その後、グレンの評価は一気に上がった。
やる気になったグレンの授業は、他の講師とは次元が違う。真の意味でその分野を理解し、その知識をわかりやすく解説する力があるこその実りのある授業。
今は教室の椅子や机の数が足りなくて、立ちっぱの状態になってでも授業を聞いてくる生徒もいる。
俺?俺は黒板にグレンが言った事、それを要点だけまとめて書き出している。あと、分からない生徒がいたら質問に答えてやったりとかだな。
「魔術には『汎用魔術』と『固有魔術』の二つがある、個々の魔術師のオンリーワンの術である『固有魔術』に対して、お前らは『汎用魔術』を誰でも使える、なーんて馬鹿にしていただろ?」
グレンの問いかけに教室にいる生徒は言葉を詰まらせたり俯いたりしたな。考えていた事を当てられればそうなるわな。
「けど、こうして分析するといかに高度に完成された術なのかは理解出来たと思うぞ。まあ、『汎用魔術』を分析するっていう考えが普通の魔術師はないんだよな。ハヤト、水飲むから続きよろしく。」
「あいよ。それでだ、お前らはやけに『固有魔術』を神聖視しているけど、実はただ作るだけなら大したことはねえんだ。三流魔術師の俺やグレンでも余裕で作れる程にな。」
生徒達はいまいち信じられないって顔してるな?いや本当に『固有魔術』は作るだけなら簡単なのよ。これマジだからな。
「じゃあ何が大変なんだって疑問が湧くだろ?ほとんどスキのない完成度を持つ『汎用魔術』を『固有魔術』は自分一人で術式を組み上げ、越えなくちゃならないってことだ。」
「頭が痛くなってきただろ?並大抵の物じゃその辺の『汎用魔術』の劣化コピーにしかならねぇぞ?」
『固有魔術』は作ってから大変さが身に染みるんだよな。今度生徒達に作らせてみるか。
「俺やハヤトも昔は色んな『固有魔術』を作ったが、ロクなもんが出来なかったから止めたわ、ハッハッハ!」
本当にな~、ロクナモンシカデキナカッタヨ。
「ハヤト先生、目が死んだけど、一体先生達は何を作ったのかな?」
「きっとロクでもないものよ。ルミア、聞いちゃ駄目だからね?」
「でも、自分の術式構築力を高めるのに『固有魔術』を作るってのは充分にありだぜ。成功失敗は置いといてな。」
おっ、チャイムが鳴ったか。
「ほんじゃ、今日はここまでだな。」
「分からねえ所があったら調べるか質問をしろよ。分からねえ所を分からねえままにするのが1番駄目だからな。」
そう言い俺とグレンは黒板を消し始める。やれやれ、今日もたくさん書いたな。
「先生、まだ書ききってないので残しておいてください!」
「や~だね!フハハハハ!」
グレンはシスティーナの言葉を無視して黒板の半分の面積の文字を消した。楽しそうだなグレン。
「残しておいてって言ったじゃないですか!私まだ版書を取っていないんですよ!」
「聞こえんな~?ザマーミロ~!」
いや本当にシスティーナをからかっている時のグレンは楽しそうだな。
「子供ですかグレン先生は!?」
「男は皆子供なんだよ~!散々エラソーにされた仕返しだもんねぇ~!」
「こんの~!授業は良くなっても性格は変わらないわね!」
こういった冗談が出来るくらいグレンは生き生きとしてきたな。良かった良かった。
「グレン、俺は荷物を運んでおくからな。」
「悪いなハヤト、黒板消し終わったら手伝ってやるから。」
いらんいらん、グレンはそこのシスティーナと仲良く戯れてろよ。見ていて楽しいからな。
「だから黒板を消さないでくださいグレン先生!」
「だが断る!フハハハハ、止めれるものなら止めてみやがはっ!物投げるのは卑怯だぞ白猫!?」
グレンとシスティーナが痴話喧嘩している内に、荷物をまとめて運び始める。はぁ、本20冊は重いな。
「グレンだったらな~、運ぶの手伝いましょうか?とか声をかけられるんだがなぁ。」
グレンの評価は上がったが、俺の評価はそこまで上がってない。何処へでもいる普通の教師まで評価は上がったらしいけど。
「やっぱり、黒板に文を書くだけじゃ駄目か。明日から俺も生徒達に積極的にアドバイスをしていこうかねぇ。」
今もしてるよアドバイス、だけどそんなに効果はない。皆グレンの話に夢中だからな。俺の話なんて聞いちゃいないんだろう。
「おっ、着いた。」
考え事してると目的地にすぐ着くな。さて、教科書を置いて、あー腰いてぇ!
