俺、呪術高専の京都校に編入したんだけど   作:のぶな

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BパートのBはバトルのB。


Bパート

 

 さて、唐突だが模擬戦の仕切り直しだ。

 

 そもそもの話として、昨日は俺の実力を示すという事だったのが色々あって流れてしまったが、まだこの学校に入ってから何も示せていないのだ。

正直なところはまだしんどいのだが、頭からかぶせられた学ランの匂いがアレだった以外は完璧だった東堂先輩のフォローのおかげでなんとか心を持ち直した俺である。気分が悪いなんて言い訳をするわけにはいかない。

 むしろここは全力で身体を動かしてストレスを発散させてしまった方が心の健康に良さそうに思う。

 まあ言い方を変えれば単なる八つ当たりでしかないので相手に申し訳ないのだが、東堂先輩はそれも織り込み済みで相手をしてくれるのだから本当に頭が上がらない。

 

 そんなワケで、昨日の焼き直しと言わんばかりに対峙する俺と東堂先輩だ。口上は既に昨日で済ませている。ならば後は戦うのみと、“最初の時”にたまたま手にしてからそのまま拝借しているスコップの柄を両手でしっかり保持して心の内で気炎をあげる。

 高専の皆からはどうせ死なないから殺す気でやれという、『むしろ殺レ』という裏が込められていそうなアドバイスをいただいて、東堂先輩は普段は何をしでかしているのか気になったりもしたが、とりあえずそれは横に置いておく。

 

 「さあっ、お前の力を魅せてみろ!!」

 

 既に臨戦態勢の東堂先輩はその場から動かない。どうやら先手を譲ってくれるようだ。そしてそれは俺への期待があるからこそ。

 なら俺も応えなければ男じゃない。ならば――まずは全力でぶちかます!

 

 一歩目、大地を踏み砕く心持ちで前進しながら、手にしたスコップを大きく振りかぶる。

 二歩目、十分な加速に周囲の景色が背後に流れるのを感じながらの渾身の振り下ろし。

 三歩目、急停止からのちょっとだけバックステップ。同時にスコップを持つ手を緩める。

 

 既に加速と遠心力の乗っているスコップはすっぽ抜けるように手の中を滑っていく。このままでは放り投げるカタチになってしまうというところで、スコップの柄には歯の反対側にグリップが付いているのでそこをすかさず右手でキャッチ、握りこむ。

 

 「でいりゃぁーっ!!」

 

 肩から腕、スコップの先端まで一直線に繋がったモノとイメージし、長柄を振り回す要領で全体をしならせるように、急制動の反動も加え打ち下ろす!

 遠心力と加速を十全に乗せたぶっ叩き攻撃。しかも、後ろに下がって間合いを離しているようにみせかけて、腕をぴんと伸ばした上に武器の端ギリギリを掴んでリーチを目一杯稼いでいるので実は届くという、距離感の測り辛さはひとしおという特別仕様の一撃。

 さあどう対応すると東堂先輩を見やれば、不適な笑みを浮かべてこの程度はよけるまでもないと練り上げた呪力を纏い、両腕を交差させて受け止め――

 

 「ッ!?」

 

 ――ようとする行為をすべてキャンセル、咄嗟に大きくバックステップを踏んで一気に距離をとってみせる。

 結果、俺の一撃は何を捉える事も無く地面を打ち据え、衝撃と粉塵をまき散らす。巻き上がる土煙を突き抜けた先で着地する東堂先輩には腕に縦一本のほんの僅かな赤い線が浮かび上がるのみ。

 俺が得た戦果はたったそれだけのダメージとも言えない裂傷一つだけ。

 

 「なっ、あの程度の呪力量で東堂に傷を負わせただと……っ!?」

 

 だというのに、ギャラリーからどよめく声があがる。

 それは戦う前にどうせ死なないと口を揃えていた通り、東堂先輩の鍛え上げられた肉体と練り上げられた呪力による頑強さは皆の知るところだったのだろう事。

 比べて、ただのスコップに込められた俺の呪力量は大した事は無く十分に防げる範疇だと誰もが思った事の証明だった。

 

