オーバーヒートでダウンしたイストワールをネプテューヌ様の部屋に運び、丁度良く教会にいたあいちゃんとこんぱさんに状況を軽く説明し、今後のことについて話し合います。
と、その前に。
「ねぷてゅーぬさま」
「なに?」
「ちいさくなったからといっても、ようじあつかいするほどではありません。おひざのうえからおろしてほしいのですが……」
「えーやだ」
やだ、ときましたか……そう言われてしまってはどうしようもないので諦めましょう。ネプテューヌ様のお膝の上に座る機会なんてありませんからこの際存分に堪能しましょうかね。
(小さい師匠……すごく可愛い……っ! 私も膝に乗せたい!)
「ねえ、ネプ子」
「ダメだよあいちゃん」
「まだ何も言ってないんだけど」
「ギンガを抱っこしたいんでしょ? ダメに決まってるじゃんギンガはわたしのなんだから」
「ちょっとぐらいいいじゃない」
「ダメー」
「くっ……!」
正直ネプテューヌ様が断ってくれて安心しています。愛弟子の膝の上に乗るのは流石に恥ずかしいので…………っと、そんなことより話を続けましょう。
「ええと、おーばーひーとしたいすとわーるをなおすにはしゅうせいぱっちなるものがひつようなのですが、そのしゅうせいぱっちはぷらねてゅーぬのあるだんじょんにかくしてあるのです。いまからわたしはそこへしゅうせいぱっちをとりにいきます。そこであいちゃんにたのみがあります」
「何ですか?」
「いすとわーるがなおるまでのあいだ、あいちゃんを『きょうそだいり』ににんめいします。あいちゃんはきょうそだいりとしてあるていどいすとわーるのしごとをしてもらいたいのです。ほんとうはそんなことしてもらうのはもうしわけないのですが、いまは『てんかんき』なのもあってきょうかいのしごとをとどこおらせるわけにはいかないんですよね」
『転換期』。民衆が新しい女神様を望むことで現在の女神様を信仰しなくなり、それにより女神様の世代交代が起こる期間またはその兆候。些細なことでもシェアが落ちる面倒な時期です。
「教祖代理……わかりました! 任せてください!」
「ありがとうございます、あいちゃん。こんぱさんはいすとわーるについていてください」
「はいです!」
「ねーギンガー、わたしは?」
「ねぷてゅーぬさまはぜろじげんからかえってきたばかりでおつかれでしょうからやすんでいただければ……」
「何言ってんのさ、流石にわたしでもみんなが頑張ってるのにだらだらするわけにはいかないよ! わたしもギンガとそのダンジョンに行く! 今のギンガは見た感じ弱そうだから心配だし」
よ、弱そう……っ⁉︎ 確かにステータスが半分になってはいますけど、それでもあいちゃんぐらい強いですよ。ですが、ネプテューヌ様が一緒に来ていただけるのはとても嬉しいですね。
「ありがとうございますねぷてゅーぬさま。ではさっそくむかいましょう」
「師匠、気をつけて」
「だいじょうぶです。ねぷてゅーぬさまもいますし、そこまできけんなばしょにいくわけじゃないですから」
ギャラクティカイリュージョンでは武器を分身させることはできず、武装は零次元に全部置いてきてしまったので、今の私は何も装備していません。教会の倉庫に行き、今の私でも扱えそうなものを適当に漁り、装備を整えます。
目的地は『初代女神の聖域』。その昔、私が作ったダンジョンです。
*
「で、ここがあなたの作ったダンジョンなのはわかったけど、どうしてこんなにモンスターがいるのよ?」
「ながいあいだかんりしていなかったあいだにもんすたーがおおくすみついてしまったわけです。しかし、そのもんすたーたちがしんにゅうしゃにおそいかかってくれてぎゃくにつごうがいいので、このさいもんすたーたちをすませてあげてもいいかな、と」
「なるほどねぇ」
「あの、わたしからもききたいことがあるのですが……」
「何かしら?」
「……なぜわたしはぱーぷるはーとさまにずっとだっこされているのでしょうか?」
「私がそうしたいからよ」
「はずかしいのでおろしてください」
「ダメよ」
「そんな……」
