やぁ、ハヤトーです。まずゾンビ供、お前らから血祭りにあげてやる!
「っと、その前にシスティーナとテレサを保護しないとな。『魔技解放』」
なんか結界みたいな魔法あったっけな?うーん。
「そうだ、あれがあったな。『堅固たる護り手の調べ、フォースフィールド』!」
寝ているシスティーナとテレサの周りを囲うように透明な結界を張ってと。
「さて、ゾンビ狩りの時間じゃぁぁぁぁぁ!」
俺はゾンビの群れに突っ込んでいって、まず1体目を蹴り飛ばす。その次に2体目の体を真っ二つにする。
「まだまだぁ!」
三体目の首を斬り、四体目も同様に斬る。その後、払い斬りでゾンビ供を吹き飛ばす。
「『雷雲よ、我が刃となりて敵を貫け、サンダーブレード』!」
吹き飛ばし切れなかったゾンビ供に向けて雷を纏った巨大な剣を上からぶっ刺す。これで何体目だ?
「クスクス、隙だらけですわよ?『吠えよ炎獅子』」
「何っ!?あっつ!」
ぐっ!『ブレイズ・バースト』を背中にもろ喰らった。体が焼けちまう!
「逃げたと思いましたか?残念、気が変わったのですよ。」
「そのまま帰れよ!戻ってくんな!」
「あら、冷たいお方。こんなにも美人な人に冷たくするなんて、もったいないですわよ?」
確かにエレノアは見た目は美人だ、けどこいつから危ない匂いがプンプンすんだよ!
「ほらほら、私に気を取られてていいんですか?私の子供達も遊んでほしいと言っておりますわよ?」
「あぐっ!遊ぶなら、ラグー○シティにでも行ってろや!」
俺の背中を爪で切ってきたゾンビをエルボーで頭を吹き飛ばす。続けて横にいたゾンビにアッパーカットをして怯ませ、腹を切り裂く。
「面倒くせえ!一網打尽にしてやる。『渦巻くは、紺青の誘い、メイルシュトローム』!」
俺の足元に次第に大きくなる渦潮を展開し、ゾンビ供を捩ってぐちゃぐちゃにする。これで大分減ったか?
「あぁ!私の知らない魔術ばかり、もっとお見せくださいませハヤト様!」
「うるせぇ!黙りやがッ!」
くそっ、バラバラになった筈のゾンビの腕が俺の足に刺さっていやがった。『メイルシュトローム』じゃ駄目か!
「あのくらいの魔術では、私の子供達を倒すことは出来ませんよ。」
「だったらお前を狙えばいい!『抜砕竜斬』!」
俺はエレノアの背後を駆け抜けるのと同時に居合い斬りを放ち、エレノアの両手を斬り落とす。
「剣術も見事な腕前、段々貴方が欲しくなってきましたわ!」
「丁重にお断りす……っち、再生しやがったか。」
一瞬で再生しやがった。何なのお前?魔人○ウか何かですか?
「さて、今日はこのくらいで引き下がると致しましょう。あとは私の子供達とお過ごしください。」
「待ちやが「あと、後ろにご注意くださいませ。」がはっ!!」
振り向いたらゾンビがナイフを俺に投げ付けた。ゾンビも武器持つのかよ!
「はぁ、はぁ、くそったれが!」
ゾンビ女には逃げられるし、さっきの投げ付けられたナイフは肩と腹に刺さったし。うげっ、頭にも刺さったのか。
「おいハヤト!聞こえるか!?」
「んだよグレン!?こっちは忙しいんだ!通話なら後にしろ!」
「じゃあ勝手に話すからな!転送塔にルミアが捕らわれているんだが、その転送塔の入り口をゴーレムが数十体で守っているんだ!」
そっちは足止めを喰らってるのかよ。用意周到な黒幕だな本当!