 だが、実際には皆の予想を覆して東堂先輩には傷が出来ていた。ならば何がその守りを突破しうる要因であったかといえば、それは俺の術式『穿孔』の成果だ。

 読んで字のごとく“穿ち孔を空ける”この術式は、即ち穴という隙間を俺の意志で作り出すというしろもの。

 まあ、本来は槍のようなものを使うべきところでスコップを使っている手前、穿つというよりは掘るという働きの方に比重は寄っていそうだが、それは別の話。

 

 効果は単純に物理的に頑丈なものに高い貫通力を発揮するだけでなく、呪力そのものにも干渉が及ぶ。つまり、俺の術式で東堂先輩の纏う呪力という鎧を穿ち空けた穴を通す事で、守りを透過して肉体に攻撃を届かせたのだ。

 さすがに俺の練度ではあの一瞬の交錯で東堂先輩の練り上げられた呪力に完全な穴をこじ開けるのは無理だが、守りの弱体化した生身の体と強化された金属製品がぶつかり合えば、そりゃあどっちが勝つかは自明の理というものだ。

 

 ただ、そんな理屈を知るよしもないはずなのに、東堂先輩は咄嗟に防御を止めて回避を選び取っていた。

 初見であっても最適解を導きだす勘とセンス、そしてその根拠となって支える経験値は一体どれだけのものなのだろうか。

 

 グリップを掴んだままスコップを蹴り上げ、肩を支点に地面と水平まで持ち上げる。先端をピタリと向けた先で、これは本来他者を威嚇するためのものと体現するような獰猛な笑みを浮かべる東堂先輩に畏敬の念を覚える。

 いや、あの笑みは単純に後輩が力を示そうとしているのが楽しいとか嬉しいとか思っているだけなんだろうけど。うん、本当に顔が怖いよな、東堂先輩。

 

 何にせよ、まだ戦いは終わっていない。むしろもっと魅せてみろと言わんばかりのあの顔に対してここで止めるなんて言えようはずもないし、言うつもりもない。

 だから俺はさらに攻めるのだと言葉ではなく、態度で示すべくグリップを手放す。蹴り上げた際の上向きのエネルギーはもはや無く、支えも失ったスコップは重力に引かれるのみだが、落ちるのに先んじてスコップを追い抜くように駆け出しながら柄をつかみ取る。

 

 一息に間合いを詰めながら狙うのは心臓……を、守る腕!

 

 本来なら守りの厚い部分をいかに避けて急所を攻めるかが筋だが、先の交錯で俺の術式なら十分に東堂先輩の防御力を突破出来る手応えがあった。

 ならここで大振りは不要。グリップを持つより小回りがきく柄を手に、コンパクトに、確実に、硬いはずの防御の要を砕き柔らかな急所を露わとさせるべく突きを放つ!

 

 「甘いわっ!!」

 

 だが、俺の思惑は届かない。スコップの側面にわずか触れられた感覚があった。たったそれだけで狙いは逸らされ何もない空を突く事を強制される。

 俺の術式が干渉をする間もない鮮やかな手並み。見た目のゴツさからは想像出来ないくらい、見事というほかない技術の粋がそこにはあった。

 このままではスコップの重さに引っ張られて体勢までも流されてしまう。ならばと柄を握る力をほんの僅か緩める。スコップにかかる慣性を柄と手のひらの間に発生する摩擦で少しでも良いから緩和させる。

 猶予はグリップの付け根まで。正直なところは気持ち程度しか慣性減少効果はないだろうけど、やらないよりはマシだ。

 

 柄に滑らせた手がグリップに引っかかると同時にかかる腕への反動を飲み込むように改めて握りこんで、残った慣性もまた力ずくで押さえ込む。

 点での攻撃は躱された。ならば今度は線での攻撃だと、左手をグリップに添えながら、突きを放った体勢から横薙ぎへと派生させる。

 

 「ふ……っ」

 

 それを東堂先輩は上体を反らすスウェーだけで回避してみせる。紙一重で東堂先輩の眼前を通り抜けるスコップを、ならばと添えていただけの左手でグリップを掴み引いて、支点となる柄を持つ右手の位置を先端側へずらして遠心力の勢いを削ぐ。

 ついで、弧を描くようにして軌道を制御、今度は下からすくい上げるようにスコップを振りあげる。

 遠心力や慣性で手元側に、グリップを引いて先端側へと柄を持つ位置を変える事で勢いとリーチをコントロールして攻め立てていく!

