BLOOD RAGE   作:天野菊乃

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はじめまして。
天野菊乃と申します。
この度、ブラック・ブレットの二次創作に挑戦してみようと思い、書かせていただきました。

原作未読の方は1度ブラウザバックして原作を読んだ方がいいと思います。


紅を宿した男
魔獣


 激しい炎の中、青年は地面に倒れ伏していた。

 頭に金属片が突き刺さり、顔面は真っ赤に染ってしまっている。

 手足の感覚がなく、意識も朦朧としていて思考が纏まらない。

 

「 ───ッ!」

 

 だが視界だけは妙にクリアで、夜色の髪の少女がこちらを見ながら何かを叫んでいた。

 あれが一体誰で、声がどんなものだったのか。

 2年経った今でも、俺はあいつが何者なのかを思い出せない。

 

 

 日本列島の離れにある小さな孤島。通称『監獄島』。

 とある囚人を捕らえておくために設立されたその監獄は、ガストレア大戦と同時に崩壊したアルカトラズ島*1をモチーフに設立された。

 経歴のある民警しか立ち入ることを許されておらず、その理由はその奥にいる怪物に食い殺されてしまうという噂があるとかないとか。

 序列1568位、藤堂翔太は自分のパートナーである如月知音と共に黒い金属の門の前に立った。

 

「君が今日来ると言われていた民警の?」

「はい、藤堂翔太です」

 

 門を守護していた警備員は翔太の民警ライセンスを確認すると、携帯端末と懐中電灯を手渡した。

 

「ここに来たということはご存知の通りだと思いますが、ここから先は常識が通じません。奥にいるバケモノになにかされそうになったら逃げるか、命を絶つか。二択を選択してください」

「……わかりました」

 

 翔太の言葉に警備員は小さく頷くと、門を開けて翔太たちを中に招き入れる。

 照明の類は一切なく、人の息遣いと靴の音が妙に響き渡る空間だった。

 採光窓すらなく、鉄格子すらもない。これが、本当に監獄島だと言うのかと疑いたくなってくるほどだ。

 

「私は外におりますので、何かあればそちらの端末を。中で待機している警備員があなたを助けに行きます」

「なるべく使わないようにしますがね」

 

 翔太はでは、と言うと懐中電灯の灯りをつけてゆっくりとその足を踏み出した。

 

「……」

 

 先が見えないほど長い道のりを、懐中電灯の灯りを頼りに進み続けている。

 ここの道のりはアルカトラズ島とは打って変わっり、収監者たちの野次が飛び交ったり、殺気を浴びせられたりはしない。しかし、この異様な静けさが余計に警戒心を上げてしまう。

 翔太は自身の心の内を見抜かれないように知音に語り掛けた。

 

「大丈夫か?知音」

「はい───でも、すごく寒気がします」

「ここからは更に気を引き締めろ。ま、さっきの警備員さんが言っていたとおり、この奥の部屋は警備システムが厳重らしいから、心配は必要ないかもしれないが……」

 

 呪われた子供たちと呼ばれる彼女は、とあるウイルスにより超人的な治癒力や運動能力など、さまざまな恩恵を受けている。

 

「……そんなところなら、私を連れてくる必要はなかったのでは?」

 

 ジト目で問いかけてくる知音に「ペアじゃなきゃここには入れないんだよ。書いてあっただろ」という翔太。

 再び黙り込んだ二人だったが、ふと知音は疑問に思ったことを口にした。

 

「……どうして民警しか入れないのですか?」

「どうしてそんなことを聞く?」

「だって、民警じゃなくたって警察ならその怪物を捕らえておくことくらいは出来るはずでしょう?ガストレアなら、バラニウムの檻の中に入れておけばいい訳ですし」

 

 翔太は数秒沈黙してから唸るような声で呟く。

 

「鉄檻を力ずくで突破しようとした奴だ。警察じゃ止められない。それに、バラニウムの檻でもくたばらない」

「……奴?その言い方だとまるで人間みたいな」

 

 一拍置いて、翔太は言い放った。

 

「……そうだ。ここは、たった一人の人間のために作られた監獄の島だ」

「……ッ!?」

 

 それもそのはず。もしその話が本当だとしたら、この奥にいる人間には普通の人間が持ち合わせている常識が通用しないということになる。

 超人的な力を持っているとはいえ、知音は人間。檻を突破しようにも力が足りない。

 

「……まあ、今では高圧電流が流れている独房に移されたらしいから、その心配もないがな」

 

 軽い口調を叩きながら道を進む。

 進めば進むほど道は深い闇を作り、翔太の手元に握られている懐中電灯の一筋の灯りではとてもじゃないが、心許ない。

 

