絆よ永遠に/遥かなる旅路
ネプテューヌがくろめを撃破するほんの少し前、ゲーム機の封印が解かれ、うずめが命と身体を完全に取り戻した時のこと。
『ただいま、みんな。ただいま、ゲイムギョウ界!』
『おかえりなさい……うずめさん』
『イストワール……久しぶり』
『ごめんなさい……あなたのことを忘れてしまっていて……』
『気にすんなよ。俺だって忘れてたんだ』
『またこうして会えて、話すことができて嬉しいです』
『俺もだよ。吸収されたはずの俺がこうやって復活できるなんて、まるで裏ワザだな』
うずめはそれに安心しながらも少し寂しそうな表情を浮かべていた。
『もしかしたら、【オレ】とも分かり合える未来もあったのかな……』
そしてその後、くろめを撃破したネプテューヌとギンガが心次元から帰還した。
『みんなー! ただいまー!』
うずめが次元融合を完全に停止させたことにより、零次元と呼ばれた次元も、心次元と呼ばれた次元も、存在が消えることはなくなった。
こうして、猛争事変と呼ばれた災厄に終止符が打たれ、超次元ゲイムギョウ界には平和が戻った。守護女神の転換期を乗り越えられ、女神への信仰は揺るがぬものとなった。
また、最近荒廃していた零次元に青空が見えるようになったり、新しく草木が生えるようになってきているという。
そして、それから数週間後。
「……本当に行っちゃうの?」
「うん、わたしは旅人だから」
ネプテューヌ(大人)は、天王星うずめと共に平和になった超次元ゲイムギョウ界をひとしきり観光し、それが終わるとこの次元から旅立つことにした。
「そっか。それがわたしの決めたことなら、わたしは止めないよ。でも、たまには顔を見せにきて欲しいとは思うかな」
「あはは、そうだね」
「寂しくなるな……ねぷっち」
「うずめとはずっと一緒だったもんね」
「ねぷっちなら心配はいらないと思うけど、元気でやれよ!」
「うずめこそね!」
ネプテューヌ同士で熱く握手を交わし、うずめとは拳を軽く突き合う。
「お姉ちゃん……」
「ネプギアも色々ありがとうね。短い間だったけど、可愛い妹ができて楽しかったよ」
「また、会えるよね?」
「わたしって方向音痴だから旅するつもりで戻ってきちゃうかも、なんて」
言いながら、ネプギアを抱きしめて頭を撫でる。
「マジェコンヌも見送りに来てくれたんだ」
「悪いか?」
「ううん。嬉しいよ」
「……これを持っていけ」
マジェコンヌがネプテューヌ(大人)に差し出したものは、紫の野菜、ナス。
「ナス⁉︎ 嫌だよ!」
「嫌だと⁉︎ これは私の農園で作り上げた最高級ブランドのナス『ディープパープル』だ! 見ろ、この艶! 食べればHPが80%回復するぞ! この一つで何千円もするのだぞ! 持っていけ!」
「要らないったら要らないよ!」
「くっ、せっかく餞別でもと思って持ってきてやったのに」
「ナス以外なら何でも受け取るけど、ナスは嫌なの!」
「ふん、ならばやらん。どこへでも行ってしまえ」
言い合いになってはいるが、どこか和やかな雰囲気だった。
「ギンガにも色々とお世話になったね」
「あなたがいてくれたおかげで私も色々と助かりました。ありがとうございました」
「そうだ、いつかリベンジに来るからねー!」
「いつでも受けて立ちます。今度は変身無しで」
「わたしももっと技を磨いておかなくちゃ!」
『……おいネプテューヌ。時間の流れは次元ごとに異なるけどよ、何週間も経っちまってる。早くしねえと見つけらんなくなるぞ』
「あ、そう? それじゃ、みんなー! ばいばーい!」
ネプテューヌ(大人)はとびきりの笑顔と共に大きく手を振り、クロワールが作り出したゲートの中へ消えていった。
*
どこかの次元の狭間。
ルギエルは意識を失っているくろめを抱き抱えながら、行く宛もなくただ歩く。
「死にぞこなっちまった。いや、一回死んだは死んだけど」
ルギエルは創世剣サーガの力で、自身が手放した命と身体を取り戻していた。
「……あのクソカス野郎め」
