BLOOD RAGE   作:天野菊乃

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紅蓮

 会談が終了した聖天子は小さく息を吐いた。

 こんな予定ではなかった。蛭子影胤という男が入ってくることさえなければ、穏便に事が進んだはず。これもまた、自分の実力不足なのだろうか───。

 意気消沈していたそんな時だった。凄まじい勢いで聖天子の私室の扉が開かれた。

 

「何事だ」

 

 菊之丞は入ってきた自衛官を睨めつけるも、直ぐに愕然とした表情に変貌し、聖天子は顔を青ざめて小さな悲鳴を漏らした。

 普通の人間ならまずありえない方向に左腕が曲がっており、胸には巨大な風穴が開いてる。加えて、僧帽筋部分が見事に断ち切られており、夥しい量の血が噴出していた。

 

「お初にお目にかかります。東京エリア国家元首聖天子様とその補佐官の天童菊之丞様」

 

 自衛官が倒れると同時に、背後から現れたのは小柄な少女だった。

 身の丈を優に超える鎌を背負い、返り血を浴びたのだろう、血だらけになったセーラー服が更に異様な雰囲気を醸し出していた。

 

「私はアリア。(たいと)アリア。モデル・レオのイニシエーターです。以後、お見知りおきを」

 

 アリアと名乗った少女は、微かに罅の入った赤い縁の眼鏡を「割れてるからもういらないですね」と言って踏み潰した。足で踏み躙ってから幾分か満足したのか、顔を上げて首を傾げる。

 

「どうかしましたか?そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔をして。安心してくださいよ、別に取って食おうって訳じゃないんですから」

 

 そう言って笑いかけてくるも、返り血とその悍ましい雰囲気から狂った殺戮者としか見えない。いや、事実自衛官のひとりが無惨な殺され方をしているのだから、狂った殺戮者なのだろう。

 恐怖で完全に硬直してしまっている聖天子の代わりに菊之丞は訊ねた。

 

「……イニシエーターか。ここに何をしに来た。まさか聖天子様を殺しに来たのか?」

「そんなわけないじゃないですか。あなた方を殺すのならこんな回りくどい真似をしないで聖居ごと爆破してますよ」

「……なら、何の用だ」

「私のマスターがあなたがたを呼んでいます。着いて来てください」

 

 案内された場所は精緻な白い扉の前だった。金の装飾が施された取っ手の部分には血痕がついており、その下には頭蓋が陥没した人間の顔があった。

 

「……酷い」

 

 聖天子の口からそんな言葉が零れる。すると、アリアはぐるりと顔を回転させた。

 

「可憐なお花にはこの光景はキツすぎましたかね。ですが、ここから先はもっと覚悟しておいた方がいいかと」

「……可憐なお花とは、私のことですか」

「あなた以外この場所にはいませんよ」

 

 言いながら扉をゆっくりと開けるアリア。そして、そこに広がっていたのはあまりにも凄惨な光景だった。

 レッドカーペットの上に数人の人間が無惨に転がっており、大理石の階段は血で染っていた。

 脈を確認しなくても分かる、死んでいる。

 頚を折られた者、頭を握り潰された者、身体に無数の銃痕が刻まれた者───これが、人間の死に方なのかと疑いたくなる光景に、思わず息を呑んだ。

 そしてその頂上。本来ならば聖天子が優雅に腰掛けている筈の玉座の上には、黒衣の男が腰掛けていた。

 

「───予想外のハプニングに随分と手間取ったようだな」

 

 オットマン代わりに積み重なった人間の亡骸を使用しており、ワイングラスを傾けるその姿は魔王を彷彿とさせる。

 もし魔王が存在して、人間の姿をしているのであれば、きっとこのような行いをするに違いない。

 

「先代ならもう少し上手くやっていたがな、三代目聖天子」

 

