まあ、そんなこともありながら10日が過ぎていった。もうね、はっきり言うと面倒くさい。だから自習って形を取ってたんだけどね~。
「これは、そういう意味と捉えていいんだな?」
ついに堪忍袋の緒が切れたのかフィーベルがグレンに向かってズンズン歩み寄って行って左手に着けている手袋を投げ付けた。左手の手袋を投げ付ける、まあいわゆる決闘の申し込みだな。
「シ、システィ!だめ!早く先生に謝って、手袋を拾って!」
ティンジェルがオロオロしながらフィーベルに手袋を拾うよう促しているけど、多分フィーベルはティンジェルの声が聞こえてねえんだろうな。
ここ数日の間にクラスの生徒の事を一通り調べたが、システィーナ=フィーベルは魔術の名門であるフィーベル家の令嬢だったはず。
つまり、フィーベル家としてグレンの魔術に対する姿勢が気に入らないってとこか。
「……お前、何が望みだ?」
グレンがフィーベルの目を見ながら尋ねた。これは真面目モードのグレンだな。茶化すのはやめとこ。
「その野放図な態度を改め、真面目に授業を行ってください。」
「……辞表を書け、じゃないのか?」
俺もそう思った。
「もし、貴方が本当に講師を辞めたいなら、そんな要求に意味はありません。」
「あっそ、そりゃ残念。けどよ、お前が俺に要求する以上、俺だってお前になんでも要求していいってこと、失念してねーか?」
「承知の上です。」
……若いって怖いねぇ。ほら、グレンもしかめっ面な表情になってるぞ?
「……お前、馬鹿だろ。嫁入り前の生娘が何言ってんだ?ご両親が泣くぞ?」
「それでも、私は魔術の名門フィーベル家の次期当主として、貴方のような魔術おとしめる輩を看過することはできません!」
熱いねぇフィーベル、熱すぎて聞いているこっちが溶けちまいそうだよ。
「こんなカビの生えた古臭い儀礼を吹っかけてくる骨董品がいまだに生き残ってるなんてな、いいぜ?」
グレンはそう言いながら手袋を拾い上げ、それを頭上へと放り投げた。なんだ?格好付けようとしてんのか?
「その決闘、受けてやるよ。」
グレンは真面目な表情でそう言いながら落ちてくる手袋を掴み……損ねて手袋が床に落ちた。
「ダッさ!クソダッさ!何が『その決闘、受けてやるよ(キリッ)』だよ!」
腹いてぇ!写真撮っておいて正解だったな!
「うっせーなハヤト!格好付けたって良いじゃんかよ!」
グレンはぶつくさ文句を言いながら床に落ちた手袋を拾い上げた。
「ただし、流石にお前みたいなガキに怪我させんのは気が引けるんでね。この決闘は『ショック・ボルト』の呪文のみで決着をつけようぜ。それ以外の手段は全面禁止だ。いいな?」
「決闘のルールを決めるのは、受理側に優先権があります。是非もありません。」
えっ、それマジで言ってるのグレン?お前頭イカれたのか?
「で、だ。俺がお前に勝ったら……そうだな、まぁ、この年頃の女の子だしなぁ~、俺の言うこと何でも聞いてもらおうかなぁ~。」
グレン、流石だな。ニヤニヤとした笑みでフィーベルを舐めるように見始めた、それに気付いたフィーベルは涙目になってるな。可愛い!
「くっ!!私が勝ったら、真面目に授業をしてもらうんだから!」
おおう、それはちとまずいな。グレン~、頼むから勝ってくれよ。いや本当に頼むわ。
「ぷっ、なーんてな。お前みたいな乳臭いガキに興味無ぇよ。まぁ、俺には文句を2度と言うなよ。」
そう言いグレンは教室から出て、それに続いてフィーベル以外の生徒達もグレンの後を追っていった。さて、俺はもうひと眠りでもしてましょうかねぇ。
「何寝ようとしてるのですか?貴方にも決闘を申し込みます。」
「決闘?俺デュエ○ディスクもデュ○ルカードもないから無理だわ。諦めな。」
そう言った瞬間にフィーベルから手袋を投げ付けられる。やれやれ、やるしかないかぁ。
「仕方ねぇ受けてやんよ、まあ、条件はグレンと一緒でいいぞ。」
とまあ、こんな感じで俺もフィーベルに決闘を申し込まれた。最初はグレンとフィーベルが戦うらしい。
「ここなら広いし遮蔽物もない。先手は譲ってやるよ。いつでも撃ってきな。」
グレンは余裕そうな笑みを浮かべながらフィーベルに向けてクイクイっと手招きをする。グレンの奴、そういうことかよ。
「おいおいどうした?何も取って食う訳じゃねえんだ。胸貸してやっから気楽にかかってきな。」
「行きます!『雷精の紫電よ』!」
フィーベルが『ショック・ボルト』を1節で唱え、グレンに向けて放った。グレンは先程と変わらずに余裕そうな笑みを浮かべて、直撃した。
「あばばばばばばばば!?」
『はっ?』
まさか直撃するとは思ってなかったのか、観戦していた生徒達、そしてフィーベルも唖然とした表情を浮かべた。そりゃそうなるだろうよ。
「あわわわ!?私なんかルール間違えたっけ!?」
グレンがただ自滅しただけだから気にすんなフィーベル。
「な、なかなかやるな。俺が反応出来ない速度で撃ってくるとは。だ、だがこれは3本勝負だ!!一本はハンデとしてくれてやったんだよ!!」
「そういう勝負でしたっけ!?」
グレ~ン、強がるなよ~。膝笑ってるぞ?しかもお前『ショック・ボルト』は三節じゃないと唱えられないじゃん。
「行くぞ!『雷精よ・紫電の「『雷精の紫電よ』!」アギャャャァァァァ!!」
「ブフッ、は、腹いてぇ!俺を笑い殺す気かよグレン!」
やべっ!腹筋つる、腹筋つってしまう!