ダンジョンに入って即変身したパープルハート様に抱き抱えられ、今に至ります。私ごときの身体を女神様に抱えさせるなんて不敬の極み、あと単純にめちゃくちゃ恥ずかしいので降りたいです。しかし、私を抱えながらでも華麗な動きでモンスターを蹴散らしていくパープルハート様を特等席で見ることができるのは良いですね。
(小さなギンガ……とても可愛いから、ずっと抱っこしていたいわね)
「……ん?」
「どうしたの、ギンガ?」
「このさきにれいのものがあるのですが、どうやらそこそこつよいもんすたーがいるようですね。けはいをかんじます」
「けど私の敵じゃない、でしょ?」
「そうですね。では、そろそろおろしてください」
「どうしても降りたいの? 私に抱っこされるのは嫌?」
「いやではなく、わたしもぱーぷるはーとさまといっしょにたたかいたいのです」
「ズルいこと言うわ……」
「……?」
「何でもないわ。そうね、一緒に戦いましょう。けど、あなたは本調子じゃないから絶対に無茶しちゃダメよ」
「わかっています」
「あなたは私が絶対に守るわ」
「なら、わたしもあなたをまもりますよ」
「……そういうとこ、本当にズルいわね」
「……?」
「何でもないわ。さ、行くわよ」
「はい!」
そのまま奥に進んで行った私たちの目の前に立ち塞がるのは『エンシェントドラゴン』、中々強いモンスターではありますがパープルハート様の敵ではありません。
「ギンガ、これを」
私が武器を取ろうとした時、パープルハート様に普段ネプテューヌ様が使っている太刀を渡されました。
「いいのですか? わたしがこれをつかって」
「倉庫にしまってあったような玩具よりその方が良いでしょう?」
「ありがとうございます」
\ ーーーーーーッ! /
……うるせえな。今俺がパープルハート様と話してんだろうが邪魔すんじゃねえ殺すぞ……っといけません、平常心平常心……!
(……なんかギンガが怒ってるけど、今のギンガが怒っても可愛いだけで迫力ないわね。じゃなくて……)
「……来るわよ!」
「わかっています!」
咆哮の直後に繰り出されたエンシェントドラゴンのブレス攻撃を散開して回避し、パープルハート様は右から、私は左からそれぞれ攻撃を仕掛けます。私が敵の周りをうろちょろすることで気を散らさせ、パープルハート様の技が最大限に威力を発揮するための露払いをします。
「……『クロスコンビネーション』!」
そして正面から叩きつけられた女神様の必殺技により一撃で消滅するエンシェントドラゴン。転換期のシェアの低下によるパープルハート様のほんの少しの弱体化や、サポート役の私がこんなちんちくりんになってしまっていても、苦戦するような相手ではありませんでしたね。
「おみごとです」
「褒められるほどの相手でもないわ。もう大したモンスターはいなさそうだし、変身を解こうかしらね」
そう言って変身を解除するパープルハート様。いつもだと戦闘後に即変身を解除してしまうのは少し名残惜しいと思っているのですが、今は逆に好都合ですね。戦闘が終わったから抱っこ再開とか言われそうだったので。
門番的な存在感を放っていたエンシェントドラゴンをブチ倒したネプテューヌ様と私は、そのまま奥へと進んで行き、修正パッチがある場所まで辿り着きました。そこには修正パッチだけでなく私が代々残し続けてきた『あるもの』があります。
「これは……いかにもな石碑!」
「れきだいのぷらねてゅーぬのめがみさまのながきざまれているものです」
「このダンジョン、『初代女神の聖域』はこれを祀るためにギンガが作ったってことね」
「はい」
「へぇ〜……ん? この『ウラヌス』って名前の隣なんか不自然に空いてない?」
流石に鋭いですねネプテューヌ様。ウラヌス様の前の代の女神様こそこの次元における『天王星うずめ』様なのです。あの方が昔、この次元からあの方の記録を全て消した際に、この石碑からも名前が消えてしまったわけです。さて、どうやってそれを誤魔化しましょうか……
「ギンガがミスっちゃったのかな?」
「……! あ、はい、みすりました。そのせいで、すぺーすがあいたままにせざるをえなかったのです」
「意外とおっちょこちょいなところあるよねギンガって」
「そ、そうですね……あはは」
よし、なんとか誤魔化せました……よね?