「『ブレイズ・バースト』を使えば倒せるが、一体だけなんだ!」
「分かった、なら俺がそっちに行ってなんとかしてやるからそこから動くなよ!」
俺はグレンが『イクスティンクション・レイ』で消滅させた壁から外に飛び出す。ゾンビ共もこっちに向かってくるな。
「さて、楽しい鬼ごっこといこうか。あっ、頭に刺さってるナイフは抜いとかねぇとな。」
******
「来たかハヤト……って後ろにいるゾンビの大軍は何なんだよ!?」
グレンのいる転送塔の前までゾンビと鬼ごっこしながら向かっていると、グレンが俺を見て一瞬安堵したけどゾンビを見てギョッとした表情になった。
「傍迷惑なメイドが置いていったんだよ。いやぁ、モテる男は辛いねぇ~。」
「ゾンビなんかにモテても嬉しくねぇな。さてお前も見たから分かると思うが、転送塔の入り口を守るようにゴーレムが徘徊している。どう突破する?」
突破?なんだそんな簡単な話かよ。
「よしグレン、転送塔の方を向いてろ。」
「あ?あぁ。」
グレンは俺の言葉通りに転送塔の方に体を向けた。さてと、グレンから少し距離を取ってと。
「ハヤト?こっから何すればいいんだ?」
「喋らない方がいいぞグレン?舌噛むかもしれないからな。」
「おい、本当に何す「ぶっ飛びやがれ!『獅子戦吼』!」ハヤトてめぇぇぇぇぇぇ!!」
助走を付けてグレンの背中に獅子の形をした闘気を叩き付け、転送塔の入り口目掛けて吹き飛ばす。ゴーレムなんか無視するに限るからな。
「おし、グレンは無事に転送塔の中に入ったな!」
「無事じゃねえわ!傷口がバックリと開いたぞ!どうしてくれんだハヤト!」
文句言うなよグレン。これしか方法が思い浮かばなかったんだよ。
「ほら、さっさと登ってルミアを助けに行け。俺は後ろから迫ってくるゾンビとゴーレムを倒してから行くからな。」
「……すまねぇ、そっちは任せたぞ!」
グレンは転送塔の階段を登っていったな。さて、そろそろゾンビが俺に追い付いてくるし、ゴーレムは俺に気付いてこっちに向かってきたな。
「グレンがルミアを助けた後にこいつらが居たらヤバいからな。しかも半端な魔法じゃ駄目だろうし、これは完全に消滅させねえとな。いいぜ、やってやるよ。」
切り札の一つを使っちまうけど、仕方ないか。こいつら野放しにしたら教え子達が危ない。
「『天光満つる処に・我はあり・開け黄泉の門・この名を持ちて出でよ・神の雷・インディグネイション』!」
ゾンビとゴーレムを囲うように紫の巨大魔法陣を展開させ、上空の遥か彼方から巨大な雷を撃ち落とす。威力?『イクスティンクション・レイ』と同等と考えてくれればいい。
「ゲホッ!ゴホッ!流石秘奥義、威力がえげつねぇし、持っていかれるマナもえげつねぇ。」
ゾンビとゴーレムがいた所の建物は消滅し、見るも無惨な姿になっていた。システィーナとテレサ?大丈夫、結界で守ったから無事だ。多分。
「あっ、さっきの『インディグネイション』で学院の建物が崩壊寸前じゃねえか。」
後でセリカに怒られるな絶対。いや、これはテロリストのせいにすればいいんだ!俺は悪くねぇ!
「って呑気にそんなこと考えてる場合じゃねぇ!早く俺も転送塔を登らねぇと!」
******
「先生!私に構わず逃げてください!」
「うるせぇ!少し黙ってろ!」
ルミアが捕らえられている所の階段を登っていたらグレンとルミアの声が聞こえてきた。ルミアを拘束している魔術が凄いのか。
「これ以上魔術を使い続けたら先生が死んじゃいます!」
「あぁ、そりゃ白猫が大喜びだな!」
くそ、今すぐにでも助けに向かいてえけど、体が言うこと聞かねぇ!魔技を使い過ぎたか、まるで鉛を背負ってるみたいだ!
「そんな!どうしてそこまでするんですか!?自分の命を賭けてまで!?」
「俺は、正義の魔術使いに憧れていた。だが魔術の世界には薄汚ない血みどろの現実しかなかった。ほんと、人生の無駄遣いだったよ。」
確かにな、グレンの言う通りだ。本当に、あの3年間は何をしていたんだかわからねえよ。
「それでも、やっぱり諦め切れないんだよ!」
グレン、大切な人であったセラを思い出しているのか。そうだよな、諦め切れねえよな!
「ここで逃げたら、俺の人生は一体何だったんだ?正義の魔法使いに賭けた人生、無意味だったのは分かっている。だが、無価値にだけはしたくねえんだ!」
あぁ、その通りだ。俺も逃げたら、あいつに、シェリーに合わす顔がねぇ!
「文句あるかこんちくしょぉぉぉぉぉ!」
「残り一層、先生!」
俺が着く前に終わりそうだな。でも、嫌な予感がする!
「がはっ!こ、こんなところで!」
「先生!!」
グレン、もう少しだぞ。踏ん張れよ、踏ん張りやがれよ!
「くそっ、冗談じゃねえ。こっちのマナが先に切れるなんて!」
「先生!しっかりしてください!」
「だが、これを解けば!!」
「そう上手くは行きませんよ。」
何だ?犯人の声か?一体どうなった!?
