見て! 束ちゃんが踊っているよ   作:かわいいね

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野望のご褒美

 六月に入って最初の日曜日。

 貸切状態のアリーナで、僕はひとり黙々と玉兎の慣らし操縦をしていた。

 

「…………」

 

 実技の授業で先生が手本に見せてくれた基本的な飛行操縦。上昇と急降下、それから完全停止。

 それが終わったら仮想ターゲットを表示させて、射撃訓練も少しだけやっておく。

 シミュレーションだから本物の弾は出ないものの、あたかも本当にビームが迸っているかのようなエフェクトがあるから結構派手だ。

 

「……つぎ」

 

 本当ならここに誰かしら専用機を持ってる人なり呼んで、訓練に付き合ってもらうのがいいんだろうけど。

 一夏は弾の家に行くって話をこないだ聞いたし、鈴は用事があるって言ってたから今日はひとり。

 それなら量産機でもって思うんだけど、箒は相変わらず僕を避けてるみたいだしなぁ……。

 

「ふう……」

 

 最後までしぶとく残っていた標的の撃破判定が下り、姉さん監修のシミュレーションが終了した。

 その場で止まると、思っていたよりも自分が疲れていることに気付かされる。

 

(ちょっと動いただけなのに……)

 

 加減速や制動の負荷からくる肉体的な疲労よりも先に、頭が疲れてくるのが玉兎だ。

 初陣は短期決戦で終わったからよかったものの、今後もそうとは限らない。強敵が相手だと、長引くかもしれない。

 

(疲れて動けませんなんて言ってられないもんな)

 

 それにまだ、この機体のポテンシャルも最大限に引き出せてないことだし。こんなもんじゃないのだよ玉兎は。

 だからこうして慣らし操縦をしていって、少しでも継戦能力をつけておきたいところ。……なんだけど、

 

(ただ、今日はここらで終わりにしとかないと……)

 

 鈴との約束があるので、僕はピットに戻ることにした。

 頑張るのもいいけど、疲れたらやめること。無理はしないこと。

 その点については僕も賛成だ。無理して倒れちゃ元も子もないし。

 

(人には人のペースがあるんだ)

 

 ピットゲートを通過後、玉兎を展開解除する。

 

「おっとと……」

 

 自分を覆っていた膜が消えると、ISの補助がなくなって足元がすこしふらついた。

 特に玉兎は普通のIS──僕が乗った中だと量産機の打鉄よりも体が浮かんでる感が強いから、乗り降りした後はしばらくふわふわするんだよね。

 

「雪夫、ちょっと時間ちょうだい」

 

 ベンチに腰掛けると、鈴がピットに入ってきた。いつもいいタイミングでくるよなぁ……。

 で、なんだっけ。僕の時間?

 

「いいよ」

 

 汗を拭き取りながら答える。ちょっとだけなんて言わずに、いくらでも。

 

「じゃ、先にお昼ね。着替えたら行きましょ」

「もうそんな時間?」

「知らなかったの。とっくの昔にいい時間になってるわよ。まったく、あたしがいなきゃダメなんだから……」

「面目ない」

 

 いつものように鈴に手を引かれて、制服に着替えた僕は、足早にアリーナを後にした。

 

 

 

 

 

 一方その頃、友人の五反田弾とお昼を済ませた一夏は……。

 

「一夏お前、すぐに彼女作れ。すぐ!」

「はあ!?」

「はあじゃねぇ! すぐ作れ! 今年──いや、今月中に! お前ならできんだろ!」

 

 弾に迫られていた。……ではなく、彼女を作るように説得されていた。文言はかなり無茶苦茶だったが。

 弾の妹、五反田蘭が一夏に惚れており、一夏との関係を深めるために来年、IS学園を受験すると言い出したためである。兄として複雑な心境があったのだろう。

 

「別に、今はそういうのに興味ねぇよ」

「相変わらずお前は……枯れた老人かっつーの。そんなだから中学の頃は……」

「……? なんかあったっけ?」

「いや、なんでもない。……ていうかだ、誰でもいいから付き合え。な? な!?」

 

 必死に説得を試みる弾だが、この手の話題を前にした一夏の反応は大概おざなりだ。

 

「大体お前、そう言っていつ女に興味が湧くんだよ。アレか? モテスリム気取りか? ふざけんなよコノヤロウ!」

「なんでキレてんだよ」

「キレてねぇよ! バカ! なんでお前は男に生まれてきやがったんだ!!」

「理不尽!!?」

 

