見て! 束ちゃんが踊っているよ   作:かわいいね

2 / 15
みんなが天災だの真っ黒だのと呼んでばかりいるので、束ちゃんはメンタルよわよわクソザコメクジなヘビー級お姉ちゃんになってしまいました
お前のせいです
あ〜あ

※あらすじよりこっちのが重点な。


本編
プロローグ


 ××月××日

 母さんが退屈なら日記でもつけてみたらって。

 ノートも貰ったけど、何を書けばいいんだか。

 

 ××月××日

 学校に行った。──行っただけ。

 体育には参加できないし、授業もつまらない。

 こうして書いたはいいけど、なんだか違う気がする。

 

 ××月××日

 ししゃもを食べた。美味しかったです、よ。

 これも違うか。

 

 ××月××日

 今日は僕の従姉妹について書いておこうか。

 名前は箒と束、箒が妹で束姉さんが姉だ。

 二人とも近所に住んでいる。けれど、同い年の箒とは会うことも少ないし、あんまり話さない。

 束姉さんはよく遊んでくれて、話が面白い。ただ、たまにお医者さんごっこをするのがくすぐったくて少し苦手だ。

 

 ××月××日

 今日は身近な人について書こう。

 名前は一夏、僕より箒と仲がいい男の子。

 箒のお父さんが剣道場の師範をしていて、一夏とそのお姉さんが門下生のひとりなのだ。

 ちなみに一夏のお姉さんは束姉さんの幼なじみで、よく姉さんの部屋にやってくる。僕とは挨拶を交わすくらいだ。

 これで身近な人って、僕の交友関係せまいな……。

 

 ××月××日

 今日も姉さんの部屋にひとりで遊びに行った。

 姉さんが夢を詰め込んだ和室のひと部屋は、いつか僕がテレビで見た秘密基地みたいでかっこいい。

 ここで月に行くマシンを作ってるんだって、姉さんは言っていた。

 僕が大きくなったら一緒に月面旅行する約束もしてるから、その日が楽しみだ。

 

 ××月××日

 今日は一日中、姉さんの部屋で姉さんがパソコンカタカタしてるのを見ていた。

 布団から外の雲を眺めてるよりも、こっちの方が好きだ。

 人といると、自分が生きてる、ここにいるんだと実感できる。

 

 ××月××日

 今日も姉さんと夕飯を食べた。

 お母さんたちには内緒だよって、唐揚げをひとつくれた。

 

 ××月××日

 箒が一夏とまた喧嘩していた。

 二人はよく喧嘩してる。どうせなら、もっと仲良くすればいいのに。

 箒ちゃんはいっくんラブなんだけど素直になれないんだよって、姉さんは言ってたけれど……まあ、元気なのはいい事なんだよな。

 

 ××月××日

 熱が出て、また学校に行けなかった。

 おじさんの道場から、賑やかな声が聞こえてくる。

 つまらない。退屈な人生は、死んでるのと同じだ。

 おにぎり型の雲を八つくらい数えてやめた。

 

 ××月××日

 つまらない。退屈で死にそう。

 寝床を抜け出して姉さんのとこに行ったら、少しして母さんに見つかってむちゃ怒られた。

 風邪っぴきなんてよくある事なのに、母さんも皆もいつも大袈裟だと思う。

 

 ××月××日

 熱が出てると姉さんとご飯が食べられない。

 おかゆは美味しくないし、ハンバーグが食べたい。

 

 ××月××日

 元気になった。

 学校に行って、半分を保健室ですごした。

 もう平気なのに……けど、先生は心配するのが仕事だから仕方ない。

 箒と一夏はまた喧嘩して、その日のうちに仲直りしてた。そんなんなら喧嘩しなきゃいいのに。

 

 ××月××日

 久しぶりに姉さんが遊んでくれた。

 手術台みたいな椅子に座って、仮面ライダーごっこ。

 見てて楽しいから特撮好きなんだよね。

 

 ××月××日

 熱が出た。

 いつもより高いらしい。

 布団は退屈だ。

 

 ××月××日

 近くの病院に入院する事になった。

 大した事ないのに母さんたちは心配しすぎだと思う。

 けど、いろんな機械が並んだ病室は悪の組織みたいでちょっとだけワクワクした。

 

 ××月××日

 七歳の誕生日。母さんがお祝いしてくれた。

 

 ××月××日

 起きたら髪が白くなってた。

 知ってる、これ若白髪ってやつだ。

 頭いいやつがなるって、上級生が言ってるのを聞いた事がある。

 ……つまり僕も頭がいいって事? 姉さんが言ってること、たまにわからない事があるのに?