「ハヤト、手伝うか?」
「いやいい、もう終わったしな。俺は屋上に行くけどグレンはどうすんだ?」
「俺も屋上に行く。」
さあて、仲良く二人で黄昏ますかぁ!!
******
「なぁ、グレン。お前変わったよな。」
今は生徒達が帰宅した放課後、俺とグレンは屋上の柵に体を預けて夕焼けを眺めている。
「そうか?まあ、なんつーか。相変わらず魔術は嫌いだけどよ。反吐が出るけどよ。こういう風に講師をやるのは、悪くないって感じて来てるんだ。」
「そりゃ、良かったな。」
俺は、どうするか。正直、俺がいなくてもグレンは一人でやっていけるだろう。
「それに、白猫をからかうのが面白くってな。お前もそう思うだろ?」
「確かになグレン。っと、誰かここにやって来るぞ?」
この足音と気配、セリカか?
「おーおー、夕日に向かって黄昏ちゃってまあ、青春してるね~君達!」
「セリカか。何しに来たんだよ?お前、明日からの学会の準備で忙しいんじゃなかったのか?」
そうか、明日から魔術学会だったな。俺とグレンには関係ないが。
「おいおい、可愛い息子に会いに来ちゃ駄目なのか?」
「俺はセリカの息子じゃねえから。」
「グレンがこーんなに小さい時から面倒を見ていたのは私だぞ?母親を名乗る権利くらいある。」
あっ、俺の存在忘れられてますね。このまま空気になっておこ。
「それに、他人を遠ざけようとするその病気、いい加減治しておけよ?好意を向けてくる者に対してわざと素っ気なくしたり、からかったり、言っておくが、子供の病気だからな?」
「うっさいわ!ほっとけ!」
「最近じゃ、女生徒にも人気が出てきたのにそんなんじゃなぁ……。」
「だからほっとけって言ってんだろセリカ!」
セリカの言う通り、グレンは真面目に授業し始めてから女の子達にも人気が出てきたからな。俺?変わらねぇよ畜生!
「だ、だいたいなぁ。セリカみてーな女をガキのころから見てたら今更女生徒なんか見ても何も思わねーよ。」
ほうほう、つまりグレンはセリカに対してだけ欲情してると。確かにセリカのスタイルはボン・キュッ・ボンだもんなぁ。
「おやぁ?つまり母親代わりに欲情していたってか?この変態め!」
「ち、ちがうっての!ちょ!?抱き付くな胸押し付けんなって!」
いいなぁいいなぁ、俺もセリカみたいな母親欲しかったな。羨ましいぜコンチクショウ!
「あっはっは!まあでもなんだ、元気が出たようで、良かった。」
「はぁ?なんだよセリカ?」
「ふふっ。」
間抜けな声を出すグレンと、それを見て嬉しそうに笑っているセリカだった。まるで本当の親子みたいだな。
「お前、気づいてないのか?最近のお前、結構生き生きしてるぞ?前のお前は死んで一ヶ月経った魚のような目をしていたが、今は死んで一日経った魚のような目をしている。」
「なんだそりゃ?」
セリカ、その例えだとどっちも死んでるから変わりねえぞ?強いていうなら白骨化してるからしてないかだ。
「……心配かけたな。悪かったよ。」
おや?グレンは頭をかきながら恥ずかしそうにしてますねぇ。これは珍しいもんが見れた。ビデオに保存っと。
「いや、いい。私のせいだからな。その証拠に、お前は魔術をまだ嫌悪している。」
「なるほどな。で、魔術の楽しさを思い出して欲しくて、魔術講師か?ったく、俺とお前を結びつけてるのは、魔術だけじゃねーだろ。たしかに魔術は嫌いだが、お前まで嫌いなることはありえねーよ。」
今グレンの言った事ってさ、変に解釈すると軽い告白みたいなもんだよな?
