見て! 束ちゃんが踊っているよ 作:かわいいね
さすがに酷いから後で修正します。
「な、な……っ」
観客席のシールドを突き破るようにして現れた純白のISに、ピットからアリーナの様子を見ていたセシリアの表情が驚愕の色に染まる。
「なんですか、あれは!?」
「……宮田の専用機だ」
その呟きに千冬は答えた。モニターを見つめる目は険しく、表情も優れないまま。
実際見ていてあまり気分のよいものではない。無関係を装うにはあまりにも知りすぎている千冬にとって、あれはそういう類いのものだ。
「『玉兎』。あいつ……篠ノ之束が手がけ、構想の段階で凍結させていた機体──」
先週近海に投下され、極秘裏に学園へと運び込まれた。それも、IS委員会を脅しに束本人が直に訪れるという、最悪なオマケ付きで……。
自分のお気に入りに下手な真似をしたら、もれなく全てのISコアを機能停止させる。そう、笑いながら束は言ったらしい。
雪夫は自分の物だと。どの国にも所属しない、縛られない存在なのだと、そう世界に認めさせたのだ。
『束、どういうつもりだ?』
『んふふ。……私の最高傑作をなにとぞよろしくね、びしっ!』
念のために連絡を入れてみれば、そんな言葉ではぐらかされた。
(最高傑作とは、どちらを指して言ったのか……)
千冬の脳裏に浮かぶのは食えない少年の後ろ姿。白騎士事件という度を過ぎた茶番を束と共に企て、今もなお連絡を取り続ける世にも珍しい
再び世界レベルの茶番に付き合わされていると哀れに思うべきか、過去の共犯者としての側面から目を逸らさず直視するべきか。
……いや、
「篠ノ之束博士の……」
束と聞いてごくりと喉を鳴らすセシリア。この少女がどういう認識であれを見ているのかは知らないが、今回の不明機襲撃を含め、あの機体は凶兆に違いなかった。
◇
「大変な事になってきたな……」
鈴と一夏の試合中、アリーナの外から見知らぬISが飛び込んできた。それも遮断シールドを破って、次々と。参っちゃうよね。
観客席にいた生徒はみんなパニックでもう大変。我先に逃げようとするけど、どういうわけか扉がロックされてて開かないときてる。
まあ、僕は元から人酔いしてて急には動けそうにないんだけど。まさか一夏とオルコットさんの試合以上に席がすし詰め状態になるだなんて……。学校行事の盛り上がり方をちょっと甘く見てた。
(……なんて、反省してる場合じゃないか)
あの数を相手に鈴たちが長く時間を稼げるとは思えない。現に今、二人の隙をついて一機こっちに向かってきて……。うん?
「…………」
頭の大きなISが、僕の目の前で静止する。
……大きな隙を晒していた。
「うわ……。俺に興味あるの?」
「…………」
返事はない。けれど、センサーがチカチカと明滅してる様子から僕を観察しているのはわかった。
こんな状況で人を観察するのって、今から悪い事しようとしてますって言ってるようなものだよね、そうだよね。……じゃあ有罪って事で。
「あ、そう。俺はないよ──っ!」
姉さんがくれた専用機を展開、装備する。……普通はこの表現でいいんだけど、僕の場合は乗るの方が正しいのかな。ま、いっか。
ガギン゛ッッッ──!!
周囲をゆっくりと旋回している盾のような非固定ユニットを加速させ、目の前のISにぶつける。これ正式名称はハードスケイルっていうんだけど、相手がこれを知っておく必要はないよね。
肝心の攻撃はなかなかいい当たりだったのか、頭のでかいISはその頭をへしゃげさせながら元いた方向へ吹っ飛んでいった。……あ、味方にぶつかった。
「雪夫! 雪夫なの?!」
「わ、鈴……」
ああそっか。今ので学園に登録していた玉兎の識別情報が鈴たちのISに確認されて、無接続状態の回線がオープン・チャネルに繋がったんだ。……びっくりした。
「よかった……。怪我はない、大丈夫?」
「平気。怪我したのは向こう」
「みたいね。……その機体はどうしたの?」
「専用機。姉さんが用意してくれた」
「……そう、束さんが……」
会話しながら三機のISを相手取る姿は素直にすごいと思うけど、あんまり無理しないでよ。本来は戦闘中に喋ってる余裕がない一夏の方が普通なんだからね。
「あの人が雪夫のためだけに用意したのなら、ヘタな代表候補生が乗るISよりは動けるはずよね。……いけそう?」
「不意打ちだけど、一機落とした」
「……そうね。雪夫、援護頼める? なんならあたしたち囮にして倒しちゃって!」
「任せて」
機体を少し傾けて、敵ISを正面に捉える。ついでに搭載されている武器の安全装置も全て解除しておこう。解禁解禁。
味方がいる状況でも使えるシンプルな武器は、左右のバインダーに搭載されているビーム砲のみ──。
「鈴、一夏。当たらないように」
「了解。一夏、全力でいくわよ!」
「お、おう。了解?」
直後、収束されたエネルギーが青白い筋を引いて閃き、敵ISの装甲に突き刺さる。……シールドバリアーがない?
