「『この・クソバカ・野郎共が』!!」
「「ギャアァァァァァァ!!」」
グレンから学院長室に着いてきてほしいって言われ、学院長室の扉を開けて中に入ったらいきなり中にいたセリカから『ブレイズ・バースト』を喰らったぞ!?
「おいお前ら、私が何を言いたいか分かるよな?」
「「マジすいませんでした!!」」
額に青筋を浮かべたセリカの脅しを聞いた俺とグレンは『ムーンサルト・ジャンピング土下座』をする。かなり本気で怒ってるよセリカ。
「グレンは有り金を全てギャンブルに費やして金欠、ハヤトはストーカー紛いの事をして二人の生徒にボコボコにされたと。」
グレンてめぇ、結局カジノに行ってきたのかよふぁっきゅー!
「その通りでごぜーます。だから餓死してしまうお肉食べたいお小遣いプリーズミー!」
「『くたばれ』」
「『落ちろ』」
セリカはブレイズ・バーストでグレンを燃やし、俺はグレンの上空に魔法陣を展開させ、そこから雷を落とす。技名?リリジャスだよ。
「お前ら!!俺を殺す気か!?」
「「何か文句あんのか?」」
「いやないです。」
これでも手加減してんだぞ?本当なら『インディグネイション』を使いたいんだが。
「グレン、お前は次の給料日までシロッテの枝で飯を我慢しろ。私の食糧庫に手を出したら、殺すからな?」
「ひぃぃぃぃぃぃ!助けてぇぇぇぇぇぇ!ママぁぁぁぁぁぁ!!」
情けねぇ、グレンは背を向けたセリカに抱き付いて駄々をこねているが、セリカにアイアンクローされて黙った。
「まあまあセリカ君落ち着きなさい。グレン君、もしかしたら特別賞与なら出せる可能性があるぞ?」
一連のやり取りを見ていた学院長が苦笑いを浮かべながら言った。特別賞与?そんなの聞いたことないが?
「我らが魔術学院の生徒達による様々な魔術競技での技の競い合いである『魔術競技祭』が来週開催される。そこで最も優秀な成績を収めたクラスの担任には特別賞与が与えられるんじゃが、どうかね?」
「そ、そんな素晴らしいイベントがあったとは!このグレン『魔術競技祭』優勝に向けて頑張らせて頂きます!」
そんなイベントもあったなぁ。すっかり忘れてた。
「よし、今日から頑張るためにセリカ、お小遣いください!」
「ほーう、余程私の魔術を喰らいたいようだなぁ?グレン?」
グレンはセリカに向けててもみしながら歩み寄っていくけど、またセリカからアイアンクローを喰らっていた。学習しろよグレン……。
「いだだだだ!もう勘弁してください!何でもします「ん?今何でもしますって?」やっぱ無理!だから、ハヤト後は任せた!」
「おいグレン!ちょっと待てやぁ!」
グレンはセリカのアイアンクローから脱出した後、もの凄い速さで学院長室から逃げ出した。
「さて、ハヤト。お前は何故生徒を尾行していたんだ?返答次第では容赦せんぞ?」
「その生徒に悪い虫が付かないように見張ってい「『其は摂理と円環へと帰還せよ・五素より成りし物」弄るネタに出来ないかと思って尾行しました!」
セリカ、本気の殺意を向けてイクステンション・レイを唱えないでくれません?マジ怖いっす。
「次はないと思えよ?」
「イエッサー!」
「で、お前の顔面や頭にある傷はフィーベルとティンジェルに付けられたのか?」
セリカは殺意を抑え、鏡を見せながら聞いてくる。うわひでぇ、顔面が真っ赤に腫れてやらぁ。それとタンコブがすげー出来てる、これもはや芸術だな。
「システィーナにはやられたけど、ルミアにはやられてない。もう一人はテレサにやられた。」
もうね、動けなくなる程ボコボコにしなくてもいいと思うんだ。システィーナは顔を真っ赤にして殴ってくるし、テレサもシスティーナと同様に顔を真っ赤にして殴ってくるし、ルミア?ルミアは遠くから見てましたよ。
「レイディか、あの子がそんなことするなんて珍しいな。」
まあ、あのおっとりとした雰囲気からは想像出来ないよな、あいつと性格は全く違うけど。
「ハヤト、今あいつの事を考えてたな?確かにあいつとレイディは似てはいるが。」
「……わかってはいるんだよ。わかってはいるんだが、どうしても重ねちまう。グレンだってそうだろ。」
「そうだな、悪い、嫌な事を思い出させてしまった。話を変えよう、それでボコボコにされた後は何をしていたんだ?」
セリカが俺の雰囲気を察知して話題を変えた。すんませんね、どうしてもあいつの話をされるとねぇ。
「あのあと?あのあとは罰としてテレサの買い物に付き合ったよ。」
荷物持ちとしてな、でも何故かテレサが嬉しそうな表情をしていたな。なんでだ?
