あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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今回も拙作に目を通して下さる皆様に惜しみない感謝を。

おかげさまでUAも130944、しおりも351件、感想数も432件(2022/9/10 5:03現在)となりました。誠にありがとうございます。こうして皆様が目を通してくださることが作者の活力となります。本当にありがたいです。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価していただき誠にありがとうございます。こうして再度評価していただけたことでまた話を書き進める力をいただきました。本当にありがとうございます。

ではブルックの街のお話の後編となります。ということで本編をどうぞ。


幕間二十九 ブルックの街にて_異聞(後編)

「……そんな」

 

「……マジかよ」

 

「……やっぱり」

 

 ギルドを出た後、周囲の気配を探りながらすぐさま路地裏へと駆け込んだ龍太郎と香織達。そこで何があったかを“念話”で語れば香織と大介はとてつもないショックを受けて今にもくずおれそうになり、アレーティアも苦虫を嚙み潰したような顔でうつむいていた。

 

“皆が考えてた通りだったよ。それで、その、どうする?”

 

“どうする、って……こりゃ逃げるしかねぇんじゃねぇか?”

 

 やっぱりこうなったかと苦い表情を浮かべながら問いかけてくる龍太郎に、大介はここから即刻逃げることを提案する。このまま留まっていてもロクなことにはならないとわかっていたが故の判断だ。

 

“俺も同意見だ。正直ここにいてもロクなことになりそうにないしな”

 

「うん……」

 

 龍太郎もその言い分には賛成であり、このままここに留まっていたらこの街を脱出するのに相当手間がかかるだろうと踏んでいたからだ。香織も首を縦に振りながら口で答えてしまった辺り、一刻も早く逃げたいのだろう。後はアレーティアの意思を確認してから、と思ってうつむく彼女の方を三人が見やった。

 

“えっと、その、ここはあえて乗るべきだと思います”

 

 すると意を決した様子のアレーティアが反論してきたことに三人は思わず目をむいてしまう。真っ向から罠にかかりに行くと断言した彼女の真意が読めなかったからだ。

 

“理由を聞かせてくれ、アレーティアさん”

 

“んっ……あの反応から、多分ギルドの末端の人間にも私達の人相書きが出まわってる可能性が高いと思います”

 

 念のために尋ねてみれば返ってきた言葉に龍太郎はやはりと苦い顔つきになり、香織も思わず龍太郎に抱き着き、大介も天を仰いでため息を吐いた。この最悪の予想が当たっていると言っていい状況だったからだ。

 

“だから今逃げたら間違いなく私達の情報が色んな街で共有されます……でも、さっきの文言がちょっと気になって”

 

 続く言葉も心底気分が落ち込むようなものでやはり逃げ出すべきかと三人が考える中、アレーティアは視線を龍太郎の持っていた地図付きの脅迫状に一度向ける。

 

“コイツがどうかしたのか?”

 

“ただの脅迫状だよ、アレーティアさん。こんなのに乗る必要なんてないよ”

 

“だな。白崎の言う通りだ。アレーティア、ここはもう穴掘って逃げ――”

 

“駄目……今の私達なら逃げられる。けれど、どう考えてもこの文言がおかしい”

 

 それに気づいた龍太郎らは一度手渡された紙を広げて例の一文に目を通すも、何度見ても単なる脅しにしか見えないことを述べる大介と香織にアレーティアは反論する。

 

“本当に職務に忠実なギルドの職員ならこんなことをわざわざ書かない……きっと、何か考えがあるはず”

 

 その言葉に龍太郎達は思わずハッとした。アレーティアの言う通りだ。自分達を摘発するのなら世話を焼く形で地図でも書いて渡すだけでも良かったのだから。適当にいい店をあてがってそこに衛兵を派遣すればいいのだから。

 

 だというのにわざわざこんな文言をあえて付け加えているのである。むしろ不要な刺激を与えたとしか言えなかった。

 

“きっと、きっと何かあると思います。だから、その……”

 

“もういいぜアレーティア――龍太郎、その、行かねぇか?”

