あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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今回もまた拙作を読んで下さる方に盛大な感謝を。
おかげさまでUAも131944、お気に入り件数も791件、しおりも353件、感想数も437件(2022/9/16 9:22現在)となりました。誠にありがとうございます。こうして色々な数値が伸びるのはありがたい限りです。

それとAitoyukiさん、Cranさん、拙作を評価及び再評価していただき感謝いたします。こうして評価をいただけると身が引き締まる思いです。重ね重ね感謝いたします。

今回の話は少し長め(約11500字)ですのでそれに注意してお読みください。では本編をどうぞ。


五十五話 熱砂の先に待つもの

【グリューエン大火山】

 

 それは、アンカジ公国より北方に進んだ先、約百キロメートルの位置に存在している。見た目は、直径約五キロメートル、標高三千メートル程の巨石だ。普通の成層火山のような円錐状の山ではなく、いわゆる溶岩円頂丘のように平べったい形をしており、山というより巨大な丘と表現するほうが相応しい。ただ、その標高と規模が並外れているのだが。

 

 この【グリューエン大火山】は、七大迷宮の一つとして周知されているが、【オルクス大迷宮】のように、冒険者が頻繁に訪れるということはない。それは、内部の危険性と厄介さ、そして【オルクス大迷宮】の魔物のように魔石回収のうまみが少ないから……というのもあるが、一番の理由は、まず入口にたどり着ける者が少ないからである。

 

「あれが、グリューエン大火山……」

 

「マジでスゲぇな……」

 

 メルドから原因を聞いてはいたものの、こうして窓越しに見てみれば誰もがそれに圧倒される。

 

「ラピ〇タだね……」

 

「〇ピュタだよね……」

 

「……やっぱりラピュ○っぽいですね。こうして見たら余計に」

 

「聞きしに勝る凄まじさだな。ただ、その……前にここのことを言った時もそうだが、一体どんな場所なんだ? いくらお前達の世界の物語の話といえど信じられんぞ。巨大な嵐に包まれた、空に浮かぶ巨大な岩の国だなんて」

 

 思わず日本を代表する名作アニメのワンシーンを思い出し呟いた恵里達に、運転していたメルドの疑問に満ちた顔が向けられる。まぁ確かに、と地球出身の皆は肩を竦めつつ、魔力駆動四輪の車内から前方の巨大な渦巻く砂嵐を見つめた。

 

 そう、【グリューエン大火山】は、かの天空の城を包み込む巨大積乱雲のように、巨大な渦巻く砂嵐に包まれているのだ。その規模は、【グリューエン大火山】をすっぽりと覆って完全に姿を隠すほどで、砂嵐の竜巻というより流動する壁と行ったほうがしっくりくる。

 

 しかも、この砂嵐の中にはサンドワームや他の魔物も多数潜んでおり、視界すら確保が難しい中で容赦なく奇襲を仕掛けてくるというのだ。並みの実力では、【グリューエン大火山】を包む砂嵐すら突破できないというのも頷ける話である。

 

「こんなとこ歩きでとか絶対ぇ行きたくねぇ」

 

「だよなぁ。よく昔の人はこんなとこ踏破出来たよ……」

 

 窓から巨大砂嵐を眺めていた礼一と浩介は今回もバスの存在を拝み倒している。無理もない。あんなところにロクな防御策も無しに突っ込めばどうなるかは子供でも容易に想像出来るからだ。

 

「はいはい。じゃあ二人とも、ハジメくんの存在をしっかり敬ってね」

 

「恵里、そういうこと言わないの。めっ」

 

 そんな愛する人を誇らし気に思いつつ、その当人から叱られてしょんぼりする恵里を他所にバスは進む。設定された期日が期日なだけにあまり時間を割けないからだ。

 

 尤も、叶うことならばすぐにでも攻略を終えたいところではあるものの、それでもある程度大迷宮の構造を探るだけでも十分な成果を得られる。攻略し終えるにはどう考えたって無理な時間なのだから、後に皆で攻略する際の手助けになればそれでいいのである。

