演述社翁   作:会川奈々

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4.わからんでもない(口癖)

 身内ネタ、身内ノリは自らのコミュニティから外に出してはいけないものだ。

 人間は知らないものに対して攻撃的で、排他的。ある場所より持ち出された身内ネタはその場以外の人々にとって未知で、異物。邪魔だ。鬱陶しいとまで言えるそれは、得てして誰も得をしない妨害行為。

 

 ──"メンテュルがブイチューバーになってたけど信者のノリがキモすぎて引いた"

 

 と、俺の放送でコメントをしたヤツがいた。

 言いたい事はわからんでもない。そもそもこちらは全体的に否定の文化……上手いのが前提だから、粗探しをして、生放送主と視聴者は対立しあう構造で成り立っている。メンテュルやその他上手いヤツもちらほらいるものの、とりあえず流し見た限りではメンテュルクラスはそこまでいない。つまり、下手で弱いやつらの実況であるのだ。

 なれば初心者。ビギナーに冷たい言葉をかけるほど心に余裕のない奴らばかりじゃない。だから当然、持ち上げるような言葉が増える。

 俺の視聴者がキモいって言ってるのはそのノリの事なんだろう。和気藹々を受け付けない身体になってしまっているのだ。いつも見ているのがベテランばかりだから。

 

 けど、正直大して変わらん、というのが所感でもある。

 

 持ち上げのノリも罵倒のノリも、外に出せば同じく内輪の戯れだ。「は?」とか「うるさ」とか、なんなら「キモ」すらも身内ノリと言える。そういう奴らばかりが集まる場所で、なんの厭いもなくそれらを発言している限りは特殊でなく、異端でないのならば、言い方は悪いが"ぬるま湯に浸かった状態"になる。

 異様に持ち上げるキモいノリも、異様に下げて罵倒するキモいノリも、同じ穴の狢なのだ。ただ自分が慣れていないだけで。

 

 それは放送内だけでなく、動画のコメント欄にも言える事。

 あるいは本人の上げていない転載動画であっても、そこにはそこのノリというものがある。ブイチューバーの動画や生放送のコメント欄にこちら側のノリを持ち込めば叩かれるし冷える。そしてそれは勿論、こちら側のクリップ集なんかにブイチューバーの視聴者らが入ってきても同じことが起こる。

 完全に同じ穴の狢だ。ステータスが同一でほのおタイプかひこうタイプかの違いがある程度のソレ。

 ただし、人は一度でも"違う"と思った対象に歩み寄る事が出来ない生き物だ。故に一度「キモ」と思った時点でコイツラはもうブイチューバーを受け入れることの出来ない身体になっているのだろう。憐れだとは思うが、まぁ自由にしたらいいと思う。

 

 ブイチューバー、というのをメンテュル以外にも見て回った結果としては、実況者と全く変わらない、という事がわかった。どこに重きを置いているか、程度だろう。ゲーム実況に重きをおいて、それの録画の編集に明け暮れたり、新しいゲームを探して飛島のようにゲーム間を移っていくのが実況者。自身のコミュニティ内では番外編として雑談をする事もある。

 ブイチューバーはブイチューバー側に重きが置かれている。"キモ"要素の一つである自己紹介動画もその一例だろう。

 前にも述べたが、ゲーム実況は創作である。実況者が作者で、ゲームのプレイが作品。なれば作品の前書きに長ったらしい作者の自己紹介が書かれていても、そんなこと知らんし、どうでもいいだろう。むしろ鬱陶しいとさえ思う。作者のパーソナルデータが何か作品に関わってくるならともかく、作品を見たい視聴者にとって作者の情報なんかどうでもいい。

 

 とはいえこれはゲーム実況の話で、ゲーム実況そのものに重きをおいていないらしいブイチューバーは、所謂オタク……実況者そのものを追っかけてくれるファンを増やそうとしているから、作者の情報を全面に押し出してくる。作品は単なる作者紹介の一部に過ぎず、ゲームもまた宣伝のためのツールの一つでしかない。

 初期も初期、好きなゲームをやってたら何故か人気が出た、という実況者と、人気を得るためにゲームをやるブイチューバーでは根本が違うのだ。

 

 無論これも先ほどの身内ノリと同じで、どちらが正しいとか、どちらが良いとかいう話じゃない。ほのおタイプかひこうタイプかの違いだ。受け入れられない思考がそこにあったのなら、関わらない方がいい。