「そうか、それならいいんだ。」
セリカが安心したように呟くと、屋上の出入口扉が開かれて、システィーナとルミアが現れる。
「あれ?アルフォネア教授。ひょっとして、私達お邪魔でしたか?」
「いいや。気にしなくていい。どうした?グレンに用事か?」
「はい。」
にこやかに笑うルミアはそう言ってグレンに近付く。あれ?俺ルミアやシスティーナにも気付かれてない?おーい!!ちょっとーー!?
「私達、図書館で今日の復習をしてたんですけど、どうしても先生に聞きたいことがあるって、システィが言ってました。」
「ちょ、それは言わない約束でしょルミア!?」
「ほぅ、このグレン大先生様に聞きたいことがあると?」
グレン、本当に嬉しそうな表情をしてるな。まあ、システィーナはグレンの為にも弄られキャラになってくれ。
「こうなるからこいつにだけは聞きたくなかったのよ!すぐこの調子なんだから!」
「すみません、このあとお時間ありますかグレン先生?」
「ああ、悪いな、ルミア。今日の説明は俺も言葉足らずだったから、多分そこだろう。図書館で教えてやるよ。」
そう言いグレンとルミアとシスティーナは屋上の出入口から出ていった。あの二人最後まで俺に気付かなかったな。
「さて、これで話せるな。ハヤト、お前はこれからどうするんだ?」
ルミアとシスティーナが出ていったのを見計らって、セリカがそう言ってきた。あえて気付いてないふりをしてたのか。
「俺は、もう少ししたらこの学院から去りますよ。俺はもう必要とされてませんからね。」
「ほう、何故そう考える?」
「俺がいてもいなくても現状そんなに変わらないですから。グレンの負担がちょっと増えるだけ。」
最近はグレンが話終わった時に、俺が捕捉をしようとすると、お前は話すんじゃねえよオーラが生徒から漂ってきているからな。
「この学院を去って、何をするんだ?」
「それは俺の自由だろ?またニートに逆戻りするのもありかなぁ。」
グレンは講師に向いていた。俺は講師に向いていなかった。そんだけの話さ。
「じゃあ辞めるのは何時にするんだ?」
「競技祭が終わってからだな。最後にあいつらの笑顔を見て去りたいからな。」
「ほう、てっきり明日明後日くらいに辞めるのかと思ってたぞ?」
まあ、そうしたいのは山々なんだけどな。まだ満足してない事があんだよ!
「それに、まだ女子生徒のお腹やへそ、太股や胸や顔が見足りないんだ!全員のを記憶に焼き付けてから辞めるね!」
俺がそう言うと、セリカは大きなタメ息を付いた。そんなくだらない事言ったか俺?
「ハヤト、その為だけにまだ続けるのか?」
「ああそうだ!20年間まともに女子と会話や二人きりになるという事がほとんどなかったんだぞ!?少しくらいいいじゃねえかよぉぉぉぉぉ!!」
この学院去ったらもう女子と関わる事がほぼないんだぞ!?俺女子の友達なんて数人もいないんだからな!
「ハヤト、泣くな。みっともない。」
「グレンは女子生徒とワイワイしやがってよぉぉぉぉぉ!しかもルミアもシスティーナもレベル高いじゃねえか!リア充くたばりやがれ!」
「大丈夫だハヤト、お前もいつかグレンみたいに女子とワイワイ出来るさ。」
「余計に傷付くからヤメロォォォ!!その優しさはかえって人を傷付けるんだぞぉぉぉぉぉ!!」
もういい、俺帰る。帰ってやけ酒してやるぅぅぅぅ!グレンのバーーーーカ!!