「な、何で……。グレン先生が解除した筈の魔方陣が再び現れるなんて。」
「残り一層になった時、予備の魔力でもう一度転送魔法陣を作るようにしておいたんですよ。もしもの時の為にね、念を入れておいて正解でした。」
この声、前任のヒューイか!ふざけやがって!
「はぁ、はぁ、ごめんなルミア。」
「先生!グレン先生!起きてくださいよ!?」
「ゲームオーバーですグレン先生。さて残り3分、そろそろですね。」
「何がゲームオーバーだくそ野郎。」
俺は半開きになっていた扉を蹴り飛ばして中に入る。中央には魔方陣に捕らわれているルミア、その斜め前にはヒューイ。そして、魔法陣の前で倒れているグレンがいた。
なるほど、転送魔方陣を書き換えてルミアを何処かに飛ばそうとしているのか。しかも飛ばした後にヒューイの魂を使って大爆発を起こすようになっていると。
「おや、貴方がもう一人の先生ですか。でももう何もかもお仕舞いですよ。」
「ハヤト先生逃げてください!グレン先生と一緒に逃げてください!」
逃げる?そんな選択肢はねえんだよ。
「逃げねえよ、俺もグレンも。魔法陣を解除してルミアを助けるからな!」
「残り3分で何が出来るんですか?貴方の『魔技解放』は解除魔術はないはずです。『愚者の世界』はもう切れてますけどね。」
んなこたぁわかってんだよ!そもそも『魔技解放』はここでは使わねぇ。
「ルミア、今助けるからな。」
「どうして、どうしてそこまでするんですか!?私には守られる価値なんてないのに。そんな傷まで負って。」
所々に血の痕、なるほどな。
「グレン、お前はやっぱりすげえよ。」
俺は両手首を噛み、懐から巻物を取り出して開き、それに端から端まで一直線に血の線を引き、それを振り回して術式を唱える。
「ルミア、文句は後で聞いてやる。『原初の力よ・我が血潮に通いて道を為せ』!」
『ブラッド・キャタライズ』の詠唱が終わると俺の左腕が青白く光始める。出来れば使いたくない手段だけど、そうも言ってられないからな。
『ブラッド・キャタライズ』は自身の血を魔力処理&触媒化させる魔術。これによって解呪による魔術式の文字を描いたりすることが出来る。
「スゥー、フゥー。オラァ!」
「ハ、ハヤト先生!?何しているんですか!?」
「まさか、そこまでするとは。本当に貴方達には恐れ入ります。」
ルミアとヒューイは驚いているな。無理もない、俺は背中に隠してある刀を右手に持って、左肩から先を切り落としたからな。
「グレン!俺が四層解除するから残り一層はテメェが解除しやがれ!『終えよ天鎖・静寂の基底・理の頚木は此処に解放すべし』!」
切り落とした左腕を魔方陣の上に投げ捨て、左腕を魔術触媒にして黒魔犠『イレイズ』の詠唱をし終わると、転送魔法陣の五層の内四層が解除された。
『イレイズ』は解呪をおこなうことが出来る魔術だ。左腕を犠牲にしたからあわよくば全て解除出来ると思ったんだが、そう甘くねえか。
「くっ!出血が止まらねぇ!『魔技解放』から『光よ集え、全治の輝きを持ちて、彼の者を救え、キュア』!」
回復魔法を使って左腕を再生したけど、傷口から出血が止まらねぇ。マナがもう残ってねぇのか!
「もういいです!どうして、どうしてそこまでするんですか!?グレン先生もハヤト先生も!?」
「どうしてだって?教え子を守るのが講師の役目だ。それに、救える筈だった人を救えなかった。そんな事はもうしたくねえんだ!!」
体が、動かねぇ。あと数十歩歩くだけでいいんだよ!動けやくそったれぇぇぇぇぇ!
「グレン先生やハヤト先生がボロボロになるまで頑張ってくれている。私だって、私だって!」
そう言ってルミアは閉じ込められている所を無理やり穴を空けてグレンの体に触れた。
「やった、諦めなかったから届いた!先生、受け取ってください。」
ルミアがそう言うと、グレンの体が黄色い光に包まれた。この力!なるほど、だからルミアは狙われたのか。
「ッ!魔力がみなぎってくる。」
噂程度には聞いていたが、触れたものの魔力を爆発的に高める異能を持つ存在である『感応増幅者』!グレンの魔力をほぼ回復させやがった、これほどとはな!
「『終えよ天鎖・静寂の基底・理の頚木は此処に解放すべし』!!」
グレンは血を媒体にして『イレイズ』を唱え、転送魔法陣を解除した。って力込めすぎだろグレン!衝撃が半端ない!