「そうか、ハヤト。もう一度言う、この学院に残ってくれないか?」
「悪いけど、もう決めたんだ。『魔術競技祭』が終わったらここから出ていくってな。」
俺はそう言い学院長室から出る。出来ればセリカの頼みは聞いてあげたいが、こればっかりは無理だ。
「俺が居ると生徒達が騒乱に巻き込まれる。只でさえグレンがいるのに、俺までいたら生徒を守りきれなくなるしな。さて、『魔術競技祭』か。」
おっと説明してなかったな。魔術競技祭とはアルザーノ帝国魔術学院で年に三度に分けて開催される、生徒同士による魔術の技量の競い合いである。
「つまり、運動会と言うわけだな。まだ続いていたなんてな。」
各クラスから選出された選手達が様々な魔術競技で腕を比べ合うお祭り、であるのだが。何時からか出場するのは成績優秀者ばかり、挙句同じ選手の使い回しが当然のように行われるようになり、お祭りという楽しい印象からは掛け離れた代物へと成り下がっていた。
「俺の時代からそうなったからなぁ。昔は楽しいものだったらしいが。」
おっと、考え事をしながら歩いていたら教室の前に来てたか。よっと。
「あっ!ハヤトせん……ってその顔「諸事情です。」いやでも。」
俺がクラスに入った瞬間に、なんかざわめきだしたな。
「諸事情です。決してシスティーナにボコボコにされた訳ではありませんよ?決してグレンに服を褒められて有頂天になった姿をビデオに納めたからボコボコにされた訳ではありませ「『雷精の紫電よ』!」あばーー!?」
システィーナに『ショック・ボルト』撃たれた。だかな、これくらいの事で俺はへこまんぞ、へっへへ!
「もう!ハヤト先生の馬鹿ーーーー!」
「システィ、やり過ぎだよ。」
「ごめん。」
まあ、この傷はシスティーナ8割、テレサ2割だからな。テレサは勘弁しておいてやるか。
「で、今何してんのルミア?」
「魔術競技祭に出場するメンバーを選出していたんですけど、出たい人が中々いなくて。」
ルミアとシスティーナが前に出て指揮を取ってるけど、他の人は知らんぷりしてるな。まあ、面倒くさいってか?いや、もう1つ理由があるな。
「なるほど、今年は女王陛下が来るから醜態をさらしたくないから出たくない。そういうことだな?」
俺がそう言うとシーンとなった。図星かいなお前ら、でも安心するがいいぞ。
「そうなんです。困ったなぁ。」
「グレンへの弁当作りかシスティーナ?大丈夫だ、あいつは何でも食うから量を多く「違いますから!」おぶっ、黒板消し投げ付けんな!」
顔面真っ白になっちまったじゃねえか。真っ黒くろすけの次は真っ白しろすけってか?
「ったく、こういうのはグレンが決めるべきなんだが、俺が決めてやるよ。」
「でもハヤト先生、時間もあまりな「大丈夫だルミア、もう決めたから。」早くないですか!?」
「じゃねえと講師なんてやってられんわ。取り敢「ハヤト先生が決める?冗談はその辺にしておいてくださいよ。」なんだむっつり眼鏡?」
なんかギイブルが俺を見下して来たから、お返しにむっつり眼鏡って呼んだらめっちゃ怒った顔になってた。
「何もしていない貴方が決めれるんですか?それで女王陛下に醜態をさらしたら、貴方はどう責任を取るつもりですか?」
「まあ、なんとかするさむっつりスケベ眼鏡。」
「何ですかそれは!」
いやだって、ギイブルくらいの歳の男で眼鏡を掛けている奴は大体むっつりスケベだからな!俺?俺はオープンスケベだ!
「ちょぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁ!」
何か大声を上げながらグレンが教室の扉を開けたな。しかもシロッテの枝咥えてるし、お前もう一文無しかよ。
「喧嘩はやめるんだ、お前達。争いは何も生まない、そして何よりも。」
グレンはきらきらと輝くような、爽やかな笑みを満面に浮かべて続ける。
「俺達は、優勝という一つの目標を目指して共に戦う仲間じゃないか!?なあハヤト!」
「キモいから近付くなグレン。」
「ややこしいのが来た……。」
グレンの考えている事分かってっから余計にキモく見えるんだよ。あとシスティーナ、それにはめちゃくちゃ同意する。
「そう邪険にすんなよ~、察するにお前らは競技決めに苦戦してるみたいだな。」
「そうだよ、むっつりスケベ眼鏡陰険野郎が屁理屈並べてるから中々進まないんだよ。」
「それって僕の事ですか!?」
寧ろギイブル以外に誰がいるんだ?
「ったく、何やってんだ、やる気あんのかお前ら?他のクラスの連中はとっくに種目決めて、来週の競技祭に向けて特訓してんだぞ?やれやれ、意識の差が知れるぜ。」
「いやお前、やる気なかっただろ?」
「そうですよ!!だいたいグレン先生、私が魔術競技祭はどうするのか尋ねたら、『お前達の好きにしろ』って言ったじゃないですか!なんで今更になってそんなこと言うんですか!?」
「そそそそれはな、あああれだよ、大人にはふか~いふか~い事情があるのさ。まっ、白猫にはわからんだろうがな。」
おいグレン、声が震えてるぞ?そんなドや顔しても無駄だぞ?
「どうせ記憶になかったんだろグレン?」
「それもあるがな!ハハハハ!」
「やっぱり面倒くさくて人の話聞いてないんですね!」
おいおいシスティーナ、そんなにワナワナしなくていいだろ。グレンが人の話を聞かないのは日常茶飯事だからな。
「まあ、そんなことはどうでもいいとして。ハヤト、お前は誰が競技に出た方がいいか決めたのか?」
「あぁ、決めてる。俺が発表してもいいか?」
「どうぞご自由に~。俺が考えている編成は大体ハヤトと一緒だろうからな。」
「サンキュー、さて、俺が総監督するからには、全力で勝ちに行くぞ。全力でな。俺がお前らを優勝させてやる。だからそう言う編成をさせてもらう。遊びはナシだ。覚悟しろよ?」
俺がそう言うと、皆唖然とした表情で俺を見ていた。なんだ?そんなにシリアスな俺が不思議か?
「高配点の決闘戦、これはシスティーナ、ギイブル、あと一人はカッシュだな。」
「ええっ!?」
「おお俺ですかハヤト先生!?」
そうだお前だ黒髪短髪のカッシュ=ウィンガー、そんなに驚くような事か?
「暗号早解きはウェンディ一択だな。飛行競争はロッドとカイ。魔術狙撃はセシル。」
「ちょっと待ってください!」
ん?何だウェンディ?不満か?
