紫の星を紡ぐ銀糸N   作:烊々

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13. その名はサーガ

 

「想いに価値はねえ。あんのは力だけだ。そして力の象徴である暴力がこそか最も澄んでいて尊いもんなのさ」

 

 崩壊したプラネテューヌ。

 

「ギンガトリニティだっけか? ま、悪くない暴力だったと思うぜ。けど、ゲハバーンの方が優れた暴力だったってだけだ」

 

 倒れ込むギンガとイストワール。

 

「くたばったかな。死体遊びをする趣味はねえし、カスどもを皆殺しにしてから心次元に行って愛しのうずめちゃんに加勢するとしようか」

 

 ルギエルがプラネテューヌだった廃墟と瓦礫の塊に背を向ける。

 

「……まだ、まだです」

 

 すると、ギンガが地面に這いつくばりながらルギエルの足を掴んだ。

 

「もう終わったろ。いい加減しつこいぜ」

 

 ルギエルは飽き飽きした表情でギンガの腹部に蹴りを入れる。

 

「がはっ!」

「キル確認してなかった俺が言うのもなんだけどよ、生きてたなら寝てりゃいいものを、わざわざ起きて邪魔すんなら今すぐ死にたいってことだよな? だったら望み通りにしてやるよ!」

 

 ルギエルがゲハバーン・レプリカを振り上げたその時、闇の魔力で生成された槍がルギエルに向かって飛来した。

 

「……あ?」

 

 マジェコンヌがルギエルの前に立ち塞がるように着地する。

 

「マジェコンヌ……どうしてここへ……」

「いくら私たちが猛争モンスターに善戦したといえ、貴様がルギエルに負けてしまってはゲイムギョウ界は終わりだ。だから様子を見にきたのだが……この有り様か」

「どけよ、マジェコンヌちゃん。俺マジェコンヌちゃんのこと割と好きだからさ、殺したくないんだよね。でも、邪魔すんなら殺すしかなくなる」

「退くわけにはいかん」

「はぁ……どいつもこいつも、どうして他人なんかのために命をかけて戦うんだか」

「おかしなことを言う。貴様が今戦っている理由も、暗黒星くろめのためだろう?」

「……俺マジェコンヌちゃんのそういうこと好きだけどマジで嫌いだな。まぁいいや。どかねえなら殺す」

 

 マジェコンヌは変身し、ゲハバーン・レプリカの斬撃を槍で受け止める。

 

(何という速く重い攻撃だ……! ギンガはこんなやつと戦っていたのか……っ!)

 

 しかし、変身したマジェコンヌでさえ、ルギエルには身体の強さも武器の強さも劣る。

 ギンガトリニティほどの善戦も出来るわけがなく、すぐに追い込まれていく。

 

「ほら、無理じゃん。マジェコンヌちゃんじゃ俺を止められねーよ?」

「無理であることが戦わない理由にはならん!」

「ウザいこと言うなよな」

 

 マジェコンヌの抵抗も虚しく、マジェコンヌの攻撃はルギエルに届くことはない。

 逆に変身が解除されるほどのダメージを食らって膝をつく。

 

「……『ギャラクティカクロスシュート』!」

 

 マジェコンヌが戦っている間に、なんとか体力を振り絞り立ち上がったギンガがルギエルに必殺光線を撃ち込む。

 

「お前はもう終わったっつってんだろ」

 

 しかし、光線はゲハバーン・レプリカに斬り払われ、その全てが霧散して消える。

 

(やはり……私たちでは勝てないのか……! 私たちの想いは……奴の力に蹂躙されるだけなのか……!)

 

 力は届かず、技も通じず、万策が尽き、守りたかった国は壊され、遂にギンガも心が折れそうになっていた。

 

 

 

 

『……そんなことはないわ。ギンガ』

 

 

 

 

 

「……⁉︎」

 

 唐突に頭の中に鳴り響く声に驚きを隠さずにいた。

 何故なら、その声の主は…………

 

『久しぶり……ってほどでもないか。この前死にかけてたあなたを追い返した時ぶりね』

 

 …………初代プラネテューヌ女神のものだったからだ。

 

『女神の加護を込められる指輪、ねえ。いいもの持ってるじゃない、ギンガ。なら、貸してあげるわ。私の加護……いいえ、私たち全員の加護を!』

 

 その瞬間、プラネテューヌ近辺のあるダンジョンから光の柱が出現する。

 そのダンジョン、『初代女神の聖域』から出現した光の柱は、軌道を変えてギンガの持つネプテューヌリングに収束されていく。

 

「なんだ……あの不愉快な光は……?」

 