 文句を言って場を荒らして、それが楽しい、なんて言う奴らはチーターと同じだ。他者を害する事で快楽を得るのは単純に危険思考の持ち主。街中で笑いながら刃物振り回しているようなものだ。同じ人間だと思わない方が健全だろう。

 

 ──"ケズもVなるか?ww"

「メリットが無い。万が一何かに巻き込まれてならざるを得ないとしても、名は変えないだろうけどな」

 ──"あー"

 

 FPSゲームをしながらコメントと会話する。

 同じような疑問は覚えていたから、まぁ拾った。

 メンテュルが何故名を変えたのか。絵になる事は別にどうでもいい。顔出ししたくなくなったとか、あるいは二次元がそんなに好きだったのか。何かしらのっぴきならない事情があったんだろう。そこに拘りはない。

 ただ、メンテュルがメンテュルのままブイチューバーにならなかったのはちょっと意味が分からない。

 俺の約二倍はコミュニティ参加者のいるメンテュルは、人気実況者の一人だ。アイツがあのままブイチューバーになっていたら、今の参加者数……あー、あっちでは登録者数というんだったか。それが現在の200人ちょいなんて端数でなく、あの頃の同接と同じくらいの、三万人程度はスタートダッシュの時点で堅かっただろう。

 それを捨ててまで、何故。

 

 ──"荒れるの多くて嫌になったとか"

「心機一転したところで荒れるだろ、FPSなんて」

 ──"民度の良いFPSは過疎ってそれ一番言われてるから"

 ──"てか良いのか、認めちゃって"

 ──"メンテュルとはもうやらないんですか?"

「ま、静かにやりたい、ってのはわからんでもない。お前らみたいな鬱陶しいのに囲まれると色々大変だからな」

 ──"は?"

 ──"は?"

 ──"草"

 ──"は?"

 ──"ランデモナイ"

 ──"?"

「あぁ、メンテュルとはもうやらないよ。多分な。偶然野良で、なんてことはあるかもしれんが」

 ──"絶対凸する奴出てくる"

 ──"また燃えるのかケズ"

 ──"度重なる炎上にも負ケズ"

 ──"つか部門メンバー足りないのどうすんの?"

「お前ら図星突くの上手いよなぁ」

 ──"照れる"

 

 あるいは。

 視聴者が騒ぐのが嫌になった、じゃなく……手放しに視聴者が褒めてくれるのが嫌になった、という可能性もゼロじゃない。

 メンテュルは実力主義な所のある奴だった。ブイチューバーになってからその面は抑えられているようだが、つまり"結果を出せていない状態"で褒められたり慰められたりすることを酷く嫌っていたのだ。

 「自分がダメだったらちゃんと責めて欲しい」と言っていた。そういう誠実な性格だからこそ、俺の所より視聴者が優しかったように思うのだが、アイツ、そのことには終ぞ気付かなかったっけな。

 

「……はい、と」

 ──"野良2抜けでソロ勝は流石"

 ──"ゲームの上手い炎上芸人"

 ──"でもレート戦じゃないし"

 ──"レート戦もうやらないんですか?"

「やってるやってる。裏でやってる」

 ──"表でやれ"

 ──"放送つけるボタンも押せなくなったのかお前"

 ──"固定メンバーじゃなくても盛れるんですか?"

「やるやる。やれたらやる」

 ──"やらないやつじゃねーか"

 ──"やれ"

 ──"お前からレート戦取ったら何も残らないだろ"

「青春を謳歌する大学生ってステータスが残るだろ」

 ──"バードウォッチング(笑)"

 ──"彼女は出来ましたか?"

「ラブラブカップルの女の方に男の方へ贈るプレゼント選ばされたよ」

 ──"悲しい"

 ──"仲のいい友達止まり"

 ──"ケズ君って、良い人だね"

「うるせぇやい」

 

 取り巻きのついていた名前を捨てて、自分を知らない奴らばかりの土壌でどこまでやれるか、を計りたい、とかなら、まぁわからんでもない、と思った。

 俺でさえ、今の状態は知名度底上げが存在する。コミュニティ参加者の全てがそうだとは言わないが、俺に対する目線はゲームが上手いという前提の期待があるし、多少下手をこいて「は?」なんてコメントを打ったとしても、そこには根拠のない自信のようなものがある。

 つまりは最低保障だ。コミュニティ参加者が多ければ多い程、その最低保障ラインは上がって行く。

 

 それが嫌、というのはまぁ、ちょっとだけわかるのだ。

 

 実力を見て欲しい。結果だけを褒めて欲しい。

 メンテュルやケズという名に対する期待でなく、プレイによる結果だけを見て欲しいという、傲慢な願い。

 それがブイチューバーの土壌でなら叶う、というのなら、まぁ。

 

「必ずしもそうだとは限らんが……」

 ──"脈あるってこと?"