 

「とりあえず鈴が“聖絶”を張っておくから大丈夫だと思うけど、揺れには注意してね」

 

「ひとまずシートベルトがあるから投げ出されることは無いと思うけど、念のため座席の近くに取り付けた手すりも掴んでてね……よし。メルドさん、お願いします!」

 

「あぁ! 全員しっかり掴まれよ、砂嵐の中に突っ込む!!」

 

 鈴とハジメがアナウンスしたのを確認すると、メルドは更に魔力をバスに流して巨大砂嵐へと突撃していった。

 

 砂嵐の内部は、まさしく赤銅一色に塗りつぶされた閉じた世界だった。まるで深い靄がかかったかのように、ほとんど先が見えない。むしろ物理的な影響力がある分、霧より厄介かもしれない。ここを魔法なり、体を覆う布なりで魔物を警戒しながら突破していくのは至難の業だろうと誰もが思った。

 

 太陽の光もほとんど届かない薄暗い中を、緑光石のヘッドライトが切り裂いていく。鈴がドーム状に“聖絶”を張っているため岩などの障害物にぶつかったところで問題はない。無論、鈴が“聖絶”の維持に費やす魔力こそ少なくはないものの、現在バスを時速八十キロメートルくらいで走らせていることもあってかそう長くはならないだろうと皆で結論づけている。事前の情報から三分もあれば突破できるはずであった。

 

「――来るぞ! 全員衝撃に備えろ!!」

 

 と、その時、全員の“気配感知”に反応があった。真下からだ。

 

 恵里はバスを更に加速させると、直下から大口を開けて三体のサンドワームが飛び出してきた。すぐにバスを蛇行させてその奇襲を回避するとそのまま遁走に入る。徒歩程度ならいざ知らず、バスの速度ならいちいち砂嵐の中で戦うよりも、さっさと範囲を抜けてしまった方がいいからだ。

 

 サンドワーム達を無視して爆走するバスを、更に左右から二体のサンドワームが襲いかかった。タイミング的に真横からの体当たりを受けそうである。“聖絶”を張ってるし、車体の頑強さを考えればたかだか体当たりを食らったところで問題は無いかもしれないが、横転したりそのままくわえられて地面に引きずりこまれる可能性はある。

 

「迎撃を頼めるか! ここは早く突っ切った方が良さそうだからな!!」

 

「わかりました! ここは俺らに任せてください、メルドさん!! 正直、うっとうしいって思ってたんだ!」

 

「だな! そろそろ俺も活躍の一つでもしたいところだったんだよ!!」

 

「ここはボクも手伝うよ!」

 

 なので、“気配感知”で奇襲を掴んでいたメルドは全員に指示を出し、浩介と礼一、そして恵里がそれを承諾する。

 

「恵里、浩介君と礼一君もお願い!!」

 

「最悪鈴も加勢するから!! 三人ともお願い!」

 

「運転は俺に任せておけ! お前達は迎撃だけに集中するんだ!!」

 

 頼れる弟子達の言葉を聞き、メルドは速度を更に上げながらバスを直進させる。直後、大質量のミミズが、赤銅色の世界から飛び出してくる。

 

「二人とも風魔法を使うよ! 砂嵐の勢いを利用しない手は無いからね!! カウント、三、二、一!」

 

「「「風刃!」」」

 

 しかし、左右からの挟撃を狙ったサンドワームの襲撃はバスに触れることすら叶わなかった。

 

 カウントと左から来るサンドワームを担当した恵里がその魔法を詠唱すれば、車外に作り出された風の刃が瞬時に射出されて宙を舞う砂がその軌跡を描く。そして、眼前まで飛びかかっていたサンドワームを横一文字に切断した。上下に分かれることこそ無かったものの、巨大なミミズは血肉を撒き散らしてそのまま倒れこむ。

 

 一方、右側を担当した浩介と礼一は二人がかりであったためかサンドワームを両断することに成功し、見事な輪切りを披露していた。

 

「よし! 他にも来るみたいだから皆注意して!」

 