 

 ……だが、そのどれもが東堂先輩には届かない。

 

 当たれば少なくないダメージが通る。当たりさえすればそこから突き崩せる。それが分かっているから攻め続けているのに、そのどれもが当たらない。避け、逸らされ俺の攻め手がことごとく無力化される。

 その差はまさに紙一重。されど破れることはないと現実を突きつけられ、俺と東堂先輩との間にある壁の厚さがこんなにもあるのかと分からされてしまう。

 そして、こっちは懸命に戦っているというのに、何かを噛みしめて悦に浸るような東堂先輩の表情が絶妙に苛つくな……!

 

 いや、落ち着け俺。俺と東堂先輩に実力差があるなんて最初から分かっていた事だ。確かに思っていた以上の差でこうもあしらわれるのはショックだったが、それで心を乱してもしょうが無い。

 ああ、認めよう。今の俺じゃあ東堂先輩にはきっと勝てない。この勝負は俺の負けで幕引きになる事だろう。

 

 だが、俺はこれでも負けず嫌いなんだ。

 

 壁を前にして、これで終わりだと足を止めればそれ以上前に進むことはない。だが、俺はこの壁を超えたいんだ。壁の向こう側へと行きたいんだ。

 実力が足りないなんて言い訳は要らない。いつかではなく今この時に勝利を掴みたいのだと、ほんの僅かしか無くともあるはずのか細い勝利の糸口を掴むべく全力を尽くすべく、連撃を中断、いったん距離をとる。

 

 「どうしたっ、これで終わりか後輩!?」

 「ハッ、まさ、かっ」

 

 俺が諦めていない事など百も承知だろうにそんな事を言う東堂先輩に鼻で笑う事で返しながらスコップを地面に突き立てる。

 呪力で強化されたスコップにとって、さながらプリンであるかのような地面への手応えとともにスルリと入ったそこを起点に呪力を浸透させる。じわりと広がる感触がスコップを握る手のひらを通じて知覚する。

 

 「ど……せぇいッ!!」

 

 そしてしっかりと腰を据えて、自身の呪力が浸透した範囲全てを一気に“掘り返す”!

 ちゃぶ台をひっくり返すようにしてぶちまけられた地面は、俺の『穿孔』の術式が込められた呪力を纏った大小様々な土の礫となって飛び散りゆく。

 それはまさに弾幕となって東堂先輩へと襲いかかる。質よりも量と拡散されてはいるが、俺の術式付きのこれは当たれば痛いで済まない代物だ。

 実のところは手元から離れたモノに呪力を維持させるのは苦手だから土礫の呪力は秒を数える間もなく霧散するが、東堂先輩に届くまでならそれだけあれば十分だ。

 

 ――まあ、これはただの牽制兼目眩ましなんだが。

 

 腰を深く落とし、拳をまっすぐ突き出す正拳突きの構え、あるいは弓を引き絞り満を持すイメージで右手でグリップを掴み、腕を引く。左手は水平を保ち狙い定めるべく柄に添えるだけ。

 剣術でいうところの片手平突きの構えでまっすぐただ前を見据える。足の指に力を込めて大地を掴むようにしながら重心を前へと傾けていく。

 

 ……バランスを崩す直前。ここが、限界!

 

「――ッ!!」

 

 声にならない気迫を叫びながら跳ぶように駆ける一瞬の中、音も色も置き去りにしながら東堂先輩の一挙一動を注視する。

 俺の術式付与された土礫弾幕は一つひとつの威力は大したものではなくとも無策で受けられるほど軽くはない。逆に言えば、東堂先輩が全力で防御すれば十分耐えきれるレベルだ。

 だが、全力の防御だとしても足を止めた相手なら、この穿ち貫く本命の一撃にとっては絶好の狙い目だ。

 逆にこの俺の突きを警戒して回避に全力を尽くそうとしても、土礫弾幕に動きが制限されてそこもまた狙い目になる。

 これが俺にとっての必殺技、というより必勝パターン。この最後の一手を完遂するためにありったけの集中力で東堂先輩の一切を見逃さない!

