【完結】しるし   作:@早蕨@

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【八】零した言葉

 フエンにあるバトル場は、他の町にもよくあるものだった。大きな広場に、バトル場として設置されたフィールドとそれを囲むフェンスがいくつも設置されている。

 ご飯時に差し掛かる夕方のこの時間だと、人も少ない。これからバトルの相手になってくれそうなトレーナーは、もういなさそうだ。

「おー、やってるな」

 何気なく眺めていたヒノテだったが、ふとちらと横を見れば、広場を囲っているフェンスに両手を掛け、食い入るようにバトルを見つめるメグリがそこにいた。

「メグリ」

 声を掛けても返答はない。視線も意識も、バトルに集中している。今、何を思ってそれを見ているのか。

 今日一日、フエンを歩き回って分かったちょっと普通ではないメグリの扱いが、どうしてもヒノテは気になった。

「どうした、下りるのか?」

 バトルに集中するメグリに続いて、これまで大人しく抱かれていたヤミラミも、バトルを見て興奮したのかヒノテの腕から飛び出し、跳ねながら観戦を始める。

 バトルなんて危ない事させられません! とばかりにグラエナはヤミラミを落ち着かせようと、その周りをぐるぐる回っているが、効果はないようだ。

「どうしたもんかねえ。ヤミラミはやる気なんだけど、周りが認めない限りは、チームに入れる訳にもいかないしなあ」

 戦力が増えるのは良い事だ。だけれども、皆が納得の上でなければ、チームとしては意味がない。

 ラグラージはヒノテと一緒にヤミラミを捕まえた時に一緒にいたから、良く分かっている。このお転婆娘は、弱くない。

 野生でありながら人懐っこく、遊んで遊んでと絡んで来たのを振り払うだけでも大変だった。遊び疲れたヤミラミを捕獲出来たのは、ラグラージが疲れてもう白旗を上げようかという頃だった。

 丁度その時、ポケモンセンターに体力回復のため預けられていたグラエナはその事を知らない。バトルにおいて、しっかりと強さを発揮出来る実力を、ヤミラミが持っている事を。

 飛び跳ねるヤミラミをもう一度抱え、ヒノテは頭を撫でる。

「よおし、今度バトルをしてみるか。お前もあそこで思いっきり暴れたいだろ」

 指さした先とヒノテの言葉に、ヤミラミは大喜びで鳴き声を上げる。ワンワンガウガウと抗議の声を示すグラエナだったが、彼はヒノテが最終的に決めた決定には従う。群れの中で生きて行く上で、グラエナという種が持つ習性の一つだった。

 それでも、ギリギリまで反対の声をあげるグラエナの意見も、きちんと汲んでやりたいヒノテには、一つ考えがあった。

 反対するグラエナの目線までかがんで、ヒノテはVサインを出す。

「ダブルバトルだ」

 そのサインをグラエナは知っている。二対二で戦うバトルの事だ。幾度となくラグラージと組ませているし、二匹のチームワークは良い。

「ヤミラミとグラエナでやってみてくれ。どうしても心配だったら、お前がヤミラミの分まで頑張れば良い。これは決定だ、いいな」

 ヒノテが真剣な目をして命令を出した際、彼は決して断らない。主人が出した譲歩に、グラエナは肯定の鳴き声を上げるしかなかった。初バトルに相応しいレベルの相手を選んで、ヒノテはそこでヤミラミの力をグラエナに見せつけるつもりだった。

「よし、決まりだな。バトルは明日だ。頼むぞ」

 グラエナにヤミラミを預け、もう一人、バトルをじっと見つめるお転婆娘の方へヒノテは向かう。

「メグリ」

 呼びかけても反応はない。ヒノテはその肩に手を置いた。

「……あ、ごめん。つい」

「どうしたんだ?」

「どうもしてないんだけどね。ポケモン達とああいう風に、協力して何かをするのって、いいなあと思って」

 今度はその場に座り込み、メグリは膝を抱え始めた。ヒノテもまた、しゃがみこんで視線を合わせる。

「事情はよく分からないが、何かぼそっと零したい事でもあるなら、それも良いんじゃないか? 俺はただの観光客。ここの人間でもないし、予定通りホテルをチェックアウトをすれば、それでこの町を離れる。そんな相手なら、ぽろっと言いたい事を言うには、もってこいだと思うが」

 出過ぎた真似をと思ったが、ヒノテはこの二日間で受けたメグリの親切に、一つでも何か返したかった。

「誰にも言わない?」

「言わない。すぐに忘れるさ」

 メグリはそれからしばらく迷ってから、口を開き始めた。

「私ね、町長の娘なの」

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