「僕の、負けですか。組織の言いなりになって死ぬか、組織に逆らって死ぬか、僕はどうすれば良かったんでしょうかね。」
「知らねえよ、同情はするが自分で道を選ばなかったお前が悪いんだろ。てめえの不始末は、てめえで片付けろ!」
グレンの言う通りだな。おっ、体が動く。よっこらせっと。
「それじゃ、歯ぁ食いしばれ!」
グレンはヒューイの顔面を思いっきり殴り、気絶させる。すげぇ、上○みたいにワンパンで気絶させやがった!
「……。」
「グレン先生!」
グレンはヒューイを殴った後、壁に体を預けて気絶した。やれやれやっと終わったか。
「ルミア、膝枕してやれ。枕があった方が寝やすいからな。」
「ハヤト先生は!?今にも倒れそうじゃないですか!?」
えっ?俺にもしてくれるパターンか!?是非ともしてもらいたいねぇ!けど、今回はグレンに譲ってやるか。
「後始末だよ。どっかの誰かが血を大量に流したからその掃除。」
血が付いてる部屋で寝たくないからな。『アクアエッジ』っと。
「水の魔術、初めて見ました。」
「これで大丈夫だな、あとは「「先生!無事ですか!?」」来たか。」
システィーナとテレサが来た。二人ともグレンに駆け寄って行ったな。
「しー、二人ともそんなに大声出したらグレン先生が起きちゃうよ。」
ルミアはそう言い寝ているグレンの頭を撫でる。羨ましいぜグレン!俺も頑張ったからそういうのあってもいいよね!?
「というわけだ。システィーナ、テレサ。テロは解決したから教室に行って皆に伝えてくれ。」
さて、俺も教室に戻りますか……な。あれ?
「「ハヤト先生!?」」
「あれ?おっかしいな?視界が傾いてるぞ?俺立っていたよな?テレサ、説明プリーズ。」
「ハヤト先生が地面に倒れてるからですよ!」
そうなのかー、通りで体が動かない訳だ。あはははー、頭が働かないぞー。
「すまん、体が動かないから先に教室行ってて。」
「その状態の先生を放っておけません!」
ん?頬に柔らかい感触が。あー、なんか眠たくなってきた。
「システィーナ、私はここでハヤト先生を見てるから教室に行って皆に報告をお願いね。」
「わかったわ。」
「ハヤト先生、ルミアを助けてくれてありがとうございます。」
「私からもお礼を言いますね。ハヤト先生、ありがとうございます。」
ありがとうか、久しぶりに聞いたな。涙が出そうだぜ全く。
******
「ルミアがまさか3年前に死んだ筈の王女だったとはなぁ。」
テロから1月後、俺とグレンは学院の屋上でセリカからルミアの正体を聞いた。
「事情を知った俺とハヤト、白猫とテレサには秘密を守るように国から協力要請があったよ。ったく、面倒事を押し付けられたもんだ。」
「異能者に対する恨みは根強い。それが王族なら国がひっくり返る。」
「学院内でも知っているのは、セリカと学院長くらいってところか?」
「その通りだハヤト。」
まあ、それ以外の人に広めたら色々まずいからな。
「まあ、どうでもいいけど。」
「それにしても、どうして講師を続ける気になったんだグレン?」
セリカがグレンにそう訊ねると、下からシスティーナとルミアの声が聞こえてきた。
「グレン先生ーー!」
「さっきの授業、言いたい事があるんですけど!」
グレンはルミアとシスティーナを見て、微笑んだ。
「まっ、自分の人生の失敗を魔術のせいにするのは止めたのさ。もう少しだけ前向きに生きてもいいかなってね。それに、見てみたくなったんだよ。あいつらがこれから何をやってくれるか、暇潰しには丁度いいだろ?」
グレンはそう言ってシスティーナとルミアがいる所に向かっていった。
「素直じゃねえなあいつ。」
「確かにな、ところでハヤト。何でハヤトは呼ばれなかったんだ?」
「さっきの授業、俺は黒板に文章を書いてただけだからな。解説ならグレンの方がいいと考えたんだろ。」
グレンは講師を続ける事になったけど、俺はまだ非常勤だからな。
「なあセリカ、俺はここに居てもいいのか?」
「それは自分で決めろ。まあ、少なくても私は居てもいいと考えてるがな。」
「ハヤト先生!」
呼ばれたから下を見ると、テレサとルミアが俺に向けて手を振っていた。システィーナは、腰に手を当てているな。
「グレン先生だけじゃ不安だからハヤト先生も来てください!」
「「あはははは。」」
システィーナがいった言葉に対してテレサとルミアが笑っているな。やれやれ、行くしかないな。
「もう少し考えてみるさ。セリカ、ありがとな。」
「気にするな、お前はグレンの親友だからな。面倒を見るくらいはしてもいいだろ。」
俺は屋上から飛び降りて、グレンの隣に着地する。さて、また頑張りますか!