「おうよ!! どんな敵も俺らが倒してやるからな!!」

 

 先程放った“風刃”は風系の攻撃魔法では初級に分類されるものだが、先程放たれたものは中級レベルの威力はあった。先程恵里が言った通り、外で激しく吹き荒れている風を利用したからである。

 

 単に、魔力に物を言わせて強力な魔法を放つだけでなく、その場の状況や環境も利用して最適な魔法を選択する。言っていることは簡単だが実践するのは難しい。偶然ではあったものの、こんなことを恵里が出来たのも前世? 含む経験とオルクス大迷宮の賜物と言えるかもしれない。

 

「迎撃は任せておいてくれ!!――っと、背後からもか!!」

 

「いや、お前達は力を温存しておけ! この程度なら、逃げ切れる!!」

 

 背後から先程の三体が追随してきており、中々の速度でこちらを追ってきている。だがそれも“聖絶”を張ったことである程度無茶が出来るこのバスには関係ない。蛇行もせずに進路上の岩を砕いて進めることで速度をより上げられる――追跡している相手を振り切れる程に。

 

「思ったよりは楽勝――! おい皆!!」

 

 サンドワームを容易に抜き去り、道中現れる赤銅色の巨大蜘蛛やアリのような魔物も難なく撃退していた恵里達であったが、突然目の前から幾筋もの極光が迫って来た。あのヒュドラが放つ背筋が粟立つような死の光が。

 

「全員、ショックに備えろ!!」

 

「鈴、“聖絶”を!!」

 

「今やってる!!」

 

 メルドが歯噛みしながらハンドルを切り、ハジメの言葉よりも先に鈴はドーム状に展開していた“聖絶”の内側に幾重もの光の壁を即時に張って、滅びへと抗おうと必死になる。

 

「鈴、どれだけ保つ!?」

 

「ぐぅっ……あ、あと十秒ぐらいは保たせてみせる。けど、それ以上は……っ!!」

 

 砂嵐を抜ける直前に来たこともあって何とか時間稼ぎをするのが精いっぱい。もっと十分に時間があれば、と思いつつも鈴は必死に先延ばしを続ける。

 

「メルドさん!!」

 

「わかっている!! 砂嵐を出ると同時に閃光手榴弾を使う! 総員、対閃光防御!!」

 

 ハジメが呼びかけると同時にメルドはすぐさま号令をかけ、全員がハジメから受け取ったサングラスをかける。そして砂嵐を抜けるのとほぼ同時にメルドはバスのギミックを起動させた。車体後部からガコン! と音が響いたかと思うと、パカリと一部が開き、そこからラグビーボール大の黒く丸い物体が転がっていく。

 

『クルゥアァアアァァアァン!?』

 

「――今の声!」

 

「どうやら効く相手ではあったみたいだな!!」

 

 遅れて数秒。向けられた極光に負けるとも劣らない凄まじい光がグリューエン大火山を照らし、下手人達の叫びがこだました。

 

「あれって……」

 

「ドラゴン、だよな……」

 

 そう。極光が消えると同時に恵里達の視界にはエアーズロックを何倍にも巨大化させたような岩山と、自分達を襲ってきたであろう悶え苦しむ二種類の竜が見えた。灰色の竜が九匹とそれらより遥かに大きい一匹の白色の竜だ。

 

「この強さ……オルクス大迷宮の奥底にいた魔物のことも考えると、まさか魔人族の使役した魔物か!?」

 

 そう言いながらメルドは歯噛みする。もし地上にあんなブレスを放てるドラゴンが何匹も闊歩しているなら人族も魔人族も今頃等しくその脅威に怯えているはず。

 

 だがそんな話は国の要職に就いていた時分には聞いたことがなかったし、魔人族との戦争の情勢の変化やオルクス大迷宮の最奥にいたヒュドラも同様に極光を放ったことを考えてメルドはそう結論を下す。道理で戦況がひっくり返されてしまうはずだと悔しさを強くにじませながら。

 