「……その人は、一体誰なんですか?」

 

 翔太の隣にいた知音が身を震わせながら呟く。

 無理もないだろう。知音はまだ子供だ。

 

「お前は今年で何歳になる」

「10歳です……それがどうかしたんですか?」

「なら当時8歳か……それなら仕方ない」

 

 翔太は生唾を飲み干しながら呟く。

 

「2年前、民警の男が───たった一人の男が起こした豪華客船の大量虐殺事件は知っているか?」

「ええ、知ってますけど……」

 

 知音は首を横に倒すと、それがこれと何の関係が?と言いたそうな目で翔太を見つめた。

 翔太は語った。この先にいるであろう、その怪物の正体を。

 

「この奥にいるのはそいつ───IP序列元二〇位の『紅王(こうおう)』こと御影竜胆。二年前、その大量虐殺を繰り広げたバケモノだ」

 

 この先に『何』が居るかを知った知音は堪らず息を呑んだ。

 

「……ミカゲ、リンドウ」

 

 小さく声を漏らした。

『御影竜胆』の名を聞いたその瞬間、怯えている様子の方が目に映った。

 同時に、パニックに陥って無闇矢鱈に攻撃を仕掛けないという利点もある。

 御影竜胆の存在を知っているならば話は早い。不要な問答をしなくて済むのだから。

 だがそれでもなにか言葉を紡いでおかなければ気が持たない。

 現に、御影竜胆の言葉を口にした翔太の腕は、僅かにだが震えているのだから。

 

「……知っているのか?」

「……勿論ですよ、民警という存在に悪い意味で多大な影響を及ぼした最悪最凶のプロモーター。最初は洗脳されたと言われていましたが、彼が行っていた行為が露見されると、メディアが一斉に非難を始めたとかで。今でもたまに取り上げられたりしてますよね」

 

 知音も何かを話しておかなければ気が持たないというだろうか。暗くてよく分からないが、声が上ずっているのは聞き取れた。

 

「……意思疎通が出来るのに、平気な顔で人間を殺せる。私にはその意味がわかりません」

 

 あれから二年が経過し、世間が御影竜胆に対する評価はこうだ。

 人間離れしたパワーと身体能力、二丁の拳銃を用いて何百という人間を殺害する。その姿は狂気じみていて、とてもじゃないが会話が通用するとは思えない。

 戦闘と殺戮を好む獰猛な獣。それが世間の御影竜胆に対する評価だ。

 

「……ついたぞ」

 

 進んだ先にはなんの装飾も施されていない金属製の扉が立ち塞がっていた。

 より一層禍々しさを醸し出しおり、翔太たちの緊張感が高まる。今からでも引き返したいこの場所こそが彼らの目ざしていた場所だった。

 

「ここから先は何が起こるかわからない。だから、いつでも戦闘態勢に入れるようにしておけ、知音」

 

 腰に納められたニューナンブ拳銃に触れながら扉のロックを解除。額に浮かんでいた脂汗を拭いなら突入する。

 まずはじめに翔太たちを出迎えたのはLEDの眩しい光と、金属光沢を放つ異質な部屋であった。

 そして、その奥。恐らく高圧電流が流れているであろう柵の向こう側にいたのは、体の至る所に錠を嵌められた黒髪の青年だった。

 簡素なベッドの上に横たわっており、その上微動だにしないので死んでいるのではと疑ってしまう。

 

「あれが……御影竜胆」

 

 翔太は震える声で呟く。

 今まで色々な人間を見てきた翔太だったが、ここまで異質な気持ちを抱いたのは生まれて初めてだった。

 まるで、意識が濃密な霧に包まれたようなそんな感覚に陥る。

 

「……ッ」

 

 この男をここで殺さなければならない。そう錯覚してしまう。

 翔太はニューナンブ拳銃に手を伸ばしたまま、息を漏らした。

 

「……何してんだ、俺」

 

 仮にここでこの男を殺せたとして、翔太にとってはなんの意味もない。デメリットの方が大きいだろう。

 答えの出ない迷いにとらわれ、硬直していた。

 その時だった。眠る竜胆の目が僅かに震えた。

 

「……数日ぶりの客が、まさかお前とはな」

 

 脳髄を刺激するような、低く冷たい声。

 感情をまるで感じさせない声に、翔太は体を強ばらせた。

 

「───時は来た、か。俺の拘束を解け」

 

