「そいつらに聞くことなんて何もないわ。」
オッス、オラハヤト!フィーベルとの決闘から3日、俺とグレンはダラダラと授業をしてるぞ。今はティティスがグレンに質問しようとしていた時にフィーベルが見下した感じで言ってきたぞ。
「えっ、でも!!」
「何せそいつらは、魔術の崇高さも偉大さも何一つ理解してないんだから。」
崇高と偉大ねぇ。本当にこのクラスの奴等は子供だな。グレン、何か反論してくんねぇかなぁ。
「なぁ、魔術ってどこが崇高でどこが偉大なんだ?」
「確かにグレンの言う通りだな。フィーベル、答えてくれよ。」
俺らがそう言った時、フィーベルは得意そうな顔をして俺らの方を向いた。
「フン!何を言うかと思えば。魔術はこの世界の真理を追究する、いわば神に近付くに等しい尊い学問よ。そんなこともわからないのかしら?」
「なるほどねぇ、で、魔術は何の役に立つんだ?」
おっ、珍しくグレンが食い下がるな。こりゃ面白くなってきたぞ!
「魔術は、その、あれよ。色々と役に立つのよ!そんなことも分からないのかしら!」
「色々って具体的には?」
グレンにそう突っ込まれてフィーベルはともかく教室にいる生徒達は皆口をごもごもさせる。やっぱりこいつらアホだ。
「魔術は普通に生きていれば見ることはない。現にここ以外の人がどれだけ魔術を知っている?魔術が本当に役に立つのか疑問に思うのは俺だけか?」
「ハ、ハヤト先生はどう思ってるのよ!?」
俺に振るなフィーベル、顔を見るからして助け船を出してほしいってか。やだね!
「グレンと一緒だ。例えば『ライフ・アップ』。これは体の治癒能力を上げる魔術だが、別にそんなものなくても医者とかに見せればいいだろ?ここの学院外でライフ・アップを使って驚かれたりしなかったか?」
「ま、魔術は、人の役に立つとか立たないとか、そんな低いレベルの話じゃ……。」
「ハヤト、あまり銀髪を虐めるな。悪いな、魔術はちゃーーんと役に立ってるぜ。」
グレンはニヤニヤしながら銀髪を見る。グレンがニヤニヤしている時って安心出来ないんだよな。
「人殺しのな。」
グレンが殺気を込めた表情でそう言った時、クラスの奴等の顔に緊張が走った。
「剣術で一人殺す間に魔術は何十人と殺せる。これほど人殺しに長けた術は無いぜ?しかも安全な位置から殺せる、自分がケガをしなくていい。まさに人殺しの為に造り出されたと言っても過言じゃねえだろ?」
「ち、違うわ!魔術はそんな、そんなものの為に造られたんじゃないわよ!」
「違わねえよ。」
銀髪の必死の反論をグレンは冷酷な目で抑える。グレン、よく言ったな。
「このアルザーノ帝国が他国から魔導大国と呼ばれる意味は何だ?“帝国宮廷魔道士団”なんて物騒な連中がいる理由は?」
「で、でも!魔術は!!」
「何度も言わせんなよ?お前らはどうして学習する魔術が攻撃用の物が多いか考えたことはあるのか?それはな、殺戮に特化した人殺しの術だからだ!!才能さえあれば簡単に人を殺せるんだ!!何処までも血で汚れたロクでもな。」
グレンがそこまで言った時、フィーベルがグレンの頬を叩いた。パァンという音が教室中に響き渡ったから相当力を込めたんだろう。
「いって、何しやがる?」
フィーベルの表情を見れば眼に涙を溜めていた。グレンの言ってる事がどうしても認めたくないってか。
「ハヤト先生は、グレン先生と一緒の気持ちですか?」
「あぁ、そうだ。魔術は人殺しの術。お前らが夢見ている術とはかけ離れてるんだよ。」
「アンタらなんて、大っ嫌いよ!!」
そう言ってフィーベルは涙を流しながら教室から出ていった。
「ちょっとシスティ!何処にいくの!?」
「……気分が乗らねぇ、ハヤト、後は任せた。」
「わーったよ。」
グレンも叩かれた頬を擦りながら教室から出ていく。ってこの最悪な雰囲気の中授業すんのかよ。
「折角のいい機会だ、俺やグレンの言った事を否定したい奴はいるか?いるなら挙手してくれ。」
「はい。」
すぐに手が上がったな。手を上げたのはティンジェルか、予想通りだな。
「言ってみろティンジェル。」
「魔術は何も人殺しの物だけではないと思います。現に魔術のお陰でこの国は栄えています。」
へぇ、魔術のお陰で栄えているねぇ。ティンジェルの発言に皆ウンウンと頷いているな。
「なるほど、確かにティンジェルの言う通り魔術のお陰でこの国は栄えている。けどそれは子供の考えだ。何故だか分かるか?」
「そ、それは……。」
「魔術で建物が増えていった?それは違う。建築士が頑張ったから建物は増えた。魔術で人口が増えていった?それも違う。農家や医者が頑張ったから人口は増えた。」
ったくグレンの奴、後処理を俺に押し付けやがって。今月の給料いくらかかっさらってやる。
「魔術のほとんどは、戦争で勝つためにしか役に立っていない。何故軍用魔術ってのが出来たのかそのお目出度いおつむで考えてみやがれ。」
「で、でも!『ライフ・アップ』とかがあります!あれは人殺しの為に作られたものではないはずです!」
まだ食い下がるかティンジェル。俺はもうここから抜け出したいんだよ!黙っててくれよ!
