【完結】しるし   作:@早蕨@

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【三十一】優しい顔

 弟分の目がこちらを見ていない。

 前四人をラグラージ達に任せ、ヒノテは後ろから来たであろう何者かを確認するために振り返ったが、そこにいたのは敵ではなかった。

 何故こんなところに。

 ヒノテは、ただただ驚いただけだった。 

 ポケモン達の大群がフエンタウンに向かっているはず。どうやってここまで来たのか。そもそもこの緊急事態にメグリの親が外に出る事を許すか。濁流のように流れる思考に、表情は数秒だが固まっていた。

 ヒノテはメグリの表情が悲しみと怒りが混ざった言いようもないものに変わっていくのと、「どうして!」の叫び声でハッとした。

 この状況だけ見れば、自分もまた犯人達の仲間だと思われても仕方がない。メグリが叫んだ攻撃の一言は、ギャロップを動かした。迫りくる火炎は直線的なもので、避ける事自体は難しくないものの、決着が着き捕まえるだけだったその場にいた全員を散り散りにする。ポジションが、変わってしまった。

 聡明さなど微塵もないただただ火炎放射を叫び続けるメグリの姿に、やがてギャロップも言う事を聞くのをやめ沈黙した。

 違う! と叫んだヒノテだったが、最早言い訳にしか聞こえないだろう。どうすれば誤解を解く事が出来るのだろうか。敵を目の前に余計な事を考えた結果、ヒノテはゴローンの動き出しに反応出来なかった。

 狙いは、ギャロップなのかメグリなのか。ヒノテが動く間もなく、ゴローンに巻き込まれないよう、ギャロップがメグリを突き飛ばした。

 守る事に全ての力を注いだギャロップは、横倒しになった彼女の上に覆いかぶさるだけで精一杯。

「メグリ!」

 かといって、ヒノテも叫ぶ事しか出来ない。

 ギリギリまでその光景を見ていたヒノテは、咄嗟にヤミラミを抱き抱え、距離を取るために数歩走って飛んだ。ラグラージやグラエナも気付き、少しでも距離をとって身を屈める。

 ゴローンが放った「大爆発」の被害を少しでも軽減する狙いだったが、そもそもゴーストタイプであるヤミラミはそれを無傷で躱す事が出来る。刹那の瞬間にそれを判断出来る余裕がヒノテにはなかった。

 ただただエネルギーを外に拡散させ、自身さえ省みないその攻撃の威力は凄まじい。

 咄嗟に回避の行動を取ったヒノテは、衝撃を身体に受けダメージは小さくない。ラグラージとグラエナもダメージを最小限に抑えたものの、無傷では済まなかった。ヤミラミだけが無傷だったが、その場に怯えてヒノテに抱き着いていた。

 攻撃した弟分達もまた同様。

 ストロボを焚いたような瞬間的な光と、凄まじい衝撃波は、一番近くにいたメグリとギャロップを的確に襲った。

 元マグマ団アジトが地響きで揺れる程の力。人間など間近で食らえばひとたまりもない。

 俯せの身体を回転させ、両の掌を地面に着けたままメグリの方を確認したヒノテには、その姿は映らなかった。

 ギャロップは、メグリの上に覆いかぶさりその衝撃を一身に受けていた。

 大爆発を放ったゴローンは、身体をボロボロにし崩れかけそうになりながら倒れている。メグリは無事なのだろうか。無事でいてくれ、と頭で願い、確認したいのにヒノテの身体は動かない。数秒の奇妙な硬直の後、ギャロップはメグリを押し潰さないように倒れ込んだ。

 ヒノテの目にもメグリの姿が確認出来、咄嗟に立ち上がって駆け寄ろうと体勢を立て直すものの、そのタイムラグが致命的だった。碌に戦う事も出来ない身体で、ゴーリキーとライボルトは、起き上がって動こうとしたラグラージとグラエナを止めに入る。倒す事が目的ではなく、ただほんの少しでも時間を作れれば良いという動き。

 その時間は、弟分がメグリの傍に寄り、どこかに隠し持っていたナイフを俯せになったメグリに突き立てる猶予を与えてしまった。

「動くな!」

 ヒノテが体勢を立て直して立ち上がり、走り出そうとした時には手遅れ。

 未だかつてヒノテも聞いた事のなかった弟分のその大声に、場は支配された。

「ラグラージ、グラエナ! お前らも止まれ!」

 ヒノテは叫んだ。ナイフ一本で人間は簡単に絶命する。その事を身体的にラグラージもグラエナも分かっていない。猶予のない状況で、二匹がゴーリキーとライボルトを掻き分けて飛び掛かろうとするのは、仕方のない事だった。

 弟分の周りを他の三人が固め、二匹が動かないよう、ボロボロの身体でゴーリキーとライボルトが押さえつける。形勢は逆転。ヒノテは、考えもしなかった最悪の状況に置かれていた。

「やってくれましたねまったく。この娘がアホで助かりましたよ」

 俯せで、顔だけ横に向けた状態のメグリとヒノテは目が合った。この状況に至るまでに大した時間はかかっていないが、既にメグリの顔は歪んでいた。

「分かって、くれたか」

 この最悪な状況でも、誤解が解けてくれて良かった。素直にそう思ったヒノテは、水滴に顔を濡らしたメグリの歪んだ顔に、優しく笑いかけた。

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