「協力に感謝するよ、イストワール」
「いいえ。うずめさんの願いですもの」
海男はうずめの仲間だったモンスターたちを超次元まで避難させていた。
「……よし、これで全員だな」
「後は、女神様たちの勝利を祈るのみです」
「俺には祈ることしかできない……うずめ……帰ってきてくれ……!」
*
心次元、心ノ最深部。
対峙するネクストパープルギャラクティカグリッターとアークオレンジ。
「……大きいわたし。頼みがあるの」
「変身したわたしにそうやって呼ばれるのちょっと違和感あるね。なーに?」
「みんなを連れて心次元から脱出して」
「一人で残るの?」
「一人じゃないわ。ギンガがいるもの」
「でも、お姉ちゃん……!」
「ネプギア、変身する体力が残ってない私たちが残ったところで足手まといにしかならないわ」
「ノワールさん……」
「ネプテューヌ、絶対帰ってきなさいよ」
「そうだよ、絶対に帰ってきて、お姉ちゃん。帰って来なかったらお姉ちゃんのプリン全部食べちゃうからね」
「……何が何でも帰らなきゃ行けない理由ができてしまったわね」
ネプテューヌ(大人)はクロワールの力でゲートを作り、仲間を連れて心次元を脱出した。
「別れの挨拶は済んだかい?」
「あら、待っていてくれたのね」
「そこまで無粋ではないさ。それに、全力を出したキミたちに打ち勝つことに意味があるんだから」
「そう。なら、行かせてもらうわ!」
声と共に、紫の光が強くなり、まるで翼のように広がっていく。
そして瞬きすらも許さぬ速度で、くろめへと翔ける。
「『クロスコンビネーション』!」
くろめは避けようともしない。
「『夢双連撃』」
向けられた剣の連撃に拳で応戦する。
刃と拳だけでなく、込められたシェアエネルギーのぶつかり合いの衝撃により、轟音が響き渡る。
「……くっ」
すると、くろめの掌から鮮血が飛ぶ。軽い切り傷程度であったが、今のネプテューヌの剣をくろめの拳では受けきれないことを意味していた。
(ならば……)
くろめは切り傷自体は即完治させたものの、手ぶらで戦うのは不利と判断する。掌からネガティブエネルギーのドス黒いオーラを放出し、そのオーラはメガホンへ姿を変える。
「すぅ〜……ぁあああああああッッ‼︎」
メガホンに向かって絶叫し、メガホンから放たれた破壊音波がネプテューヌを襲う。
「『32式エクスブレイド』」
ネプテューヌは迎撃のため、32式エクスブレイドを現出させる。一本だけでなく、ノワールの『ナナメブレイド』から発想を得て、四本の32式エクスブレイドを自身の周りに浮遊させ、盾代わりにし身を守る。
「……『クリティカルエッジ』!」
破壊音波から防御して間も無く、くろめの斬撃がネプテューヌを襲う。
「えっ⁉︎」
ネプテューヌが驚いたのは、くろめが剣を握っていたことに加え、口に出した技名。
咄嗟に太刀で受けで防御するものの、力を入れ切ることができず、大きく弾き飛ばされる。
「くっ……!」
「拳とメガホンで戦うことが一番オレに適しているけど、剣を使うのも悪くないね」
「まさか……あなたがクリティカルエッジを使ってくるなんてね」
「これはプラネテューヌ相伝の剣技。オレにも使えないわけじゃないよ」
「……確かにね、
「ふっ。生意気だよ、
紫の太刀と黒き剣、刃と刃が交じり合う。
剣の腕ではくろめはネプテューヌに劣る。だからこそ、拳やメガホンによる攻撃を織り交ぜる。
両者一歩も譲らぬ激戦が繰り広げられる。
「はぁぁぁっ!」
「うぉぉぉっ!」
激戦の中、一瞬ネプテューヌにはうずめの動きがブレて見えた。
(あれ……?)
それは目眩や幻覚ではない。ネプテューヌには、今まで見えていなかった何かが確かに見えていた。
そして、そのブレが見えた時から、それまで以上に、くろめの攻撃に対して即座に的確な対応をすることができている。
(くろめから出ているオーラみたいなものが見える……くろめと同じ形をしたオーラが…………これは、まさか!)
ネプテューヌは気づいた。
(そうだわ……ようやくわかった……! これがギンガの言っていた『魂の輪郭』!)
並外れた五感に加え、百戦錬磨の上に得た第六感により敵の状態を把握しその行動を予測する。
守護女神ですら辿り着いていない戦闘における技の極地。
(その極地に立った者のみが見えるものがこの魂の輪郭なのね!)
ギンガの力と想いと共に戦うことにより、ネプテューヌはその極地に足を踏み入れたのだ。
(……ねぷっちの動きが変わった……?)
自らに届く刃の数が増え、自らが届かせる拳と刃の数が減っていることに、当然くろめも気がつく。
(これは……明らかにねぷっちにはオレの見えていないものが見えている…………っ、いや違う! この感じ……ねぷっちだけじゃない、ギンガだ! 思い出せ……ギンガの見えているもの……ギンガがよく言っていたこと……)
うずめは戦いの最中、自らの記憶を辿る。
(……『魂の輪郭』、おそらくそれだ! どうすればオレもそれが見れる……? いや、どうすればじゃない、オレにだって見えるはずだ! 何故ならば!)