 

 力説するアレーティアの手を握り、大介も龍太郎に問いかける。自分の愛する人がこうして意見を述べてくれたのだ。ちゃんと筋が通ってるものなのだからそれに手を貸さない道理はないと動いた彼に、龍太郎と香織も首を縦に振って意を示す。

 

“わかった。逃げるだけならどうとでもなるしな。いいか、香織?”

 

“うん。オルクス大迷宮の奥まで行った私達なら余裕だからね。行こう、皆”

 

 香織の言葉に全員がうなずき、“念話”を切り上げると共に四人は指定された店に向かう。地図に従って通りを歩いていけば、武具や薬を取り扱った店や動きやすさを重視した服装が商品として陳列されている冒険者向けの店舗が多い区画へと足を踏み入れていた。

 

 指定された場所はその一角であり一体どういった店なのかと遠くから見やれば、ほんの一瞬だけ香織とアレーティアが興奮した様子を見せた。服屋である。それも女性ものを取り扱っているような店だ。

 

「……どうしてこんなところを指定したんだろうね」

 

「さぁな。相当腕の立つ奴が店番やってるとかそういうところじゃないか」

 

 こういう状況でさえなければと思いながら漏らす香織に、龍太郎も適当に返しながら彼女の手をそっと掴む。安心しろ、俺がいる。そう言葉にせずに伝えれば香織も一度こちらの方を向き、口元が柔らかくなる。

 

「――行こう。私達なら大丈夫だもの」

 

 そう力強く言葉を口にする少女と共に三人は指定された店へと向かう。今更恐れるものがあるものか、と店のドアを手にかけていく。世界が敵に回ったとしても、自分達は負けないと決意を新たにして。

 

「あら~ん、いらっしゃい♥可愛い子達ねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~、た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん♥」

 

 ……なお、もうその決意が砕けてしまいそうなヤバい存在が視界にいきなり入ってきたが。ヒッ、と仲良く短い悲鳴を漏らし、思わず四人は後ずさりしそうになった。

 

 端的に言えば化け物がいた。ハッキリ言ってそう述べて差し支えが無い。

 

 身長二メートル強、全身に筋肉という天然の鎧を纏い、劇画かと思うほど濃ゆい顔、禿頭の天辺にはチョコンと一房の長い髪が生えており三つ編みに結われて先端をピンクのリボンで纏めている。動く度に全身の筋肉がピクピクと動きギシミシと音を立て、両手を頬の隣で組み、くねくねと動いている。服装は……いや、言うべきではないだろう。少なくとも、ゴン太の腕と足、そして腹筋が丸見えの服装とだけ言っておこう。

 

 想像をはるかに超える名伏し難い何かを見てしまった龍太郎達は硬直していた。香織は既に腰砕けになりかかっていて、アレーティアはもう息を荒げている。男子~ズは奈落の魔物以上に思える化物の出現に覚悟を決めた目をし、出方をうかがっている。完全に自分達を超える化け物を想定した動きをとっていた。

 

「あらあらぁ~ん? どうしちゃったのかしらん? 可愛い子がそんな顔してちゃだめよぉ~ん。ほら、笑って笑って?」

 

 どうかしているのはお前の方だ、笑えないのはお前のせいだ! と盛大にツッコミたいところだったが、この場にいた四人は何とか堪える。人類最高レベルのポテンシャルを持つ龍太郎達だったが、この化物には勝てる気がしなかった。いろんな意味で。

 

 しかし、何というか物凄い笑顔で体をくねらせながら接近してくる化物に、つい堪えきれず大介はつぶやいてしまった。

 

「……なあコイツ、人間か?」

 

 その瞬間、化物が怒りの咆哮を上げた。

 

「だぁ~れが、伝説級の魔物すら裸足で逃げ出す、見ただけで正気度がゼロを通り越してマイナスに突入するような化物だゴラァァアア!!」

 

「うぉあぁ!?」

 

「ヒッ!?」

 

「ま、マジで化け物じゃねぇか!?」

 

