紫の星を紡ぐ銀糸N   作:烊々

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02. 虚無の暴君

 

 どこかの異空間。 

 そこに集うは三人の女性。

 

「あれ? ルギエルはどこ行ったの?」

 

 その中の一人、ネプテューヌ(大人)が口を開く。

 

「彼には守護女神の捕獲に向かってもらったよ」

 

 答えるは、顔が黒い霧のようなものに覆われ、口元しか見せていない謎の少女。

 

「捕獲……?」

「あぁ、オレの目的の最終段階のためにね」

「目的、か。ゲイムギョウ界への復讐と言っていたな。そろそろ貴様の正体を教えてもらおうか。意味のわからない命令を下すだけで姿は見せないのはいい加減不愉快だぞ」

 

 そして最後の一人、マジェコンヌが二人の会話に割って入る。不愉快と言いつつも苛立った様子はない。

 

「悪い悪い。計画が最終段階に入るまでオレの正体がバレるわけにはいかなかったからね。でもまぁ君たちは色々と頑張ってくれたから、そろそろ挨拶といこうかな」

 

 そう言って謎の少女は自らを覆う黒い霧を振り払い、その姿が露わになる。

 

「初めまして。オレの名は天王星うずめさ」

 

 霧が晴れ、現れたのは『天王星うずめ』。

 かつてギンガたちと共に戦った零次元の守護女神がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

(プラネテューヌには『女神補佐官』という役職が存在する。もう昔のことだけど、当時はプラネテューヌとラステイションは敵対していたとはいえ、ネプテューヌとは仲が良かったから、その女神補佐官、ギンガのことをネプテューヌから聞く機会があった。当時はまだラステイションの女神候補生だった私は、好奇心からお忍びでプラネテューヌまでその女神補佐官を見に行ったことがある)

 

『……と言っても、ネプテューヌが大袈裟に言ってるだけで、ただの人間でしょ…………‼︎⁇』

 

(その時、初めてギンガを見て感じたのは『恐怖』。それはギンガが当時の私より強かったからだけじゃない。本来あるはずのもの(人が生まれ持つシェアエネルギー)がない『虚無』が、存在感を放っているという矛盾、未知なるものへの恐怖)

 

『なに……あの人……』

 

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

(あれから時が経って、私はギンガより強くなって、あの時に感じた恐怖も忘れ去った…………そう思っていた……けど!)

 

 女神ブラックハートの脳裏に蘇る、虚無への恐怖。

 しかし、恐怖が蘇ったとはいえ、闘志が消えたわけではない。むしろ湧き上がる。「この男は、ここで仕留めなければならない」と。

 

「ネプテューヌ! ベール! 行くわよ!」

「わかってるわ!」 「了解ですわ!」

 

 三人の女神は近距離攻撃を仕掛けるのではなく、一旦散開し攻撃の機会を伺う。 

 

(別次元の存在とはいえあれもギンガなら戦闘技量はおそらく私たちよりも上。数が混ざっているとはいえ、そんな相手に近接攻撃を仕掛けにいくのは悪手ね)

(だからこそ、私たちのアドバンテージを活かす。高速機動戦で翻弄してやるわ!)

 

「……あん?」

 

 女神たちが散開するのを見て、ルギエルは眉を顰める。

 

(散開……フォーメーション……相手が人間だからって舐めてくれねえのは面倒だな。ま、こっちも出し惜しみなしで行かせてもらうか)

 

 ルギエルが懐から取り出したのは、まるでねぷのーとのような手帳。彼もネプテューヌ(大人)同様に、物体を収縮させてから収納できるアイテムを所持している。

 

(さてさて……)

 

 そして、手帳から武器を取り出し顕現させる。

 それはあらゆる次元を渡ってきたルギエルが集めた、人が女神を討つために作られたアイテム『対女神武具』。

 

(……使うのはこれだ。対女神武具……『神骨刀』)

 

(武器を出した……? それにあの武器からただならぬ気配を感じる……なおさら距離を詰めるわけにはいかなくなりましたわね……! ならば!)

 

「『シレットスピアー』!」

「畳みかける! 『32式エクスブレイド』!」

「『トルネードソード』!」

 

 女神たちは距離があっても高い威力を出せる技を選択。あくまで近づかずにルギエルを仕留めることを意識。

 シェアエネルギーによって作られた大槍、大剣、そして空を裂く斬撃がルギエルに襲いかかる。

 

「……残念」

 

 しかし、ルギエルが刀を振るうと、それらの技は霧散し消えた。

 

「何ですって……⁉︎」

 

(私たちの技があんな簡単に薙ぎ払われた……? いえ、薙ぎ払われたというよりは……)

 

 女神たちはすぐに、ある違和感に気づいた。

 

(……あの刀の効果? ……なるほど、あれが前ギンガが言っていた『対女神武具』ってやつね!)