「くそっ、あと一回喰らったら負けちまう。」
「これで終わりよ!『雷精の「あっ、あそこにUFO!」うえっ!?」
グレンが咄嗟に右を向いて何もない所に向けて指を指しながら言ったのに対し、フィーベルは驚いた表情でグレンの指した方を見たな。つーかそれ引っ掛かるのかよ。
「引っ掛かったなおバカちゃんめ!『雷「UFOなんているわけないじゃない!『雷精の紫電よ』!」あぎゃあぁぁぁぁ!?」
グレン、まあいい奴だったよ。
「もう、駄目。変な世界見えちゃう。」
グレンの惨敗か、まあこの結果は分かってたけどよ。そもそもグレンは『一節詠唱』ができないしな。
『ショック・ボルト』の呪文は『雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ』だけど、略式詠唱のセンスに長けた奴なら、『雷精の紫電よ』の一節で使うことができる。
一般的に男性は略式詠唱に、女性は魔力容量に優れると言われているけど、グレンには略式詠唱の才能が致命的にないからな。
「さあ、次はハヤト先生の番よ!」
もう少しグレンの苦しんでる姿が見たかったのになぁ。
「へいへい、んじゃ俺も先攻はフィーベルに譲るか。全力で手加減してやるから本気でかかってきな!」
「私を舐めているとグレン先生みたいになるわよ!『雷精の紫電よ』!」
フィーベルから『ショック・ボルト』の雷撃を放たれ、それを俺はグレンと同じように当た……るわけねぇだろアホが!
「よっと、速度はまあまあ。威力も学生って考えると申し分無しだな。」
「嘘、『ショック・ボルト』を避けた?」
俺の顔面狙いの雷撃を首を横に傾けて回避しながら、雷撃の分析をしていると、フィーベルがあり得ないといった表情で口をパクパクさせていた。
「いやいや、そこまで驚くことか?たかが『ショック・ボルト』の雷撃を避けただけだろ?」
「今のは狙いが悪かっただけ。次は外さないわよ!」
続けてフィーベルは俺の心臓辺りを目掛けて雷撃を放つが、それをしゃがんで避ける。
「どうして、『ショック・ボルト』の雷撃を避けることが出来るのよ!?」
「そんな驚くような事か?魔術の速度なんて銃弾に比べれば遅えから簡単に避けれるぞ?」
「くうぅ!『雷精の紫電よ』!」
フィーベルが続けて雷撃を放つが、俺は体重移動やしゃがんだりして避ける。当たらねぇ当たらねぇ、雷撃なんて当たらなければどうということはないんだよ白猫ちゃん!
「いい加減に当たりなさいよ!」
雷撃が当たらなくて悔しいのかフィーベル?悔しいでしょうねぇ?プププ!
「ドMじゃないから嫌です。さて、回避するのにも飽きたし、そろそろ終わらせるか。」
そう言いながら身構えると、フィーベルは何故かガタガタと体を震せていた、やっぱトイレに行きたかったのか?
「よっと。」
俺はフィーベルが瞬きした瞬間にバックステップをする。
「えっ!?あれ!?先生は!?」
おーおー慌ててやらぁ。ちなみに俺はフィーベルの後ろにいるぞ。今やったのはバックステップをすると相手の背後に一瞬で回る事が出来る技だ。技の名前忘れたけどな。
「システィ!後ろ!」
ティンジェルが俺の位置を教えるがもう遅いぞ!
「『雷精の……』なんてな、ほれっ。」
俺はフィーベルの後頭部に『ショック・ボルト』を放……たないで、膝かっくんをする。しかし、うなじ綺麗だなこいつ。
「はい終了、俺の勝ちだから帰るわ。」
「ちょっと待ってください!どうしてハヤト先生は魔術を使わなかったのよ!?」
どうしてって、フィーベルみたいながきんちょに魔術を使うなんて阿保らしいからな。
「面倒だったから。んじゃな。」
今日は早く帰れるぞ~!グレンは、ほっとくか。あいつゴキブリ並の生命力だからな。というわけでさ~らば!