空を駆けリーンボックスに向かう途中、いきなり海上からリーンボックスの兵と思われる連中に攻撃を受けました。
そういえば改変前の世界と違い、国間の関係も殺伐としているんでしたね、迂闊でした。ネプテューヌ様からのプレゼントが嬉しすぎて気が抜けていたのかもしれません。
殲滅するのにそれほどの時間は必要なさそうなのですが、この兵士たちも記憶がないだけで元はベール様の大事な国民。無闇に傷つけるわけにはいきません。ですので、適当にいなしつつ強行突破しましょう。
*
『ベール、どうやら外敵は包囲網を強引に突破し、君がいる方向に進んでいるようだ。迎撃してくれ』
「かしこまりましたわ」
『健闘を祈る』
(……ん? どうやら早速来たようですわね! ……ってあれは!)
「ベール様ーーーーーーッ‼︎」
「ギンガ⁉︎」
リーンボックスに侵入し、ベール様の気配と女神様特有の尊さを探知しながら飛び回ること数分で見つけることができました。そのまま、ベール様の前に跪く姿勢で着地します。
「女神補佐官ギンガ、ネプテューヌ様の命を受け、ベール様の元に参りました!」
「ネプテューヌの? どういうことですの?」
「ネプテューヌ様が、ベール様の助けになってほしいと」
「そうですか……正直言うと、一人だと少し不安でしたからあなたが来てくれて助かりますわ。ありがとう」
「勿体なきお言葉。早速ですが、リーンボックスの現状についてお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんですわ。私は今〜〜〜〜」
ベール様から聞いたリーンボックスの現状は、プラネテューヌと同じく女神様の存在が消し去られ、代わりに統治者としてゴールドサァドの『エスーシャ』という女が君臨している、というものでした。
そしてどうやら、リーンボックスは外敵とモンスターの猛争化による脅威に脅かされているようです。外敵というのは、他国からの侵略者を指しているようなのですが、ベール様は他にも隠された意味があると推測しているようです。
そして、その外敵からリーンボックスを守るためにソルジャーという職が存在し、適正さえあれば外敵討伐の任務が与えられ、その成果によって金銭などが支給されるようです。ベール様はリーンボックスの内情を知ることと、エスーシャへ接近のためにソルジャーに登録したということです。
また、魔王とやらが復活し、その対処にも追われているようです。その魔王の呪いのせいで、ソルジャーたちがらん豚に変身させられているとのこと。魔王……ゲイムギョウ界の御伽噺に『ユニミテス』という魔王が出てくるのですが、あくまでこれは空想上のものですし、私にはわかりません。
「外敵……あー、なるほど。それ私のことですね。だから先程執拗に攻撃を受けたのですか……」
「安心してくださいな。私が事情を説明して誤解を解いて差し上げますわ」
「ありがとうございます」
「それもそうですけど、まずはプラネテューヌのことが聞きたいですわ」
「それならばおまかせを、イストワールから情報を仕入れていますので」
ベール様にプラネテューヌの現状、それに加え、ネプギア様から仕入れた他国の現状も話せる限りのことを説明しました。
「プラネテューヌは猛争化したモンスターに脅かされてるものの、他国ほど社会そのものはあまり変化していません」
「元の統治者があまり仕事をしてませんものね」
「それに関してはノーコメントです……」
「とりあえずは、外敵なんていなかったと言うことで、報告に戻りましょうか」
*
「おお、ベールよ。やられてしまうとは情けない」
「やられてなどいませんわ。そもそも外敵ではありませんでしたし」
「どっちでもいいさ。君の戦果には興味ないしね。……それより、隣の男は誰だ?」
「彼はギンガ、私の……なんて言ったらいいんでしょう?」
「今はベール様の忠実な僕です」
「あ、はい。じゃあそれで。彼が今回リーンボックスにやってきた外敵の正体ですわ。ただし、私を訪ねてきただけですので、外敵というのとは少し違いますけどね」
「なるほど、勘違いだったわけか。それはすまなかった」
「やけにアッサリと流しますね。私は曲がりなりにもリーンボックスへの侵入者ですよ?」
「別に、興味ないね。どうやらソルジャーたちにも被害はないようだし、それ以上に君に興味がない」
リーンボックスのゴールドサァドであるこちらのエスーシャという方は、私に対して無関心ですね。まぁ逆に助かります。
G-1グランプリの決勝を台無しにした四人のうちの一人であるこの方に怒りが湧かないと言えば嘘になりますが、今は私の我を通す場ではないので我慢です。