 

 ××月××日

 つまらない。

 ベッドから抜け出すと、すぐに大人がやって来る。

 雪夫くん寝てなきゃダメでしょーって。

 あの人たち、ちょっとヒステリーだ。

 

 ××月××日

 姉さんが酷く落ち込んだ様子で部屋に来たので、どうにかこうにか励ました。

 日記に書いてもわからないかもしれないけど、姉さんならきっと大丈夫だ。

 

 ××月××日

 姉さんが今度はお見舞いに来てくれた。

 いいとこに連れてってあげる、そう病院から連れ出されて、姉さんが作ったロボットがミサイルを落とすショーを一緒に見た。

 夕方戻った時にめちゃ怒られたけど、こないだと違って姉さんが楽しそうだったから、まあいいか。

 

 ××月××日

 家に戻って来た。一夏たちと久しぶりに会った。

 

 ××月××日

 テレビで姉さんを見た。

 本人が隣にいたので、すっごい驚いた。

 姉さん、いつ有名人になんてなったんだろう……。

 

 ××月××日

 九歳の誕生日。今年は家でお祝いをしてもらえた。

 

 ××月××日

 神社の方に参拝する客が増えたのか、最近家の周囲が騒がしい。

 神主のおじさんや母さんは、どこか怒っているようだった。

 おばさんも疲れてるみたいだし、忙しくてイライラしてるのかもしれない。

 

 ××月××日

 姉さんが怒った。

 学校から帰ってきた僕が家の前に集まっている大人に押されて、転けたのを気にしてるらしい。

 怪我そのものは膝を擦りむいた程度で、大した事ない。

 それなのに母さんたちも怒ってたし、みんな大袈裟だ。

 

 ××月××日

 姉さんが消えた。

 箒や、おじさんとおばさんもどこか遠くに行ったらしい。

 神社には管理人の母さんと、僕だけが残された。

 

 ××月××日

 五年生に学年が上がった。

 まあ、だからって特別な事は何もないんだけども。

 

 ××月××日

 昨日の夜から降ってた雨が、家を出る前にやんだ。

 春の雨上がりは好きだ。夏は嫌いだ。

 

 ××月××日

 今日も変わらない一日。

 心なしか、前より一夏といる事が多くなった気がする。

 

 ××月××日

 僕のクラスに海外から転校生がやって来た。

 中国人の女の子で、名前は鈴音。元気な子だ。

 迷っているところに鉢合わせた一夏が、その子を見た目で下級生だと勘違いして顔面にグーパンされてた。

 

 ××月××日

 今日はうちで勉強会。

 本当は一夏が勉強教えてくれって頼み込んできただけなんだけど、そこへつい最近仲良くなった鈴音がねじ込んできた。

『あんた意外と勉強できるのね』って、それはちょっと酷くない?

 

 ××月××日

 家庭科の調理実習でカレーを作った。

 誰が作ってもおいしい定番のカレー──のはずが。

 ここ最近になって織斑家の家事全般を担うようになったらしい一夏が見事なカレーを錬成し、我が班の鈴音が鍋を爆発させた。

 お陰でC班はカレーから急遽炒飯もどきにシフトチェンジさせられた。

 

 ××月××日

 卒業式。

 式の途中に泣き出す子もちらほら……。

 僕は高学年になる前はとにかく休む事が多かったし、あんまり思い出とかはなかった。

 一夏たちとは同じ中学に進学する予定だ。

 

 ××月××日

 束姉さんから小包が届いた。

 届いたというか、庭に突き刺さったというか。

 きっと『入学祝いだー』って、勢い余ってやったんだろうな……姉さんらしい。

 近未来的なデザインのブレスレット、色は白とマゼンタピンク。

 ……それで、お姉ちゃんはいつも近くにいるよってどういう意味?