「ぴぃっ……きゅぅ」

 

「いい度胸してんじゃないのよ! 漢女の尊厳を傷つけたらどうなるか――覚悟しろやぁぁあぁぁ!!」

 

 龍太郎が身構えながら後ずさり、香織はその場で即座にへたり込んだ。大介も滅茶苦茶及び腰になりながらも腰の剣の柄に手をかけつつ、気絶したアレーティアを片腕で抱く……なおアレーティアの下半身からアンモニアに近い変な匂いがしているがそこにはあえて誰も触れなかった。戦場で出来る唯一の優しさである。ちなみに香織も同じのがちょっと出ていたりする。

 

「おやおや、もうとっくに店の中にいるもんだと思ってたらまだ表にいたかい」

 

 そして聞き覚えのある声に三人は反応して振り向けば、あのギルドで受付をしていたオバチャンがそこにいた。即座に警戒を密にし、大介もアレーティアの頬を叩いて起こそうとすると、『嫌われたもんだねぇ』と苦笑しながらオバチャンは化け物の方へと無警戒に寄っていく。

 

「ま、大方クリスタベルの見た目で驚いたとかそんなところだろう。違うかい?」

 

「そうなのよぉ~キャサリン。まったくもう、失礼しちゃうわよね」

 

 凄まじい形相でこちらを見ていた化け物もコロッと表情を変え、キャサリンと呼んだオバチャンに愚痴をこぼす。案の定知己の類であったようで、道理でこの店を指定したのだと三人は納得がいった。こんなの相手だったら確かに普通なら適うはずがない、と。

 

「あ、キャサリン。あなたまだ仕事の時間でしょう? こんなところで油を売ってていいのかしらぁん?」

 

「これも『仕事』の範疇さ……ま、こんなところで立ち話もなんだろう? ほら、上がった上がった」

 

 そう言いながら手招きをするオバチャンに龍太郎達も唾を吞みながら店の中へと向かっていく。鬼が出るか蛇が出るか。既に化け物と底の知れない女が出ていることに警戒しながらも、目を覚ましたアレーティアを含めて四人の少年少女達は店の奥へと招かれていくのであった……。

 

 

 

 

 

「おやおや、どうしたんだい。折角クリスタベルが入れてくれたお茶を無駄にする気かい?」

 

 店主と思しき筋肉の塊から替えの下着とタオルを渡してもらい、すぐに履き替えた香織とアレーティアと共に龍太郎と大介は店の奥のリビングに通される。椅子に座らされしかも茶まで振るわれたものの、テーブル越しに話しかけるオバチャンに誰も何のリアクションも返しはしなかった。当然だ。自分達を看破した目の前の女が何を考えているかわかりはしないのだから。

 

「そうよん。折角あなた達のためにいい茶葉のものを選んだんだからぁ~。飲んでくれないと悲しいわん♥」

 

 そして近くにいた化け物と形容するしかない何者かに対してもだ。こうして改めて観察して彼女? の恐ろしさは見た目だけではないことを四人は改めて理解する。幾度もオルクス大迷宮で死線を潜り抜けて来たからこそわかる尋常でないほどの強さをだ。

 

 自分達ならば本気で抵抗すればともかく、多少の手練れではやはり簡単に鎮圧されることが見て取れる。それが体つきや動きの無駄の無さでわかるからだ。そんな相手にどう対処したものかと龍太郎らは考えつつ、ただじっと待って出方をうかがう。

 

「もし話しづらいっていうなら質問する形にした方がいいかい? 答えてくれるね?――リュウタロウさん、カオリさん、ダイスケさん、アレーティアさん」

 

 そう言いながらこちらに圧をかけてくる女傑――キャサリンを前に全員は身構える。そんな彼らを前に内心ため息を吐きたくなりながらキャサリンは質問を始めた。

 

「じゃあ最初の質問。どうしてわざとあんな状態で素材を納品しようとしたんだい? 皮の破け具合や魔石の壊れ具合からして素人がやるミスじゃないからねぇ」

 