僕が抱いた違和感を他所に、胸や腹の装甲を貫かれたISはそのまま沈黙し、地に落ちる。絶対防御が発動した気配もない。
……うん。機能停止したのに解除される様子もないのは、やっぱり変だ。
思えば、さっきの頭の大きなISもいくらハードスケイルのチャージングが強烈とはいえあっさり壊れすぎだし、ぶつかった敵も沈黙したまま動きそうにないのはどういう事なんだろう。
「雪夫、反撃に気をつけて!」
今の攻撃で脅威度がグンと上がったのか、鈴たちを一旦無視する残りの二機。
こちらに向けてきた両腕からビームが迸り、これを回避する事に全神経を集中させる。
(不思議と苦はないけど、難しい……)
ISは基本的に人体を延長した感覚で操作するものなんだけど、僕の専用機『玉兎』は違う。自分がどうしたいかをより明確にイメージする必要がある。
何故なら、玉兎には人のような手足がない。形も大きさも違えば、逆に人にないものがあったりもする。ハードスケイルも盾としての役割があるとはいえ馬鹿みたいに大きい。
その上で自分が空中をどう動いて装備をどう操作するか、頭の中で思い描かなければならないと。……なんでこうなっちゃったの?
「ぜあああああっ!」
「はあああっ!!」
ともあれ、敵が僕に集中しているのであればその他に意識が向かないわけで。
この隙に一夏が零落白夜を、鈴が青龍刀と衝撃砲を使いそれぞれが狙った敵に攻撃を仕掛ける。
「逃がさない」
敵が人間離れした反応速度で二人の攻撃をかわそうとしたところに突進、そのまま轢殺する事も視野に入れつつ行く手を遮る。
通常のISより一回り以上大きなサイズは伊達じゃない。加えて全身装甲という特性上、玉兎はその質量だけでも十分な武器となるのだ。
「逃がさないって」
それでもなお逃げようとする敵の内一機を、計五機のハードスケイルから展開した簡易アーム──隠し腕を使って拘束し、その上でバインダーのビーム砲を至近距離から浴びせる。
薄々わかっていた事だけど、貫通した装甲の奥はがらんどうで、操縦者の姿はない。襲撃してきたISはみんな無人機だった。
「お前、エグいな……」
「手加減いる?」
「馬鹿言ってないで、いくわよ一夏!」
「なんで俺ばっかり……」
ぼやく一夏だけど、目から闘志は消えていない。
そうして五月の襲撃事件は、一旦の終息を迎えるのだった。
後書き
答え合わせをすると、作者はザカート(ZOE)、無印ノイエ・ジール(ガンダム)が好き。
意外にもノイエ・ジールコメがあったのには感動。
デザインはザカート、素敵性能は無印ノイエ・ジールが個人的なジャスティス。
特にザカートが好き。だってあの個性的なオービタルフレーム勢の中で唯一あの見た目よ?
性癖に刺さるわぁ……。
玉兎の見た目はGUNDAMCONVERGEのノイエ・ジールをザカートに寄らせつつ、バインダーを折りたたんでザカートの包容力を足した感じ。
あくまで見た目の話なので、武器がまんまというわけではないし、作者の中のイメージという話なので読者諸君の中に好きなイメージがあればそれを当てはめてもらっても構わない。
休日なのに時間ない。つらい。活力を、感想をください……。