「それよりも、いまはいすとわーるのしゅうせいぱっちです。たしかせきひのまえをほればでてくるはず……」
「タイムカプセルみたいだね」
「たしかとうじのめがみさまはそんなのりでうめてたようなきがします……お、しゅうせいぱっちありました」
「よーし! 早速持って帰ろう!」
「はい!」
「……の前に、ギンガ」
「なんでしょう?」
「挨拶して行ったら? ここの女神たちに。少し後ろで待ってるからさ」
「ひつようありませんよ」
「どうして?」
「あまりわたしがあいにくることをよしとしていませんからね、ここのみなさまは。いぜんはそのうちのひとりにおいかえされましたし」
「追い返された……?」
「それに、ねぷぎあさまがむこうにのこされているというひじょうじにそんなことをしていたら、ぎゃくにみなさまにおこられてしまいます」
「そっか……じゃあ、色々と片付いたらまた来ようね。ネプギアも一緒に」
「……はい!」
そう言って私たちは聖域を後にします。
(ーーーーまたね、ギンガ)
……声? いや、気のせいでしょう。
*
「ただいまー!」 「ただいまもどりました」
「おかえりなさいです!」
「さて、さっそくぱっちをつかいましょうかね」
「どうやって使うのこれ?」
「それは……よっと」
教会に戻ったら早速作業開始です。イストワールの口を開け、その中に思い切り修正パッチを突っ込みます。
「ねぷぅ⁉︎ な、何やってんのギンガ!?」
「なにといわれても……こうやってつかうものなんですよ」
「そうなんだ……うわぁ、いーすんの口がとんでもないことになってる……まるでガリガリくんみたいだね」
「これで……きどうしてくれるはずですが……さぁどうなる?」
パッチを接続した時、イストワールの目が光りだし……
『自動プログラム起動 アップデートパッチを確認 インストールを開始します』
……という自動音声が流れ出しました。成功です。
「これでだいじょうぶですね、あとはじかんさえかければふっきゅうできそうです」
「ふぅ……これで一安心だね!」
「良かったです!」
「わたしはいすとわーるがなおるまであいちゃんのしごとをてつだってきます」
ネプテューヌ様の部屋を後にし、イストワールの執務室にいるあいちゃんの元へ向かいます。
「……少ししか任されてないのにこれだけでもしんどい。イストワール様って見た目以上にすごいのね……」
あいちゃんは独り言で嘆きながらもちゃんと頑張っていてくれました。流石我が愛弟子。
「だいじょうぶですか、あいちゃん」
「ひゃぁっ! し、師匠⁉︎ イストワール様の件はどうでしたか⁉︎」
「しゅうせいぱっちをぶちこんだのでじかんがたてばふっかつするとおもいます。それまでのあいだあいちゃんだけにいすとわーるのしごとをまかせるわけにもいかないので、おてつだいにきました」
「ありがとうございます!」
「そんなにみがまえなくてもいいですよ。わたしとあいちゃんのなかじゃないですか」
「……」
「あいちゃん……?」
(可愛い……膝に乗せたい。いや、もう乗せよう。今はネプ子はいないし、それに今の師匠になら抵抗されても勝てそうだし)
……ん? あいちゃんの目が少し怖いですね……それに何かプレッシャーを感じます。
「師匠ォ……少し……こっちに来てもらえますかァ……?」
「え、あ、はい」
「ふふふ……!」
「……っ⁉︎」
私があいちゃんに近づいた瞬間、あいちゃんに取り押さえられそうになりました……っ⁉︎
「あ、あいちゃん⁉︎ 何を⁉︎」
「抵抗しないでください師匠! ていうか師匠が悪いんですからね! いきなりこんなに可愛くなるなんて……!」
「えっ、ちょっ!」
「大丈夫です! このままおとなしくしていてくれれば! ちょっと抱っこしたり膝の上に乗せたりするぐらいですから!」
「やめてくださいあいちゃん! さすがにそれははずかしいです!」
「私だと……ダメなんですか? ネプ子ならいいのに……私は……」
「そ、それは……」
「隙ありィ!」
「なっ!」
捕まりました……! 完全に私の負けですねこれは……まさかこんな手を使ってくるとは……っ! おのれあいちゃ……いや、アイエフ! 師である私を超えて行くか……! 仕方ないですね。ここは愛弟子の見事な奇策に免じて、望み通りになりましょう。
さて、こちらの私は上手くいきましたが、向こうの私は上手くやれているでしょうか?