覚えたのである。

 

 そんな時、ふと四人仲良くお腹の虫が鳴ってしまう。露店に並ぶ青果や軽食に使われるほのかな胡椒や香草、タレなどの香りが鼻腔を刺激し、それらを美味しく平らげていく人の様を見てしまっては誰も食欲が湧き上がってくるのを止められなかった。

 

「……なぁ三人とも。金もらったんならよ、後で買い食いしねぇか?」

 

 互いに恥ずかしい思いをしながらもふと口の中が唾液でいっぱいになった大介がヤバいことを口走った。悪魔のささやきである。同じく口の中からよだれが出そうになっている龍太郎と香織は大介の腕を引くと、そのまま路地裏へと連れ込んでいく。

 

「いいワケねぇだろ馬鹿っ。俺らは金を預かってるんだぞ。勝手に使って香織の下着とか米を買う金が足りなかったらどうするんだよ」

 

「そうだよ。見てて美味しそうだって思ったけど、でも私達お金の管理を任された責任のある立場なんだよ? だからいくら美味しそうでも……美味しそうでも買ったらダメだってばっ」

 

「ほ~ん、そうか。お前達相変わらずいい子ちゃんだよなぁ~」

 

 二人は器用に小声で怒鳴るも大介は柳に風といった具合。特に堪えた様子もなく二人の説教を流すと、二人の肩に手を置き、いやらしい笑みを浮かべながら耳元でささやく。

 

「考えてみろよ二人とも。財布を預かってるのは俺らなんだ。つまり、俺らが仲良く秘密にしてればバレることなんてねぇんだよ……それによ、あんなウマそうなニオイのする食いもん見てて腹が減らなかったのか? 食べたいって思わなかったのか? どうだ、おい?」

 

「そ、それは、だな……」

 

「そ、そうだけど、そうだけど……うぅ……」

 

 的確に自分達の欲望を突いてくる言葉に口から流れるよだれと共に屈してしまいそうになる龍太郎と香織。どうにか抗おうと頭を働かせようとしても浮かんでくるのはここ最近の食事事情ばかり。燻製にした魔物の肉にユグドラシルから採った果実。後は解放者の住処で得た野菜類などしか食べてないのだ。

 

 ベヒモスと戦ったあの階層から降りていく時や真のオルクス大迷宮を攻略した当初よりは遥かに恵まれた食生活をしているのは間違いないのだが、それでも調味料は塩ぐらいしかないため味は単調。香草代わりに使ってる草もなくはないがほんの数種類。香辛料なんて久しくお目にかかれなかったこともあってか二人はもう食欲に陥落しそうになっていた。

 

「だ、大介……駄目っ。ふ、二人をかどかわしたら――」

 

 そこでようやく後をついてきたアレーティアも大介を説得にかかる。個人のワガママを下手に通すことが後々響くことも理解していたし、自分を助けてくれた彼等に対する罪悪感も未だ引きずっていたが故にアレーティアは止めようとした。心情的には大介の味方ではあるのだが、それはそれ、これはこれだ。大介にとっていい方に転がらないと確信していたからこそ止めようとした。

 

「おいおいアレーティア、つれねぇことを言うなよ……ここで色んなもん食ったら俺の血の味も良くなるかもしれねぇぞ? それにアレーティアの分だって用意するからよ。食いたくなんねぇか、こういうのもさ?」

 

「う、うぅ……そんなことをしたら大介が、大介の責任に……」

 

 ところが当の本人はほい来たとばかりに彼女の方を向き、逆に説き伏せようとしにかかってきた。良心の呵責と好きな人と一緒に食べるご飯。その二つを天秤にかけ、ちゃんと公明正大に判断を下そうとする。

 

「俺はよ、その……悪いことだってわかってるけど、お前と一緒の思い出作りてぇんだよ。ダメか?」

 

「……二人とも、たまには羽目を外すことも大事だと思う」

 

「「アレーティア(さん)!?」」

 

 結果、即陥落。実に役に立たん吸血鬼であった。ちょっと気恥ずかしそうにそう語る大介を前に吸血鬼の少女の良心は微塵も役に立たない。ガッツポーズをキメる憎いあん畜生の側に回ったアレーティアに龍太郎と香織は思わず愕然とするしかなかった。

 

「ストレスをためるのは良くない……証拠を残さなければきっと大丈夫。中野さんと斎藤さんにもお土産をもってけばきっと上手くいく」

 

「だな。あの二人だけ仲間外れにするっつーのもダメだよなぁ……な?」

 

「い、いや、けどよ……」

 

「だ、ダメだよぉ……お金を稼いできてくれた皆に悪いし……」

 

「コショウとかソースの効いたこ~い味付け、恋しくならねぇ? しばらく塩と数種類の香草だけの飯がまた続くかもしれねぇんだぞ?」

 

「たまには悪いことするのもアリだな!!」

 

「うん! ちょっとぐらいなら下着が安いのでも我慢するよ! 美味しいものを我慢するほうがよっぽど体に悪いもんね!!」

 

