ギンガはくろめという呼び方をしたくないらしいので、うずめをそのまま、くろめを『うずめ様』と呼びます。そういうことにします。
「なぁギンガ」
「どうしましたか? うずめ様」
「俺ってさ、嫌われるぐらいダメな女神だったのかな?」
「そんなことはありません。確かに嫌う者はいました。しかし、うずめ様を信じている者の方が多かったのです。ですから……」
「いや、大丈夫だよ。それだけ聞ければ充分さ」
「それに、この事態において、私には一つ大きな罪があるのです」
「罪……?」
「当時の私はうずめ様を追い込んだプラネテューヌ国民を嫌悪していました。嫌悪……いえ、あれはもはや憎悪でした。うずめ様が自身が封印されることを選んだのも、そんな私を見かねたからというのも理由の一つでしょう。それが私の罪です。当時の私なら『うずめ様』の憎しみを肯定していたでしょうね。『うずめ様』が私を引き入れようとするのも、その頃の私が印象に残っているからかもしれません」
「……けど、今は違うんだよな?」
「はい」
「ならいいさ!」
*
「で、うずめちゃん。俺はなにをすればいいわけ? 候補生の始末は悪堕ちさせた女神たちにさせるんだろ?」
「そうだね。ルギエル、キミは裏切り者たちと人間たちの相手を頼むよ。彼女たちに邪魔をさせなければなんでもいい」
「りょーかい」
「四女神は既に堕ちた。そうすればギンガもこっちに付くだろうさ」
「そう上手くいくかね?」
「いかせてみせるさ」
*
「ここが例の場所だよ」
ネプテューヌ(大人)とマジェコンヌの案内で、心次元の中心部、暗黒星くろめの元に乗り込んだギンガたち。
最初に目に入ったのは、ダークメガミの内部に囚われながら眠っている四女神であった。
「お姉ちゃん!」
「見たところダークメガミはまだ起動していないようですし、破壊すれば助けられるかもしれませんね」
「そんな余裕があればいいがな。お出ましだ」
そう言ってマジェコンヌが指を刺した方向から現れたのは、暗黒星くろめとクロワール。
「悲しいよマジェコンヌ。まさかキミが裏切り者だったなんて」
「裏切り……? 違うな、初めから私は貴様らの味方になどなっていない」
「そうか。まぁ良いさ、殺すやつが一人増えたというだけだからね」
「ふん、今更余裕そうなツラをしたところで、私に気づけなかった間抜けであることには変わりはないぞ?」
「言ってくれるね。けど、生憎キミに時間を割くつもりはない。キミたちの相手は彼に任せることにするよ」
くろめがそう言うと、ルギエルが奥からのそのそと現れた。
(当たり前だけど、本当に師匠そっくりね……)
「ルギエル、頼んだよ」
「了解。それに、あっちもその気っぽいしな」
「その気?」
「多分、候補生どもともう一人の俺以外のメンツは俺にぶつけようって魂胆だろうぜ。俺にそんな価値ないっつーのに」
「オレはキミのことを評価しているよ」
「嬉しいこと言うねぇ。んじゃ、わかりやすく始めるとするか……な!」
言葉を言い切る前に、超スピードでネプギアに接近し、短刀を振りかざすルギエル。
「……させないよ!」
その刃はネプテューヌの双剣とマジェコンヌの槍に防がれる。
「この男は私たちで引きつける! その間に貴様らは女神どもをなんとかしろ!」
「ありがとうございます、マジェコンヌさん! お姉ちゃん!」
「礼はいい、早く行け!」
「はい!」
マジェコンヌの指示を聞いたネプギアは、その場をマジェコンヌたちに任せて囚われている女神の方へ向かった。
(よし、予想通りの展開だな。さて……)
ルギエルは空いている方の手をアイエフとコンパに向け、人差し指を立てて自分の方へ数度傾ける。所謂『こっちへおいで』のサイン。
「……なるほど、どうやらあの人も同じ考えだったようね」
「もう一人のギンガさんも、私たちを引きつけるのが役割ってことです?」
「そういうこと。まぁ、こっちにも都合がいいからあえて乗ってやろうじゃない。行くわよ、コンパ」
「はいです!」
*
「全く、彼はやる気があるんだかないんだか……」
与えた役割を適当にこなそうとするルギエルに頭を抱えるくろめ。
そんなくろめの元にうずめが立ちはだかる。
「随分と余裕じゃねえか、偽物……じゃないんだったな。お前も俺ってことなんだっけ?」
「そうだね、お前はオレさ。どうせオレたちの過去についてはギンガから聞いたんだろう? 説明が省けてラッキーだ。そうだな、一つ素晴らしい提案をしよう」
「何……?」
「【俺】よ。オレと一つになろう。元は一つだったんだ。また一つに戻ろうじゃないか」
「そんな提案聞くわけねえだろ」