「皆、とっととバスを降りて戦うよ! バスの兵装を使うよりも直接戦った方が早いだろうし! それに帰りの足を壊されたら大変だからね!!」

 

「恵里の言う通りだ!――皆、このアーティファクトなら火山の熱気にも負けないと思うから使って!!」

 

 運転に集中していたメルドよりも先に耳栓を取り出しながら臨戦態勢に入った恵里の言葉に全員がうなずく。するとすぐさまハジメは宝物庫から強力な冷房のアーティファクトを取り出し、それを全員に投げ渡す。

 

「メルドさん、これからバスをしまうので戦闘態勢に!!」

 

「既にやっている! 後は頼んだぞ、ハジメ!!」

 

「はいっ!――じゃあ皆、行こう!!」

 

 皆がそれを受け取って身に着けるのを確認すると、ハジメはメルドに声をかける。そして遅れて一拍、バスを宝物庫に入れると同時に全員の“魔力感知”が幾つものおびただしい魔力の塊を感じ取った。既に復帰していた竜が自分達に再度狙いをつけていたようだ。

 

「各自散開!! 連携して一匹ずつ倒せ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

“倒せ、ってことでいいんでしょ? じゃあ了解! ボクはデカブツの相手をするよ!!”

 

“も、もう! 恵里ってば!!”

 

 耳栓を付けた恵里以外の全員がメルドの指示を聞き取り、恵里も“念話”で全員に自分の意思を伝えると同時に白竜へと向かっていく。

 

「“堕識”――チッ、かかりが浅い!!」

 

 そして仲間の中でいの一番に仕掛けたのも恵里であった。

 

 “堕識”によって発射寸前であった竜のブレスを妨害し、あまつさえ暴発を狙っていたのだが、目論見は外れてしまう。奈落の魔物相手でも大抵十秒単位で時間を稼げるはずなのに灰竜は数秒、白竜はほんのわずかな間意識を失った後で復帰したからだ。

 

“ありがとう恵里! これだけ時間を稼げたなら――”

 

「“縛光鎖”!!」

 

「「「“縛地陣”!!」」」

 

 だがそれは決して無駄にならなかった。恵里が作ったほんのわずかな隙を利用し、鈴達が捕縛魔法を仕掛けたからである。光の鎖は白竜の、岩の鎖は灰竜達の口元へと飛んでいき、今にもブレスを叩き込まんと開いていた口を強引に閉じることに成功したのである。

 

“ナイス鈴っ!! それなら――”

 

「“緋槍”!」

 

“ありがとう皆! ならこれで――”

 

 恵里とハジメは皆に感謝を示しつつ、今が好機とばかりに仕掛ける。恵里は多重展開した“緋槍”を白竜に、ハジメは宝物庫から取り出したメツェライを片手で振り回し、もう片方の手で白竜に狙いをつけていたシュラーゲンの引き金を引く。

 

“よし、なら鈴も!”

 

「“聖絶・桜花”!!」

 

“一気に畳み掛けるぞ! 後れをとるな!!”

 

“了解!”

 

“わかったぜメルドさん。ここ最近俺も暴れたかったしなぁ!!”

 

 そして鈴達も二人に続いてそれぞれが攻撃に移る。メルド、浩介、礼一の三人は空中を駆け抜け、鈴も足場の悪い砂の大地から空中へと向かい、光の花弁を舞い散らせながら全員を援護する。

 

『グルゥアァア!?』

 

「まず一つ!」

 

「んでもって俺も!」

 

「「「俺()も、だ!!」」」

 

 ハジメがガトリングレールガンの弾をバラ撒いたことで死にかけとなった灰竜を一匹ずつメルド達は仕留めていく。万全の状態で九匹もの竜を相手取るのは難しかったかもしれないが、ハジメの援護のおかげでいずれも翼膜や腹、胸などに穴が開いて重体となっている。ならばオルクス大迷宮を突破した歴戦の猛者である三人、浩介の分身を含めれば五人の相手ではなかった。

 

“クッ! 鈴の拘束を強引に破って!!”

