では、物語が完結したら主人公はどうなるのか?
「私、イッセーさんのこと……もう好きじゃないんです」
俺の目の前でそう言ったのは、アーシア・アルジェント
ライトノベル『ハイスクールD×D』のヒロインの一人だ。
病気で死んだ俺は、気が付くと『ハイスクールD×D』の世界に主人公 兵藤一誠として転生していた。
この作品については原作を途中までは読んでおり、ヒロインが多いこととエッチなイベントが多いことが印象的だった。
原作の主人公に対してはエロや都合主義が少し過ぎるような気もしていたが、ぶっちゃけて言うとどうでもよかった。
美女・美少女ぞろいのヒロインとエロシーンが目的で見ていたので、主人公はもちろん、その他男性キャラやバトルシーンについては完全に無関心だった。
転生してから最初は前世と違う人間として過ごしていくことに戸惑ったが、少しづつ慣れていった。
当然俺は原作主人公とは別人で、そこまでドスケベな言動はしなかった。
やがて高校2年生になり、原作が開始した。
先に述べたように俺は原作主人公ほどエロくなかったので、多少流れは異なったが、大まかな流れは同じだった。
同様に強敵と戦い、ハーレムを形成し、ヒロインとエロいスキンシップをする。
やはり俺も男子であるため、美女・美少女とのエロイベントにあふれた生活は楽しかった。
あわよくばソーナ会長などもヒロインにしたいと思っていたが、さすがに叶わなかった。
またヒロイン以外の男性キャラクターたちも、俺を認めて慕ってくれる人たちが大勢いるのは嬉しかった。
ところがある日を境に、違和感を感じるようになった。
違和感の正体は、ヒロインたちのスキンシップが極端に少なくなってきたことだ。
単純に俺と一緒にいる時間が減ったのではない。
家にいる時も一緒に寝たり風呂に入ることが少なくなってきたし、キスしてくることも少なくなった。
よく抱き着いたり、食事中にあーんしてきたのにそれもない。
以前病気になったときはナース服を着てつきっきりで看病してくれたのに、今では時々様子を見るだけ。
エッチなコスプレなどを披露してくれることも、ほとんどなくなった。
ヒロインだけじゃない、男性キャラクター達もそうだ。
心なしか俺に対して厳しい態度や、否定的な考えをすることも多くなってきた。
気のせいじゃないと思った、俺は思い切ってみんなに訊いてみることにした。
そして、冒頭に至る。
他のヒロインたちにも訊いてみたが、似たような答えが返って来た。
「今になって急に熱が冷めた」
「当時はとてもドキドキしたけど、今になってみるとそこまでかっこいいわけじゃない」
「今になってみると当時の言動は問題だった」
「最近になって欠点がよく見えるようになって、そこまで魅力を感じなくなった」
そんな返答ばかりだった。
……何だこれ?
どうしてこんなことになったんだ?
混乱する中、俺はある事に気が付いた。
みんなの態度が変わったのは、俺たちが『
つまり原作が、物語が終わって、俺が主人公じゃなくなったから、主人公補正がなくなったから、みんな俺への好意が冷めたのか?
あんまりだ。
俺は主人公補正に頼ったつもりなんてなかった。
意図的に使って、みんなを洗脳した覚えもない。
転生した際に『主人公補正をつけてくれ』なんて頼んだ記憶もない。
なのにいつの間にかついていて、勝手に発動して、消えたのか?
あんなに好いてくれて、慕ってくれて、認めてくれて、肯定していてくれたのに、それも全部催眠術みたいなものによる偽物だったのか?
無くなった途端に手のひらを返したとまでは言わないが、ここまで態度が一変するものなのか?
大したこともないようなことで惚れておいて、途端に興が冷めて振られたのか……
今までさんざん持ち上げておいて、こうもあっさり投げ捨てられるのか……
全部全部、こんなに簡単に無くなるものだったのか……
耐えられなかった。
幸せの絶頂から一気に押し寄せた喪失感に、俺はこの世界に対する関心を完全に失った。
主人公補正ってさ、全部主人公が悪いの?