 ルギエルは不快な表情を見せるが、未知なるものに対して下手に手を出すことは危険と判断し、距離を取って様子を伺う。

 

『あなたがあの石碑を作ってくれたから、みんなあそこで安らかに眠っていられたんだけど、もう一人のギンガが持ってるあの剣のせいで、一時的に私たちの魂が叩き起こされちゃったのよね』

「そうだったんですか……」

『でも、結果オーライね。これでまたあなたと共に戦える。ネプテューヌちゃんがあなたへ贈ったプレゼントを利用するのは少し気まずいけど、まぁ事態が事態だからね。それに……』

『……お姉ちゃん、久しぶりにギンガと話せて嬉しい気持ちはわかるけど、無駄話しないの。早くして』

『もう、ちょっとぐらいいいじゃない……さぁ、ギンガ。もう一度ネプテューヌリングを起動して』

「はい!」

 

 ギンガネプテューヌに変身する時よりも、強く眩しい光に覆われる。

 ギンガに付与されるのは、歴代プラネテューヌの女神全員の加護。

 

(ギンガさんは……全ての女神様の加護を得て、プラネテューヌの歴史そのものへと進化しようとしている……)

 

 銀色の糸で紡がれきた紫の星が、今ここに収束される。

 全ての想いがギンガの力となって世界を照らす。

 『ギンガ』という存在をも超えた姿。

 

「変身……完了……‼︎」

 

 その名は『サーガ』、ここに降臨。

 

 

 

 

 

 

 

 サーガ降臨のとてつもないエネルギーは次元をも超え、心次元にまで伝わっていた。

 

『……おいおい、次元を超えて伝わるレベルのパワーってどういうことだよ? 超次元で何が起こってやがるんだ?』

 

 その衝撃に、一旦女神たちとダークオレンジの戦いの手が止まる。

 

「とてつもない力を感じますわね。けれど……」

「そうだな。なんだか……」

「……ええ、暖かくて……優しい光」

「ギンガ…………そういうことね。これが……あなたが紡いできた想い、紡いできた光なのね。全く、ギンガはもうあなたたちのじゃなくて私のなのに……まぁいいわ、今だけは」

 

 

 

 

 

 

 

「気持ち悪」

 

 サーガを前に、ルギエルはただそう吐き捨てる。

 

「……けどいいさ。それも全部否定してやるよ。何度でも言ってやる。想いに価値なんてねえ」

 

 ルギエルはゲハバーン・レプリカを握り直し、サーガの首元に刃を伸ばす。

 

「……」

 

 対するサーガは、その場から動くことなく、両手を広げる。

 

「……『ギャラクティカエスペシャリー』」

 

 そして広げた全身から必殺光線を放つ。

 

「はぁ⁉︎」

 

 ルギエルは咄嗟に体を捻って回避する。

 

(おいおい。あの技はマジェコンヌちゃんから聞いてた話だと、隙がデカすぎてタイマンじゃ使い物にならねえんだろ? 今全くの貯め無しで飛んできたんだが?)

 

 そして再び距離を取り、サーガの魂の輪郭を観察する。

 

(……なるほど、今のこいつをさっきまでのこいつだと考えない方がいいな。姿自体あまり変わりはしてねえが、存在の質が違う。だがしかし! 奴がまとってる光は間違いなく女神の力! 女神の力なら、ゲハバーンでぶっ殺せる! ……いや、殺せる、じゃねえ! 殺す‼︎)

 

 サーガの観察を済ませたルギエルは、再びゲハバーン・レプリカを振りかぶり、必殺光線での迎撃を警戒し、直線状ではなく曲線状に攻撃を仕掛けていく。

 

「来い、星晶剣銀牙」

 

 そう言ってサーガが正面に手をかざすと、砕け散った星晶剣銀牙が集まっていく。

 

「そして、生まれ変われ! 『創世剣サーガ』‼︎」

 

 サーガは女神の加護と祈りを使い、星晶剣を再生、進化させた。

 

「『デルタスラッシュ』!」

「……ちっ」

 

 ルギエルはデルタスラッシュの飛ぶ斬撃をゲハバーン・レプリカで弾き飛ばす。

 弾き飛ばされた聖なる光を含んだ斬撃が瓦礫の塊となったプラネテューヌの街並みに当たると、建物や道路が破壊される前の姿に戻った。

 

「はぁ⁉︎」

 

 それこそが、創世剣サーガの力。ゲハバーンが未来を否定する魔剣ならば、創世剣サーガを未来を創る聖剣。

 

「『ミラージュダンス』!」

 

 サーガは間髪入れずルギエルに斬りつける。

 

「ちぃ……っ」

 