 

“やられた以上はしょうがないよ! 僕達で戦おう、恵里! 鈴も!”

 

“うん! 待ってて二人とも!!”

 

 しかし白竜は拘束に一度驚きこそしたものの、すぐに戒めを破壊し、ハジメが放った死の雨と光も上昇することでかわして再度極光を撃とうとする。

 

「“聖絶”!!――鈴を、なめないで!」

 

 だがその極光も万全の体勢で臨むことの出来た鈴の“聖絶”によってアッサリと防がれ、その間に恵里ら三人は“念話”で連携を取りながら白竜を囲っていく。

 

“恵里とハジメくんは誘導をお願い!”

 

“わかった! ハジメくん、ドンナーとシュラークで戦って!!”

 

“もちろん! 鈴が“光散華”を撃てるように立ち回ろう、恵里!”

 

 恵里に言われるよりも先にハジメはメツェライとシュラーゲンを宝物庫にしまい、ドンナーとシュラークを構えて弾丸をバラ撒いていく。無論恵里も得意な炎属性の“緋槍”を何本も並べて動きを制限し、鈴も自身の準備を進めつつも二人を“聖絶・桜花”で援護していく。

 

“三人とも、もうすぐ俺達の方も終わるぞ!”

 

“ちょっと待っててくれ! すぐ行く!!”

 

“わかりました! メルドさん達は鈴が大技を使ってまだ無事だった場合に対処をお願いします!”

 

 メルド達の方も残り二匹を対処するだけとなり、恵里達の方へ行くべきかと話を持ちかけるものの、ハジメがさはそれを制した。今のままでも十分白竜を追い詰められているからだ。そのため後詰めをハジメがお願いしつつ、恵里と鈴と共に最後の一手を仕上げようと動く。

 

「“落識”! それと“緋槍”!」

 

 数秒前までの記憶をほんの一瞬だけ封じ、その上で逃れられないよう紅蓮の槍を幾重も並べて走らせる。自身の魔法の一撃自体はそこまで効いてはいないものの、白竜の体表はただれていることを考えれば火傷による痛みは感じているはずである。実際のダメージはハジメのドンナー・シュラークの一撃と、この後鈴が白竜の周囲にバラ撒いた無数の“聖絶”の欠片を一斉起爆でどうとでもなる。

 

(結構上手くいってる……逆転の目もほぼ無い。だったら!)

 

 そう考えていた恵里であったが、ふとそこで彼女の頭にある悪企みが浮かぶ。このまま倒すだけじゃ後は美味しく食べて終わりにしかならない――だったら()()()()しても問題なんてないよね、と考えてニタァと嗤った。

 

“ハジメくん、鈴! ちょっと作戦変更!! これ生け捕りにするよ!! 足に使えそうだからね!”

 

“えぇっ!?……ったくもう!! しょうがないなぁ!”

 

“あ、そうする?……はいはい。後で手伝ってあげるから、ちゃんと他の皆にも説明してね!”

 

 すぐにハジメと鈴に“念話”でそれを伝えれば、驚いたり呆れこそしたもののすぐに二人は乗ってくれた。理解のある二人に感激しながら恵里は連携して追い詰める。

 

「“堕識”! からの“縛地陣”!!」

 

 一秒にも満たない間ではあったが確かに相手の意識を奪った恵里は、地面から伸びた岩の鎖で白竜を砂の大地へと縫い留めようとする。

 

「――グルゥアァアァァアァ!!!」

 

「壊させないよ!――“錬成”!!」

 

 白竜は暴れもがいて鎖を壊そうとするが、それはさせまいとハジメが“錬成”を発動する。たとえ魔法で形作られたとはいえど岩は岩。本物ほどではなくとも『鉱物を自在に変形させる』“錬成”は通る――つまり、砕けないようにガチガチに固めることぐらい訳ないのだ。

 

「もう使うかわからないけどオリジナルの、えーっと――“聖絶・腕”! それと“縛光鎖”!!」

 

 そして鈴は飛散させていた無数の障壁の欠片を白竜を包むように結び、一つの光の塊にして身動きを封じる。そして光の鎖も地面から伸ばし、白竜を地面に思いっきり叩きつける。

 

「はい、“聖絶・爆”!!」

 

 岩と光の鎖によって地面に叩きつけられた白竜に更なる追い打ち。手加減しながら光の塊を爆破し、強烈な痛みを以て白竜の意識を刈り取る。かくして意図せぬ相手と遭遇した恵里達の戦いはこれで幕を下ろしたのであった――。

 

 

 

 

 

“……コイツを飼うと? 正気か?”

