歌を響かせ、紫雲の彼方へ羽ばたいて   作:御簾

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おっす、奏さんだ!新生活どうだ?キツくないか?
作者は通学に1時間半掛かるらしいからまた毎日更新出来るかもって喜んでたぜ。マジかよ。

っつーわけで、長くなっちまった。前編だ!


第21話 フィーネとクリス(前編)

「まとめて逝っちまえや…!」

 

 放たれた銃弾は、どこまでも鋭くノイズを引き裂いていく。以前とは違い、狙いを定めて全てを撃ち抜くクリスのイチイバルの輝きに気圧されたのか、ノイズの一部が別方向へと向かっていく。

 視線は前に固定したまま、視界の端でそれを確認。腰から展開したマイクロミサイルは、一匹残らず別働隊を爆散させる。装者たちと敵対していた時とは比べ物にならないほどの身体の軽さ。吹っ切れた雪音クリスを止められる者など、ここには居ない。くるりくるりと回って、周囲のノイズに向けた一斉射撃。

 

「っつ…げほ、やりすぎたか?」

 

 気付けばノイズは全て消え去っており、辺りに広がるのはノイズだった炭素の塊だけ。少しばかり煙たい空気を吸って咳き込みながら、クリスはガトリング砲をハンドガンへ変化させる。二丁拳銃を構えながら、彼女は街を歩いていく。

 

「誰もいねぇわな。」

「いいや、私がいるとも。クリス。」

「──ッ!フィーネェェ!」

 

 激情と共に放たれた弾丸を軽々と避けながら、金髪の美女は妖艶に笑う。必死に威嚇する子猫を見るかのような、余裕ぶったその笑み。ぷち、と何かが切れるような音が聞こえたかと思えば、クリスの両手に握られていた拳銃がガトリング砲へと再び変化。

 

「余裕じゃねぇかよ。」

「余裕なのだよ。今の精神状態でシンフォギアを自在に扱えるとでも思っているのか?いいや不可能だ。今のお前は、私には勝てない。」

 

 若干下にズレた照準を直しながら、クリスは叫ぶ。

 

「なんでだよ、フィーネ!!」

「何故、とは?私が貴様を捨てたことか?先も言った通りだ。それ以上でもそれ以下でもない。ああそれとも、己が私に勝てないことか?」

「────っ、馬鹿にして…!」

 

 がしゃり、と構えたガトリング砲が弾丸を吐き出す寸前に、クリスはその場を飛び退く。空間から突然現れたノイズの攻撃はクリスの喉元を掠め、そして降り注いだコンクリートによって粉砕された。

 

「風鳴弦十郎…やはり、来ていたか。」

「っ、待てよフィーネ!」

『それじゃあね、私の可愛い玩具。もう会うことは無いでしょう。』

「お前が、フィーネとやらか。」

 

 手を払って()()()()()()()()()()()()()()()やって来たのは、赤いシャツの偉丈夫。二課の司令官である風鳴弦十郎がそこに居た。

 

「あんたは…」

「答えろ。」

『──貴方に話す舌など持たないわ。』

「おい待て!」

 

 不明瞭になりブレて消えていくフィーネの姿に、それでもクリスは手を伸ばす。何故己を捨てたのかと。本当にそれが理由なのかと。真意を問いただすためにここに来たというのに、フィーネは消えてしまう。

 結局なにも掴めないまま空を切った手を眺めて、クリスは歯を食いしばる。ノイズは倒した。市民も守った。でも本当にしたいことは…フィーネと話すことは、出来なかった。

 

「…何でだよ。フィーネ。」

「…………」

「あんたは、誰なんだよ。あたしを助けるなんて言わねぇよな。」

「いや、そうだな。響くんの…上司と言ったところか。」

「良い回答だ。司令なんて言った日にゃ、そのドタマに風穴空けてたよ。」

 

 弦十郎に向けた片手の銃をくるりと回して消し去りながら、クリスは彼に背を向けて去っていく。白いワンピースに姿を変え、彼女の姿は道の向こうに向けて、段々と小さくなっていく。

 

「それじゃあな。」

「待ってくれ、君の親御さんのことを…」

「今のあたしの親は、フィーネだけだ。」

 

 振り返り、彼女は弦十郎に射抜くような視線を向けた。口を真一文字に引き結び、雪音クリスという少女は再び歩き出す。

 

「弱いあたしとは、さよならだ。もう、過去は振り返らねぇ。」

 

 今はただ、フィーネと話すためだけに彼女は歩く。

 

「…一体、どうして。どうして…そこまで強くあれるんだ。」

 

 彼女を変えてしまったのは、一体何なのだろう。考えても答えが出る訳もなく、彼はコンサート会場へと踵を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