 黒い頭髪から覗く赤く鋭い眼光に貫かれた聖天子は思わず生唾を呑んだ。

 明らかに異常だった。目前の男から感じられる雰囲気は人間のそれではない。先程の蛭子影胤の方がまだ人間味があっただろう。

 しかし、玉座に座る男からそれは感じられない。あるのはあまりにも純粋で、濃密な殺気。全身が串刺しにされたのではないかと錯覚してしまう程だ。

 

「……どうしてあなたがここに」

 

 男は悪辣な笑みを浮かべながら、やれやれと言わんばかりに首を振る。

 

「名前くらい呼べよ、失礼な国家元首殿だな」

 

 頬杖をつきながら目を細める黒衣の男。

 この空間を支配するほどの重圧に動けなくなってしまった聖天子。冷や汗を垂らしながらも辛うじて動けた菊之丞は、聖天子を守るように立つ。

 菊之丞は黒衣の男を静かに睨めつけると、喉を震わせた。

 

「……やはり貴様か、御影竜胆。一体何をしに来た?態々捕まりに来たわけではあるまい」

「俺を捕まえる?ボケ倒すにはまだ早すぎる年齢だろ、天童菊之丞」

「……!」

「そう怒るんじゃねえよ。相変わらず気の短いクソジジイだな」

 

 竜胆と呼ばれた男は聖天子の方に視線を戻すと「思い出すな」と言いながら足を組む。

 

「数年前はまだ乳臭い餓鬼だったお前が、今じゃ東京エリアを統治する聖天子になった。俺が監獄島に閉じ込められている間に何があったのかは知らねえが、世も末だな」

「なんだと?」

 

 竜胆の言葉に菊之丞が鬼の形相で呟くも、さして気にした様子もなく話を続ける。

 

「なにか間違っていることを言ったか?血で血を洗うこの地獄()に、三代目聖天子という華は国家元首として頂点に君臨している。滑稽だとは思わねえか?」

「……何が言いたい」

「はっきり言ってやるよ、天童菊之丞。そこの女は頂点に君臨するには肉体的にも精神的にも脆すぎる」

 

 立ち上がり、聖天子たちの方へ一歩ずつ近づく竜胆。

 そして、聖天子との距離が三メートルを切った瞬間───何の前触れもなく菊之丞が竜胆の目前に現れ、渾身のストレートが繰り出された。風を切る音ともに放たれたその拳は竜胆に直撃する寸前、竜胆は簡単にその攻撃を防いでみせた。

 

「天童式戦闘術一の型八番、焔火扇……手の速さも相変わらずか。数年前から何も変わってねえな、お前は」

 

 眉を顰めながら菊之丞を見据える。そんな竜胆に菊之丞は歯を剥き出しにして吼える。

 

「この怪物が……!」

「怪物だろうが悪魔だろうがバケモノだろうが構わねえ。お前が俺に勝てないのは事実だしな───それにいいのか?菊之丞。お前がこうして離れている間に大事な国家元首殿が後ろの餓鬼に殺されるかもしれないぜ?」

「……ッ!?」

 

 そうだ。今の竜胆は一人ではない。龘アリアという仲間がいる。もし菊之丞が離れた瞬間、聖天子抹殺を試みられていたら?

 我に返った菊之丞が背後を振り向く。しかし、菊之丞の予想は大きく外れ、件のアリアは扉の前で静かにこちらを伺っているだけだった。

 その間、0.1秒。その僅かな一瞬を見逃すほど御影竜胆という男は甘くない。

 

「───甘えよ。守るべき者があるお前が、この俺に勝てると思うんじゃねえ!!」

 

 そのまま菊之丞の横腹を蹴り飛ばす。鞭のように振るわれた一撃は菊之丞に突き刺さるも、すぐさま回避行動を取っていたお陰で大したダメージは入っていなかった。

 しかし、あと数秒反応に遅れていたら肋の数本は持っていかれていただろう。

 

「浅いか。流石は天童流免許皆伝者だ。褒めてやるよ」

「御影、竜胆……!」

「別にお前の相手するのは構わねえが、次はねえぞ。聖天子のその服が真っ赤に染るところは見たくないだろ」

 

