見て! 束ちゃんが踊っているよ   作:かわいいね

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月曜日の朝

「あ、宮田くん、凰さんおはよう!」

「おはよう」

「おはよう」

 

 月曜日。休み明けだけど、二組の教室は朝から賑やかだ。憂鬱そうな生徒はいない。

 特に今朝は、学園から配布されたカタログを手に談笑する女の子たちの姿をそこかしこでよく見かける。ISスーツの申し込み開始は今日からだっけ……。

 

「うーん、どれにしよっかなあ」

「沢山あって迷っちゃうよね」

「あれもこれも可愛いくて目移りしちゃう……」

「そうそう! あっ、ねえ、これとかよくない?」

「え、どれどれ?」

「んー、それちょっと高くない?」

 

 ひと口にISのパイロットスーツと言っても、ISスーツはデザインひとつ取っても多種多様で、みんなどれを購入しようか迷ってるみたいだ。

 元から学園指定のISスーツもあるんだけど、やっぱり自分が選んだ好きなスーツを使いたいのが女の子の心理なんだと思う。……はい、鈴の受け売りです。

 

「雪夫のスーツって、やっぱ束さんが用意したの?」

「うん」

 

 姉さんの話によると、普通のISスーツじゃあんまり意味がないらしい。これがどういうことかというと、両者のスーツには役割に明確な違いがあるんだ。

 従来のISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知し操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、そのままISの動きに反映されるという仕組みなんだけど僕らじゃそうはいかない。なんてったって、普通じゃないから。

 対する僕のスーツには特定のナノマシンの働きを補助増幅させる役割があって、これが結果的に僕や玉兎の性能向上に繋がるらしい。取説が付いてなかったから詳しいことはわからないけど。

 要するに姉さんが特別に用意してくれた世界でたったひとつのISスーツってこと。それも、玉兎専用の。逆に僕のスーツを着てISに乗ると性能がガックンと落ちるんだって。

 

「スーツも僕専用」

「ふうん……着にくいんじゃないの、あれ」

「ん、解決済み」

「あら、可愛いドヤ顔ね」

「…………」

「ふふ、ごめんごめん」

 

 本格的なパイロットスーツのデザインを踏襲した僕のISスーツは、ひとりで一から着ようとすると鈴の言う通りとても着づらい。

 パーソナライズ済みの専用機持ちなら、展開装着時に私服or制服からISスーツにフォームチェンジできるんだけど、それだとエネルギーを消耗してしまう。

 そんなわけでちょっぴり困ってたところを、姉さんがブレスレットの機能を拡張して、変身ヒーロー顔負けの早着替えを実現してくれたんだ。これで問題解決。

 

「でも、まあそれなら安心だわ。もしあれなら着替えるの手伝おうかとも考えてたんだけど、必要なさそうね」

「困ってたら言う」

「約束よ?」

「うん、約束」

 

 小指を絡めて約束はするけど……。

 できることなら、同い歳の女の子に着替えを手伝ってもらうなんてことにはならないでほしいかなぁ。

 

「スーツといえば」

 

 鈴がポンッと手を叩く。

 

「午前は一組と合同授業だから、更衣室に行く時は一夏と一緒に行きなさいね」

「わかった」

「寄り道しないこと、ちゃんと一夏についてくこと。困ったら一夏を頼るのよ?」

「うん……心配ありがと」

 

 今日のIS基礎は一組と二組の合同で、指導するのは一組の担任と副担の先生。つまり千冬さんたちだ。

 六月末の学校行事、学年別トーナメントは全生徒強制参加の一大行事。代表候補生や専用機持ちも一般生徒と同じように参加ってのはどうかと思うけど。

 で、これに向けて授業はいよいよ訓練機を使った本格的な実戦訓練になっていくらしい。今年は専用機持ちが多いから、結構激しめな授業になるかもというのがうちの先生の予想。

 ついでに先週末のホームルーム中、絶対にISスーツを忘れないようにって言ってた。もし忘れたら水着か下着で参加させられるぞって。担当が千冬さんなら有り得るかもしれない。

 

「先生、遅いわね」

「そうだね」

 

 言われてみればたしかに遅い気がする。

 

「けど、もう来る頃じゃないかな……ほら」

 

 話してるそばから教室のドアが開いて、先生が入ってきた。

 