 ──"浮気不倫は流石に炎上じゃ済まんぞケズ"

 ──"クズになるのか"

「女が浮気してくれるほどのイケメンに見えてるのか? ありがとうよ」

 ──"不細工じゃないだけいいだろ"

 ──"フツメンの権化"

 ──"モブキャラとエキストラと背景を足して2で割ったような顔"

 ──"性格がなぁ"

「お前らよりはマシだっていう自覚が俺を支えてくれてるよ」

 ──"この話やめない?"

 

 実況を始めた当初は顔なんか出してなかったんだ。リアルイベントに呼ばれた時に初出しして、その若さ……というか幼さに驚かれた。驚かれたというか、納得されたというか。

 そして司会の人に言われた言葉を今でも忘れない。

 

 ──"いやー、ケズさん……ザ・普通って感じですねー!"

 

 勿論これは悪口でなく、俺の前に紹介されてたやつらが奇抜も奇抜だったが故のアレソレなのだが、ザ・普通……ザ・普通かぁ、となったのを覚えている。

 そこから顔出し放送を始めたけど、アマチュアチームに入るまでは「流石普通の男」とか「普通過ぎて逆に面白い」とか言われていた。プレイはちゃんと上手かったにも関わらず、だ。

 人間内面が大事とかいうヤツがよくいるが、ンなことはない。外見以外に第一印象なんてないんだから、外見が大事に決まってる。コメントにもあったが不細工にまでは至っていなくて良かったとは思う。太ってもいない。チビでもない。ただ、普通。

 どこにでもいる大学生、って奴だ。勿論容姿の話で、ゲームの実力だけは負けない自信があるが。

 

「そろそろ止めるか……あん?」

 ──"こ"

 ──"良い方が完全にヤンキー"

 ──"つぶあんよりこしあん"

 ──"あっ"

「……凸ったら晒し上げるからな」

 ──"晒しの時間だ"

 

 噂をすれば影、だ。

 悪魔の話をすれば悪魔が来る、でも良い。

 

 入って来た野良の一人。

 そのIDの末尾には-VTの文字がある。視聴者は気付いていない様子だが、メンテュルと遊んでいた実況者の一人だ。

 こういうのがあるって考えると、レート戦やった方がいいのかもなぁ、なんて思った。

 正直、やっぱり。終始あんまり上手いとは言えないプレイをしたソイツとのゲームで、放送は終了となった。

 

 

 ○

 

 

「そうなんですよ。必修二限って超微妙じゃないですか? 一限なら早起きしようと思ってちゃんと起きれるし、三限ならゆっくり起きても良いや、ってなる。でも二限、二限ですよ。超微妙。身体起き切ってない状態で受ける講義のなんと退屈なことか! あ、ちょっと聞いてますか先輩! ねえ!」

「聞いているか聞いていないかで言えば聞いてはいないけど、話してていいぞ」

「真面目に聞いてくださいよ!!」

 

 キャンキャンうるさい後輩を背に、写真加工の作業を進める。

 コントラストや彩度明度を弄ったり、ガンマ値を弄ったり、トリミングしたりぼやかしたりラジバ……なんでもない。

 地味な作業に思われがちだが、自分の放送を録画したものを編集するのより四千倍くらい楽しい。目に見えて自身の作品が美しくなっていく。視覚的な編集であるからこそだけど、あるいは女の化粧なんかもこういう感覚なのかもしれない。

 

「幸司せんぱぁい……聞いてくださいよぉ、ウサギは寂しいと死んじゃうんですよぉ?」

「兎要素無いだろ」

「浦沢凪だからあだ名はウサギですって自己紹介の時言ったじゃないですか! 聞いてなかったんですか!」

「聞いてなかったわ」

「真面目に聞いててくださいよ!!!!」

 

 うるせー、コイツ。

 女性実況者にもキャーキャー騒ぐのがいるが、コイツは別。声質がアニメ声っぽいってのはあるんだろうが、とにかく落ち着きがないしずっと喋ってるし喋る内容薄っぺらいしでとにかくうるさい。

