紫の星を紡ぐ銀糸N   作:烊々

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 うずめ冤罪のくだりはやりません。魂で看破できるやつがいるので。



03. 暁の零次元へ

 

 

 

「へいお待ち。守護女神四体、五体満足フルセットだ」

 

 ルギエルはそう言って両腕で抱えてきたネプテューヌたちを無造作に床に放り捨てる。

 

「ありがとう、ルギエル」

「まさか本当に捕まえてくるとは……」

「……ん? マジェコンヌちゃんとネプテューヌちゃん、戻ってきてたのか」

「そうだよー! それにしてもすごいね、女神を捕まえてくるなんて」

「そうでもねえさ。俺からしたら女神よりもネプテューヌちゃんとかマジェコンヌちゃんを相手にする方が面倒だったりするんだよな」

「……? どういうこと?」

「対女神武具があるっつーのもあるけど、守護女神って隙だらけなんだよな」

「隙……?」

 

 抽象的な言葉だからか、あまり理解が進んでいないネプテューヌ(大人)とマジェコンヌの様子を見て、ルギエルは捕捉するように説明を続ける。

 

「女神ってのは人間の望んだように生まれるってのは有名な話で、隙も血も涙もない支配者を人間は望まないってことだ。完璧超人キャラよりわかりやすい欠点があるキャラの方が人気が出るって創作物とかでよくあるだろ? だからこそ、人間から愛される守護女神っつーのは必ず隙が存在するのさ」

「それって性格のことでしょ? 戦闘面においては違うんじゃないの?」

「性格も戦闘も同じさ。だから、クライアント様が作った誘いにまんまと引っかかって、俺みたいな奴に足を掬われる」

「……詳しいんだね、守護女神のこと」

「まぁな。伊達に何度も戦ってねえさ。話戻すけど、かと言って守護女神が簡単に負けちまったら世界は終わりだ。そんな時のために生まれんのが女神候補生ってことだが……」

 

 話の途中でルギエルはネプテューヌ(大人)とマジェコンヌに向けていた視線を、今度は『天王星うずめ』の方へ向ける。

 

「……その女神候補生の二体ぐらいがこっち見てたんだよな。向かってこなさそうだからほっといたんだけど、別に良いよな?」

「見られていたことに気付いていたくせに何もしなかったのかい?」

「だってそいつら相手にすんのは今回の仕事じゃねーし」

「そうか……まぁ構わないさ。彼女たちにはもっと面白いものを見せてあげたいしね」

「面白いもの、ね。まぁ俺には興味ないから席を外す。また何かあったら呼んでくれ」

「そうか。お疲れ様」

「あ、そうだ。報酬忘れんなよ?」

「わかってるさ」

 

(報酬……? 何のことだろう?)

 

 

 

 

 

 

 

 ネプギアとユニはプラネテューヌ教会に帰還し、事の顛末を語った。

 

「やはり罠……でしたか。ネプギア様とユニ様の報告通りなら、今あの穴は塞がっているということになります。となると、一先ずは放置しておいても良さそうですね」

 

 それを聞いたギンガは狼狽える様子もなく、淡々と話を進めていく。

 以前のネプギアたちならばそんな様子のギンガに怒りを覚えたかもしれないが、ギンガの本心を察することができるぐらいには成長している。それに、自分たちが狼狽えていても状況が良くなることはないと気持ちを切り替えられる強かさも身につけていた。

 

「ネプテューヌ様たちがあの穴の内部を探査しに行っている間、我々はあの穴そのものを解析し、そのエネルギー反応からあの穴が別の次元に繋がっていることを突き止めました」

「別の次元……?」

「我々が零次元と呼んでいた次元です」

「……!」

「何故零次元に繋がっているかはまだわかりませんが、これより女神候補生の皆様とあいちゃんとコンパさんと私で、零次元に向かい女神様を救出します。敵の狙いが女神様の排除なら、その場で始末していたはず。しかし、連れて行かれたというのならば、まだ無事である可能性は高いです。それに……」

「それに?」

「ネプテューヌ様からいただいた指輪からネプテューヌ様の加護を感じることができます。ネプテューヌ様に何かあれば感じられなくなるはずなので」

「じゃあ……まだ大丈夫そうですね」

「けど、零次元って別の次元なんですよね? どうやって行くんですか?」

「それは私から説明します」

「いーすんさん?」

 

 教会の奥からイストワールが、例のゲーム機を持って現れた。

 

「秘密結社から回収した例の渦巻き型のゲームハードには、零次元へと繋がる機能があることが判明したのです。何故そんな機能がついているかはわかりませんが、スイッチを押して起動することで、零次元へのゲートを一時的に開くことができます」

「そっか……だからお姉ちゃんと私は零次元に吸い込まれちゃったのか……」

「なら、さっさと向かいましょう! お姉ちゃんを取り戻す……!」

 