「みなさん、おはようございます……」

 

 そう挨拶する先生はどこか、元気がない。なにかあったのかな。

 

「先生、疲れてる?」

「そうみたいね。なにがあったのかは知らないけど、嫌な予感がするわ……」

「嫌な予感?」

「ええ、とびっきりのね……」

 

 嫌な予感なんて当たらなきゃいいんだけど。鈴が言うところの女の勘って、よく当たるんだよね。

 

「はい、ちょっと静かに。先生疲れてますから……こほん。お隣のクラスに転校生が入ってきました」

「え?」

「……それも、二人です」

「「「えええええっ!?」」」

 

 ホームルームが始まるなり、先生の話に一同騒然。転校生、それも二人。おまけにその話を誰も知らなかったのだというのだから、みんなが驚くのも無理はないか。

 鈴が来た時だって、転校生が来るらしいよくらいの話はあったんだから、今回の情報統制は先生たちの苦労がうかがえる。

 

(でも逆に、学園がそれだけ気を遣うってどんな転校生なんだろう……)

 

 そんなことを考えていたら、先生がパンパンと手を叩いた。

 

「はい静かに、静かに。気が重いなこりゃ……。ええっと、それでですね、二人の転校生の内、ひとりはその──」

 

 きゃあああああああー──ッ!

 

 耳を塞ぎたくなるような黄色い悲鳴が突然、隣の教室から聞こえてくる。ハウリング発生してない?

 

「……男の子でして。三人目ですね、はい」

 

 転校生のひとりは男子生徒。酷く気が乗らない様子で、先生がそう発表する。言ったら最後どうなるかを考えたらそうなるよね……。

 転校生くんか。ひょっとしたら今頃、一夏はもう友達になってるかもしれない。そんなふうに考えながら、僕は窓の外に意識を向けた。

 

 直後、うちのクラスで二度目の騒音災害が発生したのは言うまでもない。

 

「嫌な予感?」

「長い目で見れば吉兆だったのかしらね……男子か」

 

 

 

 

 

 先生がホームルームを早めに終わらせてくれて、鈴と別れた後に階段の踊り場で待っていると、程なくして一夏と噂の転校生くんが駆け足でやってきた。

 

「一夏」

「──雪夫か! 今日は第二アリーナ更衣室だ、急ぐぞ!」

「うん」

 

 一夏は鈴と違って、僕の腕を掴む。大きな手でがっしりと。そうして、ぐいぐい力強く引っ張ってくれる感じだ。

 別に引っ張ってもらわなくても駆け足くらいできるし歩けるんだけど、幼なじみ組のどちらかと出かける時にはこうするのが、いつの間にかお約束になっていたんだ。……受験の時もね。

 

「雪夫……じゃあ君が宮田くん? 初めまして──」

「よろしく。行こ」

 

 挨拶もそこそこに。転校生くんの手をとり、僕も一夏と足並みを揃えて走る。自分から人と手を繋ぐなんて初めてだ。

 我ら男子生徒にのんびりしている時間も、お喋りしてる時間もない。残念ながら。それがなぜかというと、

 

「ああっ! 転校生いた!」

「しかも織斑くんも一緒!」

「やっぱり! 宮田くんのいるとこに男子生徒あり!」

 

 二階から女の子たちが駆け下りてくる。中には同じクラスの子もいるし、上級生もいるような……。

 あの子たちがどういう集団なのかというと、一年一組に入ってきた転校生くんの姿を一目でいいから見てみたい、あわよくば質問したい、というかする! といった気概を持つ女の子たちだ。

 捕まったが最後、遠慮のネジが数本飛んだゴシップ女子の質問攻めに打ちのめされ僕らは授業に遅刻、待ち構える千冬さんに恐ろしい目に遭わされる……らしい。

 ちーちゃんは鬼なんだよお! by姉さん

 鬼教官の特別カリキュラムが待っている! by一夏

 ……なにしたの、千冬さん。

 

「いたっ! こっちよ!」

「者ども出会え出会えい!」

 

 続々と出てくる女の子たち。

 

「……ごめん、抜かった。一生の不覚」

「待て、いつからここは武家屋敷になったんだ?」

 

 まさか追っかけられてることに気づけなかったとは……。

 