 

 ××月××日

 今日、一夏たちが新しい友達を二人も連れてきた。

 名前は弾と数馬。弾は食堂の子で、数馬はサラリーマンの子。

 忘れない内にここに書いて覚えておこう。

 

 ××月××日

 久しぶりにちょっとした風邪を引いた。

 まあ、タイミング的にはよかったのかもしれない。

 千冬さんの大事な試合があるとかで、一夏はひとりで小旅行。

 弾と鈴は実家の手伝いがあるとかで予定が埋まっていて、数馬は数馬で『じゃあ、俺も予定があるって事で……』とか言い出すし。

 今回くらいは大人しく寝ておく事にしよう……。

 

 ××月××日

 猫とのにらめっこ。

 決着が着く前に待ち合わせの約束をしていた鈴が来たので、今回は引き分け。

 これで全309試合109勝107敗93引き分けだ。

 あのまま続けてれば多分、僕が勝ってた。

 

 ××月××日

 今日も暑い。ムカつくくらい、暑い。

 出かける時に必ず母さんも一夏たちも人をいつも以上に病人扱いしてくるから、夏は嫌いだ。

 

 ××月××日

 一夏たちとスイカを食べた。

 弾の妹がスイカの種を飲み込むとお腹の中で芽が出るという迷信を信じてたみたいで、種を飲んだー夏を見て大騒ぎをしてた。

 誤解はすぐに解けたものの、今度は弾がボコボコに……。

 安易に人に嘘を吹き込むのはやめよう。

 

 ××月××日

 今日は誕生日。

 今年も束姉さんからボイスメールが届いた。

 内容はいつも通り誕生日のお祝いと、世間話が少々。

 最後に姉さんが泣きながらぐだぐだと垂れ流し、そこでいつものようにメールは締めくくられる。

 プレゼントは不思議な味のカップケーキだった。

 

 ××月××日

 今日から中学二年生。

 中学に上がってから、病欠で学校を休む事が減った。

 前ほど熱も出なくなってるし、体の調子もいい気がする。

 となれば、今年こそ海に行ってやるぞ。

 

 ××月××日

 ししゃもを食べた。美味しかった。

 ……なんかデジャブを感じる。

 

 ××月××日

 僕の靴箱にまた手紙が入ってた。

 多分、ラブレターってやつだ。

 上が一夏の靴箱だから、みんな間違えて入れてしまうんだと思う。

 見た瞬間、ピンと来たね。

 きっとドジっ子だったんだな……。

 一夏はイケメン……とはまた違うと思うものの、千冬さんに似ていてキリッとしてるからな。

 髪伸ばしたら千冬さんそっくりになりそうだし、そういうとこも人気の一助になってるのかもしれない。

 去年の文化祭で男装女装喫茶をした時の一夏は、弾たちが口をあんぐりと開けるくらいにはウィッグと割烹着が似合ってたっけな。

 

 ××月××日

 鈴がいつかのリベンジをすると言い出して、家にやって来た。

 何をするのかと思ったら、台所に入るなり始めたのは料理。

 そういえば昔、調理実習で派手に失敗してた記憶が……。

 完成したのは八宝菜。また今度練習して酢豚を作ると息巻いていた。

 美味しかったけど。……え、うちで食堂でも開くおつもりですか?

 

 ××月××日

 今日は期末前の勉強会。

 弾がヒーヒー言いながら数学のドリルをやっていた。

 一夏も中学に上がってからアルバイト三昧で成績が暴落してるとかで、ちゃぶ台にかじりついて勉強漬け。

 最後の方、頭から白い煙が出てたけど大丈夫なんだろうか。

 ちなみに数馬はこつこつやるタイプで、鈴は一夜漬けでどうにかするタイプに見せかけて、実はこっそり努力してるタイプだ。

 

 ××月××日

 鈴と海に行った。

 一夏たちも誘ったのに、用事があるとか夏休みの宿題が終わらないから無理とか、友達がいのないやつら。

 いいよ、鈴が付き合ってくれたし。

 ……母さんはついて来なくてもよかったんだけどな。

 