今持つくろめの命が、元々誰の命であるかがその答え。
(ルギエル、オレを導いてくれ!)
そう、ルギエルに見えたものが、くろめにも見えぬはずがない。
(見えた! ねぷっちの魂の輪郭!)
そして、くろめもネプテューヌが踏み入れた極地へと辿り着く。
(くろめの動きまで変わった……! へぇ、気づいたのね、やるじゃない……!)
ネプテューヌの動きは綺麗すぎた。だからこそ、結果的に自身の動きを見た相手をその極地まで押し上げることになってしまった。
だが、それでいい。そんなアドバンテージなどいらない。同じ条件で全力でぶつかり合い、そして勝つ。それは最早、世界を守るためだけではなく、女神としての意地でもあった。
*
「いーすんさん!」
「ネプギアさん! それは皆さん、おかえりなさい。……あれ? ネプテューヌさんとギンガさんは……?」
「残ったわ。ルギエルが命を与えてパワーアップした暗黒星くろめとの決着をつけるために」
「そうですか……」
「でも、暗黒星くろめにうずめが吸収されちゃって……」
「待ってくれ」
「どうしたんですが、海男さん?」
「のわっち、さっき何と言ったかもう一度言ってくれないか?」
「え? えーと、『暗黒星くろめにうずめが吸収されちゃって』……」
「さらにその前だ」
「『ルギエルが命を与えて……」
「それさ‼︎」
「のわぁ⁉︎ びっくりした……それがどうしたのよ?」
「急に大きな声をあげてすまなかったね。それより、暗黒星くろめの人格が別の方法で命と身体を取り戻したなら……ゲーム機の封印を解除したら復活するのは……!」
「……あっ!」
*
全てをかなぐり捨てて得た虚無の暴力、世界中のネガティブ感情を取り込んだネガティブエネルギー、この二つ合わせ持つ今のくろめは無尽蔵に力が湧く。
対するギャラクティカグリッターネクストフォームの変身時間は無制限ではない。
(……最後に勝つのはオレだよ、ねぷっち)
今この瞬間は互角であっても、その均衡はいずれ崩れる。
くろめが勝利を確信した…………その瞬間。
「……な……んだ……⁉︎」
謎の衝撃がくろめの体内を襲う。
「ぐっ……何が起こった……⁉︎」
胸に手を当てると、自らの中から、大事な何かが消えていることに気づく。
(【俺】がいない……! オレの中の【俺】が、抜け落ちている……! 何故だ……⁉︎ いや、理由はどうでもいい……! このままだと、まずい!)
ルギエルの命はくろめが復活するための命としては極上のものであった。否、極上すぎた。
ルギエルの命のあまりにもの我の強さは、【暗黒星くろめ】だけでは制御しきれず、【天王星うずめ】も取り込んで完全体に戻ることでようやく完全に制御ができるほどのものだったのだ。
しかし、ゲーム機の封印が解かれ、うずめは一つの命となってくろめの中から消え、くろめは自身の力を完全に制御する術を失うことになった。
(クソ……っ!)
己の力の出力を下げなければ、力の制御が効かなくなる。しかし、出力を下げれば、目の前の強敵に勝つことができない。
(全く……やんちゃな男は嫌いだよ、ルギエル)
しかし、くろめの選択は、出力を更に上げることだった。
(そうだ、キミのくれた命だ。【俺】なんていなくたって、使いこなしてみせる)
そして、自らの力の全てを拳に纏わせる。
(あの様子……決めに来る気ね)
対するネプテューヌも、自身のシェアエネルギーを高め、刃に乗せる。
「『ビクトリィースラッシュ』!」
「『烈覇夢双絶掌』!」
必殺の拳と刃がぶつかり合う。
「……っ」
そして、ネプテューヌの太刀が砕け散る。
(ねぷっち自体へはダメージを与えられなかった……が、太刀は砕いた!)
武器のないネプテューヌではくろめに勝つことはできない。
(オレの勝…………⁉︎)
思いかけて、くろめは戦慄した。ネプテューヌの手には既に別の剣が握られていたからだ。
(あれは……!)
それがただの予備の太刀程度のものだったなら、くろめは戦慄しなかっただろう。
ルギエルの命に深く刻み込まれている敗北の記憶が、くろめの頭に危険信号を放ち続ける。
その剣は、贋作とはいえあの魔剣をも打ち砕いた希望の聖剣。名を『創世剣サーガ』。
「くっ……!」
そして、くろめが気づいたことはもう一つ。
(そうだ……ねぷっちのビクトリィースラッシュは必殺技じゃない……!)
だからこそ、ネプテューヌはあえて敵の必殺技には必殺技をぶつけなかった。それ故に自身の太刀を失うことになった。
しかし、ネプテューヌの真の狙いは、ギンガの意志から託された創世剣サーガでの必殺技、隙を生じぬ二段構え。
「『次元……いえ」
くろめは敗北を悟った。
「『超・次元一閃』‼︎」
そして、小さく笑った。
全力を出し合った勝負の愉悦か。
目の前の強敵への賛辞か。
自らを超えた後輩への希望か。
いずれにせよ、その表情からはもう憎悪は感じられなかった。
「強いな……ねぷっち」
誰にも聞こえないような小さな声で呟き、自らの敗北を両手を広げて受け入れた。
エピローグ的なものをやって終わりです。
ありがとうございました。