 四人は思わず顔を歪める。向こうはこちらの考えなど既にあちらはお見通しであったようだ。

 

「……察しはついてるんじゃないですか?」

 

「まぁね。あんた達は一目見て何者かわかってたよ。手配書も回ってきてたからね。だからこういう方法を採ったのもわかるけれど、念のためにね」

 

「……あぁそうだよ。悪いか」

 

 龍太郎がそのことに質問で返すと、キャサリンはその問いに答えつつも自分達の口から言ってほしいと伝えてくる。それに苛立った大介は隠すことなくそれをぶつけながら言うものの、キャサリンは目をつぶりながらクリスタベルが出してくれたお茶を飲むだけであった。

 

「……クソッ」

 

 終始ペースを握られている感じがして大介は一層不機嫌さを隠さなくなったが、他の三人もそれを咎めるようなことはしない。自分達も多かれ少なかれ目の前の二人に敵意や不信感を抱いているのだ。大介の気持ちに共感できるからこそただじっとキャサリンを見つめるだけであった。

 

「そうかい。じゃあ次の質問といこうか。あんた達のことは仲間のことも含めて既にこのブルックのギルドにも伝わってる。他の街にもね。そのことについてどう思ってるんだい?」

 

 その問いかけに龍太郎らはやはりと思うものの、何も言おうとはしなかった。自分達の味方は友人達とメルドそしてアレーティア以外いないというのはわかっていたし、覚悟もしていた。だから目の前の相手に何を言われようとただ敵であるかどうかを確認する作業だけでしかないと龍太郎達は認識している。

 

“もうつき合う必要もねーな。行こうぜ”

 

“そうだね。檜山君の言う通りもう行こう……これ以上いたら我慢、出来そうにないから”

 

“わかった。じゃあアレーティアさん”

 

“待って。何かおかしい……目の前の女は何か探ってる気が――”

 

 故にそろそろここを出るべきかと龍太郎らが考え、その問いかけにどこかアレーティアが何か違和感を感じていた時にキャサリンとクリスタベルが言葉をかけてきた。

 

「世界を敵に回すことは簡単じゃない。けど――」

 

「何か守りたいものがあるんでしょ? あたしにはそう見えるわ」

 

 そう述べた二人に思わず四人は目を剝く。人のセリフをとるんじゃないよ、と小突くキャサリンにまぁまぁとなだめるクリスタベルを見ながら首を傾げていると、今度はいきなりキャサリンが頭を下げたのである。

 

「すまなかったね、試すような真似なんかして。けれども確かめたかったんだよ。あんた達の覚悟ってもんを、そして本当に反逆者なのかどうかをね」

 

 その言葉に龍太郎らは何とも言えない顔になる。自分達を確かめようとしているのは最初からわかっていたのだが、まさかこんなあっさりと自分達の無実を信じてくれるとは思わなかったからだ。

 

「……本当ですか?」

 

 とはいえあまりに出来過ぎた展開故に全員その言葉を全面的に信じられはしなかった。特に香織は幼少から恵里と親しく接してきており、ここトータスに来て彼女達の不幸に誰よりも憤っていたからこそ信用出来ない。

 

 無論そういった思いは龍太郎と大介も大なり小なり同じ思いを抱えていたため、言葉には出さずとも不信感を露わにしている。唯一アレーティアだけが元王族として、やらかした人間として冷静に見極めようとしているぐらいである。

 

「本当さ。ま、高々一回謝ったぐらいであんた達の不信感をぬぐい去るなんて出来ないのはわかってるよ。でも、謝りすらしなかったらその先に進めないだろう?」

 

“……三人とも。私はこの人と話をしてもいいと思ってます。どうしますか?”

 

 そう答えるキャサリンに龍太郎、香織、大介の三人は思わず毒気を抜かれてしまう。有無を言わさず決めてかかってきた教会の人間と違って、目の前の人物はちゃんと話をしようとしているように見えたからだ。アレーティアも彼女なら話をする価値はあると踏み、すぐに“念話”を飛ばして確認を取った。

 

“そう、だな。とりあえずアレーティアに任せるぜ。そういうのは得意だろ?”