 ××月××日

 さっき久しぶりに流れ星を見た。

 消える前に願い事三回……は、無理。

 でもまあ、せっかくだから雲に乗ってみたいという願望を込めて祈っておいた。

 乗れないとわかってても、人は雲のベッドに憧れるものなのだ。

 寝具に口うるさい僕が言うんだから間違いない。

 

 ××月××日

 鈴がまた転校するらしい。

 本人から聞いたので、これは確実だと思う。

 二年の冬に国に帰ってしまうのだそうだ。

 せっかく仲良くなったのに、また寂しくなるな……。

 

 ××月××日

 今年も文化祭がやってくる。

 僕のクラスは例によって喫茶店、それも去年と同じ男装女装喫茶。

 クジで選抜された接客係が、それぞれ男装と女装をするのだ。

 前回同様に一夏が当たり──ハズレくじを引いて、絶望してた。ドンマイ。

 ちなみに僕は客引き係で、教室の前に椅子を設置して座ってるだけでいいらしい。やったね。

 

 ××月××日

 おい、僕までエプロンドレスを着せられるなんて聞いてないぞ。

 

 ××月××日

 一部の生徒の犠牲により、今年の文化祭も大成功を収めた。

 記念撮影の最後に撮られた一夏とのツーショット、あれは一生ネタにされそうな気がする。

 

 ××月××日

 そういえばあれ、どうなったんだろう。

 弾たちが言い出した、私設・楽器を弾けるようになりたい同好会ってやつ。

 結局何もしないまま、ずるずるともう中学も二年が終わりそうになってるんだが……?

 

 ××月××日

 今日は鈴に誘われて買い物に出かけた。

 今生の別れみたいで嫌だから、特別な事とかはしない。

 ただ、帰り道の途中で鈴が──

『あんたいっつもボケーっとしてるけど、うっかりあたしの事忘れたり、ぽっくり逝ったりするんじゃないわよ!』だって。

 失礼な、流石に友達の事まで忘れたりしないって。

 

 ××月××日

 二年の後期が終わり、同時に鈴は国に帰ってしまった。

 またいつか会えると信じて、僕らは鈴を見送る。

 それはそうと、私設・楽器を弾けるようになりたい同好会での僕の担当が決まった。横笛だそうな。

 

 ××月××日

 最近、手紙の誤投函が増えてるような気がする。

 週一とかザラだし、もはや嫌がらせを疑うレベル。

 ただ一夏の謎すぎる競走倍率を考えると、これでも妥当なとこだと思えるからこれまた不思議だ。

 弾の妹さんもそうらしいし、このところ一夏と一緒にいるだけでめちゃくちゃ視線を感じるようにもなった。

 恋する乙女って怖いわ……。

 

 ××月××日

 三年も前半戦が終了。

 僕らもいい加減、進路を決めとかないといけないわけだが。

 やたらと一夏が推してくるので、とりあえず第一志望は藍越学園ってとこにしておこうと思う。

 

 ××月××日

 母さんが僕の将来について訊いてきた。

 とりあえず大学卒業まで寄り道をしつつ、母さんの跡を継ぐのが無難なとこなんじゃないだろうか。

 束姉さんとの約束もあるし、サイバー神主なんか目指しちゃったりしてもいいかもしれない。

 

 ××月××日

 夜更かししすぎて体壊した。油断した。

 

 ××月××日

 入試に向けての追い込み勉強会。

 一夏は当然として、弾たちも参加した。

 定期的に──特に期末前なんかは必ず勉強会を開いてる事もあって、アルバイト三昧の一夏でもなんとかなりそうだ。

 

 ××月××日

 IS学園の入学要項なんてものを、自宅で黒服の男たちに聞かされた僕と一夏。

 ……あれ、僕ら藍越学園の入試受けに行ったんじゃなかったっけ?

 

 ××月××日

 家に帰ったら姉さんが踊って出迎えてきた。

 いや、何事?




みんなが酢豚だの二組だのと呼んでばかりいるので、鈴ちゃんはデレ増量世話焼き系ヒロインになってしまいました
お前のせいです
あ〜あ

※ついでに雪夫も二組にシューーーッ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。