 説得力皆無だが、実際のところキレてるというよりは必死極まりないだけという……。

 一夏はモテる。異性に、それはもうおモテになる。

 弾の脳裏にふと浮かんだもう一人の幼なじみもモテていた方だったが、実質一人を選んでいたというか独占されていたというか。

 自分宛のラブレターを本気で一夏宛のものと勘違いして流すような天然だったし、告白されたらされたできっちり理解してその場で即オコトワリを入れるような男だったので、実害は少ない方だった。

 ただ一夏は酷い。この男は素で思わせ振りな態度をとったりするものだから、女子の惚れた腫れたが長引くのだ。

 それで女子に興味ないとか言うもんだから、弾たちモテたい男子からしてみれば、お前ふざけんなよなマジといった具合なのである。

 |文化祭の天使事件《女装一夏(千冬似)がことのほか似合っており、事情を知らない客が物の見事にメロメロにされた事件を指す。》を知ってる者からすれば、こいつがマジで男じゃなけりゃよかったのに、と血涙を流す勢いだった。

 

「お兄」

 

 と、妹の蘭が一夏たちの前に戻ってきた。途端に弾の体が震え出す。

 

「お、おおおお、おう。ななななんだ?」

 

 弾の尋常ではない様子に、気になった一夏も蘭を見る。見てしまった……。

 

『余計ナコトヲスルナ』

 

 目は口ほどに物を言う。正にそう兄を脅す蘭の瞳の奥には、凄まじい力が秘められていた。

 某海賊漫画の特殊技能かな。思わず一夏も、なんだこのプレッシャーは!? と、声を出しそうになったがこれを堪える。

 

「で、では私はこれで」

「……おっと、せっかくのご飯が冷めるといかん」

 

 蘭が立ち去り、食事を再開する一夏。

 

「…………」

 

 弾は物言わぬ彫像になった。

 

「……んで……えが……」

「うん?」

「なんでお前ばっかりモテるんだ!? ええい、この顔か!? この顔がモテスリムか!? スリム分はやるからモテ分を寄越せ!」

 

 かと思えば、一夏の首を絞めてやると言わんばかりに身を乗り出す弾。

 

「うるせぇぞ弾!」

 

 厨房から弾の祖父、五反田厳の一喝が飛んでくる。これ以上騒ぐと言葉ではなく、物理的に中華鍋が飛んでくるだろう。

 これには堪らず弾もはいっすみませんでしたっと、お行儀よく椅子に座る。

 

「くぅ……冗談はさておき、マジでどうなんだ。ファースト幼なじみ……? 部屋も前まで一緒だったんだろ、いいな、とか思ったりしないのか?」

「……そんな暇なかったな。あいつ気難しいんだよ。出てく時もいきなり怒り出すし……」

「お前……。同じ幼なじみでも雪夫と鈴のやつはあんななのに、どうしてお前たちはそんな違うんだ……」

「いや、どうしてって言われてもな……」

 

 

 

 

 

「──ヘプッ」

「大丈夫? 体冷えちゃったのかしら──ックチュン!」

「……誰かが僕らの噂してるのかもね」

 

 お昼すぎ。僕らは食堂で昼食を済ませて、席が空いてるからちょっとのんびりさせてもらっている。

 

「じゃ、デザートにしましょうか」

「……デザート?」

「はい、これ」

「わ、なんだろ」

 

 テーブルに置いた手提げから、タッパーを取り出す鈴。

 

「結局、クラス対抗戦はあのままうやむやになっちゃったでしょ?」

「そうだね」

 

 六月の行事が迫る中、五月の対抗戦は無期限中止になったままだ。

 ちなみに、襲撃事件のことはあれからすぐに学園から箝口令が敷かれている。直接戦闘に関わった僕らは誓約書まで書かされた。

 

「中止になって、優勝賞品の話もなくなったわ」

「うん」

「優勝して、アンタにデザートのフリーパスをプレゼントするつもりだったんだけど……」

「そうだったの?」

「そうだったの。だから、これ」

 

 鈴がタッパーの蓋を開ける。

 

「あ、ゴマタマだ。好きなやつ」

「ふふ。……知ってる」

 

 目を細めて笑う鈴に、自分でも目を輝かせているのがわかる。

 中身は、鈴の手作り胡麻団子だった。

 

「食堂デザートみたいに華やかじゃないけど、対抗戦で頑張ったご褒美ね」

「頑張ったのは鈴じゃないの?」

 

 一夏との試合もその後も、一番頑張ってたのは鈴だ。

 

「……その顔がご褒美なの」

「……?」

 

 言葉通り、にこにこと笑う鈴。

 意味はわからなかったけど、鈴の胡麻団子は食堂のデザートより美味しかった。









後書き

年に一度の手作り胡麻団子が、雪夫は好きだったようです。

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