きっかけはほんの些細なことだった。
「マキ、今日、恋人ができたんだ。」
木の葉が風に揺れる音がした。
――今、マキが返事したんだな――
心のどこかでそう、思い込んだ
3年前、俺は一生をかけて愛すると誓った女性を失った。
交差点での車の信号無視、マキは即死だったみたいだ。
いつもなら殺意の湧く俺だったが、その時は頭が真っ白で、とにかく現実から逃げようとしていた。
「おはよう、今日も元気そうだな。」
何もいない、一人のキッチンで俺にしか見えていなマキに話しかけていた。
もちろん返事なんか返してくれるわけもなく、その現実が俺の胸に突き刺さるたび、俺は腕をカッターで切って自傷に走っていた。
悪魔の声が聞こえるようになったのもそれくらいからだ。
「君の願いをかなえてあげる代わりに、魔女と戦ってほしいんだ。」
白い、よくわからない生物だった。
俺はそいつが目の前に出てくるたびにつぶし、切り刻んだりしていたが、いつまでたっても奴は勧誘をやめなかった。
ある日、俺はそいつに向かって質問をした。
「実体があるのか?」
白い生物は首を傾げた後、「もちろんだよ」といった後に続けた。
「君はいつも空間に向かって話しかけているけど、どうしてだい?」
その言葉で、俺の目の前にあった光景は一転した。
今まで見えていたマキは光のようにすっと消えていき、きれいに整っていたリビングはごみであふれかえっていた。
「俺は、何を......」
「これが現実さ。きみはこれからもこんな生活を続けるのかい?」
俺はリビングを見つめながら、無理だと一言言った。
「君には力が必要だ、さぁ、願い事を言うといい。」
俺はそいつの首をつかみ、怒鳴った。
「一回しか言わねぇ、本当にかなえろよ。」
――マキを、生き返らせろ――
その言葉を発した瞬間、俺の意識がどこか遠くへ行った。
意識が飛ぶ間際、白い生物が粉々に散り、なくなっていくのを見た気がする。
「申し訳ないが、君の願いはかなえられない。気の願いのせいで、ほとんどのインキュベーターが死滅したんだ。」
真っ白な空間、何もないそこから、白い生物の声だけ聞こえてくる。
「そいつはおめでたい。」
「その代わり、君を魔法少年より上のし存在にできる。一生の安全を与えられるよ」
俺はその言葉に迷いもなく頷き、深呼吸した。
「望むところだ。行けるところまで行ってやる。」
「ありがとう、君のおかげで僕たちの因果は十分に回収できた。感謝するよ。」
白い空間がなくなっていき、俺は目をつむった。
もう一度深呼吸して、目を開くと見慣れた天井があった。
「神になったってことか」
俺は両手を見ながら、リビングの掃除を始めた。
「そうだ、なんとなく見ておくか。」
俺はスマホを開いて銀行の口座を見て目を疑った。
【銀行口座残高:2億5千万円】