 露わになった瞳は、どんな人間の目にも見出したことの無い、深い赤色だった。

 磨き上げた宝石をそのまま瞳に埋め込んだような、妖しい輝き。

 その瞳を見た瞬間、途方もない寒気と焦燥感に駆られた。

 相手は拘束された人間だというのに、翔太はパニックに陥っていた。

 あまりにも異質だった。到底人間の瞳とは思えない。そう、まるで翔太たち民警が敵として認識している寄生生命体───ガストレアと同じ色をした()()()。違う点をあげればその瞳には明確な感情が篭っていることだろう。

 この感情は見たことがある。これは紛うことなき───殺意。

 

「……出せ、だと?そんなことが出来るわけないだろ」

 

 柵を介して竜胆との会話を試みる翔太。あくまで監視だ。これ以上、ここにいるわけにはいかない。

 そんな翔太に、竜胆は眉間に皺を寄せた。

 

「お前は黙って俺をここから出せばいい。そうすれば、命だけは助けてやる」

 

 それだというのに翔太は竜胆との会話が長引いてしまっている。なぜだろう、とても嫌な予感がする。

 翔太はニューナンブ拳銃を握り、臨戦態勢を取る。

 そんな翔太を見つめた竜胆はやれやれと言わんばかりに首を振ると、その瞳を僅かに細めながらボヤいた。

 

「……。交渉決裂だな」

 

 簡素なベッドの上で竜胆は足を組みながら、知音を見つめた。

 すると、知音は瞑目。口を小さく開いた。

 

「……どうやら、そのようですね」

 

 刹那、翔太の顔面に鋭い痛みが走った。

 後方に吹き飛び、扉に直撃。背中から嫌な音が鳴り響く。

 痛む身体に鞭を打って横に落ちた端末を拾おうとするも、その端末ごと知音に踏みつけられてしまう。

 

「知音……おまえ、一体どういうつもり───」

 

 知音は翔太の口元に人差し指を当てると、妖しく笑った。

 

「藤堂翔太さん。残念ながら、私はあなたのイニシエーターではありませんよ」

 

 知音が首の部分に左手を当て、皮を摘んだ。

 そのまま上へ引き剥がすと、中から現れたのは見知った知音の顔ではなかった。

 

「どうもはじめまして。とても弱い民警さん。私は(たいと)アリア。モデル・レオのイニシエーターです」

 

 金色の髪。翡翠色の瞳。顔立ちは整っているものの、その精巧さが不気味さに拍車をかけていた。まるで人形のような面立ち。それが、目前の少女に抱いた第一印象だった。

 

「急拵えで変装したのですが、ここまで上手くいくとは思いませんでしたよ」

 

 アリアは聞いているだけで歯の根が鳴るような不気味な笑い声を上げる。

 

「……待て。知音は……知音はどうした?」

 

 喀血しながら翔太が言うと、アリアは年齢不相応の笑みを浮かべながら言った。

 

「皮を被るために美味しくいただきましたよ、ええ」

「……殺した、ってことか……!」

「ええ。本当は型を取るだけで良かったのですが、お気に入りの武器を壊されてしまったので腹いせにこう、皮をグイッと」

 

 翔太から端末を奪い去ると、アリアはそれを地面に叩きつけ、力一杯踏みつけた。

 

「心配はないのですが、念の為。これで安心して、竜胆様を解放できます」

 

 アリアは竜胆が捕らえられている檻の近くまで歩くと、その檻に触れた。

 

「……!?高圧電流がなんで……!」

「私がなんの対策もなく来るわけないでしょう」

 

 電気の柵ということだけあって、強度は大したことは無い。簡単に捻じ曲げて人一人通れそうなほどの穴を作るアリア。

 その間をなんの躊躇いもなく竜胆は潜り抜けた。

 首を数回回してから竜胆は翔太が握っているニューナンブ拳銃に視線を映した。妖しい光を放つ赤い瞳で、竜胆は翔太を睥睨する。

 

「……巫山戯ているのか?」

 

 慌てて腰のホルスターに収めようとするも、僅か数瞬で奪い去ってしまう。

 呆気にとられている翔太に、眉一つ動かさずニューナンブ拳銃を睨めつけていた。

 そして───。

 

「お前本当に民警か?こんな玩具で人間を殺せると本気で思っているのか?」

「……人を守るのが民警の仕事だろッ!」

 

 痛む身体に鞭を打ち、立ち上がる翔太。

 そんな翔太を嘲笑うかの如く、竜胆は肩を竦めて言う。

 

「分かってないな、人を殺すのが民警の仕事だ」

「何を言っているッ!?」

 

 竜胆は溜息をついて赤い目を伏せた。

 

「……。わからないって言うなら、それがお前の限界だ」

 

 言いながら竜胆は翔太の胸元向けて発砲。鉛玉が描く軌跡が、翔太の胸元に吸い込まれていった。

 