 

“お願いします。多分アレーティアさんがやってくれた方が一番こじれなくて済みそうだ”

 

“アレーティアさん、いいですか? 私だと、きっと上手くやれないと思うから……”

 

“んっ。わかりました”

 

 そして対話を全面的に任されたアレーティアは大介の手を握ると、すぐに二人に向き合う。そしてうなずいて話の続きを促せば、待っていてくれたキャサリンとクリスタベルも微笑みを浮かべた。

 

「……そっちは話がついたみたいだね? じゃあ話を続けさせてもらうとするよ」

 

「んっ。お願いします」

 

「ありがとうね……さて、あたしも長いことギルドの職員として人を見てきたからね。これでも見る目はあるつもりさ。あんた達がどうしようもない悪党かどうかの違いぐらいはわかってるつもりだよ」

 

「王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長、ギルド運営に関する教育係もやってたのよん。これで見る目が無かったら大事だわん♥」

 

 余計なこと言うんじゃないよとキャサリンからバシバシと叩かれるクリスタベルを横に、龍太郎達は今度こそ真剣にキャサリンの話に耳を傾ける。もし今の話が本当なら自分達が反逆者でないと述べてくれたことも信じられる気がしたからだ。アレーティアは彼女の目や顔の筋肉の動きからそれが真であると判断しており、きっと大丈夫だと考えて話の続きを待った。

 

「とはいえ、一目見ただけで全てお見通しと言えるほどあたしは思い上がっちゃあいない。だからこうして話の席を設けてもらおうと思っただけだよ。本当に救いのない奴だったらあの場で即座にとんずらこいてただろうしね。ま、逃げないでくれたおかげで穏当に済んだよ」

 

“アレーティアマジでサンキューな!! マジでよくやった!!”

 

“本気で助かりましたアレーティアさん! 俺らの恩人です!!”

 

“ありがとう! 本当にありがとうアレーティアさん!! おかげで恵里ちゃん達がひどい目に遭わなくて済んだよ!!”

 

(え、えっと、えっと……どうしよう。わ、私なんかがそんな褒められても……)

 

 暗に『あのまま逃げるようだったら容赦なんてしなかった』と述べたのを察し、龍太郎らは思わず顔を青ざめさせた。あそこでアレーティアが止めてくれなかったらそのままお尋ね者コース直行だったのである。

 

 三人は“念話”でひたすらアレーティアに感謝しまくり、アレーティアもいきなり持ち上げられて内心かなりオロオロしながらも、どうにかそれが表情に出さないよう努めつつ、キャサリンらが話をしてくれるのをとにかく心待ちにしていた。

 

「……フフッ。あんた達も中々忙しないねぇ。どんなタネかは知らないけどね」

 

「そうねぇん。目は動かしてたみたいだけれど、アイコンタクトの割にはちょっと長いこと間が空いてたわぁん♥」

 

 しかも“念話”をこっそりやってたこともバレてたようだ。そのことに四人は思いっきり赤面すると、キャサリンは真剣な様子でこちらに視線を向けてきた。

 

「けれど、こうしてあんた達に不快な思いをさせたのは事実だからね――ギルドの職員として、今回の非礼をお詫びします。リュウタロウさん、カオリさん、ダイスケさん、アレーティアさん」

 

「出来るならキャサリンを許してあげてくれないかしら。私もこうして頭を下げるから」

 

 そして椅子から立ち上がり、そのまま深々と頭を下げたのだ。脇にいたクリスタベルも同様に頭を下げたのを見て龍太郎、香織、大介は目頭が熱くなるのを感じた――メルド以外にも自分達の無実を信じてくれる人がいてくれたことがここまで嬉しいことなのかと思ったからだ。

 

「や、やだ……涙、止まんないよ……」

 

「あー、すんません。ちょっと、目が……駄目だ、泣けてくる」

 

