異世界パイルバンカー   作:Hallelujah!!

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この度は拙作、異世界パイルバンカー、略して異世パイをご覧頂きまして誠にありがとうございます。
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10話 これからの事と過去の事

「ええと、そう。ヴァンのヤバい性癖の話は一旦置いておいて、今後の話をしましょうか」

 

「今後、ですか?」

 

「あぁ、それについては俺からもあったんだ。恐らく同じ内容になるかもしれないが」

 

「ヴァンさんも? 同じ内容になるかも? ちょっとわからないですね。詳しく聞いても?」

 

「簡単に言うとね、私たちと正式にパーティを組まない? っていうお誘いね。昨日の依頼中の動きも問題無さそうだったし、何より貴方たちとなら楽しくやっていけそうだなって思ったのよ」

 

「昨日2人で話し合ったんですわ。一日足らずで随分仲良くなれたと思っていますし、これでサヨナラってのも寂しいじゃありませんか」

 

「なんだ、やはり同じ提案だったか」

 

「是非もありませんね! こちらからもお願いしたいです!」

 

 リンカと2人パーティで問題は特に無かった。無かったのだが、銀等級に上がるという当座の目的を考えると少し時間が掛かりすぎてしまう可能性があった。マリーとロゼの2人と正式にパーティを組めれば受けられる依頼の幅も広がるだろうし、パーティ内に他の女性がいるというのがリンカの精神的にも良いだろう。

 

「よし! 決まりね! 断られたらどうしようと思ったわよ」

 

「オーッホッホッホ! 当然の結果ですわね!」

 

「よく言うわね。昨日『断られたらガチ泣きすれば許してもらえるかしら』なんて言ってた癖に」

 

「そんなこと言ってませんわ! 本当ですわよ!」

 

 ポカポカとマリーを叩くロゼだが、そこでムキになると認めてるようなものだと思うのだが。リンカはというと、それを見てニヤニヤしていた。

 

「リンカ、正式にパーティを組むことになるならあの事を伝えておいた方がいいだろう」

 

「あ、そうですね。私の事情については伝えなきゃですね」

 

「何か込み入った事情でもありまして?」

 

「ええと、特に隠してたりはしてないんですが、実はですね……」

 

 

 

 

 それから二人にリンカが異世界から突然やって来たこと。俺の師匠が同郷で、その師匠がどうやら異世界に帰れたらしいこと。そのヒントを探すためにギルドの資料室を使いたいが、それにはまず銀等級に上がらなければならない事などを掻い摘んで話した。

 

「なるほど、そういう事情があったのね」

 

「リンカ・タカナシというお名前の響きが聞きなれないものだったのもそういう事でしたのね。リンカさんの使う言葉にもたまにわからない言葉が混ざっていましたし」

 

「はい、そういうわけで私は一応故郷に帰ることを目標にしているんですが、それでもパーティを組んでもらえますか?」

 

「もっちろん! むしろそんな事を聞かされたら余計に手伝ってあげなきゃって思ったわよ!」

 

「まったくですわ! そのためにはまず銀等級ですわね! やる気が漲ってきましたわよ!」

 

「じゃあパーティメンバーとして一つ言わせてくれ」

 

「なんですの?」

 

「なにかしら?」

 

「今後ギャンブルと無駄遣いはやめるように」

 

「善処しますわ」

 

「善処するわね」

 

「これ絶対ダメなやつですよ。私知ってるんですから。主にヴァンさんのパイルバンカー関係で。というか人にそんな偉そうなこと言うならヴァンさんのパイルバンカー狂いも何とかしてくださいよ」

 

「善処しよう」

 

「くそォ!!」

 

 

 

 その後、パーティ結成祝いということで軽く食事をしながら会話を楽しんでいたら、ふと思い出したようにマリーが俺に尋ねてきた。

 

「そういえばヴァンはなんで冒険者になったの? 差し支えなければ教えてもらえないかしら?」

 

「そんなに面白い話じゃないぞ」

 

「いいわよ、仲間のことを知るのもパーティの連携を高めるための第一歩よ」

 

 どうみても好奇心からの質問にしか思えなかったが、まぁ特段隠すともないか。

 

「父が村を魔獣から守るために戦って死に、その後母が流行り病で亡くなった。裕福な村ではなかったため、村で生活できなくなった。まぁ、よくある話だ。ただ幸運だったのが、たまたま通りががった冒険者の師匠が俺を引き取ってくれてな。その後一人でも生きていけるようにと、旅をしながら俺の事を冒険者として鍛えてくれたんだ。無茶苦茶な人だったけど、今となっては感謝してるよ。パイルバンカーもくれたしな」