 

 

 

ーー

 

ーーー

 

ーーーー

 

 

『今日ネプテューヌ様にお教えすることは、私が対女神武具と呼んでいるもの関してです』

 

『対女神武具? 名前からしてわたしたちへの特攻武器ってこと? アンチクリスタルみたいな』

 

『はい。かつてゲイムギョウ界にはアンチクリスタルだけではなく、多くの対女神武具が存在していました』

 

『多くのって……実はわたしたち女神って嫌われてる?』

 

『女神様は世界を照らす光。しかし、光あるところに影があるのもまた必然。その影こそが対女神武具なのです』

 

『でも、前にいーすんが言ってたよ? アンチクリスタルはギンガが全部壊したって。他のやつもそうなんでしょ?』

 

『そうですね、対女神武具の99%はかつて私が破棄しました……が、アンチクリスタルのように知らないうちにリポッブするものもあるので、女神様に仇なす者が使ってくることも考えられますし、頭の片隅には入れておいてください』

 

『はーい』

 

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

(まさかその対女神武具とやらを別次元のギンガが使ってくるなんてね……)

 

(……ん? ほーん、対女神武具に気づいたようだな。それか存在を知っていたか。どっちでもいいが、それならもう隠す必要もなさそうだな)

 

「この刀は、お前らのシェアエネルギーをある程度吸収する効果がある」

 

 神骨刀の効果を気づかれつつあることを悟ったルギエルはあえてその効果を開示した。

 

「そして吸ったエネルギーを放出すれば面白いことができるわけよ。こんなふうにな!」

 

 ルギエルが思い切り神骨刀を振るい放たれたのは、まるでブラックハートの『トルネードソード』のような、空を裂く斬撃。

 

「……っ!」

 

 威力は高いが速度はイマイチな斬撃だったため、女神たちはこれを回避。そして再び集合し、敵を討つための策を練る。

 

(……作戦変更ね。まずはあの武器をどうにかしないと不利な状況が続くわ)

(ネプテューヌとノワールに敵の攻撃を少し任せてもよろしいでしょうか? その間に私が敵の懐に潜り込み、あの刀を破壊しますわ)

(構わないわ。頼んだわよ、ベール)

 

 作戦会議は手短に済ませ、再び散開。三方向からルギエルに接近する。

 

「……ま、そうするだろうな」

 

 ルギエルは三方向からの攻撃に怯むことなく冷静に対処する。回避と反撃を織り交ぜ、的確に女神たちの攻撃を捌いていく。

 

(三対一なのに……私たちの攻撃が捌かれている……⁉︎)

(ギンガの言った通り、ギンガよりも格段に強い!)

 

 闇雲に仕掛けても勝てないと悟ったパープルハートとブラックハートは一度距離を取り……

 

「『クロスコンビネーション』!」

「『レイシーズダンス』!」

 

 ……二方向から必殺技を仕掛ける。

 

「はっ、神骨刀がエネルギーを吸えるのは遠距離攻撃だけじゃねえ! 今さっき近距離でお前らと斬り合ってる時も、お前らから漏れてるシェアエネルギーを吸って力を貯められるんだよ!」

 

 ルギエルは再び神骨刀に蓄えられたエネルギーを放出し、斬撃を巨大な衝撃波に変え、パープルハートとブラックハートを迎撃する。

 

「きゃあぁぁっ!」

 

 パープルハートとブラックハートは巨大な衝撃波にたまらず弾き飛ばされる。

 

「……今ですわ!」

「あ?」

 

 しかし、グリーンハートがすぐに追撃を仕掛ける。彼女が狙っていたのは、神骨刀がエネルギーを解き放ったその瞬間。

 彼女の読み通り、神骨刀はエネルギーの放出による攻撃と吸収を同時に行うことはできず、そのため放出した瞬間は隙を晒すことになる。

 また、ルギエルも女神二人を弾き飛ばすほどの威力で刀を振るった直後であるため、グリーンハートの攻撃への反応が少し遅れていたように見えた。

 

「『レイニーラトナビュラ』ッ!」

 

 グリーンハートの狙いはあくまでも神骨刀。不意をついたとはいえルギエル本体は一撃で倒せる保証はないと考え、まずは厄介な武器の破壊を優先した。

 神骨刀はグリーンハートの技の威力に耐えることができず砕け散る。

 