「あがっ!?」

 

 続けて引き金を引く。翔太の右足、腹、左肩から血が吹き出る。

 苦痛に呻く翔太の髪を掴みながら、竜胆は言う。

 

「まさか、こういう使い方をするためにこれを選んだのか?」

「……ッ!!」

「……話にもならないか」

 

 赤い瞳を伏せながら竜胆は息を吐いた。

 翔太を地面に投げ捨てると、最後の一発を天井に向けて発砲。翔太の足元にニューナンブ拳銃を放る。

 

(たいと)アリア。こいつの処分はお前に任せる。煮るなり焼くなり好きにしろ」

「そんなことをしなくても彼はどの道死にますよ?」

「言葉を変える。この男を殺せ」

「畏まりました」

 

 アリアは息も絶え絶えな翔太に覆い被さるように身を寄せた。

 

「最後に一つ……今度生まれ変わる時は、私たち道具から目を離さないようにするのですよ?」

 

 翔太の両頬を包み込むように手を這わせるアリア。そのまま口を大きく開くと、アリアは翔太の首元に噛み付いた。

 

 

 

 数時間後。監獄島は原因不明の爆発によって消滅。

 

 その死亡者リストには藤堂翔太と如月知音、そして数名の警備員の名前が記されていたが、その中に『御影竜胆』の四文字はなかった。

 

 

 

魔獣/Demon Beast

 

 

 

「今回のガストレアは小物だったな!蓮太郎!!」

 

 帰り道、モヤシ二袋に卵一パックしか入っていないエコバッグを揺らしながら里見蓮太郎と藍原延珠は歩いていた。

 明朗快活を体現化したようなこの少女に、蓮太郎は目線を向けた。

 

「……ガストレアはガストレアだろ。大物も小物もねえよ」

 

 蓮太郎は手にしていたビニール袋を小さく掲げると、ため息を吐いた。

 タイムセールで報酬を受け取り損ねた挙句、社長にこっ酷く叱られ、そのタイムセールは見事惨敗。蓮太郎は堪らずがくりと肩を落とした。

 

「まあそう落ち込むな!次がある!!」

 

 延珠はこう言ってくれてるが、報酬を受け取り損ねて叱られるのは既に一〇を越えている。ついてねえなあとボヤきながらボロアパートへの道を歩いていると、携帯端末からけたたましいアラート音が鳴り響いた。

 んだよ全くとボヤきながら、携帯端末を取り出し内容を見て絶句。思わず歩を止めてしまう。

 

「蓮太郎、どうしたのだ?そんな浮かない顔をして」

「……いや、なんでもない」

「……?変な連太郎」

 

 蓮太郎はふるふると首を振ると、ポケットに携帯端末を放り込んだ。

 携帯端末の文字にはこう記載されていたのだ。

 

【死刑囚、御影竜胆の脱走】

 

 と。

 

 

 

 

 

 

 

 誰かが言った「人を恐怖させる物の条件」は三つだと。

 

『人語を介さない』『正体不明』そして、『不死身』。

 

 18世紀中頃に現れた怪物、『ジェヴォーダンの獣*2』はそのうちの二つを有していた。

 

 人間ではない。それだというのに残虐非道な行為を繰り返し、その正体は謎の包まれている。

 この生き物の伝えられた殺害方法は捕食動物としては異常で、獲物の頭部を標的にし、普通ならば狼やライオン等と捕食動物が狙う脚や喉を全く無視していた。

 獣が狙うは頭部。大体は砕かれるか食いちぎられていたという。

 

 オオカミやハイエナ、ハイブリットウルフといった説があるが、ナマケグマや狼男という説もある。

 そんな正体不明の獣だったが、目撃した人間たちは口を揃えてこう言うのだ。

 

 ───獣の背中には、黒く長い一筋の縞模様がある、と。

 

 

 そして、21世紀現在。

 

 悠久の時を経て、災厄の獣は再びこの世に生まれ落ちたのだった。赤い瞳を宿した、一人の人間として。

*1
アメリカ合衆国カリフォルニア州のサンフランシスコ湾内、サンフランシスコ市から2.4kmのところに浮かぶ面積0.076k㎡の小島である。昔は灯台、軍事要塞、軍事監獄、そして1963年まで連邦刑務所として使用されていた。

*2
18世紀のフランス・ジェヴォーダン地方に出現した謎の生物。1764年から1767年にかけマルジュリド山地周辺に現れ、60人から100人の人間を襲った。




御影竜胆
性別:男
年齢:24
誕生日:6月19日
星座:双子座
身長 188cm
体重 80kg
所属:脱獄犯

【備考】
元IP序列20位の民警。
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