 後方から金属音が聞こえる。背後を振り向けば、アリアが自身の武器であろう大鎌を手にこちらを見つめていた。

 最悪の気分だった。この場所がもし聖拠ではなく、もっと別の場所で、加えてそこに聖天子がいなければ、まだ対等に戦えたはずだというのに。

 しかし、今はどうだ。今の菊之丞は力こそあるが枷がある。反面、向こうは数千人という人間を無表情で殺害することが出来る文字通りの悪魔だ。聖天子を殺すことなんて造作もないだろう。この状況に立たされている菊之丞に、最初から勝ち目などなかったのだ。

 菊之丞は歯を噛み締めると、大人しく聖天子の真後ろに立ち、竜胆を睨めつけた。

 

「そうだ。最初からそうしていろ」

 

 ただ一言そう言うと、竜胆は聖天子に目線を戻した。

 

「そもそも今回の目的はお前らを殺すことじゃない。それはそこの餓鬼から聞いているはずだったんだがな。番犬のリードはちゃんと握っておけよ」

「……ええ。確かに聞いています」

「おいおい、冗句を軽く返せるくらいの余裕は持ったらどうだ?」

「それで……要件とは」

 

 ようやくこの重圧に慣れてきたのか、聖天子は脂汗を垂らしながら竜胆に訊ねる。

 

「無視か……つまらねえ野郎だ。まあ簡単な事だ。国家元首殿主催の大レースに俺も参加させてもらおうと思ってな」

 

 竜胆のまさかの返答に聖天子は目を丸くした。

 赤い眼孔が、聖天子の姿を映し出している。その光景に若干の恐怖を抱くも、聖天子は平静を装って口を開く。

 

「……『七星の遺産』が目当てですか?」

「どうしてそう思った?」

「会話を聞いていたのなら、その可能性が高いかと思った迄です」

「正解……と言ってやりたいところだが、残念ながら違う」

「ならどうして?」

 

 その言葉に竜胆は腕を組みながらうっすらと目を細めた。

 

「この二年で鈍った感を取り戻すためだ。それに参加者には新人類創造計画の人間も含まれていやがる───相手にとって不足はない」

「───それだけが目的ではないでしょう」

「さあな、国家元首殿。答えてやる義理はない。さあどうする?答えは『はい』か『イエス』の二択だ」

 

 選択肢は最初から一つしかないらしい。聖天子は数瞬、沈黙してから目を閉じた。

 

「……わかりました」

「交渉成立だな。これで俺たちは失礼させてもらおう」

 

 竜胆はコートを翻すと、聖天子の横を通る。そして、竜胆が部屋から出る瞬間───何を思ったか竜胆は足を止めて聖天子の方へ振り返った。

 

「おい三代目」

「……今度はなんです」

「この東京エリアは必ず俺が貰う。それまでそこの玉座、しっかりと温めておけよ」

 

 そして、今度こそ竜胆は部屋から出ていったのであった。

 

 

 

【紅蓮/Crimson】

 

 

 

 音響信号の音が聞こえた瞬間、アリアは目を覚ました。

 瞬時に周囲を見渡して、ここが車の中だということを思い出したアリアは、小さく息を吐いてから天井を見上げた。

 一緒に乗ったはずの竜胆がいない。彼自身、脱走中の極悪人ということを理解して欲しいものなのだが。

 アリアはタクシーの運転手に近くで下ろすように言うと、会計を済ませてそのまま外に出た。

 成人男性を自由にさせるくらいどうってことないのだが、相手はあの御影竜胆。アリア自身も大概だが、人に対してなんとも思っていない彼を野放しにはしておけない。

 アリアは鬱々とした表情を浮かべながらゆっくりと歩き始めた。

 

「……」

 

 幸せそうな家族が、仲睦まじいカップルが、アリアの視界に飛び込んでくる。

 役に立たない愛情を振り翳す人間共を見て、顔を顰めた。何も知らず愛と平和を騙る人間たちが、アリアは大嫌いだった。

 ここで聖居で行ったような残虐行為を行えば、自分の心も少しは晴れるだろうか───なんて思考回路が働くも、急に馬鹿らしくなってやめた。

 力ないものを力で捩じ伏せたとしても得られるものは何も無い。得られるものは虚無感と恐怖心を植え付けることだけだろう。この心の飢えは、決して埋まることは無い。

 