「まじか! ……なんてな」

 

 しかし、既にルギエルは神骨刀から手を離していた。

 

「え……?」

 

 そして、次の瞬間にはルギエルの手に別の武器が握られていた。ブランに突き刺して意識を奪った例の小刀が。

 その小刀とは、対女神武具『神討の小刀』。女神の身体に突き刺してアンチエネルギーを直接流し込み意識を奪うもの。ちなみにこの刀自体に殺傷力は無く、刺さっても意識を失うだけで身体へのダメージにはならない。

 

(神骨刀に意識を向けてくれて助かったよ。ま、そうなるようにわざと神骨刀の効果を開示して意識を向けさせたんだけどな)

 

 ルギエルの思惑どおり、神骨刀に意識を向けていたグリーンハートは反応が遅れていた。

 ルギエルは無防備になったグリーンハートに容赦なく何度も神討の小刀を突き刺す。

 

「ぅ……」

 

 グリーンハートは変身が解除され、意識を失う。

 

「俺は剣士じゃねえからな。剣なんて使い捨ての道具なのさ。いや、神骨刀は割と気に入ってたから壊れたのちょっとショックだわ」

 

 ルギエルはそんな軽口を吐き捨て、体勢を立て直したパープルハートとブラックハートに視線を向ける。

 

「あと二体」

 

 

 

 

 

 

 

「ルギエルどうなったかな? 一目見たときから強いのはわかってたけど、流石に女神相手はきついんじゃないの?」

 

『んなこたねーさ』

 

「クロちゃん?」

 

『あいつはできないことは最初からやらねえ。女神を捕獲しに向かったってことはそれはもうできるってことなんだよ』

 

「そういえば、ルギエルはクロちゃんが呼んできたんだよね? 古い知り合いだって言ってたけどどんな関係だったの? 元カレ?」

 

『馬鹿か。そんなんじゃねーよ。俺が次元を飛び回って、偶然ガキだった頃のあいつに会って、面白えやつだったから暫く行動を共にしてたってだけだ。あいつが暴れまわって世界を滅茶苦茶にして、俺がその滅茶苦茶になった世界を記録するって感じでな』

 

「ふーん。じゃあ何で一緒じゃなくなったの?」

 

『目的もなく暴れてたあいつが、ある目的を見つけちまったからな。お互いのやることが噛み合わなくなって解散したってわけだ』

 

「目的……ゲハバーンかい?」

 

『お? あいつから聞いたのか?』

 

「隠すほどの目的じゃないって言って教えてくれたよ」

 

『あいつも最初は女神を倒すために対女神武具っつーのを集めてたんだけどな、途中からそれをコレクションするのにハマってな』

 

「コレクション……意外と男の子っぽい趣味だね」

 

『まぁな。そんでどっかの次元でゲハバーンの噂を聞きつけて、それを欲しがるようになったってわけだ』

 

「なるほど、そして君がこの次元なら手に入るかもしれないと彼を唆したってことだね?」

 

『そういうことだ。あいつを呼んだ方が面白くなると思ってな』

 

「クロワールよ。さっきから言われているそのゲハバーンとは何だ?」

 

『通称、女神殺しってな、女神を殺せば殺すほど力を増す魔剣のことさ』

 

「そんなものが存在するのか……」

 

『俺も実際に見たことはねーけどな。どこかの次元のゲイムギョウ界には存在するらしいぜ。性能は噂でしか知らねーけど、あいつがその剣を手にしたらゲイムギョウ界の一つや二つ簡単に滅びちまうだろうな』

 

「「……」」

 

(なんとなくゲハバーンを作ってあげると約束したけど、彼の力とその剣があれば簡単にオレの目的が達成できそうだ。嬉しい誤算だね)

 

 

 

 

 

 

 

(ベールがやられた……! けど、あの厄介な刀は破壊したわ! もう一度距離を取って……)

 

「遅え」

 

 距離を取ろうとするパープルハートとブラックハートに一瞬で詰めるルギエル。今までは女神たちの高速機動戦にあえて付き合わず、自らのAGIの高さを隠していた。

 そのままルギエルはブラックハートの首元に神討の小刀を突き刺そうとする。

 

「させないわ!」

 

 しかし、パープルハートがすかさずカバーに入り、ルギエルの胴体に袈裟斬りを仕掛ける。

 

「おっと」

 

 ルギエルはこれを回避し、再び距離を取る。

 

「当たると思ったのに、なんて速さ……」

「……まるで化け物ね」

「はぁ? 化け物……? お前らだけには言われたくねえよ。お前ら女神こそ人の形をした化け物だろうが」

「なんですって?」

「ノワール、敵の言葉に気を取られちゃダメよ」

「……わかってるわ」

 

 距離を取ってから、壁や天井でさえも縦横無尽に駆け回り攻撃の隙を狙うルギエルに対し、パープルハートとブラックハートは背中合わせになりお互いの背後を守り合う。

 

(散開から集中、攻めから守りへと戦闘スタイルを変えたか。狙い通りだな。ようやく『これ』が使えるぜ……!)