「そうかな? だったらオレが持つ【俺】の記憶の一部を返してあげよう。聞いた話だけだと憎しみまで思い出すのは難しいだろう? 裏切られ、苦しめられた記憶がないなら、オレが思い出させてあげるよ」
「……うっ!」
その瞬間、うずめに流れ込む、『天王星うずめ』がかつて民から忌み嫌われ、罵倒され、存在そのものを否定された記憶。
「ぅ……ぁ……あぁっ!」
今まで持っていた記憶の何倍もの記憶が頭に流れ込んだことで苦しみ、膝をつく。
「しっかりするんだ、うずめ!」
うずめに駆け寄る海男。そんな海男の声を聞いたくろめは何かに気がついたような表情をする。
「その声……そうか……キミが彼だったのか……」
「何のことだ? それより、君もうずめならもうこんなことはやめてくれ!」
「……キミならそう言うだろうね。でももうキミの言葉はオレには届かない。あの時、オレを残して死んでしまった、オレを一人にしたキミの言葉なんて……」
「……な、何を言ってるんだ……?」
「キミは自分の正体がなんだかわかっていないのかい? まぁ当然か」
「俺の……正体……?」
「そうだな。そこでうずくまっている【俺】も聞くといい。お前が海男と呼ぶそいつが何者なのかをな」
海男は黙ってくろめの話を聞くことにした。自分の正体が気になったこともだが、うずめのための時間稼ぎになるとも思っていた。
「かつてオレ同じ夢を持っていた相棒とも言える男がいた。これと言った特徴のない平凡な小市民だった。新しく作ったゲームを売る際、庶民の生活に疎いギンガではなく、小市民ゆえに人々の暮らしをよく理解しているその男と協力することの方が適しているというわけで、イストワールが呼んできたんだったっけ。ギンガは嫌な顔をしていたな。その頃は色々と大変だったが、充実した日々だった……」
「……」
「……けど、オレの妄想力が暴走し始めるようになった頃、その男はオレを殺そうとした国民の銃撃からオレを庇って、死んだ」
「……!」
「馬鹿な男だよ。シェアが下がっていたとはいえ、オレは女神だぞ? あんな銃撃で死ぬわけないのに、オレを庇って死んだんだ」
『君が望むのなら、俺はどこにでも付いて行く。そして、君と同じ夢を見る……』
「……何が夢だ。死人に夢なんて見れるわけがない。あんなくだらない死に方をするぐらいなら、生きてオレのそばにいてほしかった。結局オレには誰も付いて来てくれなかったんだ……ギンガを除いて。長くなったが、簡単に言うとキミは【俺】の妄想力から転生した存在だよ、海男。どうして人面魚になっているかは知らないがな」
「そう……だったのか」
「オレの搾りカスである【俺】の副産物とはいえ、旧知の仲だ。そこをどいてくれないか?」
「断る! 君とうずめを一つにさせはしない!」
「そうか……なら」
くろめはうずめを守るように立ち塞がる海男を蹴り飛ばした。
「ぐあっ!」
「う、海男……!」
「さぁ【俺】。お喋りは終わりだ。これでわかっただろう? オレのゲイムギョウ界への憎しみが。オレと一つになろう。オレと共にゲイムギョウ界を滅ぼそうじゃないか!」
くろめはそう言ってうずくまるうすめに手を差し伸べる。
「……こんな」
「ん?」
「こんな記憶がなんだってんだ‼︎」
「何……?」
くろめが差し出した腕を弾いて、頭痛が響く頭を抑えながらも、立ち上がるうずめ。
「確かに、俺は嫌われてたかもしれねえ! けどな、ギンガが言ってたんだ。たとえ俺を嫌う奴らがいても、俺を愛してくれる人たちだってたくさんいたってな! だから俺は俺を信じる奴らのために戦う! 俺が信じる奴らのために戦う! それだけだ!」
「……ここまで愚かだとは思わなかったよ、【俺】。それに、お前が戦おうが戦わなかろうが、ゲイムギョウ界は滅びる。オレだけじゃなく、悪堕ちした女神たちの手によってな!」
「そいつはどうかな? 俺はぎあっちたちを信じてる。あいつらなら猛争の渦に落ちたねぷっちたちを引き上げられるってな!」
「くだらない。これ以上聞くに耐えない妄言を垂れ流す前に、ここで【俺】を取り込んでやろう!」
「やってみやがれ!」
*
くろめとルギエルをダークメガミの前から引き剥がし、女神候補生たちとギンガはダークメガミに囚われている四女神の元へ到着した。
「お姉ちゃん!」
「ネプ……ギア……?」
ネプギアの声が届いたのか、ダークメガミに囚われ意識を失ったネプテューヌが目を覚ます。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
「ネプギア……来てくれたんだ。ありがとう。来てくれて早速だけど、殺すね」