「腕は立つようだし、君にも魔王と外敵の討伐に協力してもらいたい」
「構いませんよ。ベール様のお役に立つために私はここに来たわけですし」
「ありがたいね。今日から君もソルジャーだ。歓迎しよう」
会話しながらエスーシャさんのことを観察してみましたが、彼女の魂の輪郭は人と少し異なっていますね、まるで一つの身体に二つの魂が宿っているような……
「とりあえず、今日はご苦労だった。下がっていいよ」
……私は良いとしてベール様に『下がっていいよ』……? 何ですかその口の利き方は? ぶち殺されたいのですかこの女……っ⁉︎ ……っといけません、我慢我慢。
話が終わり、私たちは追い出されるように教会を後にします。
*
「どう思いますか?」
「どう、とは?」
「エスーシャのことですわ。私たちが話している間、あなたはずっと彼女のことを観察していたでしょう?」
「そうですね、エスーシャさんの魂の輪郭を見たところ、一つの身体に二つの魂が宿っていました」
「……とんでもないことサラっと言いましたわね」
「それ以外では……エスーシャさんは支配欲が無いと言いますか、リーンボックス自体にあまり興味が無い、という感じに見受けられましたね」
「あの、魂の件をサラっと流さないでくれません? そもそも魂の輪郭って何ですの?」
(……いえ、そういえば以前ネプテューヌも言っていましたわね、『ギンガは割と変なことを言うからある程度はスルーした方が良い』と)
「私にも一切の興味が無いようなのが幸いですね。これでこちらもある程度自由に動けます。ベール様」
「何でしょう?」
「知り合いがリーンボックスにいるようなので、少し会ってきてもよろしいでしょうか?」
「構いませんわ。では夜まで自由行動といたしましょう」
「了解です」
*
「久しぶりね! 狂人……じゃなくてギンガ」
「はい、お久しぶりです、アブネスさん」
かつては『幼女女神に断固NO!』とかいうふざけたことを言っていたこちらのアブネスさんですが、タリの女神の件を境に何か思うことがあったのか、最近は女神様や教会に反するような動画を上げることはやめ、小児や幼児向けの教育チャンネル的なものをやっているようで、その教育チャンネルの人気がとても高くなっているようです。
というわけで、彼女とは敵対する理由もなくなったので『昨日の敵は今日の友』と言いますか、最近何かと連絡を取り合うような仲になったわけです。そこで、私は彼女の有名配信者しての情報網に期待し、リーンボックスだけでなくこの世界の更なる情報、あわよくば秘密結社アフィ魔Xについての情報を聞き出そうということで彼女を尋ねたのです。
ちなみに、彼女はリーンボックスに在住しているわけではないのですが、世界改変が起こった時に偶然リーンボックスにいたせいで、出られなくなってしまったらしいです。
「早速ですが、『秘密結社アフィ魔X』について何か知ってることをお聞きしてもよろしいですか?」
「ほんとに早速ね……まぁあなたが私を尋ねてきたって時点でそういうことだと思ってたけど。実を言うと例の世界改変の二週間前ぐらいに私に秘密結社アフィ魔Xに協力しないかって感じの内容のメールが届いたのよね。私のチャンネルの発信力と秘密結社の情報力が一つになれば巨万の富を得られる、みたいなこと書いてあったわ」
……富、ですか。現代の戦争は武力ではなく情報戦と言いますからね。世界を混沌に陥れ、その中で情報という武器を売買することで富を得る。成程、それが秘密結社アフィ魔Xの目的のようですね。
「もちろん断ったわよ。私は金儲けのために動画撮ってるわけじゃないもの。それに、戦争や紛争が起これば一番被害に遭うのは弱者、つまり幼年幼女なのよ? そんな世界許せるわけないじゃない!」
アプネスさんの掲げる『世界中の幼年幼女を守る』という信念。これを元に女神様に敵対しつつも女神様という存在に向き合い続けた彼女だからこそ、世界が改変されても女神様の記憶が残っていたようです。
「そういうわけだから、私も秘密結社のことは名前しか知らないわ。あ、でもそうね……『@将軍のまとめサイト』って知ってるかしら?」
「最近巷で話題のニュースサイト的なやつですよね?」
「そうそう」
『@将軍のまとめサイト』とは、ゲイムギョウ界で最も話題のニュースサイトらしいです。私は欲しい情報は自らの足で仕入れに行くタイプですので利用したことはあまりありません。
「私はこのサイトの運営をしてるのが秘密結社アフィ魔Xだと思ってるわ」
「確かに……あれだけの情報量、秘密結社が運営しているとなれば納得もできます」
「ま、わかったところで、だけどね」
「そうですよねぇ……以前までの世界ならまだしも、教会の情報網が分断された今の世界では、例のサイトから秘密結社の特定なんてできませんからね……」
