歌を響かせ、紫雲の彼方へ羽ばたいて   作:御簾

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よう、奏さんだ。
読者の皆さんは体調崩してないか?作者は黄砂やら花粉でダウンしてるみたいだぜ。

???「てな訳であたしが登場、第19話だ!」

あ、こらセリフ取るんじゃねぇ!!


第19話 赤きシンフォギア

「こんばんは!!!」

「あら、響。どうしたの?」

「いやー、未来が風邪ひいちゃって…看病しようとしたんですけど、響にうつっちゃうからって部屋を追い出されたんですよね。」

「え、じゃあ小日向はアレか、一人だけで留守番してんのか。」

 

 そうですねー、と笑う響は、大きなカバンを手に提げている。晩御飯時に突然やってきた彼女に聞けば、なんと保護者的な立ち位置の未来が風邪をひいたと言うではないか。

 なぜこちらに来たのか、と頭を抱えながら翼は響を招き入れ、奏が慣れた手つきで来客用スリッパを出す。そこに響が足を入れようとした瞬間に、三人の端末から呼出音。

 

『三人とも、今すぐその座標に向かってくれ。』

「ここは?」

「…たしかここ、少し前にお二人が戦った公園じゃ?」

『ああ。たった今、ノイズの出現が確認された。夜遅くに悪いな…というか、響くんはウチに来ているのか?』

「ええ、まぁ…」

「タイミングが良いのか悪いのか…なんにせよ、さっさと向かうに限る。行くぞ翼!」

 

 意気揚々と駆け出した奏は、すぐさまバイクに飛び乗って走り去る。呼び止める間もなく行ってしまった彼女に伸ばした手を下げ、翼は響と二人で走ることにした。

 

 

 

 

 

 

「────っと、うおらぁ!!」

 

 到着早々奏はガングニールを展開し、アームドギアを生成する前に一撃ぶん殴る。インパクトを与え、ノイズの動きが止まった一瞬の隙を突いて槍を作り出した奏は、そのまま一点を目掛けて槍を投擲した。

 

「─っち、バレてたか。」

「バレてるもクソもねーよ。そんな目立つ格好してりゃ──なっと!」

 

 背後から突っ込んでくるノイズに裏拳を叩き込んで崩壊させ、進路を塞ぐ別の個体は前蹴りで粉砕。左右から押し潰さんとする物は身を引いて自滅させ、そのまま二体纏めて吹っ飛ばす。ならばと行われる全方位からの同時攻撃に対しては、一瞬のズレを見抜いて脱出。再び槍を形成して一掃する。

 視界を極彩色に埋め尽くされながらも奏は進んでいく。まるで重戦車が突き進んでいくかのようなそのパワーに怖気付いたのか、少女はソロモンの杖を振り回してさらにノイズを増やしていく。

 

「なんで止まらないんだよ!」

「こんぐらいで私が止まるかぁ!」

 

 お、と声を上げて奏は前進。もはや槍を形成する時間すら惜しい。前から一体、左右からそれぞれ二体、後ろから二体。瞬時に敵の位置、数を把握して対処。最初に接敵する左と後ろの敵に、あえて近づく。位相差障壁を逆に利用しそのまま透過、一歩踏み込んで五体を殴り飛ばす。

 今度は上からの飛行型。味方の犠牲すら厭わないそれらに対する攻撃は、ただ避けること。接触の瞬間に実体を持つのならば地面に衝突した段階でダメージを受けるはず──奏が編み出した飛行型への対処法は間違っていないのか、攻撃に失敗したノイズはそのまま自壊する。

 

「この程度かお前は!」

「まだだ、フィーネはまだッ──!」

 

 杖を投げ捨て、ついに少女は鞭を構える。ノイズと少女に囲まれながらも、奏は笑みを崩さない。全てを打ち砕くだけの自信があるのか、彼女の拳は固く握られたまま開かれない。物量で優るはずの少女が気圧されるのは何故だろうか。

 

「お前は何のために戦ってんだ。」

「は…?」

「私は、紫羽みたいに死にかけになってまで家族を守るなんて出来ないから、せめて一体でも多くノイズを倒そうってな、決めた。この命は紫羽に救われたんだ、捨てるなんて考えちゃいけねぇんだよ。でもお前はどうなんだ。ただ指示されるままに戦ってるようにしか見えないな。」

「 あたしは…あたしは、世界から争いを、戦いを無くすために、フィーネに従ってるんだ。パパとママを奪った戦いを無くすために…ッ!歌なんて紛い物なんだよ!それで世界が救われるわけない!だからあたしは、歌なんて大っ嫌いだ!」

「お前の、親は…」

「歌で世界を平和に出来るなんて、幻想なんだよ…そんなの、出来るわけないんだよ…」

 

 いつの間にか到着していた翼と響がノイズを蹴散らす中、二人はただ睨み合う。歌を歌って戦う者と、歌を嫌って戦う者。共に家族を失いながらも、歪んだ少女はただ吠える。

 