「……え?」
ネプテューヌはいつものような笑顔で物騒なことを言いながらネプギアの首元に手を伸ばす。
しかし、それよりも早く動いていたギンガがネプテューヌの腕を既に抑えていた。
「やはり、既に堕ちていましたか」
「邪魔だよギンガ。ネプギアを殺せないじゃん」
「させると思いますか?」
「鬱陶しいなぁ。ギンガはわたしの言うことを黙って聞いていれば良いんだよ。それともギンガから殺してあげようか?」
「ネプテューヌ様の手で殺されるなら本望ですが、今のあなたでは私は殺せません」
「じゃあ試してみる?」
「望むところです」
ギンガとネプテューヌのやり取りの間に、悪に堕ちたノワール、ブラン、ベールも目覚める。
「……さて、私はユニをどうやって痛ぶろうかしら? 死なないようにするのって難しいのよね」
「ロム……ラム……聞かせて、あなたたちの悲鳴を……」
「全く、あなたがたは良いですわよね。可愛い妹たちを痛ぶることができて」
いつものような笑顔で物騒な台詞を吐く三人。
「お姉ちゃん……」
「悪堕ちしちゃってる……」
「でも、正気に戻してあげるから……!」
しかし、候補生たち既に女神たちと戦う覚悟を決めており、その言葉を聞いても怯えることはない。
「ぐわぁぁっ!」
候補生と四女神が対峙していると、そこにくろめの攻撃を受けたうずめが吹っ飛ばされてきた。
「強えな……流石は【オレ】ってとこか」
「当たり前だろう? オレから出た搾りカスの分際で良くもまぁオレに勝てると思ったものだ。……おっと、ねぷっちたちが目覚めたのか」
くろめは女神たちが目覚めたのを確認すると、その視線をうずめからギンガに向ける。
「さぁ、これがオレの答えさ、ギンガ。キミが仕えているねぷっちはもうこっちにいる。キミも来い。そうだな、キミが来てくれるならゲイムギョウ界の全てを滅ぼすなんて言わないさ。キミの望む通り、女神を信じない者を全て排除した世界を作ろう。キミなら俺の元に来てくれるだろう? あの時、オレのゲイムギョウ界への憎しみを肯定してくれたキミなら」
「……そうですね。それが女神様のご意志ならば、私は従うだけです。あなたとネプテューヌ様たちと共に、女神様を信じぬ者を皆殺しにし、理想郷を作りましょう………………と、少し前までの私ならば言ったのでしょうね。申し訳ありませんが、お断りします!」
「何……?」
「私は今のゲイムギョウ界を信じています。女神様を信じる者、信じない者、それら全てはゲイムギョウ界の可能性なのです。だから私は守ります。可能性の光を絶やさせはしません!」
「可能性だと……? くだらない……!」
「ねーうずめ。めんどくさいからもうギンガ殺していい?」
「……殺すのはダメだよねぷっち。彼を少し痛めつけてわからせてあげたらこっちに来てくれるはずだ……」
「ダメかー。じゃあ、殺さなきゃ痛めつけても良いってことだよね?」
「うん。この際もう強引でもいいか。殺さない程度なら好きにして良いよ」
「やったー! ……さて、ギンガもネプギアも、私がたくさん痛めつけてあげるわね!」
ネプテューヌがパープルハートに変身すると、それに続くようにノワールたちも変身していく。
「パープルハート様……あなたはまだプラネテューヌの守護女神ですか?」
「守護女神……私を縛り付ける運命……そんなもの、もう私には必要ないわ!」
「では、あなたはもうプラネテューヌの守護女神ではないと?」
「そうよ。だったら何よ」
「ならば、プラネテューヌ女神補佐官基本法第四条『女神ネプテューヌがプラネテューヌの統治を放棄した場合、第一条第二条の効力は失われ、女神補佐官の命令権は女神候補生に移るものとする』に基づいて、たった今から私の命令権はネプギア様のものになります」
「何ですって……?」
プラネテューヌ女神補佐官基本法。ネプテューヌがノリで作り、イストワールが条文を追加したものである。
「ネプギア様、ご命令を」
「……わかりました。お姉ちゃんたちを止めましょう。あんなお姉ちゃんたちなんて見たくありません!」
「かしこまりました。今から私はパープルハート様たちの動きを止めます。手荒な真似をするので、巻き込まれないように少し下がっていてください。ネプギア様たちにはその後をお願いすることになります」
「一人でやるつもりですか?」
「一人ではありませんよ」
そう言ってギンガは数歩ネプギアたちの前に出る。
「まさか、私たちを止められると思っているの?」
「止めてみせますよ。それが女神補佐官の責任というものです」
「無理よ。あなたの指輪は私が加護の供給を断つことができる。それがないあなたでは私たちに勝ち目などないわ」