「…げ、またお前らかよ。」

「クリスちゃん!大丈夫だったの!?」

「おう。雪音クリス様を舐めるなよ。あたしにかかればノイズぐらい朝飯前ってもんだからな。」

「く、クリスちゃん?()()()()は、ノイズと戦えないんだよ?」

 

 弦十郎と分かれて歩くクリスの前に現れたのは、未来と響。やたらとこちらを心配してくる未来に向けて、クリスは胸を張って応える。

 しかし何故か焦ったようにそう言う響に、彼女は何を言ってるんだと呆れたような顔を向ける。その次に飛び出してくる言葉を予測したのか、響の対応は早かった。

 

「だからとりあえず家に帰ろ!?ね!」

「お、おう…でもあたしは…」

「ね!」

「わ、わかったわかった!」

 

 響の威圧に負けたのか、クリスは面倒くさそうに手を振って彼女を引き剥がす。それでもぐりぐりと頭を押し付けてくる響に向かってヘッドロックを掛けながら、クリスは沈む夕日を眺める。

 

「あたし、フィーネと話してくる。」

「ふぃーね?それってクリスちゃんの家族なの?」

「そんなもんだ。っと。」

「いてて…でも、いいの?()()()()()()()()()()()。」

「大丈夫だっつーの。フィーネも、あたしの事殴ったり蹴ったりする訳じゃねぇしな。ただ普通に、お…親子として、話すだけだよ。んじゃあな!もう追っかけてくんなよ!」

 

 親子。そんな一言を絞り出したクリスは、顔を赤くして走り去っていく。みるみるうちに小さくなる彼女の背中を見つめながら、未来と響は手を繋ぎ歩いていく。

 

「今日の晩御飯〜ばんごっはん〜」

「あっ、下準備…」

「え゛っ」

 

 一瞬にして響のテンションが下降したのは、ご愛嬌というところか。

 

 

 

 

 

 

「…フィーネ。」

 

 がちゃり、と屋敷の扉を開く。意を決したように顔を上げたクリスの視界に入ってきたのは、床一面を彩る真紅だった。

 赤い海の中で横たわるのは、物々しい装備に身を包んだ男たち。そしてその中心に佇むのは、金髪を靡かせる長身。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、クリスはその人影へと近づいて行く。

 

「なんだよフィーネ、これって…」

「フィーネ、確かに奴の仕業であろうが…私と似たような容貌でもしているのか?」

 

 振り返ったその姿は、クリスの知るフィーネとは似ても似つかない。くせっ毛を弄りながら、眼前に立つ女性はクリスに向けて何かを投げよこす。

 

「おっ、と…これは…」

「さてな。貴様に向けた手紙か何かではないのか?」

「あたしに?」

 

 確かに、封筒に入った何かを感じる。それから目を離し、目線を正面に戻した時には女性の姿は既になかった。フィーネとは確かに異なっていた彼女はどこかへ去ってしまい、残されたのはクリスただ一人。

 

「I love you SAYONARA…?なんだそりゃ。」

 

 封入されていたのは意味不明なメッセージカードただ一つ。首を傾げながらクリスはカードを裏返すも、何も書かれてはいない。正真正銘の怪文書。訳が分からんと両手を掲げ、クリスは転がる死体を見る。

 

「こいつら、まさか本当にフィーネに殺されたんじゃねぇよな。」

『私の邪魔だったのだ、殺されても文句はあるまいよ。』

「フィーネッ…の、ホログラムかよ紛らわしい。」

 

 ホログラムのフィーネに用はない。部屋を漁ってみるものの収穫は無し、クリスは途方に暮れる。ベラベラと語り続けるホログラムに対してカードを投げつけ、彼女は部屋を後にし、探索を続ける。

 

『ああそうそう、この映像が止まった時、この屋敷は吹き飛ぶからそのつもりでね。』

 

 故に、その後のメッセージを聞くことは無かった。

 

///

 

「ったく、フィーネの奴…ほんっとに何も残してねぇな。」

 

 ガチャガチャ扉を開きながらクリスは毒づく。まだ数分しか探索していないのにこのザマである。

 

「…あ?」

 

 そして新たに開いた扉の先、偶然(不幸)にもクリスは爆薬を発見してしまう。部屋一面に貼り付けられた爆薬という何とも雑な処理であったが、その危険性は素人でも分かる。

 

「っっっっっっそだろオイ!」

 

 ノブから手を離して回れ右、脱兎のごとく逃げ出した。急に鳴り響く、アナログ時計のような針の音。明らかに狙ってやっているとしか思えないその演出に慌てることなく、クリスは出口へ向かって一直線に走り続ける。

 

 クリスが外に飛び出した後、屋敷は爆発。クリスが見た部屋以外からも爆炎が飛び出した所を見ると、アレはクリスへの警告だったのだろうか。

 

「うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 しかし彼女にそれを気にする余裕はなく。比較的小柄な彼女は、後ろからの熱風に煽られて軽々と空を舞った。あいきゃんふらーい、などと死んだ目で呟きながらクリスはシンフォギアを起動させようとして。