 

 東堂先輩は防御も回避もとる素振りすらいまだない。つまりはそれ以外の手段を執るはず。ならば一体どうする。

 動いた。手だ。何をするかは分からないが、“何か”は俺が届くより早いタイミングになりそうな予感がする。ならどうする?

 答えは単純。全部まるごとぶち抜いてやる……っ。

 

 ――パンっ

 

 「な……っ!?」

 

 その瞬間、俺は東堂先輩を見失っていた。

 

 油断もまばたきもしていなかった。だというのに目の前にいたハズの東堂先輩の姿はどこにも見つからない。見失う直前に東堂先輩はその場で手を打つ動作をしたところまでは確かにそこに居たのに。いったい、どこに――

 

 「ふむ、ここまでだな」

 

 ――後ろ!?

 

 それは声というよりは高められた集中力が感じ取った気配だった。理屈はまるで分からないが俺は東堂先輩に背後をとられてしまっていた事を知る。

 次に思ったのはやばいと言うこと。いや、違う。そう思う事すら出来なかった。

 

 「が、はっ……!?」

 

 体に衝撃が走り、肺の中の空気が強制的に吐き出されてからようやく攻撃を受けたと気付く。一体何をされたのか、視界に映る光景が激しく空と地面が入れ替わっているのだから、おそらく無様に地面を転がっているだろう事しか分からない。

 直後、集中力が途切れた。引き延ばされた時間が通常に戻ってくると共に思考は回る感覚と痛みにシェイクされてまるで意味を成さなくなる。

 俺は、倒れている? 上はどっちだ、下は? ここは、どこだ……?

 

 「お前の攻撃力は大したものだが守りはザル過ぎる。最強の頂は猪武者でたどり着けるほど甘くはないぞ?」

 

 意識が闇に飲まれそうになるのを懸命に堪えていると聞こえる声。そっちの方向に行けば現実に戻れる。そう分かっているのに体がまるで言う事を聞いてくれない。

 俺は負けた。それもたった一撃で。それが嫌が応にも突きつけられてより意識が闇に沈んでいく……。

 

 ……一級呪術師の背中は遠かった。

 今まで我流ながら呪霊を祓ってきたし十分以上に戦えると思っていたのに、その全てがまるで通じないままの敗北だった。そもそもとして東堂先輩が最初から攻めを見せていたらもっと早く地をなめる結果になっていたはずと理解させられる。

 お前は強くない。今まではただ運が良かっただけなのだと、思い上がりをたたき伏 せられて悔しさばかりが心を満たす。

 

 「…………つぎ、は……まけ、な……い……」

 

 だが、悔しいと思えるという事は届かない距離ではない証明でもある。背中は見えたのだ。あとはそこに追い縋るにはどうすれば良いのかだ。

 何時かなんて悠長な事は言わない。次で覚悟してろと正真正銘最後の力を振り絞って一言だけを掠れ声ながらなんとか口にする。

 それは誰が聞いても負け惜しみ以外の何物でも無いが、負け惜しみで上等だ。俺は、負けず嫌いなんだ。負けを惜しんで何が悪い。

 俺の想いがどれだけ伝わるか、そもそも誰にも声が届いていないかもしれないが、次は勝つという想いは失わないとしっかりと抱くのを最後に、俺は完全に意識を失った。

 

 

 




 スコップ「突けば槍、叩けばハンマー、薙げば鉈。しかして真髄は掘る農具。ビームなぞ邪道、これが俺の戦い方よ!」

 なんか凄い呪霊「そのナマクラでは私は斬れませんよ」
 三輪ちゃんの刀「ぬわーっ!?(パリーン)」
 ナレーション「呪具にも等級があるんですよ-」

 スコップ「…………」(そっと着席)

 そうだ、短編ついでに戦闘シーンを書くリハビリをやろう。そんなわけで更新です。
自分がスコップを武器として使おうとするとこうなるたとえ。
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