「クソッ、なんでだろうな……嫌われたって別に良かった、ってのに……」

 

 いわれのない罪で友人達が悪く言われ続けていたことが辛くて、けれどもこの二人はそれが間違っていたと言ってくれて、頭を下げてくれた。そのことがただ純粋に嬉しい。この世界の『他人』に期待することが出来なくなりかけていた少年少女達の心の傷を癒す魔法が今、かかった。

 

「……良かった。大介、坂上さん、白崎さん」

 

「こんな子を疑うなんて、悪いことしたわねん」

 

「本当だよ……さて、子供を泣かせたんだし、大人は大人らしくなだめてあげないとね。手伝ってくれるね?」

 

 嬉し涙を流す三人を見てアレーティアももらい泣きし、キャサリンとクリスタベルも四人のそばへと行って頭を撫でたり肩に手を置いてそっと寄り添う。かくしてブルックの街は日が暮れていくのであった――。

 

 

 

 

 

「――何から何までありがとうございました。キャサリンさん。クリスタベル、さんも」

 

「構わないよ。迷惑料として受け取ってくれればオバチャンも助かるからね」

 

「そうそう♥ あなた達はずーっと辛い思いをしてたんだから。ちょっとくらい大人に見栄を張らせてちょうだい♥」

 

 深々と頭を下げた四人に対し、キャサリンは微笑みを返し、クリスタベルもバチコンッとすさまじい音を立ててウィンクしながら笑顔を浮かべていた。

 

 あの後、迷惑をかけたお詫びとしてちょっとしたお願いなら何でも聞くと言われ、そこで香織とアレーティアは今着ている下着に加え、この街で買おうと思っていたブラなどの代金を少しオマケしてほしいと頼み込んだ。

 

 ところが、キャサリンは『下着ぐらい何枚かあたしが代わりに払っといてやるから持ってきな。上のサイズ、合ってないだろう?』と言っておごってくれたのである。クリスタベルも『履き心地はどう? もし良かったら他のも見繕ってってほしいわん♥』と言ってくれたことで香織とアレーティアが様々な下着を手に取り、ファッションショーが始まったのである。

 

 その際龍太郎と大介は互いのパートナーのあられもない姿を恥ずかしがりながらもガン見していた。ウキウキしながらもちょっと恥じらいながら下着姿を見せてくれる二人に終始興奮気味であったのは言うまでもない。

 

「下着だけじゃなくて愚痴まで聞いてくれて……本当にありがとうございます」

 

「いいんだよ、気にしなくって。あんなことがあっちゃあ誰かを信じるのが怖くなるのも仕方ないさ」

 

 その後温くなったお茶を捨て、クリスタベルが入れ直したお茶を飲みながら六人で色々と語り合ったりもした。

 

 当初はこれ以上世話になる訳にはいかないと四人は辞退しようとしてたものの、そこはオバチャンと漢女のパワー。あの手この手で溜まっていた鬱憤を突つかれたり、共感を煽られたせいでアッサリと吐いてしまう。その時も二人が相づちを打ってくれたことで感情が昂り、遂にはまた泣きながら自分達の不運や不幸を嘆いてスッキリさせてもらったのだ。

 

 当初は敵意を向けていたこともあって、四人ともキャサリンとクリスタベルには頭が上がらない思いであった。

 

「そうよん。辛くなる前にちゃんと思いを吐き出す。そうしないといけないわよ。ね?」

 

「……はぃ」

 

 なお、アレーティアも二人の手練手管でやらかしを白状させられており、クリスタベルの問いかけに心底赤面しながら大介の後ろに隠れてしまう。クリスタベルなりのお節介なのだろうということはわかっていたものの、アレーティアにとっては忌まわしい失敗であったことから、大介が代わりにクリスタベルをにらんでおいた……やっぱりあの見た目はまだ馴れてないことからちょっと引け腰ではあったが。

 

「もし良かったらあんた達の仲間にもこう言っといておくれ――世界が敵に回ったとしてもあんた達の味方をする人間は絶対にいる、ってね」

 