 

“ボクは本気だよ。だってコレがいれば色んなところに飛んで行けるからね”

 

 そして戦闘を終えた後、どうして白竜にトドメをささずに鈴が傷を癒しながら“廻聖”を発動して魔力を抜き取っているかを恵里が説明する。それを聞いて浩介と礼一は本物のドラゴンに乗れると浮足立ってはいたものの、メルドだけはうろんな目でこちらを見ていた。

 

“あ、俺中村に賛成っす。だってドラゴンっスよメルドさん! こんなのに乗れるなんて早々ないって!!”

 

“俺もです。敵の戦力を奪う、ってことからしても別に問題ないですよね?”

 

 すぐに礼一と浩介も恵里の提案に乗っかってメルドを説得しようとし、それを聞いた当の本人もため息を吐きながら彼らに反論しようとする。

 

“お前ら……確かに移動にも使えるのは間違いない。戦力を奪うという点でも十分合格だ。だが恵里、相手はお前の闇魔法がロクに効かなかった相手だぞ? どうにかなるのか?”

 

 メルドの懸念はそこであった。彼女の話では前世? で光輝を洗脳して支配下に置いたらしいが、それでもそこそこの時間を費やしたとのことだ。それも妙に強い思い込み――自分の知っている光輝のことを考えると全然ピンと来ない要素であったが――を利用してどうにかした、というものであり、それが理由でメルドは首を縦に振ることをためらったのだ。

 

 そこで改めて尋ねてみると、自信満々で恵里は言葉を返した。

 

“そりゃあ、あの一瞬だけじゃどうにもならなかっただけだからやれますって。ボクを信じてよ”

 

“具体的な時間は?”

 

“……三時間もらえるなら確実、かなぁ。あ、でも二時間あるならイケる、かも……”

 

“却下だ馬鹿たれ。一時間ならともかく、そこまで時間を無駄に出来るか”

 

 なおその結果。これには恵里や浩介達だけでなく、苦労して捕えたハジメと鈴も不満気な顔を浮かべている。

 

 ちゃんと実益も兼ねた提案であったものの、地球出身の彼等にとっての本命は『ドラゴンに乗ってワイワイすること』だったから仕方が無かった。それも見透かしたメルドは余計に呆れてしまう。

 

“あ、あ、で、でも! 鈴から魔力を移し続けてもらって限界突破を使い続けるなら一時間でやれると思うから!!”

 

“尚のこと駄目に決まってるだろうが。これから大迷宮の探索に移るんだからここで無駄な魔力を使うな”

 

 それでも、と食い下がりはしたものの、メルドにピシャリと一喝されて恵里はハジメ達と一緒にガックリと肩を落とした。説得失敗である。

 

「グル、ウゥゥ……」

 

 と、そこで意識を失っていた白竜も目を覚ました。先の戦闘で極光を何度も発動したり度重なる出血をしたことで体力をかなり失っており、また魔力もほとんど抜かれたことでロクに動けはしない。

 

「あ、目を覚ました」

 

「鈴の手当のおかげだね」

 

 それでも一矢報いんと敵対していた恵里達を憎々し気に見つめていた白竜だったが、耳栓を外しながらも周囲を警戒している様子の恵里が放った一言に思わず目を丸くしてしまう。

 

「ちぇー……残念だったなぁ。せっかく空飛ぶ乗り物用意出来るって思ってたのに。じゃあ今すぐ解体しよっか。あ、どうせだからもうご飯にする?」

 