 かくして二人も折れてしまい、ヨダレをダラダラと垂れ流しながらそれに承諾してしまった。やっぱり食欲には勝てなかったのである。その後、話し合いをして『換金後に安いのを一品だけ購入』ということになったために大介はかなり渋ったものの、流石にこれ以上の出費は駄目だと三人に止められたことで仕方なく従うことに。

 

 ……なお、信治と良樹も抱き込みこそしたものの結局合流した後にバレてしまい、主犯の大介は他の面々から袋叩き、共犯の五人はアームロックをかけられて悲鳴を上げることになるということをまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 話し合いを終えた四人はメインストリートを歩いていき、一本の大剣が描かれた看板を発見する。かつてホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模はホルアドに比べて二回りほど小さい。それを確認すると重厚そうな扉を開き、龍太郎達は中へと踏み込んでいく。

 

「あ、結構きれいだね」

 

 香織がそうポツリと漏らした通り、中は清潔さが保たれていた。入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっている様子である。その飲食店のスペースに何人かの冒険者らしい者達が食事を取ったり雑談したりしている。アルコールの匂いが鋭くなった鼻に届いていないことから誰ひとり酒を注文していないのだろう。

 

「んー、ちょっと意外だな。確か前にハジメから借りた漫画だとこういうところにも酒は出てたりしたんだが……やっぱり面倒な客はいらねぇってことか?」

 

「……酒が入ると面倒な手合いはいくらでもいる。だからきっとそういう人を避けてると思います、坂上さん」

 

 龍太郎のこぼしたちょっとした疑問にアレーティアが答えると、それもそうかと三人は納得し、そのままギルドの中へと入っていく。すると当然見ない顔から冒険者達から視線を向けられた。

 

 最初こそ、見慣れない四人組ということでささやかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線が香織とアレーティアに向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増した。中には「ほぅ」と感心の声を上げる者や、ボーっと見惚れている者、恋人なのか女冒険者に殴られている者もいる。平手打ちでないところが冒険者らしいと皆が苦笑する。

 

 面倒ごとが起きないことを祈りつつカウンターへと向かうものの、誰もが理性的で観察するに留めているようであった。足止めされなくて幸いと受付へ――大変魅力的な……笑顔を浮かべたオバチャンに声をかける。

 

「おや、見ない顔だね。どこか別の街から来たのかい?」

 

「あ、はい。旅の途中でちょっとここに寄ったもんで……」

 

 横幅がアレーティア二人分はある妙齢の女性から問いかけられるも、今回の班のリーダーを務める龍太郎がそれに答える……こういうのは美人とか体つきのいいオッサンのやるもんじゃねぇんだろうか、と考えながら声をかけたからだろうか。横の香織から発せられる圧が中々に強い。

 

 ちなみに大介は『流石にロリの受付はいねーか』と内心気落ちしていたのだが、後ろに隠れてたアレーティアがいきなりグスグスと泣き出した。どうやら二人ともお見通しだったようである。その反応の仕方はそれぞれ別であったが。

 

 そんな龍太郎達の内心を知ってか知らずか、オバチャンはニコニコと人好きのする笑みで彼等を迎える。

 

「へぇー、そうかい。でもまぁ、欲張りだねアンタ達も。別嬪さん連れてるってのに、まだ足りなかったのかい? まぁでも良かったんじゃないかい? 美人の受付だったら連れの子にヒドい目に遭わされてただろうさ」

 

「「いや、そんなこと考えてねぇから」」

 

 そしてアッサリと自分達の心の中とあり得たやもしれない未来を言い当てられ、龍太郎と大介は息を合わせて否定するも、当のオバチャンはケラケラと笑うばかり。

 

「あはははは、女の勘を舐めちゃいけないよ? 男の単純な中身なんて簡単にわかっちまうんだからね。あんまり余所見ばっかして愛想尽かされないようにね?」

 

「そうだよりゅ……リュウくん。浮気なんてダメだからね」

 

「お、おう……」

 

「お、おねがい……わたしをすてないで。なんでも、なんでもするから……」

 

「いやいやいや!? す、捨てねぇって! だ、大丈夫だからな! 俺を信じろって!!」

 

 予め決めていた偽名で呼びながらジト目を向ける香織に思わずうなずくしか無かった龍太郎と、ぶるぷる震えながら懇願するアレーティアを前に必死になる大介を見てオバチャンは思わず苦笑する。

 

 「あらやだ、年取るとつい説教臭くなっちゃってねぇ、初対面なのに悪かったね」と、オバチャンは申し訳なさそうに謝った。からかいが好きでもしっかりと引き際を見極めている辺り、何とも憎めない性格をしているようだ。

 

 どうにか自分の愛する人をなだめる事に成功した龍太郎と大介は先程から向けられてる視線の先にある食事処を見ると、冒険者達が「あ~あいつもオバチャンに説教されたか~」みたいな表情で自分達を見ていた。どうやら、冒険者達が大人しいのはこのオバチャンが原因のようである。

 

「さて、じゃあ改めて、冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」

 

「あ、あぁ。素材の買い取りをお願いしたい」

 

 そして二人が落ち着いた辺りでオバチャンから要件を問われ、龍太郎はすぐに本来の目的である素材の買い取りを依頼する。

 