「織斑くんの黒髪、宮田くんの白髪(はくはつ)ときて、今度はナチュラルな金髪!」

「しかも瞳はアメジスト!」

「きゃああっ! 見て見て! 手! 手繋いでる!」

「違うわ、織斑くんは宮田くんの腕を掴んでるのよ!」

「突然現れた転校生の略奪愛! 略奪愛なのね!」

「それに対して織斑くんが『俺以外のやつと仲良くするなよ……』きゃー!」

「日本に生まれてよかった! ありがとうお母さん! 今年の母の日は河原の花以外のをあげるね!」

 

 なんか今、変な人いなかった? それもいっぱい……。

 

「な、なに? なんでみんな騒いでるの?」

 

 珍しい重みを感じてると、転校生くんがキョトン顔でそう訊いてきた。

 

「そりゃ男子が俺たちだけだからだろ」

「転校生」

「ああ、そうだな。転校生もいるしな」

「……?」

 

 あれ、わかんないかな?

 転校生の反応に一夏も変だと思ったのか、

 

「いや、普通に珍しいだろ。ISを操縦できる男って、今のところ俺たちしかいないんだろ?」

「あっ! ──ああ、うん、そうだね」

「それとあれだ。この学園の女子って男子と極端に接触が少ないから、ウーパールーパー状態なんだよ」

「ウー……なに?」

「メキシコ原産のサンショウウオ」

「そう、それ。昔日本で流行った珍獣なんだと」

「へ、へえ……」

 

 うちも飼ってるよ、今ので三代目。お亡くなりになる度に悲しむのに、だって可愛いじゃないって母さんは懲りずにまた飼うんだ。

 

「しかしまあ助かったよ」

「なにが?」

「いや、やっぱ男一人はきついからな。ほら、学園に二人いるっていっても、雪夫とは別々のクラスだし。仲間がいるってのは心強いもんだ」

「そうなの?」

「……そう?」

「いや、なんで雪夫まで首傾げるんだよ……」

 

 うーん、僕は鈴がいるから気にならないのかも。箒も素直になればいいのに……あ、そういえば昨日はあの後どうなったんだろ。お昼休みにでも訊こっと。

 

「ま、なんにしてもこれからよろしくな。俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」

「雪夫でいい」

「うん。よろしく一夏、雪夫。僕のこともシャルルでいいよ」

「わかった、シャルル」

 

 そんな話をしてるうちに校舎を出た僕らは、真っ直ぐ第二アリーナを目指した。

 

「よーし、到着だ!」

 

 一夏がタッチパネルを操作し、未来的なドアを開けて中へと駆け込む。その先にあるロッカーの並んだ部屋は第二アリーナ更衣室。……僕はロッカー使わないけど。

 

「うわ! 時間やばいぞ、すぐに着替えちまおうぜ」

 

 時計を見るなり、一夏が制服のボタンを勢いよく外しはじめる。脱いだ上着をベンチに放り投げ、下のTシャツも一息に脱ぎ捨てて上半身をあらわにした。

 

「わあ!?」

「……わ」

「?」

 

 そんな様子をやっぱり男らしいなあと見ている僕の横で、転校生くんが可愛らしい悲鳴をあげる。

 

「荷物でも忘れたのか……って、なんで着替えてないんだ? 早く着替えないと遅れるぞ。シャルルは知らないかもしれないが、うちの担任はそりゃあ時間にうるさい人で──」

「う、うんっ? き、着替えるよ? でも、あっち向いてて……ね?」

「??? いやまあ、別に人の着替えをジロジロ見る気はないが……あ、シャルルはジロジロ見てるな」

「み、見てない! 別に見てないよ!? ほら、雪夫も!」

「わかった」

 

 そんなやり取りをする二人だけど、時間は刻一刻と進んでいる。

 

「まあ、本当に急げよ。初日から遅刻とかシャレにならない──というか、あの人はシャレにしてくれんぞ」

「そうかな」

「あー、お前は束さん枠だからな……参考にならんかもしれん」

「ん、そっか」

 

 姉さん枠? そんな褒められ方したの初めてかもしれない。

 

「…………」

 

 二人に背を向けて、僕の中で壁の時計とのにらめっこ開始のゴングが鳴ってから少し。

 

「シャルル?」

「な、なにかな?」

 

 慌ててジッパーを上げる音がした。

 