「……グルゥ?」

 

 ご飯。

 

 話の内容からして食事のことを指しているのだろうと人間並みに賢い白竜はすぐそれを理解し、そして困惑する。コイツらは一体何をご飯にするんだ、と。現実逃避気味に浮かべたその疑問は続く言葉のせいで嫌でもわかってしまう。

 

「あ、じゃあ俺ステーキ食いたい。こんだけ図体デカいんだからクソ分厚く切ってもイケるだろ」

 

「いいね礼一君。僕もファンタジーな世界に来たんだからドラゴンステーキぐらい食べてみたいって思ってたんだ」

 

「うーん……香織達のことあんま悪く言えなくなっちゃうけど、いいよね。どうせ皆の食べる分も余裕で用意出来るだろうし」

 

 目の前にいる人間達は残念ながらもどこかウキウキした様子で何かを話し合っている……それもこちらを時折見つめながら。何人か口元からよだれを垂らした様子で。それに気づいてしまった白竜の脳は彼らの言っていた『ご飯』の正体を理解し――即座に震えた。

 

「ギャ、ギャウゥ!? ギャゥウゥ!!」

 

「あ、暴れてる」

 

「鮮度に関しては申し分ないな――よし。じゃあ皆、手分けしてこの白竜を解体するぞ。大火山攻略の前の腹ごしらえだ!」

 

「ピャァァアァァァアァァ!?」

 

 マジだった。どいつもコイツも目が本気だった。自分を食べる気満々であった。それを理解した白竜はロクに体に力が入らないながらも本気で抵抗する。

 

 嫌だ、死にたくない。相棒と共に果てるのならば受け入れられるが、離れ離れで、しかも彼が食事として提供してくれていた肉なんかと同類になりたくない。必死になった白竜はなりふり構わず何でもやり出す。

 

「グルゥ、グルル……」

 

 秘技、無抵抗のポーズ。グループでのなわばり争いの際に負けた者はこうすることで相手に服従することをアピールし、それ以上攻撃を受けずに済むのである。魔人族に使役される前にいち野生生物として身に着けていた知識を今、惜しげもなく白竜は披露する。

 

「あ、なんかお腹見せてる」

 

「うわー……前に神水飲んだ時のイナバみたい。ちょ、ちょっと罪悪感が……」

 

「別にいいだろう。おそらくコイツは魔人族の使役する魔物だ。食って戦力を減らせることを考えればここで始末する以外あるまい」

 

 だが一人だけ微塵もためらいを見せないまま自分を食おうとしている様子に白竜は戦慄する。本気でヤバい。マジで食われる。容易に想像出来る最悪の結末を前に遂に白竜は目から涙を流し始める。

 

「ピャァアアァアァア! ピィイイィィ!!」

 

「……なぁメルドさん。ここまでやられると流石に俺らもちょっと食欲がさ……」

 

「いや、食うぞ。お前らだって家畜を食べるだろう。そんなのに一々心を痛めたりしてるか?」

 

 なお泣き叫んでも一人だけ全然揺るがない。本気で怖くなってしまった白竜は甲高い鳴き声を上げながら涙をボロボロと流した。もしかすると主人である魔人族を裏切ってしまうかもしれないことにひどく罪悪感を感じはするものの、もう助かるならなんでもいいとばかりに白竜は泣きじゃくる。

 

「確かにそうだけど……なぁ恵里、なんとかならないか?」

 

「うーん……メルドさん、ちょっと待って。コイツさ、なんか食べられたくないから暴れてるように見えるし、今ならあんまり時間かけずに支配させられそうだけど、それでもやる?」

 

「ピィ?……ピィイイィィ! ピィイィイィ!! グルル、グルゥ……」

 

 女神が現れた。もうこの際主人と敵対していた相手であろうと構うものかとばかりに助け舟を出そうとしている少女の方を向き、猫なで声まで出して全力で白竜は媚びを売る。これも生きるため、この際贅沢なんて言っていられないとばかりに必死になって媚びへつらう。

 