彼を蘇らせたのは、他でもないギンガの願いであった。
ー
ーー
ーーー
ーーーー
『……なぜ俺を生き返らせた?』
『うずめ様のためです。私はあの方にも消えて欲しくはない。けれど、あの方はまだ超次元に戻ることを望みはしないでしょう。そして、私にはあの方を完全に救うことはできない……だから、あなたに託します』
『はっ、良いのかよ。そんな理由で俺なんか蘇らせて。俺がしたことを忘れたか?』
『超次元においてあなたが壊したものは私が全て創って直しました。他の次元であなたがやったことまでを裁く権利は私にはありません』
『……けっ。ならそういうことにしといてやるよ。けどな、確かに俺が命をあげたからうずめちゃんは憎しみ以外の感情を思い出したが、それでもうずめちゃんが超次元への復讐を望むなら、俺もうずめちゃんと一緒に超次元を滅ぼしに戻ってくるぜ』
『ならば、何度でも止めてみせます』
『……そうかい』
『ねー、ルギエル』
『なんだい、メガミサマ?』
『その呼び方なんか嫌だからネプテューヌって呼んでよ。それより、いつかくろめが自分の気持ちと折り合いが付いたらさ、いつでも超次元に帰ってきてねって言っといて』
『……あいよ』
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ーーー
ーー
ー
「ぅ……ん……?」
ルギエルの腕の中、くろめが目を覚ます。
くろめも創世剣サーガの力で再び命を与えられていた。そしてそれもまたギンガの願いであった。
「起きたか」
「ここは……? どうして……オレは生きてるんだ……?」
「あー、女神ネプテューヌとあのクソカス野郎が気を利かせたんだ」
「ねぷっちとギンガが……」
くろめは胸に手を当て安堵と寂しさを混ぜてような表情を浮かべる。
「あれだけあったオレの中の憎悪を……もう殆ど感じることができないんだ。オレはもう何のために生きればいいかわからない。本当にわからないんだ……」
「必要か? それ」
「え?」
「生きる意味がなきゃ生きてちゃいけないわけないだろ。そんなもんなくたって、生きてるから生きるでいいんだよ。ま、どうしてもそれが欲しいんなら、適当に次元をぶらついてる間に見つけりゃいいさ、ゆっくりな」
「……」
「俺はうずめちゃんに着いていくよ。うずめちゃんのやりたいことが俺のやりたいことだからな」
「……自分で決めるのが面倒なだけじゃないのかい?」
「さぁな」
「なんだよそれ。そんなことより降ろしてくれ」
くろめが不満そうにルギエルの服の襟を引っ張ると、ルギエルはくろめを優しく地面に降ろす。
「おーい!」
すると、背後からくろめとルギエルを呼ぶ声が聞こえた。
「その声……」
「ネプテューヌ?」
「よかったよかった見つけられて。少し久しぶりだね、お二人さん。旅をするなら一緒に行こうよ!」
「俺はいいけど、超次元はもういいのか?」
「まぁね。あそこの次元は居心地がいいからいつまでもいたかったけど、わたしは旅人だからさ、いつまでも同じ次元にいるわけにもいかないんだ。だから、くろめ……いや、うずめとルギエルが旅するんならわたしも着いていこうと思って」
「いいのかい? オレはキミを殺そうとしたんだよ」
「わたしを殺そうとした悪いうずめはもう小さいわたしがやっつけたから」
「……そうか」
「よぉ、クロワール」
『生きてたんだな、お前』
「ほんとだよ。別れの挨拶をしたってのに、もう再会しちまったぜ。だせーのなんの」
『お前がだせーのなんていつものことだろ。それに、あんなつまんねえ死に方、お前には似合わねえよ』
「それもそうだな」
クロワールの言葉に棘はあるものの、どこかに暖かさを感じられるものだった。
「なんか、賑やかになったね」
「いいじゃん。わたしは賑やかなの好きだよ」
『俺はなぁ……うずめもルギエルも毒気が無くなっちまってつまんねえよ』
「お前は相変わらずだな」
暗黒の星は憎しみを失い、銀色の虚無は愛を得た。だからこそ、彼らはもう悪意を振りまくようなことはないという確信がネプテューヌにあった。