「どうして私が決闘戦の選抜から漏れているんですの!?納得いたしませんわ!」
「んー?お前は呪文の数も知識も凄いけどな、不器用な癖にどんくさいとこあるからな。たまに呪文噛むし。」
ツインテールだからか?某魔術師みたいにうっかりやらかす事が多いからなウェンディ。
「それ俺も思ってたわ、だから運動能力と状況判断のいいカッシュというわけなんだよなハヤト?」
グレン俺の台詞取るなよ、まあその通りだけどな。
「だがウェンディならリードランゲージは文句なしのピカ一だ。だから暗号早解きで点数を稼いでくれ。」
暗号早解きなら答えを言う瞬間に一呼吸置くことも出来るからな。暗号早解きも何気に点数配分高いし。
「そ、そういうことでしたら、納得いたしますわ。」
あっ、ウェンディ照れてる。もしかしてウェンディはチョロインの可能性が!?いやチョロインはシスティーナだったな。
「上手く丸め込んだなハヤト。」
「俺は事実を言ったまでだグレン。次に遠隔重量上げはテレサ以外にありえないな。」
「ちょっと待ってくださいハヤト先生、私で大丈夫なんでしょうか?」
テレサが自信無さそうに訊ねてきたな。やれやれ、もっと自信持てよ。
「テレサは自分で気付いてないかもしれないが、念動系の白魔術、特に遠隔操作系の魔術の腕がピカ一だし相性が良い。俺のこの無数のタンコブを作った時の状況を思い出してみろ。」
俺に付いてるタンコブは俺がテレサにセクハ、ボディタ、スキンシップを取ろうとした時に出来たものだからな。顔を真っ赤にしながらそこら辺にある物を『サイ・テレキネシス』を使って俺の頭にぶつけてきたからな。
ちなみに『サイ・テレキネシス』は離れた場所の物体を遠隔で操作することが出来る白魔術だぞ。
「!!!」
「思い出したかテレサ?」
おおう、見事にテレサの顔が真っ赤ですな。脳内保存脳内保存。
「テレサ?どういたしましたの?」
「ななな、何でもないわ!」
「続けるぞ、精神防御はルミア以外にありえない。で、変身はリンに頼む。これで決まりだな!」
「ハヤト先生って、ちゃんと私達の事見ていてくれてたんですね。」
どういう意味だよシスティーナ、そりゃ生徒の事は見るだろ。
「グレン、これで文句はないな?」
「俺も同じ編成で行こうと考えてたところだ。文句なんかねえよ。」
「ハヤト先生、全員参加させてくれるんですね!」
ルミアが満面の笑みで訊ねてくる。まあ、勝ちには行くけど、楽しまないとな。
「まあそうだな。あと文句あるやついるか?」
「ハヤト先生、いい加減にしてくれませんか?先ほどから勝手に決め付けて、見るに耐えません。」
「どうしたむっつりスケベ陰険ぼっち眼鏡君?これ以上良い編成があるのか?」
「だから何ですかその呼び方は!?」
「見た目から判断して付けたんだがギイブル?」
「アヒャヒャヒャ!ヒーッヒヒヒ!ハヤト、俺を笑い殺す気か!?腹捻れるわ!」
ギイブルは眼鏡をくいくい上げながら怒ってるな。そしてグレン、笑いすぎだ。
「そんなもの、決まってます。成績上位者で全種目を固めるんです。それが恒例で全クラスやっていることじゃないですか!」
「えっ?そうなのハヤト?」
グレン、お前知らなかったのかよ。俺らの時もそうだったじゃねえか。お陰で俺とグレンは『魔術競技祭』に一回も出場してねぇんだぞ。
「ちょっとギイブル!」
「落ち着けシスティーナ。ギイブル、んなことは知ってんだよ。」
「だったら、何故成績上位者で固めないんですか?システィーナと僕とウェンディの三名で固めないんですか!?」
ギイブルがそう言うと、テレサやカッシュ達が下を向いて俯いた。はぁ、これだから眼鏡野郎は頭が固い。
「固める訳ねぇだろ。馬鹿なのかお前?あっ、すまんすまん。おつむがカチカチのむっつりスケベ眼鏡君にはちと理解の難しい話だったな。いやはや失敬!」
「ハヤト先生のその物言いは一体何なんですか!?」
顔を真っ赤にして怒るなよギイブル、そんなんじゃ俺の言ったことに対して図星ですって言ってるようなもんだぞ?
「アヒャヒャヒャ!ヒーフフフ!やベェ、腹痛いよママーーーー!」
「少ない成績上位者で固めたとして全種目に全力を注げるのか?体力とマナと精神力が絶対持たないだろ?精神力の大事さは分かってるよなギイブル?」
「そ、それはそうですが……。」
「それぞれの種目毎に相性がいい人を出場させて、それに全力を注いで貰う。そうすれば体力温存、なんて作戦とか取らなくて良くなる。ただでさえ時間がねぇんだ、他のクラスと同じことやっても勝てないと思うのは俺だけか?」
俺がそう言うと、ギイブルは拳を震わしていた。正論言ってるから反論出来ねぇんだろうな。
「それに、せっかくの祭だぜ?全員で楽しもうや。」
「「先生!!」」
「ん?どうし……ってなんでシスティーナとルミアは目を輝かせてるんだよ?」
しかも良い笑顔で、俺二人になんかしたか?
「こんなにも私達の事を考えてくれていたんですね!!」
「さあ皆!優勝するわよ!」
おおう、なんか士気が上がったな。まあ、こういうのも悪くはないな。