 零次元への移動手段を手にしたことで、姉たちを助けに行く意思を固める妹たち。

 しかし、不安もあった。

 

「けど、ねぷねぷたちが負けた相手に私たちだけで勝てるですか……?」

「確かに厳しいかもしれません。しかし、私たちだけではありませんよ。零次元には心強い味方となってくれる方がいます」

「そっか……! 零次元にはうずめさんが」

 

(それに……いや、これはまだいいか……)

 

「そうと決まればすぐに行きましょう。イストワール、お願いします」

「はい。では、起動します!」

 

 イストワールがゲーム機のスイッチを押し、零次元へのゲートが開く。

 

「では、イストワール、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃいギンガさん……お気をつけて」

「……そうですね、何があるかはわかりませんし、アレをいつでもできるようにしておいてください」

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

「零次元……またここに来ることになるとは……」

「なんだか殺風景で怖い……」

 

 ディストピアな雰囲気を放つ零次元に怯えるロムとラム。それとは対照的にネプギアとギンガは、零次元の雰囲気に少し懐かしさを覚え表情が緩くなる。

 

「まずはうずめ様と合流し、お力添えいただければ……」

「うずめ……?」

「前言った、零次元で会った女神のことだよ」

「あーその人ね。ネプギア、その人の居場所はわかるの?」

「ええと、拠点にしていた場所はわかるから、そこに行けばいると思う」

「うずめさんってどんな人なんだろう……?」

「かっこよくて可愛い人だよ」

 

 ネプギアとギンガは零次元の地形をよく覚えていたため、そのままうずめの拠点までみなを案内しながら歩いて行く。

 

「お邪魔します」

「おーいらっしゃい…………って、え⁉︎ ぎあっち⁉︎ それにギンガも⁉︎」

「久しぶりです。うずめさん!」

「ぎあっち、ギンガ、久しぶりだね」

「海男さん!」

「人面魚⁉︎」

「ふっ、驚かせてしまったようだね。俺は海男。悪い人面魚ではないよ。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします……」

 

(すごいイケボ……)

 

「なんか見ない顔がちらほらいるな。どうしてここに?」

「それは〜〜……」

 

 ギンガはうずめと海男に事の顛末を説明し、ユニたちにうずめと海男について紹介する。

 

「……〜〜ということなんです」

「そうか……ねぷっちたちが……」

「ネプテューヌ様たちの奪還のために、力を貸していただけないでしょうか?」

「勿論貸すに決まってるさ」

「ありがとうございます」

「けど、零次元につながる大穴って言ったか? そんなもんこっちからは出た覚えないぞ?」

「そうですか……」

「いや……でも、何か関係があるかもしれない……」

「関係……?」

「最近になって、零次元で新しいエリアを観測できるようになったんだ。といっても、何もない空間なのだが……」

「何もない空間とは?」

「言葉の通りさ。まだ調査は何も進んでいないが、君の言った次元の大穴がそこから繋がっている可能性はある」

「ならば向かいましょう」

「ああ。君たちが一緒なら心強い」

 

 ギンガたちはうずめと海男に案内され、零次元の果て『何もない空間』に到着した。

 そこはその名の通り何もなく、ただ灰色の景色が広がっているだけだった。

 

「本当に……何もない……」

「進んで大丈夫かな」

「行ってみなきゃわからないわ」

「あ、そうだ。ぎあっちかギンガに聞きたいことがあるんだ」

「聞きたいこと……ですか?」

「あぁ、ここ最近零次元で何度も観測されている大きな揺れ……そしてこの画面を見てくれ」

 

 そう言ってうずめが見せてきたビジュアルラジオに映されていたのは

『306:130:873:046:305:830:52:30:82』

 という数字の羅列。

 

「これは……次元座標ですよね?」

「話が早くて助かる。揺れが観測されてから、この数値が少しずつ変わるようになってるんだ」

「……待ってください。次元座標が動いたんですか⁉︎」

 

 ネプギアは驚き、声のトーンが上がる。

 

「……次元座標というのは多次元空間でその次元が位置する座標です。そして次元座標は本来絶対的なものであり、数値が変動することはありません。けど、それが動いてるのなら……この次元が移動していることになります」

「そうだったのか……けど、どうして移動してるんだ? それに、どこに向かってるんだよ……?」

「……超次元……です」

 

 ギンガが頭を抱えながら呟いた。

 

「306:130:873:046:305:830:52:30:93、これが私たちの住む超次元の座標です」

 

 ギンガの一言に続いて、ネプギアは、はっと、何かを思い出して話し始める。

 

「……以前の零次元の座標は306:130:873:046:305:830:52:30:70……そして今の零次元の座標が306:130:873:046:305:830:52:30:82……つまり、徐々に超次元に近づいてきています」

「そうなるとどうなるんだ⁉︎」

「わかりません。次元座標が重なるなんてことは本来起こりえないのですから……」

「けど、動いてるんだよな……一体何が起こってるんだよ……」

「……」

「……そういえばうずめさん、記憶喪失はどうなりましたか?」

 

