追放された勇者の鶏は、姫騎士の鶏肉ではなく師匠となる   作:運の命さん

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第1章 鶏肉ではなく師匠となる
第1話 王女様、なぜここに?


 バシィァァアアアー!!

 

 天界から放り投げられた私は、地上の湖へと落下する。硬い地面じゃなかったのは不幸中の幸いだろうか?

 それでも一歩間違えれば死んでた事には間違いない。この出来事は私の一生のトラウマになるかもしれない。

 

「……ぁいてて……」

 

 陸地に上がり、翼を広げながら、身体をブルブルッと振るわせ、体毛についた水滴を一瞬で払う。

 その際に周囲を見渡すが、そこは一面森景色だった。自分の国しか見守ってなかった故に、世界の地理事情については余り詳しくなかった。

 

「……はあ……これからどうするか……」

 

 霊体化せずに地上へ降りてしまった為、今の私は何処にでもいる一般鶏の一つに過ぎない身分となっている。

 天界に戻るには、霊体化している際の魔力を神様が感知しなければならない為、実質それは不可能に近いだろう。

 

 故に――私は勇者という枠から追放されたに等しいのだ。

 

「ッチ……ブレインとアスリィめ」

 

 私を追いやった奴らの顔を思い出し、苛立ちを募らせる。

 どうにかして一泡吹かせてやりたいところだが、今の私にはどうしようもできないだろう。

 

 何とかして、再び勇者として戻る方法を考えなければ……。

 

「うぅ~……何事……?」

 

「ん?」

 

 ふと、背後の方から少女の声が聞こえた。

 

 振り返ってみると、湖の水面がブクブクと不自然に泡立っていた。

 何事かと思い、私は急いでその場に駆け付ける。

 

「あ、あの~?」

 

「……ッ、ぶはぁ!!?」

 

 バシャッと、泡立つ水面から声の主が現れる。

 

 それは、サラッとした綺麗な銀色をした長髪と、透き通るような紺碧色の瞳をした美しい少女だった。

 水浴びをしていたのか、服は何一つ来ていない丸裸であった。最も、私は一応雌鶏なので関係ないのが。

 

 いや、そんな事よりもこの少女、どこかで見たような気も……。

 

「鍛錬疲れで水浴びしてたのにぃ~……一体誰、が……」

 

「……あ、どうも。怪我とか大丈夫ですか?」

 

「……」

 

「……?」

 

 少女は私の姿を見て、硬直した。

 

「……に」

 

「に?」

 

「鶏が喋った!?!?!?!!?!?!?!?!?」

 

 ? この子は何を言っているんだ?

 

 鶏って、皆喋る種族なのではないのだろうか?

 

 地上にいる他の鶏も、街の人に向かって「ごはん有難う」やら「こんにちは」等の会釈を交わしていたのだが。

 

「え? そんな驚く事?」

 

「おっどろくに決まってるじゃないですか!? 鶏が喋るなんて、普通じゃないですよ!」

 

「他の鶏、普通にしゃべってるけど?」

 

「え、そ、そうなんですか!?」

 

「逆にしゃべらないんだ……」

 

 鶏として生を受けて、初めてしった事実である。

 

 確かに、ブラインとアスリィに初めて出会った時も、多少戸惑いを見せていた。当初は、私が鶏だからというのもあったのだろうが、今思えばそれには、喋ったという事も含まれていたのだろう。

 まあ喋ることよりも、私が鶏だからという事の方が、目立っていたのだろうが。

 

「って、ていうか! そんな事よりも、何故上から降ってきたんですか!?」

 

「あー……えーっと……」

 

 説明することは簡単だ。だが、ここで果たして『私は勇者です』って言ってもいいのだろうか?

 勇者は前提として人目を避けなければいけない存在だ。いくら実質追放された身だからといって、簡単に素性を明かしてもいいのだろうか?

 明かした結果規則に反したとして、本当の意味で追放されてしまっては、本末転倒だろう。

 

「ま、魔物に掴まれて……その……空中で無理やり脱出して……落下してきました、はい」

 

「にしては、結構大きな衝撃音と水しぶきでしたよ?」

 

「ドラゴンに掴まれてたんです」

 

「ドラゴン!? ドラゴンがいたんですか!? 下見てたからわからなかった……」

 

 ちょろい。

 

「まあ私みたいな鶏は珍しいみたいですし……? ドラゴンも、私がおいしそうだと思ったんでしょうね、多分」

 

「な、なるほど。大変だったんですね、可哀そうに」

 

「なんとか抜け出して、無事だったけどね」

 

「良かったです……。あ、紹介が遅れましたね。私、ミリアム=ランデボルトと言います。宜しくです」

 

「鶏に出会ってすぐに自己紹介する人間はいないと思うから安心していいよ。ミリアム=ランデボルトさんね、よろし……く?」

 

 ん? ランデボルト家? ……まさか。

 

「……ランデボルト王国の……王女様!?」

 

「あ、ご存知でしたか?」

 

「そ、そりゃっ、勇者だ、こほんっ、えっと、色んな所を巡ってるからね! 知ってて当然というか?」

 

「ゆ? ……ま、まあ、そうですよね、ははは……」

 

 不味い不味い。驚きすぎて秘密をばらすところだった。

 

 そうだ、ランデボルト王国。

 私が守護している王国の一つであり、魔術と剣術が均衡よく繁栄した、世界で最も大きいと言われている王国だ。

 

 勇者とは色んな王国を見守るため、一々王妃の顔とか覚えていなかったのだが、彼女に関しては他の王女より比較的可愛らしかったので、記憶に小さく残っていたのである。

 

「まさかこんな所で王女様に出会えるなんて。あ、でも、そんな人がどうしてここに?」

 

「あ、えっと……それはですね……」

 

 頬をポリポリと掻き、冷や汗をかきながら目をそらす。

 

「? なにか、不味い事が?」

 

「いや、そういうわけじゃなくてですね。実は……」

 

 

「姫騎士に……なりたくてですね」

 

「え? 姫騎士!?」




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