「だからさ…もう諦めろ。お前たちがどんだけ頑張っても無駄なんだって。歌で世界は救えないって。いい加減分かれよ。」

「やだね。私は紫羽の背中を追うって決めたんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よりはマシだろ。」

「──は、そうかよ。」

 

 全てを諦めたかのような顔で笑いながら、少女は鞭を振るう。辛うじて視認できる速度で振るわれたそれを、奏は辛うじて回避する。以前とは比べ物にならないその威力に、冷や汗を一筋。

 

「お前、そんな実力あったのかよ。最初から出せってな。」

「──────────。」

「あ?何言って─」

 

 俯いた少女は何かを唱える。訝しんだ奏の前に立つ彼女は、頬に一筋の銀線を残しながら勢いよく顔を上げた。

 

「ぶっとべ、アーマーパージだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「んだとぉ!?」

「響!危ない!」

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

 慌てて地面に伏せる三人の頭上を飛び去っていくのは、銀の鎧。いくつものパーツに分解されたネフシュタンだ。土煙が晴れていくと同時に明らかになる少女の姿を見て、三人は絶句する。

 

「まさか、お前…」

「赤い…」

「シンフォギア!?」

「教えてやるよ。あたしはな、パパとママが嫌いだ。でもそれ以上に、あの二人が信じた歌が大ッ嫌いなんだ!」

 

「歌わせたな!あたしに!雪音クリスにッ!」

 

「もう手加減しねぇ。本気の弾幕ってやつを見せてやるよ!」

 

 歌いながら身体を回し、クリスと名乗った彼女は両手にアームドギアを生み出した。ボウガンのようなそれは瞬く間に変形し、巨大な二連装ガトリング砲へと姿を変える。

 

「うぉあああああああああ!!!」

「くそっ、響!奏!私の後ろに!」

「翼さん!?」

 

 巨大な剣を天から投下し、即席の盾とする。鉛玉と剣がぶつかり合うけたたましい金属音が鳴り響き、公園が眩い光に照らされる。ただ頭を抱えて蹲る響だったが、奏の顔はまだ諦めてはいなかった。それに翼が気付くも、既に遅い。

 

「奏、何を…」

「ってことは、こっちも物量戦術だよなぁ!」

「奏さぁん!」

「わざわざ蜂の巣になりに来たってか!有難いこったな!」

 

 クリスは歌いながらガトリング砲を連射する。圧倒的な弾幕に身を晒した奏だったが、その姿はただの丸太へと変貌する。瞬く間に木っ端微塵となる丸太から視線を外し、クリスは片手のガトリング砲をハンドガンへと変化させる。

 

「そこか!」

「勘のいい奴だなぁ!」

 

 そして、後ろから飛びかかろうとした奏へと、脇の下を通したノールックショット。的確に額を狙うそれを、奏は上体を後ろに大きく逸らすことで回避。跳ね上げた身体の反動を生かして奏はクリスに近づいて行く。

 

「しまっ─」

「近接戦闘はこっちの方が有利だろうがよ!」

 

 ハンドガンを連射するクリスだったが、奏には余りにも薄い弾幕。一瞬にして距離を詰めた奏だったが、一撃を叩き込む前にバックステップ。一瞬前に彼女の身体があった場所を、勢いよく飛行型が飛んでいく。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なんだ、突然!?」

「この感じ…まさか、フィーネ!?」

『もういいわ。クリス。貴方は用済みよ。後はその子たちとじゃれ合ってなさい。』

 

「──────────は?」

 

「言ってくれるじゃねぇか。クリスはお前のこと、嫌ってはいなかったみたいだがね?」

『…その子は私の道具なんだもの。殺す…壊す手間が勿体ない。ネフシュタンは回収したし、もう要らないの。さようならクリス。ああでも、ここで四人で死んでおけば楽かしら?』

 

 四人を囲むように出現したノイズ。クリスが扱っていた時よりも遥かに多いバリエーションが現れ、不快な音を立てていく。その音に顔を顰めながら、奏と翼はそれぞれの獲物を構える。

 

「────い。」

「は?どうした響。」

「許さないッッッッ!!」

 

 呆然とするクリスに襲いかからんとするノイズに向かってロケットスタート。突き出した膝をめり込ませ、体を捻って回し蹴り。両手足のジャッキを引き絞り、その反動で無理矢理身体を制御して拳を叩き込む。

 瞬きの間にそれを行った響は、これまでに見たことがない程に『キレて』いた。ギアの一部を黒く染めながら、彼女は姿見えぬ声の主に向かって声を張り上げる。

 

「クリスちゃんは、貴方のために私たちと戦ってたのに…不要になったら捨てるだなんて、それが保護者のやることですか!」

『私は保護者でもなんでもない。役に立つ道具があったから拾っただけ。目的が達成されたならその子はただの『ゴミ』となるの。それを分からないクリスでは無かったはずなのだけど?』

