01. 動き出す悪意
私たちが零次元から戻ってきて数日後、心配をかけたお詫びと言っては何ですが、ネプテューヌ様が小さなお茶会を開催しました。
現在、ゲイムギョウ界は『守護女神の転換期』の真っ只中で、皆様が招待を受けてくれるか心配でしたが、日に日に増していく女神様たちへのネガキャンに対しストレスが溜まっているようで……
「あーっ! もう、誰よ勝手にラステイションの女神は友達がいないとか孤独な守護者とかネットに書き込んで広めたのは!」
「私もですわ。昨日は一日中部屋に缶詰でしたのに、紅茶ショップ巡りをして高い紅茶を経費で沢山買ったことにされていますわ……」
「私も。何故か、私の名前でAMAZOOの商品レビューを書かれてる。しかも、全部評価が最低で、抽象的な内容。二週間で百以上の商品に最低評価をつけたり、購入を『ココウニュウ〜』、ゲームを『ゲムー』って書いたりしてるあたり、間違いなく煽ってるわ。そして、何故かそれを私の裏アカウントだというデマまで出始める始末……」
……という感じで、愚痴らずにはいられないということで、集まってくださりました。
「みんな大変だねー、有る事無い事書かれて」
「あなたはどうなのよネプテューヌ」
「シェアが下がってきてはいるけど、わたしにはみんなみたいな酷いものはないかなぁ」
「……なるほど。確かにプラネテューヌの場合は、悪い書き込みを即特定して即断罪しそうな奴がいるものね」
「命を賭けてまでもやる奴はいないってことね」
……はて? 誰のことでしょう?
「……皆様、お茶のお代わりをお注ぎします」
「あら、ありがと」
「ねぇギンガ」
「なんでしょう?」
「昔から転換期ってこんな感じなの?」
「そうですねぇ……過去のゲイムギョウ界にも転換期はあり、その時の女神様のシェアが低下することはありました」
「やっぱりあったんだ……」
「しかし、当時は四国間の守護女神戦争が盛んだった時代なので、転換期で国がゴタつくと、その隙を他国に突かれて国を滅ぼされる可能性もありました。だから、国民は行き過ぎたネガキャンをしなかったのです。だというのに今の時代のカスどもは……っ!」
「はい、ギンガ、ストップ」
「……申し訳ありません、熱くなりました」
転換期の厄介な点はそれだけではありません。転換期は人々が自らの意思で引き起こすものというより、現象に近いのです。例えるなら、働き蟻の法則ですね。女神様にネガキャンをするカスどもを皆殺しにしても、女神様を信仰する人々の中からまたいきなり女神様を信仰しなくなる者が生まれてしまう、といった感じです。
「ねえ、ネプテューヌ。そういえば、お茶会の他に何か重要な話があるとか言ってなかった?」
「そういえばそんなことを言ってたわね。つい、愚痴るのに夢中で忘れていたけど……」
「そうそう、そうだよ。わたしもすっかり忘れてた。えっとね、こういう時期だからこそ、個別に対応するんじゃなくて、みんなで連携して乗り越えられないかな、って思ってるんだ!」
「……ネプテューヌにしては良い案ね。わたしも、一人では限界を感じていたところ」
「でしょでしょ? 三本の矢は一本よりなんたらって言うように、こんな時だから協力し合うべきなんだよ」
「協力、ねぇ……良い考えだと思うけど、それはそれでまた叩きの材料にされるのよね……」
「『慣れ合い政治乙!』や『一人では何もできない守護女神』とか批判の書き込みが目に浮かぶようですわ……」
「……まぁでも、やってみる価値はありそうね。それにネプテューヌ、何かいい案があるんでしょう?」
「うん! わたしたち四国共同で、おっきなおっきな祭りをやろうと思うんだ!」
「お祭り? それならどの国も毎年やってるじゃない?」
「それは国別でしょ。わたしがやりたいのは、四国合同の、言わばゲイムギョウ界感謝祭的なでっかいやつ!」
「……良いアイディアね」
「私もネプテューヌの意見に賛成ですわ。今までは国ごとの対応でしたが、この案なら、何かが変わるかもしれませんわ」
「そうね。それに、もしかしたら、影で変な情報を流している犯人を炙り出せるかもしれないわ」
「変な情報って?」
「まだ確証はないけれど、私たちに関してデマや嘘を流して人々を不安に陥れている奴がいるの」