とはいえ、少しずつわかってきました。どうやら『秘密結社アフィ魔X』は『@将軍のまとめサイト』を運営して情報を仕入れてまとめることで、自分たち都合のいいように世論を誘導して世界を裏から操っているようですね。
しかし、解せない点が一つ。それは……
「……ゴールドサァドとやらについてなのですが、なんていうか違和感があるんですよね。秘密結社と結託し、女神様を陥れ世界改変を企んでいたにしては、ゴールドサァドたちは国の統治に無関心すぎます。先程会ったリーンボックスの統治者であるエスーシャさんや、現在のプラネテューヌの統治者であるビーシャさん、ルウィーとラステイションのことはあまり知らないのですが、聞いたところその二つの国のゴールドサァドも国の統治に積極的じゃないらしいですし……」
「そうねぇ……何か探るために直接インタビューしようにも、リーンボックス教会は門前払い、他の国には行きようがないし」
教会に行ったんですか……相変わらずの行動力の化身ですね。
「ま、とりあえず私から渡せる情報はこんなものね。と言っても、全然何も渡せてないけど」
「いいえ、こちらこそ貴重なお時間をいただきありがとうございました」
「あ、そうだ。プラネテューヌの幼女女神によろしく!」
「……はい! 伝えておきます。ですが、幼女女神(様)って言い方はやめてください。殺……断罪しますよ?」
「怖っ!」
「冗談です」
「あなたが言うと冗談に聞こえないのよ‼︎」
*
アブネスさんと別れ、再びベール様と合流しました。それからベール様が拠点としているホテルに来たは良いのですが……
「……あの、ベール様」
「どうかいたしましたか?」
「教会がエスーシャさんの手に落ちているので、今はホテルを拠点に活動しているのはわかります。ですが…………なぜ私もベール様と同じ部屋なのでしょうか?」
「なぜ……って、あなたはネプテューヌに言われて私の孤独を癒しに来たのでしょう? でしたら、私と同じ部屋にいるべきですわ」
「ですが……」
「それに、あなたに対して今更恥じらうことなんてありませんわ。あなたには私がまだ女神として未熟だった頃の醜態の数々を知られていますもの」
「醜態だなんて思っていませんよ。様々な経験を積み重ねることで、女神様は成長なさるのですから」
「ふふふ、そうですか。なら、紅茶でも飲みながらそれらの思い出話といきませんか?」
「良いですね。では私が」
「いいえ、私が淹れて差し上げます。あなたは座っていて」
「かしこまりました」
「〜〜♪」
「……上機嫌ですね。何か良いことでもあったのですか?」
「今だけならあなたはリーンボックスの女神補佐官ですもの。上機嫌にもなりますわ」
「以前は事あるごとに私をリーンボックスの女神補佐官にしようもしていましたものね……最近は全く誘われなくなりましたけど」
その代わりなのかは分かりませんが、ベール様はネプギア様を妹にしようとする動きが以前にも増して激しくなり、ネプテューヌ様が頭を悩ませています。
「そうですわね、私は他人の恋路を邪魔するような無粋な女神ではありませんもの」
「恋路……ですか?」
「はぁ……それくらい自分で気づきなさい」
「……?」
「とりあえず紅茶が入ったので、お茶にしましょう」
「かしこまりました」
……といった感じで、リーンボックス出張一日目は終了しました。
*
「……そこにいるのは誰だ?」
「まさか、私に気づくとは、流石ゴールドサァドのエスーシャといったところか」
「……誰だ?」
「私の名はマジェコンヌ。ゲイムギョウ界に混沌を齎す者さ」
「混沌だかなんだか知らないが、私を暗殺しにでも来たか? だが、この身体で討たれてやるわけにはいかないんでね、抵抗させてもらうよ」
「自惚れるな。貴様の命など興味はない。貴様とは話がしたくて来たのだ」
「興味ないね」
「低下したソルジャーの戦力補強や練度の向上のため、でもか?」
「……」
「情報規制を敷いているようだが、魔王復活における貴様の失態はいずれ国民に知れ渡るだろうな」
「……それで? 私を脅して何を企む?」
「脅すだなんて心外だな。私はただ、貴様と取引がしたいだけなのだ」
「取引だと……?」
「貴様の計画とやらに協力してやろう。その代わり、この教会の地下に封印されている『あるもの』を渡してもらう」
「そんなものに興味はないね。だが、協力すると言ったからには、それと引き換えだ」
「ふっ、構わん」
アブネスはなんか出したかったので出しました。割と好きなんですよねこいつ。一応信念があって、めちゃくちゃなこと言ってるようで割と筋通ってるとことか。