「ええ。何かあったらあたしとキャサリンを頼りなさい♥ やれる範囲でだけど力になってあげるわぁん♥」

 

 そう自信満々に伝えてくれるキャサリンらを見てまた四人は胸が温かくなる。たった二人、けれどもとても心強く頼れる人がいる。そう思えるだけで勇気が湧いてくるから。

 

「ありがとうございます。世話になりました」

 

「えっと、もし今度来ることが出来たらここに寄っていってもいいですか? 恵里ちゃんや鈴ちゃん、雫ちゃん達の下着や服も買いたいので」

 

「あー、そのー……ありがとう、ございます。この世界も捨てたもんじゃねぇって思えたよ」

 

「ん……キャサリン、クリスタベル。あなた達に感謝します。この御恩は決して忘れません」

 

 そう言うなり四人は再度頭を下げ、クリスタベルの店を後にしていく。間もなくして四人の気配が消えると同時にクリスタベルは横にいたキャサリンに声をかける。

 

「ホントに良い子達だったわねん♥ 礼儀もしっかりしてて、迷惑かけたあたし達にまで頭下げちゃって――きっと素敵なご両親の下で育ったのよ」

 

「はは、違いないね。まぁあの大介、って子はちょっと怪しかったけどね。ま、あれぐらいなら可愛げの範疇だろうさ」

 

 そう言って互いに笑い合うも、すぐに表情は真剣なものへと変わる。

 

「……どうしてこんなことになったのかしら」

 

「話を聞く限りじゃあ、どうも嘘には思えない。となれば――」

 

 二人の脳裏に浮かぶのは聖教教会のトップである教皇或いは上層部の暴走の可能性であった。そうでなければこんな事態など起きようがない、と。

 

「ねぇキャサリン、確か神の使徒のグループって……」

 

「永山重吾、野村健太郎、辻綾子、吉野真央、相川昇、仁村明人、玉井淳史の七名さ。けれど、あの子達もそうだったと言っていた。つまり――」

 

 あの四人を含めたグループをどうしても闇に葬る必要があった。そういうことである。今日ここに来た四人のグループは先に挙げた神の使徒であり“勇者永山”のグループと対立していたと聞いた。それ自体は元からあったと述べていたものの、『ある理由』がきっかけでその溝が修復不可能なものになったとも言っていた。

 

「香織ちゃんの話じゃ、彼女達のグループの中心になっている恵里ちゃんって子を排除しようとしていた、って言ってたわねん。そんなの、反発しない方がおかしいわ」

 

 その理由が“中村恵里”という香織らのグループの中核となった少女を恋人共々殺害しようとしたことだ。しかも教会が主導してやってたと彼らは述べている。キャサリンはギルドの職員としての経験と勘、クリスタベルは元金ランクの冒険者として積んだ経験からそれが嘘でないことも見抜いている。それ故にあまりに不可解で、恐ろしいとも。

 

「本当にその通りさ……どうして仲違いなんか仕組んだのやら」

 

「……ねぇ、キャサリン。もう上は既に――」

 

「滅多なことは言うもんじゃないよ、クリスタベル。どこで誰が聞いてるかわかりゃしないからね」

 

 ――魔人族の息がかかってしまっている、或いは魔人族に降伏しようと算段を立てている。そうクリスタベルが言おうとした時、キャサリンは即座に制止してきた。

 

 自分の失敗に思わずハッとして言葉を吞み込んだクリスタベルであったが、横のキャサリンも苦々しい表情を浮かべている。どうやら考えていることは同じであったようだ。

 

「……この世界はどうなっちまうのかねぇ」

 

 店の窓から沈みゆく太陽を見ながらキャサリンはそうつぶやく。もう既に(かげ)り始めているのやもしれない人族の未来を憂いながら――。




ちなみに当初はうっかりキャサリンが踏み込み過ぎて香織がキレ散らかすパターンだったり。それだとしこりが残ってしまうので、今回のような形になりました。

次回は再度恵里達の視点に戻り、例の火山へと向かうお話です。
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