「ほら、ね? この子もボクに服従したくって仕方ないみたいだし。だからお願いします」

 

「……うーむ。大丈夫、か? 確かにここまでへりくだっているなら問題なさそうだが、やれるか?」

 

「うん。念のために“縛魂”でボクが主人だ、ってことを植え付けてやればどうとでもなると思うから」

 

 自分の()()()主人が何かおぞましい言葉を口にした気がしたが白竜は何度も何度も首を縦に振った。魔人族同士のやり取りを眺めていた際、自分も同意を示す時はこうすればいいのだと白竜は学習していたのだ。白竜は賢いのである。

 

「……ハァ、わかった。とはいえ反抗したり裏切ったりするようなら今度は潰して食べるぞ。いいな?」

 

 そしてようやく自分を食べようという意志を貫いていた人間も陥落したことで白竜はホッと一息を吐いた。良かった。もう死なない。()()ご主人と出くわしたら全力で助けようと考えつつ、白竜は助け舟を出してくれた少女の前に頭を出した。

 

「うん。いい子いい子……それじゃあ“縛魂”」

 

 その言葉と共に頭がほんのすこしだけぼんやりとするも、ここで抵抗したら何が起きるかわからないと理解していた白竜はそのまま魔法を受け入れ続け――目の前の“中村恵里”という少女が自分の()()主であると魂に刻み込まれたことを確認していなないた。

 

「よし! これで空の移動手段ゲット!! やったやったー!!……もしかするとハジメくんもここで使役してたかもね」

 

「うーん、そう、かなぁ……でも恵里の闇魔法とか降霊術のルーツに関する神代魔法を手に入れてたらそう、かも」

 

 そうして有頂天になる恵里を見ながら白竜以外の面々は首を傾げる。恵里が関わってこなかった場合のハジメは本当にここでそんなことをやっていたのだろうか、と。とはいえ考えても別に結論は出ないことから彼らはそのまま食事に移ることにした。材料は戦闘が終わった直後にハジメが宝物庫に入れていた灰竜の死体である。

 

「そういえば名前どうしよう? この子にもあった方がいいよね?」

 

「ポチでよくね? 中村に思いっきり媚びてきたんだし、そんなのでいいだろ」

 

「いや流石に可哀想すぎ……いや、もしかすると前の主人裏切ってるかもしれないし、別にいいのか?」

 

「いや浩介君、流されちゃ駄目だってば。この子だってちゃんとした名前で呼ばれたいと思うよ」

 

「んー……じゃあ“ブラン”とか? “ヴァイス”でも別にいいけど」

 

「恵里、それどっちもあの竜の肌の色からとってるよね? 他に何かないかな、こう……“リヒト”とか」

 

「いや別に適当でいいだろう。それこそ“ジョン”でも“ダニー”でもいいんじゃないか?」

 

「いやいやダメですってメルドさん。こういうのはこう、すっごく重要ですって! 一大イベントなんですよ?」

 

 そうして調理や食事、片づけをしながらも白竜の名前をどうするかについて彼らは話し合っていく――白竜には“ウラノス”という立派な名前がついてたが、今の彼? はそれにもう何の価値も感じてない。新しいご主人バンザイなのである。

 

「じゃあ“ブリッツ”、行ってくるね」

 

「グルゥ♥」

 

 ドイツ語で“閃光”という名前をつけられた白竜の背にまたがり、或いは手に抱えられながら山頂へと快適な空の旅を過ごし、そうしてたどり着いた恵里達は白竜に見送られながら大迷宮の入り口と思しき階段を下っていく。魔人族よりも先に奥へとたどり着くために。

 

 そんな新たな主人を見送りつつブリッツは考える。ここで逃げたらどうなるんだろうか、と。尤も、“縛魂”のせいで本気でそう考えてる訳ではなかったが。そんなとりとめのないことを考えながら白竜はまたこの場で待機するのであった。




???「ウラノスぅううぅぅうぅ!?」

なお話でした。あ、ところでタグに「NTR」っていりますかね?(すっとぼけ)
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