 

 ルギエルが取り出したのは切り札、彼の持つ対女神武具たちの中でも最高の逸品『アブソリュートダガー』。

 それを手に取り正面から急速接近する。

 

(来る……っ! おそらくあのナイフも対女神武具ね! 迂闊な反撃はせずに、タイミングを合わせて私たちの必殺技を叩き込むわよ!)

(わかってるわ、ギリギリまで引きつけましょう!)

 

 パープルハートとブラックハートの狙いは正しい。いくらシェアと魔力を引き換えに得た鋼の肉体を持つルギエルとはいえ、攻撃のタイミングに合わせて守護女神の必殺技をまともに喰らうとなればタダでは済まないだろう。

 しかし、彼が手に持つ対女神武具はその状況を覆す。

 

(こいつは一度きりしか使えねえ所謂『切り札』、ここぞという場面じゃねえと無駄にしちまう。だからこそ、女神たちの意識が攻めから守りに切り替わったこの時を待っていたってな!)

 

 対女神武具『アブソリュートダガー』の効果、それは……

 

「……ねぷっ⁉︎」

「……のわぁ⁉︎」

 

 ……有効圏内における、女神の変身の強制解除。

 

(どうして変身が……?)

 

 唐突な変身解除に理解が追いつかず、ネプテューヌもノワールもほんの一瞬動きがフリーズする。数えるなら約一秒。

 しかしその一秒の隙でさえ、この男相手には命取り。

 

「ぁ……っ」

 

 その隙にて、ノワールがルギエルに神討の小刀で突き刺されること十二回。

 ネプテューヌが戦闘に意識を戻したときには、既にノワールは気を失っていた。

 

「ノワール!」

 

(わかった! あのナイフの効果なんだ! 嘘でしょ、対女神武具ってあんなに強いの⁉︎)

 

 ネプテューヌの意識が戦闘に戻り、自らの変身解除が対女神武具の効果によるものだとわかったとしても、もう遅かった。変身解除のステータスダウンにより、ルギエルのスピードにネプテューヌの反応速度では追いつくことができない。再度変身する隙は当然なく、反撃すらも追いつかない。勝負はもう着いたも同然だった。

 

「終わりだな」

「そん……な……」

 

 何度も神討の小刀を突き刺され、ついに最後の一人、ネプテューヌが意識を失い地面に倒れる。

 

「……任務完了っな。女神とバチボコにやりあうのは久しぶりだったけど、腕が鈍ってなくて安心したぜ」

 

 戦闘が終わり、再び静寂が支配する回廊の中、ルギエルは誰が聞いているわけでもない独り言を呟く。

 

「……ゲイムギョウ界の恩恵(シェア)を司る至上の存在守護女神。だが、そんな恵まれたお前たちも、シェアを全く持たない俺みたいな人間の出来損ないに負けるってことだ」

 

 

 

 

 

 

 

「どうしようユニちゃん! お姉ちゃんが!」

「バカっ! 大声出したらあいつにバレるわよ!」

「……でも!」

「あたしだって今すぐ飛び出していきたい……けど見たでしょ? お姉ちゃんたちを倒せる相手に、あたしたちだけで勝てるわけないわよ……」

「ユニちゃん……」

「今は退いて、この状況をギンガさんたちに伝えるのが優先よ。それに、あたしたちは絶対に逃げてこいって言われたでしょ?」

「そうだね……そうだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 




・ゲイムギョウ界こそこそ裏話、『対女神武具』について
 対女神武具。その名の通り人が女神を倒すためのアイテムである。製法は自然に発生するもの、女神への怨念が形になったもの、女神自体の成れの果てなど様々。
 ちなみに『対女神武具』と言う名前はルギエルが適当につけた名前で、武具の形をしてない『アンチクリスタル』のようなアイテムも対女神武具としてカテゴライズされている。別次元の同一体だからか、偶然ギンガも同じ呼称をしていた。
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