 暗くなった雰囲気を見かねてか、ネプギアは話題を変える。

 

「あぁ、そのことか。モンスターたちからシェアを得られるようになったおかげか、少しずつ思い出してきたよ。……ただ、新しく作ったゲーム売るためにリアカー引いて行商したり、販売が波に乗り始めたと思ったら生産が追いつかなくて頭下げてたりと、まぁしょうもない記憶ばかりだけどな」

「でも、そんな記憶でもないよりはあったほうがいいですよ」

「そうだな。けど、俺としてはそろそろ自分の国の名前ぐらい思い出したいんだけどな」

 

 

 

 

 

「プラネテューヌ」

 

 

 

 

 

 何もなく誰もいなかったはずの空間から声が聞こえた。声に驚いた全員が、その方向に向き直すと、天王星うずめと瓜二つの少女とネプテューヌ(大人)が立っていた。

 

「プラネテューヌ。それがお前の……いや、オレの国の名前だ」

「やっほー、ネプギア。また会ったね。元気してた?」

「お、お姉ちゃん……⁉︎」

「ネプテューヌさん……」

「あ、ギンガも久しぶり!」

「……フフ。やぁ、はじめまして、【俺】。こうして会うのは初めてだね」

「テメェが誰か知らねえが、そいつはぎあっちの国の名前だ、騙されねえぞ」

「そんなことは当たり前さ。オレの国の延長線上にぎあっちの国があるんだからさ」

「……どういうことだ」

「それは【俺】が思い出すことだ。そして、プラネテューヌにされたこともね。まぁ、そんなことはいい。今回は別の用があって来たんだ」

 

 『天王星うずめ』はゆっくりと歩いて、ギンガの前で立ち止まった。

 

「……久しぶりだね。本当に久しぶりだ。会いたかったよ、ギンガ。オレのこと覚えてるよね?」

 

 ネプギアたちにとっては、異様な光景に思えた。今さっきまでは悍ましいほどの負のオーラを放っていた『天王星うずめ』が、ギンガを前にした途端まるで見た目相応の少女のように柔らかい雰囲気を放ち始めたのだ。

 

「うずめ様……やはり……あなたは……」

 

 ギンガは『天王星うずめ』を見た途端、驚愕し狼狽えた。

 ギンガが、零次元の天王星うずめとギンガの知る超次元の天王星うずめを別の次元の存在だと思っていたのは、魂の輪郭が違ったからである。正確に言えば、零次元の天王星うずめは魂の輪郭が欠けていた。

 しかし、零次元の天王星うずめの魂の輪郭と、目の前の『天王星うずめ』の魂の輪郭をパズルのピースのように合わせると、超次元の天王星うずめの魂の輪郭と一致していたのだ。

 そこから導き出される答えは……

 

「そうだよ。今君が思っているその通りさ。さてギンガ、君に頼みがあるんだ。秘密結社から取り戻したゲーム機をオレに渡してくれないか?」

「……それはできません」

「どうしてだい? このオレが頼んでるんだよ? 君の女神であるこのオレが」

「今の私が仕えているのは女神ネプテューヌ様ですので……」

「……ははっ、相変わらず融通が効かないね。でも、それでこそギンガだ。逆に安心したよ」

「……」

「本当は君ともっと思い出話でもしたいところだけど、今回はここまでにしておこう。次の手はもう打ってあるし。帰るよ、ネプテューヌ」

「待ってください! どうしてお姉ちゃんたちを攫ったんですか⁉︎ 返してください‼︎」

「時が来たら返すさ。期待しておいてくれ」

 

 そう言って『天王星うずめ』とネプテューヌ(大人)は、後方の何もない空間へと進んでいく。

 

「せっかくの手がかりなのよ、逃がさないわ! ネプギア、追うわよ!」

「うん!」

「待てーっ!」

「待って……!」

 

 ネプギアたち候補生とうずめは去って行く『天王星うずめ』とネプテューヌ(大人)を追いかける。

 

「……うずめ……様……」

 

 しかし、ギンガはその場に茫然と立ち尽くしていた。その様子に気づいたアイエフとコンパが心配そうに歩み寄る。

 

「大丈夫です? ギンガさん」

「大丈夫です……」

「師匠、あいつと知り合いだったんですか? それにあいつが言っていた"君の女神"って一体……?」

「……そうですね。あの方から正体を明かしに来たならば、もう私が隠す必要はなさそうです。後で全てをお話しします。私たちも追いかけましょう」

「……わかりました」

 

 

 

 

 

 

 連れ去られた女神、移動する零次元、そして二人の天王星うずめ。候補生たちは、理解が間に合わない展開に戸惑いながらも進み続ける。

 しかしその中でギンガ一人だけは、この事態の真相に近づきつつあるのだった。

 

 

 

 

 

 

 


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