「これは、あくまで推測ですが、規模的に何かしらの組織の犯行ですわ。でなければ、この量の情報操作は無理ですわ」
「おそらく、プラネテューヌに関してのデマが少ないのは……」
そう言ってノワール様が私を見ます。
「……下手な情報を流せばギンガやイストワールに捕捉されかねないから……ってのもあるでしょうね」
「プラネテューヌに関しては、その者たちも慎重にならざるを得ないってことですわね」
そんな皆様のやり取りを聞いて、少し頬が緩みます。
「どうしたのよギンガ? ニヤニヤして」
「皆様に、プラネテューヌのデマが少ないということで、デマを流してるのは我々だと疑われるかもしれないと思っていたのですが……実際はそんなことを微塵も思っていないようで、以前にも増して仲が良くなられたと、感慨深さを覚えたのです」
「あ……」
「そういえば、そんな発想すらしなかったわ……」
「いつのまにか、私たちはすっかりネプテューヌに絆されていたのですわね」
「……ん? なになに? わたしまたなにかやっちゃいました?」
「もう……台無しじゃない……まぁいいわ。ゲイムギョウ界大感謝祭、やってやろうじゃないの!」
「じゃあ、みんなでお祭り成功させるぞー!」
「「「おーっ!」」」
*
「……もしもし、私です」
「こちらの出方は決まりました。おそらく、それに合わせて何か動きがあるはずです」
「……あ? あれは事故みたいなもんだからしょーがねえだろ? まぁ、悪かったよ」
「そいつらの狙いのようなものは、まだわかってないのですか?」
「わかりました。警戒はしておきます。じゃあ引き続き頼みました」
*
大感謝祭が決まってから数ヶ月後。月日はあっという間に経ち、四カ国共同のゲイムギョウ界感謝祭は無事に開催されました。
以前より、女神様へのネガキャンは酷くなり、私もはらわたが煮えくり返りそうでしたが、感謝祭が始まってからは、国民たちも祭りを楽しんでいるのか、そういったものは目に見えて減っていきました。それどころか、女神様に対するシェアも回復しているように見えました。
私たちの杞憂なんて知らないかのように、ゲイムギョウ界感謝祭は大盛況の中、最終日を迎えました。感謝祭に合わせたテロなどを警戒していましたが、何も起きませんでしたね。
しかしまだ終わってはいません。最終日である今日は、感謝祭の最大の目玉、G-1グランプリの決勝リーグがあります。 G-1グランプリというのは、ゲイムギョウ界の猛者たちが集い、最強を決めるべく戦うトーナメント戦の大会です。
ちなみに私は今回は運営側ということで参加していません。参加したとしても、女神様に当たって散っていたでしょうし。
「さて、そろそろ時間ですね。パープルハート様を応援せねば……」
警戒を怠らないようにしながらも、パープルハート様応援用Tシャツに着替え、パープルハート様缶バッチを身体中に装備し、パープルハート様うちわを両手に持ちます。髪の毛も今日だけ紫色に染めるか悩んだのですが、いーすんに止められたのでやめました。
観客席を先に取っておいてくれたあいちゃんとコンパさんの元に向かいます。
「あっ! 師匠! ……気合入ってますね」
「全身ねぷねぷですぅ……」
「あいちゃんとコンパさんの分もありますよ、ほら、パープルハート様Tシャツと缶バッジとうちわ」
「……えっ⁉︎」
「わぁ……! ありがとうございますです! 早速更衣室で着替えてくるです!」
「ちょっ! コンパ! 乗り気なの⁉︎」
「あいちゃんは乗り気じゃないですか?」
「……嫌だったのですか? あいちゃん……」
「う……ぅぅ……わかりました! 着替えてきます! 行くわよコンパ!」
「はいです!」
あいちゃんとコンパさんが着替えてきたタイミングで、決勝リーグのプレイヤーの四人、四女神の皆様が入場してきます。まぁ、そりゃ決勝リーグに進むのはあの方々になりますよね。
(うぅ……恥ずかしい……! でも、着たからには全力でネプ子を応援してやろうじゃない!)
「ネプ子ーーッ! 頑張れェーーーーッ!」
「ねぷねぷーー! 頑張ってくださいですーー!」
お! 何という気合の入った応援! 流石はあいちゃんとコンパさん! 私も負けていられませんね!