「……ああ、うぁ…フィー、ネ…」

 

 激情に駆られた響ではクリスを守ること能わず。倒し損ねたノイズが次々とクリスに攻撃を加えていく。未だへたりこんで動かない彼女を引きずって響は戦線離脱。それを守るように奏と翼がその場を離れていく。

 

『そう、それでいい。貴方は──』

 

 

 

 

 

 

「…あたしは、まだお前らとつるむ気はねぇ。」

「あっ、ちょ!」

 

 ようやく逃げおおせた、と響が安心した隙を狙ってクリスは走り去っていく。突然のことに反応できなかった響は、その背中に虚しく手を伸ばすことしか出来ない。

 

「クリスちゃん…」

「あいつ、シンフォギアの適合者だったんだな。」

『ああ。数年前、バルベルデで起きた爆弾テロに巻き込まれた音楽家夫妻の娘…行方不明になっていたはずが、まさか…』

「叔父様、彼女のことを知っているのですか。」

『ああ。その辺も含めて、帰ってから話そう。了子くんもそろそろ帰ってくるはずだからな…なんだと!?』

「どうしたんですか!?」

 

 

 

 

 

 

「広木防衛大臣が…」

「殺された!?」

「了子さんは!」

「無事、だといいんだが…」

 

 帰還してから聞かされたのは、防衛大臣の死。あまりにも唐突すぎるその連絡は、二課全体に小さくない衝撃を与えた。

 

「先程からコールしてみているものの、返答は無し。まさかとは思うが…」

「た、ただいま…」

「「「了子さん(くん)!」」」

 

 乱れ、解けた髪を結い直しながら了子が慌ただしく帰還する。汗を流しながら、珍しく憔悴しきった彼女の姿に誰もが目を丸くする。

 

「追手とか、大丈夫だったんですか!?」

「なんとかね…あと少しで私も…」

「とにかく、無事で何よりだ。それで、デュランダル輸送の件は?」

「流れちゃったわ。弦十郎クンのお兄様と話せるならそれが一番なんだけれど…無理よね。」

「ああ。仕方ないか…しばらくはここで保管を続けよう。」

 

 デュランダルは二課本部に保管することに決めた弦十郎。広木防衛大臣を悼むムードではあったものの、割り込んできた了子によって話は雪音クリスの方へと向かっていった。

 

「彼女は、確かにシンフォギアへの適正があった。しかし行方不明となっていたはずなんだが…紛失した()()()()()に、二年前強奪されたネフシュタン…さらにソロモンの杖というジョーカーを持っているとは。」

「しかも、そのバックには『フィーネ』とかいう…保護者?が居るんですよね。さっきの戦闘を見てる感じ、用済みになって捨てられた感じはしましたけど。」

 

 余計な事を言うな。そんな視線が朔也に向けられ、隣に座っていたあおいが彼の脇腹に肘鉄を一発。ぐへぇ、と崩れ落ちる彼にゴミを見るような視線を向けながら、あおいは少し考え込む。

 

「でも変なんですよね。彼女、しばらくの間はイチイバルを展開したまま逃げたんですよ。」

「──!最後に確認されたのは!」

「ここです。」

 

 映し出されたのは、荒れ果てた廃ビル。

 

「…行くか。」

「いや、おっさんが行っても逃げられるだけだろ。あいつ、大人嫌いだと思うぜ。たぶん。」

「奏、憶測で物を話すのは良くないわよ。」

「…フィーネ、さん。あの人、クリスちゃんを物みたいに扱って…」

 

 握られた響の拳がぎり、と音を立てる。

 

「そういや、なんであの時、響はあんなにキレてたんだ?」

「ああ、いえそんな…ごめんなさい、少しお手洗いに…」

 

 あはは、と髪を掻き乱しながら彼女は去っていく。

 

「こりゃ、クリスだけじゃなさそうだ。」

「ええ。響にも、何かあったようね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…逃げたか。仕留め損ねたのは痛いな。」

 

 広木防衛大臣が殺された現場、米軍の特殊部隊の死体が転がる中で、力無く横たわる彼の遺体を眺める一人の女性がいた。()()()()を纏めながら、彼女は独りごちる。

 

「フィーネ…先史文明の巫女ならば、あるいはと思ったが。」

 

「アレではダメだな。」

 

 手にした結晶を地面に叩きつけながら、彼女は何処か遠くを眺める。

 

「まだ、()()は見つからんか。」

 

 

 

 

 

「だが待っていてくれ、響歌。」

 

 

 

 

 

──必ず、助けてみせる。




次回、第20話。
またいつになるか分からねぇけど、よろしくな!

え?どうした?最後の人が誰か、だって?
だいたい分かんだろ、アイツだよアイツ。

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