 我らがサークル渡勝(とかち)野鳥の会は構成数六名の弱小サークルではあるが、コイツに関しては出て行ってもらっても一向に構わない。奈々より煩い奴が入ってくるとは思わないだろう。

 

 もう一人の一年は物静かなヤツだってのに、どうしてこう……。

 

「いいか、先輩は崇高な加工作業中なんだ。静かにできないのなら外に鳥を撮りにいけ」

「鳥だけに?」

「次そのギャグ言ったらガン無視するからな」

「それだけはどうか!」

 

 作業に戻る。

 すると、今度は俺にしな垂れかかるようにしてくる後輩。鬱陶しい。

 

「……ウサギさんはまだ思っちゃうんですけどぉ、写真加工って、良いんですかぁ?」

「良い、ってのは、どういう意味だ」

「加工しちゃったら偽物みたいじゃないですかぁ? 素のままの写真の方がこう……作品として綺麗っていうか」

「言いたい事はわからんでもない。が、お前だって人前に出る時化粧くらいするだろ」

「お化粧は、それこそ偽物ですよ。だって誰でもかわいくなれますもん」

「じゃあ、野菜を洗う、でもいい。農家の直売所で野菜を買うのはそれが汚いモンじゃないと知っている現地の人間だけだ。都会に住む奴らは土の付いた野菜を汚いと思うもんなんだよ。だから売り物にするために洗う。綺麗に見せるんだ。それは偽物か?」

「……むぅ」

 

 これに関しては所感だが、動画編集というのは"カワイイは作れる"的な事だと思っている。

 良い部分だけを見せ、盛り、ダメな部分や見せない方が好感の取れる部分は一切見せない。ゲーム実況として出していた動画はそれら技術の結晶。とはいえ過度な装飾は邪魔になるのが常だ。

 基本はプレイ動画で、ぐだぐだしたところはカット。時折説明や注釈を入れて、ハーブを乗っける程度の微小なSEを付ける。それだけ。

 何事も削りすぎ、盛りすぎは良くないのだ。

 そしてその編集は新規視聴者へのみ向けた作業である。既存の視聴者はどうせ俺に期待しているから、編集に寄る装飾になんか興味がないし、なんなら元放送の方を見に来るだろう。

 あくまで新規視聴者が俺を知るためだけの、そのためだけの入り口として編集は存在している。

 

 故に、俺の様にもう新規視聴者を獲得しなくても別にいいや、と思っている人間は、そもそも動画を出さないかもしれない。他のプロチームにはストリーマー部門なんてものが存在し、そういうのであれば新規視聴者の獲得は重要なのだろうが、俺の場合は上手いプレイを見せて、結果を出していればいいだけ。

 実際コミュニティに上がっている動画で編集を施してあるものは去年の春で最後だし、それ以降は生放送をそのまま録画しただけのものが上がっているのみ。

 

 視聴者が勝手に録画して勝手に転載したものであれば新しいのがいくつかあるが、俺の関与するところではない。

 

「と、ここまで言ったけど、まぁ偽物ってのはわかるよ。いや、偽物までいくとちょいと言い過ぎだけど、本物じゃない、って感覚はわかる。現実じゃない、が正しいか?」

「なんか、ハリボテを着せてるみたいで、嫌だな、って思います」

「正直だなオイ。……けど、その感覚は正しいんだ。記録相手ならな」

「記録?」

「まぁ図鑑だな。いや最近の図鑑は商品である事も相俟って加工してる写真も多いからなんとも言えんが……にしたってされてる加工は"見やすくするためのもの"でしかない。魅了の魅で魅せるためのものじゃなく、単純に見やすくするための加工はどの写真にもされてるもんだ」

 

 けど、と。

 

「これは、作品なんだよ。観察記録って名前で、記録って文字は入ってるけど、これは最終的に提出される作品だ。じゃあ装飾は必要だろう。真実じゃなく華美を見せなきゃいけない。ま、やってったらわかるよ」

「そういうものですか……」

「そういうもの。ああ、そういうものだってわかるために経験も必要だからな。明日、一緒に行くか、バードウォッチング」

「知り合いの祈祷師に雨乞い頼んでおきますね」

「炎天下でも豪雨でも行くに決まってるだろ」

「えぇ……」

 

 そういう意味では。

 メンテュルのやっていることは、あるいは、新しい作品作り、なのかもしれないと、思った。

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