「これも、全部あの人のせいということにしておきましょうか」

 

 言いながら引き返すアリア。もしかしたら、先に拠点に戻っているかもしれないという限りなくゼロに近い期待を抱きながら。

 拠点としているモノリス近くの建造物に入ろうとしたその時だった。

 パトカーがアリアの横を通過したのだ。

 

「……」

 

 ただ横を通過しただけなら気にも停めなかっただろう。しかし、ここは外周区近くだ。交番や警察署など、この近くには何処にもない。

 浮浪者やならず者たちが集まるこの最悪の土地に、やってきたということはつまり───気づけば、アリアはパトカーを追っていた。

 幸いなことに、パトカーは数百メートル先の廃ビルで止まり、追跡には困らなかった。あたりは静まり返っており、目につく範囲で人の影はない。

 鉄柵を飛び越えようとした瞬間、銃声。どうやら手遅れだったらしい。

 しかし、そんなこともお構い無しにアリアはその現場に飛び込んだ。

 

「国家の権力者たちが揃いも揃って外周区(こんな場所)に。しかも子供相手に発砲とは随分と暇なんですね」

「───!」

「まったく、羨ましいです。その暇な時間を私に分けて欲しいくらい」

 

 角刈りの警官が拳銃を握ったままアリアの方を振り向く。

 

「貴様は……!」

「ええ、あなた達が大っ嫌いな赤眼───『呪われた子供たち』ですが、なにか?」

 

 銃口を突きつけられるも、アリアはさして気にした様子もなく続ける。

 

「まったく、穏やかじゃないですね」

 

 角刈りの男が持つ銃と夥しい量の血を流す少女を見比べ、鉄骨が剥き出しになった天井を見上げた。

 数秒、剣呑な雰囲気がアリアたちを包み込む。

 

「……だからこういう人間は嫌いなんですよ」

「……!?」

 

 刹那、角刈りの警官の顎をアリアは蹴り飛ばしていた。

 防御も受け身も取れず、警官は数メートル先の柱に衝突。

 コンクリートの柱に体が叩きつけられ、放射状のヒビが入る。

 悶絶する角刈りの警官。突然の事で呆気に取られる眼鏡の警官にゆるりと近づき、その股間を蹴り上げて態勢が崩れたところを踵落とし。

 そのまま眼鏡の警官の頭を踏み躙っていると、重たい金属の音が耳に飛び込んできた。

 

「う、動くな……!」

 

 角刈りの警官が銃をこちらに向けていた。

 

「……へえ?」

 

 銃口が跳ね、照準は出鱈目。このまま直立不動していたとしても、彼は外すだろう。

 わかった上でアリアは微笑を浮かべながらくすくすと笑いながら歩み寄る。

 

「う、動くな!本当に当てるぞ!?」

 

 そう警告するも、アリアは歩みを止めずに近づく。あと数秒もしないでアリアは角刈りの男の元までたどり着くだろう。

 

「どうしたのです、この距離なら当てられますよ?」

「……!」

 

 銃声。真鍮色の空薬莢が排出されると共に、鉛玉が発射される。凄まじい速度でアリアに襲い掛かる。数秒もせずに鉛玉はアリアの胸部に突き刺さった。

 しかし、鮮血が吹き出すどころか、血すら滲んでこない。一体どういうことなのだ。

 アリアは余裕に充ちた妖しい微笑を浮かべたまま呟いた。

 

「ダーウィンが唱えている説の中にこういうのがあります。『ライオンの鬣は敵の攻撃から身を守るためにある』。今では強さのシンボルとして言われているそうです。無論私は(おんな)なので鬣なんて生えてませんが、急所となる部分にはちゃんと対策してあるのでその拳銃じゃ私は殺せませんよ」