「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」

 

「え? あのー、買取にステータスプレートの提示が必要なんですか?」

 

 だがその時尋ねられたことにふと一同は疑問を浮かべる。すると「ああ」と()()()()()()()()のオバチャンがその理由を説明してくれた。

 

「そうかい。あんた達冒険者じゃなかったんだね。確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」

 

「あ、そうだったのか」

 

 そこからオバチャンが冒険者であることのメリットとその理由を伝えてくれた。

 

 生活に必要な魔石や回復薬を始めとした薬関係の素材は冒険者が取ってくるものがほとんどだ。町の外はいつ魔物に襲われるかわからない以上、素人が自分で採取しに行くことはほとんどない。危険に見合った特典がついてくるのは当然だった。それ故の優遇措置である。

 

「他にも、ギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするね。それで、あんた達はどうするんだい?」

 

「あーいや、俺ら気ままに旅してーからそういうのはいいわ。今回素材を持ってきたのも小遣い稼ぎの一つでよ」

 

 そう問いかけられた龍太郎達であったが、すぐさま大介が尤もらしい理由を挙げてステータスプレートの提示と冒険者登録を断った。自分達ではこうも上手くやれなかっただろうと“念話”で大介に感謝を伝えると、いいってことよと大介も少しだけ得意げな様子でそう返した。

 

「ほう、そうかい。だったらあんた達の旅費の足しになりそうなのを出してくれないかい? あたしは査定の資格も持ってるからね。この場ですぐに調べてあげるよ」

 

「あ、じゃあお願いします」

 

 そう伝えると龍太郎はすぐに背負っていたリュックをカウンターの上に置き、中からブルック近辺を根城にしている魔物の素材を取り出して並べていく。

 

「……へぇ、なるほど」

 

 いずれもあえて質がほどほどに良い状態に落としていたのだが、もしやそれがバレたか。四人とも心の中で焦りながらもただじっとオバチャンが査定を終えるのをじっと待つ。もしかするとあのヒュドラ相手に時間を稼いだ時よりも緊張してるかもしれないと錯覚しながらたたずんでいると、ようやく買い取り金額を提示してくれた。やはりここら近郊の魔物は弱いらしく、総額一万三千二百ルタにしかならなかったようだ。

 

「ま、これぐらいかねぇ。確かに小遣い稼ぎって程度だったけれど、いいのかい?」

 

「構いません。それで買い取りを頼みます」

 

 どうもこのままここにいたら恐ろしいことになりそうな気がする。そう直感した龍太郎は三人の同意を得ることなくそのまま買い取りを申請する。そうして計七枚のルタ通貨を受け取ろうとしたその時、オバチャンが小声でつぶやいた。

 

「さて、リュウタロウさん。ちょっといいかい?」

 

 ――その言葉に龍太郎は全身の毛穴が一気に開いたかのような心地となった。

 

 自分達は一度も本名を言ってはいない。せいぜい香織がうっかり言いそうになったぐらいだ。だからここまで正確に自分の名前を当ててくる事なんてあり得ない。そう思いながらも龍太郎は必死に息を整えながら目の前の女に返事をする。

 

「……どうした一体? 俺らはもうここに用はねぇぜ?」

 

「あぁいや、あんた達は見た感じブルックに来たことが一度も無いだろう? だからちょっとしたお節介さ。この街路の地図ぐらい書いてあげようと思ってね」

 

 ちょっとした趣味でこういうこともやってるのさ、と語りながら受付の女は筆を走らせる――『リュウタロウ、カオリ、ダイスケ、アレーティアの四名はこの店に行け。さもなくばギルド長に報告をする』と書きあがっていく地図の片隅にそんな文句を添えて。

 

「――さて、これで書き上がったよ。受け取りな」

 

「……あぁ。ありがとう」

 

 にこやかな笑みを一切崩すことなく書き終わった地図を折りたたみ、渡してきた目の前の女を前に息が上がりそうになりながらも龍太郎はそれをただ受け取る。ここは絶対下手に行動できない、と本気で感じ取り、動揺させないためにもまだ香織達に伝える訳にはいかないと思いながら三人の許へと向かっていく。

 

「ど、どうしたのりゅ、リュウくん? あ、汗すごいよ?」

 

「お、おい。どうしたんだよ? な、何かあったのか?」

 

「あ、あの……リュウさん。大丈夫ですか?」

 

 どうも上手く隠せてはいなかったらしく、三人から心配そうな声をかけられて自身の不甲斐なさを知ると同時に今この場で伝えるべきではないと龍太郎は確信する。すぐに三人に“念話”で『後で話がしたい』と伝え、不自然にならないよう気を付けながら龍太郎はギルドを後にしていく。

 

「……さて、あの店に行ってくれるといいんだけどね」

 

 心配そうに追いかける三人にも、受付のオバチャンの独り言にも気づくことがないまま。息が詰まるような感覚に苦しみながら、まるで夜の海で溺れるように。




原作でも強キャラだった人にはいくらでも強キャラムーブさせても構わない、というのが作者の持論だったりします(唐突な告白)

……だって原作でもキャサリンってこれぐらいやれると思いません?
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