 ルギエルはゲハバーン・レプリカで創世剣サーガを受け止める。

 その戦いの余波により、創世剣サーガの光がプラネテューヌ中に撒き散らされ、プラネテューヌの街並みはどんどん再生されていく。

 

「まずは返してもらいます。あなたが壊したプラネテューヌを!」

 

 そしてルギエルがゲハバーン・レプリカで破壊した街の全てが元通りとなった。

 

(くそっ……好き勝手やりやがって。だが、こいつの動きにも少し慣れてきた。さっきまでとは次元が違う強さであるが、勝てない相手じゃねえ)

 

 ルギエルはサーガを目の前にしても強気な態度と表情を崩すことはない。

 むしろ、今まで戦ったことのない強敵との全力のぶつかり合いにより、更に調子を上げているようにすら見えた。

 

「ならば……『ギャラクティカイリュージョン』」

 

 状況を変えようとサーガが発動したのは、ギンガが過去に用いた分身魔法『ギャラクティカイリュージョン』。その分身には肉体年齢が半減されるという明確な弱点があったが、サーガにおいてその弱点は存在しない。つまり単純な話、戦力が二倍となる。

 

「……まじか。きしょっ」

 

 いきなり二人に増えたサーガに対し、ルギエルは直球な感想を吐き捨てる。

 

「『32式エクスブレイド』!」

「『スラッシュウェーブ』!」

「ちぃ……っ!」

 

 サーガは数の利を活かし、ルギエルの体力を確実に削っていく。

 

(分身……っても、増えれるのは本体だけか。創世剣サーガとやらは増えてねーしな)

 

 しかし、ルギエルの戦いの経験値はギンガ以上。サーガの動きにも即座に適応しつつあった。

 

(こうも早く対応してくるとは……一周回って尊敬すらできるほどの強さですね……しかし!)

 

「『夢幻粉砕拳』!」

 

 一人のサーガの拳技がルギエルに仕掛けられる。

 

(焦ったか。甘えよ!)

 

 だが、そんな強引な攻めは、ルギエルに通らない。

 ゲハバーン・レプリカの反撃を受け、剣先で身体を貫かれ、ダメージが限界に達して片方のサーガが消滅する。

 

「ぬぅ……しかし、任せましたよ、私」

 

 しかし、それこそがサーガの策。

 

「かしこまりました、私。『ギャラクティカクロスシュート』!」

 

 片方のサーガがあえてルギエルに特攻して作った隙に、もう片方のサーガの必殺光線がルギエルに直撃する。

 

「ちぃっ!」

 

 ルギエルは空いた方の掌で光線を弾き飛ばす。左手へのダメージが大きく、動かすことができなくなった。

 

(くっそ、小足みてえな感覚で必殺技ばかすか撃ってきやがって!)

 

 それでもルギエルの戦意が尽きることはない。

 

「結構な力だ。メガミサマのためってか?」

「当然です。女神様の想いが詰まったこの姿。負けるはずがありません」

「はっ、その割にはうずめちゃんに冷たかったよなぁ?」

「……っ」

「あの子が感じた絶望は、憎しみは実際に存在したものだろ? ネガティブ感情で増大したっつっても、零から生まれたものじゃない。それは俺よりお前の方がわかってるんじゃねーのか?」

 

 サーガはルギエルの言葉に素直に耳を傾ける。

 暗黒星くろめという存在を否定しきれないサーガには誰よりも突き刺さる言葉だからだ。

 

「平和のためか。そりゃ大いに結構。けどな、そのために切り捨てられるものはたまったもんじゃねえよ。『暗黒星くろめ』か。いい名前だな。世界に否定され、女神の座を追われ、名前すらも奪われ、そして今存在すらも消されようとしてる。可哀想になぁ」

「……」

「ま、そういう娘が好きで、味方してあげたくなっちまう俺も俺だけどな」

「あなたは……本当にうずめ様を……」

「……ぁー、無駄話だ。お前を殺す。そして抵抗する奴らも殺す。全員殺す。それがうずめちゃんのやりたいことで、うずめちゃんのやりたいことが俺のやりたいことだからな」

「……そうですか」

 

 その言葉を聞き、サーガはルギエルに対して敵意こそあっても嫌悪感を抱くことはもうなかった。

 ルギエルがルギエルなりに暗黒星くろめを愛していることを理解したからだ。

 

「白黒付けようか」

「望むところです」

 

 圧倒的な力を持つサーガであるが、変身していられる時間はギンガイストワールやギンガネプテューヌに比べて極端に短い。

 そしてルギエルも疲弊とダメージによって体力が尽きようとしている。

 お互いこれ以上戦いが長引くことを避けたいため、そして自らの意地を通すため、正々堂々正面から最後のぶつかり合いとなる。

 