 

 何が起こったのかわからない角刈りの警官は目を白黒とさせていたが、アリアが目と鼻の先の距離まで来ると、その表情を恐怖に染め上げた。

 

「心外ですね。どうしてそんなに怯えるのです?あそこの子を撃っていた時は随分と楽しそうな表情(カオ)をしていたというのに、私に対して浮かべる表情(カオ)がそれとは如何なものかと」

「な、なん……こ、この……ば、バケモノッ!」

「その通りです。私たち赤眼はバケモノ、何も間違ってません」

 

 クスクスと笑いながら、警官の拳銃を奪い去った。

 

「弾数は残り一発……そこで伸びてる人のも含めると計二発くらいでしょうか。まあ仕留めるだけなら丁度いいでしょう」

 

 アリアは拳銃を警官の眉間に照準すると妖しく笑った。

 そのままゆっくりと引き金に指をかけて引こうとしたその時だった。

 数メートル先から物音が聞こえ、アリアは銃口をそちらに向けた。

 

「誰です」

 

 アリアの視線の先、そこに居たのは黒髪の少年だった。

 ブラックスーツのような制服に、黒いブーツ。幸薄の顔と第一印象は外周区に迷い込んだ高校生だったが、少年から香る僅かな火薬の匂いにアリアは目線を鋭くした。

 

「……民警ですか。今は高校生もやるんですね、民警」

「今……何をしようとしていたッ」

「何っておかしなこと聞きますね」

 

 アリアは拳銃と少年、交互に見つめながら小さく笑った。

 

「排除ですよ」

「自分が何言ってるのかわかっているのかッ!?」

「わかってなければこんなこと言いませんよ」

 

 アリアは再び警官のほうに顔を戻すと、手に握っていた拳銃を向けた。

 

「……!や、やめ」

「───何かを殺すって言うのに自分は殺される覚悟はない。おかしなことだとは思いませんか?命を奪うっていうのはこういうことです」

 

 警官が何か言葉を発そうとした瞬間。

 アリアは躊躇も逡巡もなく引き金を引いた。

 鉛玉が警官の頭蓋に命中、体が一瞬跳ねたかと思うと、それきり何も言葉を発さなくなった。

 

「命中、ですね」

 

 短く息を吐き、拳銃を地面に捨てる。

 

「さて、お待たせいたしました民警さん。これからどうしますか?私と戦いたいというのならどうぞご自由に。かかってくるというのであれば絶対的な力で捩じ伏せるまでです。もしくはあなたの本来の目的であるそこの女の子の救済。そうするのであれば、見逃してあげます。ですが、そこにころがっている警官の命は保証しません」

「……てめえ」

「そんな怖い声を出しても答えは変わりませんよ。さあ、選んでください。あらかじめ言っておきますが、どっちもという選択肢はなしです」

 

 少年は数瞬考える素振りを見せて顔を俯かせていたが、そのままアリアの横を素通りすると、夥しい量の血を流す少女を抱き抱えた。

 

「賢明な判断です、民警さん」

「……るせえ」

 

 少年はそのまま少女を抱えたまま消えていった。

 アリアはその後ろ姿をしばらく眺めていたが、「さて」と呟くや否や、後方でガタッ!という音が聞こえてきた。

 

「まさか見逃すとお思いで?彼があの子を選んだ時点で、あなたの生殺与奪の権利は私が握っているのですよ」

「……!」

 

 アリアが眼鏡の警官に手を伸ばす。そして、その髪を掴むと自分の顔の位置まで持ち上げていた。

 

「───お世辞にも美味しいとは言えないでしょうが、これからの為にあなたたちの素材は有効活用させてもらいますよ」

「そ、そざ……!?」

「そんなに狼狽えて……可哀想に」

 

 アリアは口を大きく開くと、警官の首に噛み付いた。

 

「では、ゆっくりとおやすみなさい。名の知れぬ警官さん」

 

 そのまま首の肉を噛み千切り、警官はショックで意識を失った。

 




次回『蒼碧:Blue』

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