【完結】しるし   作:@早蕨@

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【十七】秘密

 店を出た二人は、腹ごなしに散歩でもしようと町をぶらついていた。提案してきたのはメグリだった。ヒノテは受け入れたが、他意がある事は分かっていた。

「ねえ、あの人達は誰?」

「来ると思った」

 どう話せば良いものかヒノテは迷っていた。旅に出てから、一度もこの話を他人にした事はなかった。良い話ではないし、汚点である事は間違いなかったので、話し辛い事この上ない。

「親し気という雰囲気ではなかったけど、知った仲って感じだった。何か怖い感じの人だし、どうしても気になっちゃって」

「この町で何かやらかさないか心配か?」

「そうだね。そういう風に思ったかな」

 人を見た目で判断するのは良くない。けれども、エンイの事を思い浮かべたヒノテは、彼が決して善良な人間ではない事をよく知っていた。

 自分の身内には甘く善良で、他人に迷惑を掛ける事には何とも思わない人間だった。特に、取り込もうとしたものの毛ほども興味を示さなかったヒノテは、余計に目の敵にされていた。

 エンイが町に迷惑を掛ける可能性は十分にある。でも、それは個人としてマナーが悪いとか、そういうレベルだろう。

 あのグループを抜けた今、エンイとあの弟分だけで大それた事を出来るとは考えにくい。幹部もいなければ、リーダーもいないのだ。

「気性の荒い奴だから、どこにいても問題を起こす奴だとは思う。けど、大事になるような馬鹿が出来るとは思えない」

「そっか。ならいいけど、あの人嫌な感じだった! 私の事ガキガキって! 失礼な!」

 分かりやすく、プンプンという擬音が似合う様子で怒るのを見ていると、ガキではあるなとヒノテは思う。

「賢いガキ、くらい言って欲しいよな」

「あー! ヒノテまでそんな事言う!」

 諸手を突き上げて抗議の様子を見せるメグリの頭を、ぽんぽんと優しく叩く。

「でもなメグリ、お前はまだ子どもなんだよ。それは間違いないんだ。この町の治安を心配するのは、大人のやる事だ。メグリはもっと、自分の事を考えた方が良い」

 ”町長の娘”として振舞わなければならない。そういう教育を受けているのだろう。それが良いとか悪いとか、ヒノテにそんな事は分からない。けれども、そのせいでメグリが自分を押し殺しているのだったら、それは随分と息苦しい環境だろう。

 辛さを感じていなければ、バトルをするだけで泣いたりはしない。

「うー。ヒノテはすぐ私を甘やかす。やりたい様にやりたくなっちゃうよ」

「いいじゃないか。それが一番だ」

「一番かもしれないけど、そういう訳にもいかないの! それこそただの子どもだよ!」

「いいんだよ、子どもなんだから」

 メグリの頭には、どうしても”町長の娘”という使命感が付きまとうらしい。将来は親を継ぐのかもしれない。そういうつもりでいるのならば、尚更色々な事を学び、外にも出た方が良いのでないか。

「じゃあ、ヒノテが私を連れて行って!」

 バトルをしているのがバレても、悪者になる事は出来る。メグリを連れ回す悪い大人として振舞う事は、ヒノテにとって大した事ではなかった。

 それくらいは出来たとしても、連れ出してメグリの人生を変えてしまう責任は、取れない。

「駄目駄目。そこまで面倒見るつもりはないよ。俺はメグリの事を全部知らないし、メグリも俺の事を全部知らないしな。昨日今日会ったばかりの男に、頼むような話じゃないぞ。もっと警戒しろ」

 色々頼んでおいて警戒しろも何もないだろうが、線を引くならここだ。

「……分かってるよ。本当に連れ出されたら、大騒ぎだもん。ヒノテだって、ただ注意されるだけじゃ済まないだろうし。でもさ、一回くらいトレーナーとして、自由にホウエンを歩いてみたい。ちょっと、そう思ってるだけ」

 突っぱねておきながらしゅんとしたメグリの様子を見ていると、少しくらい連れ出してやってもいいんじゃないかとヒノテは思ってしまう。それが難しい事は理解しているが、メグリを見ているとどうしても何かしてあげたくなってしまった。

「ヒノテは友達だからね。友達に迷惑を掛けるのは良くない。その代わり、またいつかフエンに来る事があったら教えてよ。その時また遊ぼう?」

 明日になったらフエンを去る。それでメグリとは離れてしまう。時間も経てば、少しずつ記憶も薄れるだろう。それはきっと、寂しい事だ。

「もちろん。次来た時も、メグリに案内を頼むよ」

「約束だよ? 連絡して来なかったら怒るからね」

「分かってる分かってる」

 どこかに連れ出す事は出来ない。では、何が出来るのか。フエンタウンで、ヒノテがメグリより詳しい事なんて何もない。

「あ、何か誤魔化されている気がする。そうだよ、さっきの人だよ。あの人とはどういう関係なの?」

 他人に話すような内容ではないが、メグリになら話しても良いかもしれない。自分の内側を曝け出した少女相手に、出来そうな事は一つだけだった。

「よし。それを話す前に、メグリでもきっと知らない、えんとつ山の秘密を一つ教えよう」

「え? 何それ、どういう事?」

「メグリに出会った記念というとおかしいかもしれないな。思い出、というのもどうだろう」

「なになに? 何を教えてくれるの?」

「友人として、メグリに忘れて欲しくないからな。俺のとっておきだ。この後、まだ時間大丈夫か?」

 もちろん! と、楽しそうなメグリの了承を得たヒノテは、バスターミナルへと歩き始める。

 ”元、マグマ団員”として知っているえんとつ山の秘密を、話そうとしていた。

 

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