「そうだな、『ライフ・アップ』は人殺しの術ではないな。でもあれはより人を殺せるようにサポートする術だ。」
「そ、そんなことありません!!」
「はぁ、じゃあ答えを言ってやるよ。何故怪我だけでなく、病気も治せる魔術がない?何故土地を元気にする魔術がない?何故人を助ける魔術が少なくて、人を殺す魔術の方が多いんだ?」
俺がそう言うとティンジェルは黙りこんだ。
「お前らは魔術の良いところしか見ていない。物事には良いところと悪いところがある。魔術もそれに当てはまる。だから子供なんだよお前らは。」
そろそろチャイムもなるだろ。もうこの空間にいるのは耐えられねぇ、俺も出ていこう。
「今日の授業はもう終わりだ。残りたい奴は残っていいし、帰りたい奴は帰っていいぞ。」
さて、グレンの奴でも探しに行こうかねぇ。
*******
「はぁー、俺やっぱりこの仕事向いてねぇよ。」
あの後、学院内を歩き回ってグレンを探したけど見付かんなかった。見付けたらアイアンクローをかましてやろうと思ったのに。
「屋上で頭を冷やしてみたけど、流石にちと言い過ぎたか?」
まだあいつらは夢を見ていてもいい年頃なのに、俺やグレンの価値観を押し付けちまったなぁ。
「潮時だな、この仕事やーめた。セリカには申し訳ないけど、土下座すれば許してくれるっしょ。」
さて、帰ったら新型の土下座でも考えねえと。ん?実験室にいるのは、グレンとティンジェルか。
「グレンがティンジェルにアドバイスしてるな。あれは、魔力円環陣か。」
おっ!成功したな。ティンジェルは喜んでいて、グレンは何かを思い出してるな。
「まあ、あの様子ならグレンは残ってくれるだろ。俺には関係ないけどな。」
さて、帰るか。今日でこの景色も見納めかな。
「待ってください先生。」
「ん?なんだよ?」
屋上の扉が開かれてレイディがこっちに向かって歩いてくる。こいつは意外な人物が来たな。
「ハヤト先生って本当は魔術が大好きなんですよね?」
「おいおい、何処を見てそう思ったんだ?」
「魔術は人殺しの術だ、って言っていた時のハヤト先生の表情がとても悲しくて辛そうな表情をしていましたから。」
っち、俺そんな表情をしていたのかよ。顔に出さねえようにしていたんだけどなぁ。
「大丈夫ですよ、私とルミア以外気付いていませんから。」
レイディはそう言いながら更に俺の近くにまでやって来る。
「そーかそーか。で、それだけを言いに来た訳じゃないんだろレイディ?」
「はい、ハヤト先生はこの学院に来る前は何をしていたんですか?」
単なる興味本位か?それとも違うことか?あーもう!レイディの表情や雰囲気からじゃわかんねえ!
「仕事をしないで毎日ダラダラと過ごしていたよ。」
「えっ?引きこもりですか?」
「学院のセリカって教授がいるだろ?あいつから半年分の生活費をもらってたからそれを使って引きこもってたのさ。要するにセリカの脛をかじってたのさ。」
まあ、穀潰しだけにはなりたくなかったから。格安でボロボロのアパートに住んでたんだけどな。
「半年、ではそれよりも前は何をしていたんですか?」
っち、思い出させんなよ。胸糞わりい。
「……終わり終わり。俺の過去を掘り返すのは終わりだ。今度はこっちから質問するぞ?」
「はい、なんでしょうか?」
「お前らって何でそんなに魔術に必死なんだ?たかが魔術ごときに本気になりすぎだろ。」
どうしてあそこまで本気になるのかがわかんねーなぁ。
「私は、ルミアの夢みたいに、本気で魔術を人の為にしたいと思ってるんです。」
「ふーん、本気でねぇ。」
「そのために、魔術を深く知りたい。恩返ししたい人がいるんです。」
恩返しねぇ、なんだそりゃ?
「私の親は貿易商人なんです。それで3年前に、ある闇商人に拉致されて奴隷市場に売られそうになったんです。」
ふーん、奴隷市場に売られそうになったねぇ。
「その時に、正義の魔術師が現れて、私を助けてくれたんです。その人は次々と闇商人達、それに闇商人の仲間の魔術師も殺していったんです。」
「……そいつは人を殺す度に辛そうな表情をしていたか?」
「よく覚えていないんですが、多分辛そうな表情をしていました。でも、あの人に助けられて思ったんです。人が魔術の道を踏み外したりしないように導いていける人になろうって。」
あれ?なんか、んん?前にそんな事件を解決したような気がするぞ?
「だから、もっと魔術の事をよく知ろうって。そんな道を歩んでいけば。」
そう言いテレサは俺の隣まで来て、顔を上げた。これ俺の顔を見てるのか。
「いつか、あの時の人が現れて、お礼が言えるんじゃないかって思ったんです。」
はぁ、そうか。そういうことか。
「もう駄目だと思って泣いていた私を助けてくれて、そして魔術師という夢を与えてくれた、あの人に。」
「お前、まさかな。」
「どうかしましたか?」
レイディ、いやテレサは頬に手を当ててきょとんとした表情になったな。やべっ、可愛いじゃねえかよ。
「いや、なんでもねえよ。んじゃ、俺は帰るからな。」
「あとハヤト先生、後でシスティーナとルミアに謝っておいてくださいね。」
そう言いテレサは俺に微笑んで、屋上の扉の方に向かっていった。
「……テレサって意外と人のこと見てるよな。抜け目がないっつーかなんつーか。」
やれやれ、これはもう腹を括ってやるしかねえか。