 

 師匠を思い出しながら杯を傾ける。ただの安酒が多くの仲間と飲むことで味が何倍にも良くなることがある。師匠もかつてそう言っていたがどうやら本当だったようだ。

 

「く゛ろ゛う゛し゛て゛ま゛し゛た゛の゛ね゛ぇぇぇ!!」

 

 師匠の事を思い出して感傷に浸っていると、突如としてロゼが泣き出した。

 

「うわ、典型的な泣き上戸じゃないですか。まだそんなに飲んでないですよね」

 

「あー、ロゼはちょっとお酒飲んだらすぐこうなっちゃうのよね。ま、酔い潰れることは無いから放っておいて問題ないわよ」

 

「ならリンカよりマシだな」

 

「私は酔い潰れたりなんかしませんが???」

 

「……で、マリーは何故冒険者に?」

 

「あぁん? 今露骨に話題そらしましたね? でもマリーさんのお話も気になるので今回は不問に処しておきますね」

 

「リンカもちょっと酔っ払いつつあるわよねコレ? えぇと、私の話もほぼヴァンと似たようなものよ。ちょっと違うのが、両親を亡くして宛もなくさまよっていた私をロゼが匿ってくれてね。その後ちょっとした事情があって村を出て冒険者になったの」

 

「ちょっとした事情、ですか。それは聞いても大丈夫なやつです?」

 

「うーん、ロゼに深く関わる問題なんだけど、ロゼ?」

 

「マリーの口から伝えてあげてくださいまし。わたくし今ちょっと涙がとまらなくてそれどころじゃございませんの」

 

「泣き上戸もここまでくると大変だな……」

 

「そ、じゃあ話しちゃうわね。ロゼがクリント村の村長の娘っていうのは最初に会った時に話してたわよね? ロゼには兄がいたんだけど、その兄が村長を継ぐことになっていたのよ。それでロゼは地元の有力者の息子と結婚させられそうになっていたの」

 

「えぇ、たかが村の規模で政略結婚紛いのことをさせられそうになってたんですか……?」

 

「そこまで珍しい話ではないんだけどね? ただ本人の意思を完全に無視して、ってなると話は変わってくるわよね」

 

 そう、決して珍しい話では無い。親が結婚相手を決めるというのは村社会ではよくある事だ。

 

「うわぁ、ロゼさんの意思ガン無視ですか。それはなんていうかこう、クッソムカつきますね」

 

 リンカの口が悪くなってきた。これは酒が大分回ってきたサインだ。折を見て引き上げることも視野に入れるか。

 

「それだけなら村を飛び出す事も無かったんだけどね。その有力者の息子ってのが度し難いバカで、まだ結婚も正式に決まってないにも関わらず、ロゼを襲おうとしたのよ」

 

「はぁ!? クズじゃないですか!? 潰しに行きましょう! 今すぐ!」

 

「落ち着いてリンカ。ロゼはね、襲いに来たバカ息子を返り討ちにして、泣きながら一方的にボコボコにしたのよ。そしてその足で私と一緒に村を出たの。前々から村を出る算段はつけてたからね」

 

「それは、なんというか凄いな。実にロゼらしいエピソードだ」

 

「でしょう? で、ルヴィステラまで辿り着いた私たちは無事に冒険者を始めたってわけ。ね、ロゼ。……ロゼ?」

 

「……すぴー、すぴー」

 

 ちょっと目を離していた隙にすっかり熟睡してしまったようだ。しかもリンカまで寝ていた。いやリンカはつい先程まで起きていただろう。いつ寝たんだ。

 

「あちゃ、寝ちゃったわね。ロゼがここまで酔うなんて珍しいんだけど」

 

「リンカはいつも通りだ」

 

「うん、それはちょっと何とかした方がいいんじゃないかしら。この若さで酒に溺れないように見ててあげないと」

 

「むぅ、確かに」

 

「じゃ、とりあえず今日は解散しましょうか。明日も休養日にして、明後日の朝一でここに集合にしましょうか。その時に依頼内容見てどうするか決めましょ」

 

「了解した。ロゼを背負って帰れるのか?」

 

「ちょっと大変だけど、まぁなんとかなるわ。ヴァンはリンカをしっかり送り届けてあげてね?」

 

「あぁ、俺は慣れてるから問題ない。それではまた明後日にな」

 

「ええ、おやすみヴァン、リンカ」

 

 その後会計を済ませリンカを背負って宿まで連れていき、部屋の前でリンカを起こしたら、『またやってしまった……!!』と後悔していたが、それを後目に自分の部屋にさっさと戻ったのだった。


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