「パープルハート様ーー‼︎ 頑張ってくださーーーーい‼︎」
*
\ ネプ子ーーッ! 頑張れェーーーーッ! /
\ ねぷねぷーー! 頑張ってくださいですーー!/
\ パープルハート様ーー‼︎ 頑張ってくださーーーーい‼︎ /
「呼ばれてんぞ?」
「……三人とも、すごい格好ですわね。特にギンガ」
「……もう……恥ずかしいじゃない」
「って言ってる割には嬉しそうだけど?」
「そうね、負けられない理由が増えちゃったわ」
「へっ! 一対一の勝負なんてやってらんねえな! 四人入り乱れての乱戦マッチといこうぜ!」
「その勝負、ちょっと待ってもらおうか!」
*
「…………あ? 誰ですかあいつら」
四女神様たちの素晴らしい戦いが始まろうというタイミングで、謎の四人組が乱入してきやがりました。女神様たちの元に直接殴り込む命知らずはいないと思って少しだけ警戒を解いてしまった私のミスでもありますね。
「……あいちゃん、コンパさん。今から私、ステージに向かってあの不届き者どもを殺……摘み出しに行ってきますね」
「は、はい……」
「師匠、私も……!」
「あいちゃんはここで待っていださって結構です。ていうかここにいてください。あの不届き者どもは私の手で殺……摘み出したいので」
「はい、すみません……いってらっしゃい師匠」
「行ってきます……っ!」
(やばいやばいやばいやばい、師匠めっちゃキレてる……‼︎)
観客席とステージの間には、危険防止のためにバリアが貼られているので、観客席からステージに行くためにはわざわざ廊下から入場路まで回り込まなくてはなりません。バリアをぶっ壊して直行するという手もありますけど、私でもこのバリアを壊すのは時間がかかりますし、それをやると後でいーすんにめっちゃ怒られるのでやめておきましょう。
全力疾走でスタジアムの廊下を駆けます。
「この廊下を越えれば……入場路……っ!」
……その瞬間、天井を破壊し、何者かが落下してきました。
「……っ⁉︎」
土煙が晴れ、そこに現れたのは……
「けほ……っ! 煙た!」
……私? 私と全く姿形が同じ者がそこに立っています。
「……うーん、別次元の同一体だから当然っちゃ当然だが、やっぱり俺と瓜二つでキショイなぁ」
別次元の同一存在……まさかこの男は、ネプテューヌ様に対するネプテューヌさんのような存在だということですか。
「そこをどいてもらえますか?」
「それはできないな。クライアントからはお前の足止めを任されてんだ。なんたらエネルギーってやつのおかげで、あの四人は女神に勝てるだろうけど、お前相手だとそれが効かねえからちときついだろうからな」
それを聞けば、更に行かなくてはならない理由ができました。別次元の私と会ったところで何も思うことなどありません、邪魔をするなら排除する、それだけです。
「どかないのならば……殺してでも押し通ります!」
「無理だな。お前じゃ俺に勝てねえよ」
「警告はした……!」
剣を取り、この男に降りかかりますが、私の斬撃は全て寸前で避けられます。この男……私の攻撃を避けるだけで何もしてきませんね……?
「何故本気で戦わない……?」
「俺の役目は足止めっつったろ? それに、クライアントはお前を殺すなって言うんだもん。殺していいなら本気で殺すんだけどな」
舐めやがって……っ! しかし、長らくゲイムギョウ界で生きてきた私ですら、私と同じくシェアエネルギーが全くゼロの者との戦闘経験がないため、敵の動きが読みづらく、戦いづらいのも事実。
「……潮時か」
すると、奴はいきなり私から距離を取ります。
「逃げる気ですか……っ!」
「お仕事が完了したから俺がもうここにいる意味はねえってことだ。見ろ」
そう言って奴が指を差した廊下のモニターに映し出されていたのは……
……例の四人に敗北した四女神様たちでした。
嘘だろ……?
「んー、どこまで話していいんかな? まぁいいか。今から行われるのは世界改変ってやつだ。女神の存在を排した新世界の幕開けって感じ? 俺はどうでもいいけど」
「……っ!」
「お前もわかっていると思うが、この世界改変はシェアエネルギーを介在して行われる。つまり、シェアエネルギーを全く持たない俺たちにはなんの影響もない。安心しろ」
……わかっていますよ。
私がその手の世界改変に耐性があるから、私はうずめ様のことを忘れなかったのですから。
「そんじゃーな! あばよ!」
そう言って奴が消えた瞬間、世界は眩い光に包まれーーーー
「時は満ちた。さぁ始めよう。ゲイムギョウ界の改変を」