 

「危ない!クリスくん!」

「なんでまたお前が居るんだよぉぉぉぉ!!」

 

 先程突き放したはずの男が、吹き飛ぶ瓦礫を足場にしてこちらへやって来るのを見た。なんだお前は。

 

「いや、やはり君を一人にする訳にはいかないと思ってな。事後報告になるが、尾行させてもらっていた。」

「全然気付かなかったんだけど。何なんだよお前…」

 

 はて、と肩を竦め、とぼけてみせる弦十郎。下手くそな口笛でも吹くのかとジト目を向けたクリスは、案外上手かった彼の口笛に膝から崩れ落ちた。

 

「も、もういいや…んで、なんであたしを追い掛けるんだよ。」

「それはな…うむ、その。」

「容疑者か。」

 

 言い淀んだ弦十郎に対して鋭く切り返したクリス。予想外に淡々と返されたために意表を突かれたのか、彼は目を見開いてオウムのように聞き返す。

 

「容疑者、だと?」

「ああ。ソロモンの杖に、ネフシュタンの鎧。それにシンフォギアと、フィーネへの繋がり。あたしを捕まえる理由なんてごまんとある。」

「──鋭いな。」

「やっぱりか。こんなのガキでも分かるっての。」

 

 乱暴に膝を抱え、クリスはぎろりと弦十郎を睨む。

 

「でもあたしは話さない。これはあたしと、あたしの…母親、が引き起こした出来事なんだ。親のケジメは、あたしがつける。」

「フィーネが、母親か。捨てられたのに?」

「ああ。…あの時、攫われたあたしを誰も助けてくれなかった。でもフィーネは、たとえ道具としてても、あたしの事をすくい上げてくれた。」

「─君は、本当に。」

「カ・ディンギル。これだけだ。あたしが言えるのは。」

 

 離れた場所からこちらを見る弦十郎の答えを聞くことなく、彼女は一人で歩き去る。投げられた端末を後ろ手でキャッチし、そのままに。

 

「カ・ディンギル…なんだ、それは…」

『櫻井博士にでも聞いてみます?』

 

 そうだな、と返事を返す。()()()()()()()()()()()()彼女は、シンフォギア研究の第一人者だ。こういった謎言語を任せるのは、彼女への信頼の現れとも言えた。

 

 

 

 

 

 

「フィーネのやつ、何がしたいんだか…」

 

 公園のベンチで黄昏ながら、ガシガシと頭を掻きむしる。考えても答えが出ないのは分かりきっている。どこか静かな場所で思考したいところだがそんな場所は無い。

 クリスの居場所はとうの昔に失われたまま。フィーネの屋敷も爆散して使えない。金も無い。故に、根無し草の彼女が選んだのは…

 

「…クリス、ちゃん?」

「その…なんだ、頼む!あたしを匿ってくれ!」

「匿うって…フィーネさんは?

「家は吹き飛んじまったよ!」

「え、えっと響?とりあえず部屋に入れてあげようよ?」

 

 リディアン音楽院の学生寮に忍び込むことであった。

 

///

 

「あー、雪音クリスだ。」

「ちゃんとした自己紹介はまだだったよね。小日向未来です。よろしくね、クリスちゃん。」

「お、おう。」

 

 差し出された右手は予想外に暖かく、陸上部だという彼女の体温の高さに驚かされた。気付けば響は未来の膝枕で爆睡していた。殴りそうになる拳をグッと堪えた。偉いぞクリス。あたしは我慢出来る良い子だ。

 

「それで、どうやってここに忍び込めたの?結構セキュリティは厳しいと思ったんだけど…」

「そうか?入り口で誰にも止められなかったし、そのまま入ってきたぞ?」

「え?」

「え?」

 

 弦十郎の根回しである。

 

「おっほん、それじゃ、よろしくね。」

「い、良いのか?自分で言うのもなんだけど、押しかけてきたんだぞ?」

「えーと、響が入れてあげてってうるさくて…」

「コイツが?」

 

 ぐーすかぴー、と呑気な寝顔を晒す彼女の頬を突っつきながら、未来はにっこりと笑って見せた。

 

「いつも自分のことなんか二の次で、誰かのために〜って言ってる響が珍しく真面目だったんだもん。しょうがないよ。」

「誰かのために、か。」

 

 無防備な寝顔は、そんなことを考えているようには見えないが。

 

「…ありがとな。」

 

 自分の事を思ってくれている人がいるというのは、嬉しかった。




次回後編!乞うご期待!

【今作のクリス】
・原作よりもマイルドなフィーネに保護されたので他人への警戒感は薄め。(特に未成年)
・ちゃんと過去を受け止められている。前話で393とビッキーがあれこれ世話を焼いてあげたらしい。

IFクリス+原作クリスみたいな。

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