僕は世界を救えない   作:四志・零御・フォーファウンド

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2話 亡霊

「ほわぁーーー」

 

 大きな欠伸をしてしまうぐらい、今日もこの国は平和だ。城の夜間警備ほど暇な仕事はない。一時間ごとに休憩ができるし、正直警備の間に寝ててもバレることもない。

 

「これだけで給料が出るなんて、ホント楽な仕事だぜ」

 

 隣に座ってサボっているのはシーダ。ほぼ同時期に城の警備を任された。

 

「死ぬこともないし」

「戦争も起きないな」

 

 できれば、このまま一生この仕事をやっていきたい。

 

「さて、そろそろ時間だな。次のペアを呼んで来ようぜ」

「そうだな」

 

 二人揃って立ち上がると、城壁に沿って歩き始める。

 

「そういえば知ってるか?」

「何が?」

「王の亡霊の噂」

「あー、シェイドが見たって騒いでたヤツか」

 

 王の亡霊とは、先王であるライアスが死んでから数週間後、彼の幽霊を見たという噂が出始めた。

 

 ライアス王が死んでから三年経った今でも、その噂は留まることを知らない。むしろ広がりを見せている。

 

 王室としては、噂をどうにか城内に収めていたかったのだが、いつの間にか城下町にまで届いている。そうなればすでに国内全域に広まっていることだろう。

 

 二日前にも、シェイドという警備隊員が目撃したと騒いでおり、上官にバカバカしいと言われて、どこかの部隊に飛ばされることが決定したとかしていないとか。

 

 城内で働いている者にとってはタブーな話題となっている。

 

「あんなのただの噂だろ。俺は信じない」

「ほぅ。信じないか」

 

 ん……?

 

「あぁ、信じ――ッ!!!女王陛下!」

 

 隣でちゃっかり揃って歩いていたのは、この国を治める長――つまるところ女王のラビリンス・シェーゼだ。

 

「どうしてここに!いや、なんで!……いや、まずはご無礼をお許しください!」

「お許しください!」

 

 二人して膝を付ける。

 

「許す。だから、私のことを秘密で頼むぞ」

「「承知しました」」

「それで、王の亡霊はどこに出るんだ?」

「陛下、それはあくまで噂です。まさか陛下の耳にまで届いてしまうとは、我らの不出来故のこと。申し訳ございません」

「構わない。私は占いとかが噂が好きだからね。死んだ父を拝見できるなんて光栄だよ」

 

 陛下はシーダに向かって微笑む。これぞ女神の微笑みってやつだ。

 

 ちっ、シーダめ。こんな時だけいい顔しやがる。

 

「占いが好きなのですね!意外です!私も占いが――」

「占いの話は後ほど。いまは父の亡霊を探すのに興味がある」

「そうですか。しかし、それは我らの単なる戯言。噂でございます。真の話とは到底思えません」

「構わない。父の幽霊とやらが出る場所に案内しろ」

「そう、ですか。ではこちらへ」

 

 シーダを先頭に三人で先王の目撃情報が多発する場所に向かう。そこは、地下牢獄へと続く階段がある塔の近くだった。恐らく、地下牢獄という不穏な場所のせいで先王の亡霊などという噂を引き立てているのだろう。

 

「この付近に王様の幽霊が出るとの噂が立っているのです」

「ほぅ」

 

 女王は辺りを見渡すが、特に何もない。

 

「やはり、噂は噂でございますよ。幽霊なんて存在するはずがありません」

「……そうか」

 

 女王は残念そうに肩をすくめた。そんなに幽霊が見たいのかと思ったが、亡くなった父の幽霊だというのだ。先王は突然亡くなった為に、親子で最後の会話すら交わさなかったらしい。彼女はいま女王という立場。人の上に立つ者として、聞きたいこともあったのだろう。

 

「その、幽霊と言っても毎日現れるわけでもないと思います。後日、また来てはいかがですか?」

「それもそうだが、まだ来たばかりだ。もう少しここで待つ」

「わかりました。私たちもお供いたします」

 

 女王の意向だ。退くわけにもいかない。

 

「なぁ、シーダ。本当に幽霊が出てくるのか?」

 

 彼にそっと耳打ちする。

 

「さあな。俺はこの目で見るまでは信じて――」

 

 そこで言葉が止まる。

 

「どうした?」

 

 シーダの顔がすぅと青ざめた。

 

「あれは――!!!」

 

 指差した方向が定まらない。指先がぶるぶると震え、背筋を撫でられたように全身に寒気が襲った。

 

「ひっ!――――」

「おい、シーダ!」

 

 シーダは短い悲鳴と共に正面から地面に倒れてしまった。どうやら気絶してしまったらしい。

 

 一体何が起きているというのか。シーダが指をさしていた方向に視線を合わせる。そこには、今にも消えそうな半透明な人間がうつろな表情で立っていたのだ。

 

「あれは!」

 

 その顔には見覚えがあった。ラビリンス女王の父であり、前国王。ライアス・シェーゼだ。

 

「へっ、陛下、逃げましょう!さぁ、こちらへ!」

 

 目の前で起きていることが現実ではないとしても、優先すべきは王の保護だ。

 

「ならぬ!私は父と対話しなければならない!」

 

 女王は真剣な眼差しで逃走を退けた。

 

「安心しろ。悪霊だとしても、彼は私の父。悪さはしないだろう。おまえはそこの気絶しているものを運んで治療してもらえ」

「……」

 

 いくら陛下の命令だとしても、王を守る兵士としての役割がある。どうしたらいいものかと苦い顔をする。王は苦悩を感じ取ったのか、再び声をかける。

 

「構わない。王の命令だ。行きなさい」

「……わかりました。ですが、彼を医者に診せたらすぐに戻ってきます」

 

 王を背に向けて走り出す。

 

 遂に二人きりになった親子は互いを見つめる。

 

「おとう……、さま?」

『おお、我が娘ラビリンスよ、会いたかったぞ』

 

 そう言葉を返すライアスは、煙のように揺ら揺らとして、今にも存在が消えてしまうようだ。

 

「本当にお父様なのですか!?」

『ああ、勿論だとも』

 

 ライアスの亡霊は生前と同じようにニコリと笑う。

 

「お父様、私は貴方の意志を継ぎ、王になりました!それから――」

『まあ落ち着け。私は娘の活躍をいつでも見守っているから、言わなくてもわかるとも』

「っ、ありがとうございます!……ところで、お父様はどうやってお姿を現しているのですか?」

『そうだった。本題を話そうか』

 

 ライアスは城に向かって歩いていく。ラビリンスも後に続く。

 

「本題ですか?」

『ああ、私が姿を現した理由でもある。――私がどのようにして死んだのか、知っているな?』

「……はい」

 

 ライアスは何者かに毒を盛られて殺された。この国に住むものなら、知らない者はいない話だ。

 

『未だに、犯人は見つかっていないのだろう?』

「……はい、その通りにです」

 

 無念の感情を抱いて強く頷く。

 

 実の父を殺した犯人が未だに判らないのは、年月を重ねようとも、怒りと悔しさが体の奥底から込み上げてくる。

 

『ならば、我の命を奪った犯人を伝えよう』

「犯人を知っているのですか!」

「勿論だ。犯人をこの目で見たのだからな」

 

 その言葉に、合間を入れず詰め寄る。

 

「犯人を教えてください!」

『それは、何故だ?』

 

 その問いに、三年間の思いを載せて答えを口にする。

 

「――復讐の為です」

 

 ライアスは満足そうに微笑むとラビリンスの耳元で犯人の名を告げて、昇り掛けた太陽の光と共に空へ溶け合った。

 

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