「うわ、着替えるの超早いな。なんかコツでもあんのか?」

「い、いや、別に……って一夏まだ着てないの? あ、あれ? ゆ、雪夫は制服もまだ脱いでないし……体調悪い? もしかして、具合悪いのに僕を引っ張ってくれてたの? ご、ごめんね……? 大丈夫?」

「平気」

 

 強いて言うなら一夏がスーツを着るのに手間取ってるの、見てて面白いなって。今は下が腰を通したとこで止まっちゃってるとこ。

 

「ああ、雪夫はちょっと特殊なんだ。俺の場合は……っとと。ふう……。これ、着る時に裸ってのがなんだか着づらいんだよなぁ。……引っかかって」

「ひ、引っかかって?」

「おう」

「…………」

 

 あーあ、顔が真っ赤。シャルルはそっちのネタが苦手なのか。まあたしかに、それで盛り上がっちゃうのも褒められたものじゃないけど。

 

「──よし、行こうぜ」

「う、うん」

「わかった」

「ふえ? ……雪夫、いつ着替えたの?」

「ん、今」

 

 ブレスレットの表面をタッチして、即変身。なんと所要時間は僅か0.03秒なのだ。気分とお好みでポーズと掛け声もどうぞ……今日はパスで。

 全員が着替え終わったところで更衣室を出て、揃ってグランドに向かう。

 

「そのスーツ、なんか着やすそうだな。どこのやつ?」

 

 ふと、シャルルを見た一夏が会話をふる。一夏から僕のは参考にならないみたいな思念が飛んできてるんだけど……? そりゃそうか。

 

「あ、うん。デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけど、ほとんどフルオーダー品」

「デュノア? デュノアってどこかで聞いたような……」

 

 え、そうなの? 僕知らない……。

 

「うん。僕の家だよ。父がね、社長をしてるんだ。一応フランスで一番大きいIS関係の企業だと思う」

「へえ! じゃあシャルルって社長の息子なのか。道理でなあ」

「うん? 道理でって?」

「いや、なんつうか気品っていうか、いいところの育ち! って感じがするじゃん。納得したわ」

「いいところ……ね」

「僕のは姉さんのお手製」

「雪夫、そこ張り合うとこじゃないと思うぞ……?」

 

 あれ、違うの。

 

「……じゃあ、雪夫が篠ノ之博士の親戚って話は本当なんだ」

「ん、自慢の姉」

「正確には従姉妹だろ」

「血の繋がりって大事?」

「……ま、当人たち次第だわな」

 

 大事なのは他人同士ではないということ。だから姉さんが姉である必要はないし、僕が弟である必要はないんだ。

 実際、僕が姉さんって呼びたいからそう呼んでるだけだし、それを姉さんが嫌って言うなら別の呼び方に変えたっていい。

 入学当初もそうだけど、みんなして僕と姉さんが親戚なのか気にするのは、やっぱりちょっと滑稽だよね。

 宮田くんって篠ノ之博士の血縁者なの? ……みたいな。血の繋がりがなきゃダメなのかなってさ。

 

「……一夏もすごいよ。あの織斑千冬さんの弟だなんて」

「ハハハ、こやつめ!」

「へ?」

「――いや、なんでもない。まああれだ、皆して地雷を踏みあって一機ずつ減ったってことで」

「……??? よくわからないけど……」

 

 一夏は一夏でつらい事情があるってこと。

 僕は背中を押して支えたい派だけど、一夏は前に出て守りたい派だからね。乗り越えるべき背中が大きすぎると苦労するんじゃないかな。

 

「一夏、千冬さんこっち見てる」

「げっ、マジ? よく見えたな……」

「……急ご」

「お、おう。シャルルも行こうぜ」

「う、うん……」

 

 話もそこそこに、僕らは駆け足で第二グラウンドに向かうのだった。








後書き


姉(束)が嫌と言うなら姉じゃなくてもいい。
……奥さんこれ、言質っすよ。実質。


雪夫のISスーツは、お好みのフレームランナーのパイロットスーツで想像してくだされ。作者は無難なとこでディンゴかな。ノウマンでもいいけど、ちょっと狙いすぎ感出ちゃうから……。

作者は随時感想を募集中でございます。
何卒よろしくお願いいたします。
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