「確かに私では勝てないでしょう。しかし、私たちならば」
「私たち……?」
「私が半人半人工生命体から完全な人工生命体となったことで、様々な能力が追加されました。今から行うこれは、その一つです」
「何よそれ」
「それは……イストワールとのワイヤレス合体です!」
ギンガは懐からイストワール人形を取り出し、頭の上に乗せる。
「さあ来い……相棒!」
そのイストワール人形は、超次元からイストワールの情報をギンガに届け、また超次元のイストワールへギンガの情報を届けるためのアンテナのような役割を持っている。加えて、超次元にいるイストワールの声が通信機のようにイストワール人形から鳴り響くようになってもいる。
「「……『ギンガイストワール』合体完了」」
変身した守護女神に勝るとも劣らないプレッシャーを放つギンガイストワールに、少し怯む守護女神たち。
「……が、合体したところで、私たちの敵ではないわ!」
「ぶっ潰してやるよ!」
「うずめには殺さないように言われましたので、死なない程度に痛ぶって差し上げます!」
ブラックハート、ホワイトハート、グリーンハートの三人がギンガイストワールに攻撃を仕掛ける。
「「未来は見えています」」
しかし、その攻撃は最低限の動きですべて回避され、ギンガイストワールに届くことはない。
「……っ⁉︎ 当たらない⁉︎」
ギンガイストワールのことを知るパープルハートは攻撃を仕掛けず、様子を伺っていた。
「皆、ギンガいーすんは敵の攻撃を完璧に予測できるの。だから闇雲に仕掛けても当たらないわ」
「……ちっ、鬱陶しいぜ」
「なら、逃げ場を無くせばいいってことでしょう?」
「四方向から仕掛ける、これでいきましょう」
四女神は散開し、逃げ場を無くすように囲みながら四方向からギンガイストワールに攻撃を仕掛ける。
「さぁ……どうするの? ギンガいーすん!」
すると、ギンガイストワールは動きを止めた。
「「……
「知らないわよそんなこと」
「「そうですか。ならば、お教えしましょう。簡単なことです。一つは女神様を守るため。もう一つは世界を女神様から守るためです」」
その言葉とともに、ギンガイストワールは左腕を天に掲げる。
「何をするつもりよ? まさか、お手上げの降参のつもり?」
「「いいえ。そういえば
「…………?」
「「ならばまたお見せしましょう…………『シェアリングフィールド』展開」」
その瞬間、ギンガイストワールが創り出した必殺の領域が四女神を包み込んだ。
ギンガイストワールのシェアリングフィールドはうずめの使うものとその効果が大きく異なる。
うずめのシェアリングフィールドの効果は『敵の弱体化と味方の強化』。ギンガのシェアリングフィールドの効果は『特定の事柄に基づいた戦闘力の配分』、しかしギンガの効果は守護女神に適用されないように設定されている。
ならばなぜギンガイストワールのシェアリングフィールドが必殺となるか。その鍵を握るのがイストワールである。本来イストワールにはシェアリングフィールドの展開は不可能。しかし、ギンガと合体しギンガイストワールとなった状態では、イストワールの効果がフィールドに付与される。
イストワールのシェアリングフィールドの効果、それは……
「ぐっ、あああああっ!」
「頭が……なにこれ……っ!」
「どういうこと……ですの……っ」
「ぅぅっ! これは……⁉︎」
……フィールド内の全ての者の頭の中にイストワールの持つ莫大な情報を問答無用で流し込むことである。人間どころか守護女神ですら処理しきれない情報の波が襲いかかり、正常な思考を奪う。その効果は敵味方関係なくフィールド内に存在する者全てに降りかかるため、予め候補生たちを下がらせていたのである。
「「……ワイヤレス合体となると、ここらで限界のようですね」」
ワイヤレス合体は通常の合体と比べ合体時間が極端に少なく、シェアリングフィールドの発動時間も少ない。たった数秒のフィールド展開によって合体の限界時間に到達してしまう。
「頭がぐるぐるしてるけど、まだ戦えるわ!」
「めんどくせえことしやがって……ぶっ殺す!」
数秒のフィールド展開では、女神たちを戦闘不能に至らせるには不十分であった。
「くっ……」
身体への負担と制限時間超過により合体が強制解除され、ギンガはその場に膝をつく。
しかしそれは敗北ではない。
「ネプギア様! ユニ様! ロム様! ラム様! 後はお任せしました!」
くろめ→海男は原作だと多分なんとも思ってなかったんでしょうけど、この作品ではある程度の情はあることにしました。蹴り飛ばしましたけど。