「さ〜て、どこに次元に跳ぶ?」
「場所はどこでも良いけど俺腹減ったわ。腹減りすぎてこのままじゃクロワール食べちまう」
『おい』
「じゃあまずはどこかでご飯食べよっか」
「食事か……数百年ぶりだから少し楽しみだ」
こうして、奇妙な四人旅が始まるのだった。
*
プラネタワーの展望台。
ギンガはプラネテューヌの夜景を眺めていた。
(ふむ、プラネテューヌの街並みは、創世剣サーガの力でちゃんと元に戻っていますね。もしかしたらどこかミスって変なことになっているかと心配だったのですが、安心しました)
「ここにいたんだね、ギンガ」
「……ネプテューヌ様」
「隣、いい?」
「勿論」
「……ようやく、終わったね」
「ええ、お疲れでした。ネプテューヌ様」
「ギンガこそお疲れさま」
「ありがとうございます。そうだ、ネプテューヌ様に謝らなければならないことがいくつもあります」
「うずめのことを黙ってたことでしょ? 謝らなくていいよ。一番辛かったのはギンガだろうし」
「しかし……」
「わたしがいいって言ったからいいの。もう謝るの禁止」
「……はい」
「あ、でも、わたしに内緒でマジェコンヌと随分仲良くなってたのはちょっと許せないかな」
「仲良くないですよあんな奴」
(その反応が仲良いんだよなぁ……)
ネプテューヌはギンガの右手薬指に目をやる。
「ネプテューヌリング、壊れちゃったんだってね」
「申し訳ありません……せっかくいただいたのに……」
「ううん、また作るからいいよ。それに安心したんだ。わたしのあげた指輪がちゃんとギンガのことを守ってあげたんだ、って」
「そうですね。たくさん守ってくれました」
ネプテューヌがニコリと笑う。
ギンガも穏やかな表情を浮かべる。
そのまま、二人とも喋らずにプラネテューヌの夜景を眺め、展望台に吹く緩やかな風の音だけが響く。
「……ねぇギンガ」
沈黙から数分、ネプテューヌが口を開く。
「どうしました?」
「わたしね、ギンガにずっと言いたかったことがあるんだ。でも、わたしとギンガお互いのためにも今は言えないんだ。もし先の未来、プラネテューヌの守護女神はわたしからネプギアになった後ぐらいにちゃんと言うから、その時まで待っててくれる……?」
「当然です。いつまでも待ちますとも。それに……」
「それに?」
「ネプテューヌ様が私に言いたいことは、私がネプテューヌ様に思っていることと同じですから」
「えー、本当に? だって、それはギンガもわたしのこと好きってことだよ?」
「はい」
「女神だから好き、とか、家族だから好き、じゃなくて、恋人にしたい、とか、イチャイチャしたい、ってことだよ?」
「はい」
「へ〜、そうなん…………え?」
自らが喋りすぎたことに気づいたこと、そしてギンガの想いを知ってしまったことで、ネプテューヌは顔を真っ赤にして口元をぱくぱくさせる。
「……ぜ、全部言っちゃったけど、ま、まぁそういうことで、うん」
ネプテューヌはなんとか平常心を取り戻す。
「だから……この話の続きは、いつかの未来で、ね?」
「わかりました」
「だからさ、ギンガ。これからもずっとよろしくね」
「こちらこそ」
すれ違っていた心が遂に交わる………のは今ではなくいつかの未来だが、今は交わらずともお互いの想いの暖かさを感じ合う二人なのだった。
(はぁ〜〜〜〜ネプテューヌ様可愛すぎる〜〜〜〜! ……ふぅ、なんとか平常心のまま表情に出さずに耐えることができました。グッジョブです、私)
*
ここに守護女神たちと女神補佐官:ギンガの"物語"には一旦幕が降りることになる。
この先のゲイムギョウ界の未来に平和が続いていくか、そうでないかはまだわからない。
それでも、彼らはどんな困難も乗り越えて、その思いを確かに未来へと紡いでいくだろう。
紫の星を紡ぐ銀糸N -完-
これにて完結です。ここまで付き合ってくださった読者の皆様、本当にお疲れ様でした。そしてありがとうございました。