「『ギャラクティカネプテューンブレイク』で決めてやるよ」

「その技、気に入ったのですか?」

「割と。でも名前が好きじゃねえな」

「好きに変えれば良いでしょう」

「そうかい。なら……あー……思いつかねえな。『ギャラクティカネプテューンブレイク』でいいわ」

「……そうですか」

 

 ルギエルはゲハバーン・レプリカを強く握りしめて斜めに構える。

 サーガは、右腕で握りしめた剣を地面と平行に突き出してかまえる。

 その構えこそ、プラネテューヌの守護女神相伝の剣技。

 技の名を『クリティカルエッジ』。

 

「はああああぁぁぁぁっ‼︎

「うおおおおぉぉぉぉっ‼︎」

 

 光と闇、両者の紫の剣が交差する。

 

(……あぁ、わかってた)

 

 そして、ゲハバーン・レプリカは砕け散り、ルギエルの右腕が切断されて吹き飛ぶ。

 

「…………っ」

 

(……わかってたさ)

 

 最後の一閃は、サーガが制した。

 

「……くそっ……らしくねえことしちまったぜ。あばよ……!」

「……っ、この期に及んで逃げる気か! ルギエル!」

「お前の勝ちで良いさ……! けど、まだ死ぬわけにはいかねえもんでな」

 

 ルギエルはアイテムを起動し、次元を超えて逃亡した。

 

「くっ……逃しましたか……」

 

 サーガはルギエルを追うことができないため、ゲイムギョウ界の戦士たちと猛争モンスターの戦いに加勢することにした。

 

「さて、最後の仕上げです」

 

 サーガはシェアエネルギーの翼を生やし、空に上がる。

 自らのエネルギー全てを力に変え、頭上に光の球を生成する。

 

「……『ギャラクティカブラスター』‼︎」

 

 その技名と共に、空中で爆ぜた光は軌道を変え雨のように拡散し、戦地へ降り注ぐ。

 ゲイムギョウ界に仇なす猛争モンスターには裁きの光となり、ゲイムギョウ界のために戦う戦士たちには癒しの光となる。

 ギャラクティカブラスターによりおよそ八割の猛争モンスターは駆逐され、残りの二割もバフがかかった戦士たちによって撃破されていく。

 そして遂に、最後の一体が倒されたとき、各地で勝利の雄叫びが上がるのだった。

 

「やりましたね、ギンガさん。いえ、今はサーガさんでしょうか?」

「ギンガでいいですよ。例えるなら『サーガ』は、ネプテューヌ様とパープルハート様の呼び方の違いのようなものです」

『イストワール……久しぶりね』

「その声は……」

『あなたにもずっと感謝したかったの。プラネテューヌをありがとう、そしてこれから頼むわね』

「……はい!」

『そろそろ時間だわ。本当はもっと話したいことがあるけど……これ以上の変身はギンガが持たないから。だから……またねギンガ、イストワール』

「はい。また」

『……あ、そうだ。一つ忘れてたわ』

「なんでしょう?」

『ネプテューヌちゃんに、ちゃんと好きって言ってあげるのよ』

「……余計なお世話です」

 

 サーガの変身が解除される。

 

「イストワール、私は今すぐに心次元へと向かいます」

「もう向かうのですか? 少し休んでも……」

「急がねばならない理由があります。ルギエルの逃げた先はおそらく心次元です。彼はただ逃げたわけではありません。私の予想が正しければ……」

 

 その瞬間、ネプテューヌリングが砕け散る。

 サーガ変身のための歴代プラネテューヌ守護女神全ての加護を蓄えるのに、耐久力が足りなかったのだ。

 

「……ぁ」

 

 ギンガは、ネプテューヌから貰ったアイテムが砕け散る様を目の当たりにして。

 

「うわぁぁぁあああああぁぁぁぁっ!」

 

 大の大人とは思えないような情けない悲鳴をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 右腕を失った際の止血を適当に済ませ、よろよろと心次元を歩くルギエル。

 

(想い、絆、情、その全てを捨てる。自分のためにしか生きない。そして何も持たない。それが俺の生き方だったはずだ。けど……)

 

 ルギエルの頭に浮かぶのは、暗黒星くろめのこと。

 

(……何もかもを捨てたはずの俺が、求めちまった。他者のために戦っちまった。自分の生き方を曲げたその時点で、俺は負けてたんだよな……)

 

 自らの存在を嘲笑しながらも、その瞳には強い意志が宿っていた。

 

(けど、このクソみてえな命にも、まだ一つだけ使い道がある……だから……)

 

 

 

 

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