見て! 束ちゃんが踊っているよ 作:かわいいね
「待ってたわよ、一夏!」
お昼休み。食堂に入ってきた一夏を見て、鈴がこっちこっちと手を振る。
本当は券売機の近くで待つつもりだったんだけど、僕ら二人があそこにいたら邪魔になりそうだったし、それなら先に席を確保しておいた方がいいかなって事になったんだ。実際、この時間帯の食堂は人の行き来が多いからね。
「おう。待たせたか?」
「まあまあね。……にしてもアンタ、ぞろぞろと連れて来すぎよ。幼なじみ再集結記念だって言ったじゃない」
呆れた様子で一夏に視線を向ける鈴。
日替わりランチのお盆を持って席にやってきた一夏の後ろから、一組の生徒数人がついてきている。箒やオルコットさんも一緒だ。
「まあそう言うなって。飯は大勢で食べた方がうまいだろ?」
「……ま、いいわ」
口ではこう言ってるけど、実は最初からこうなる事を予想していて、僕らはテーブル席を確保していた。お陰でちょっと白い目で見られたりもしたけど、まあ必要経費かな。
「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年ぶりになるのか。元気にしてたか?」
「元気よ。そっちも元気そうでなによりってとこね」
「まあ、元気なのが取り柄みたいなもんだからな……」
お、一夏の今の返しは僕が一度でいいから言ってみたい日常会話のフレーズベストスリーに入るやつだ。ちなみに一位は我が生涯に一片の悔い無し──。
「いつこっちに帰ってきたんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生になったんだ?」
「質問ばっかしないでよ。アンタこそ、なにIS使ってるのよ。ニュースで見た時びっくりしたじゃない」
お互いの近況について話が弾むのは、きっと仲がいい証拠。一夏も鈴も、表情がいつもより輝いて見える。
「一夏、そろそろどういう関係か説明して欲しいのだが」
「そうですわ! 一夏さん、まさかこちらの方と付き合ってらっしゃるの!?」
と、蚊帳の外にされて面白くなさそうな箒にオルコットさん。顔が険しくてちょっと怖い。
二人が特別なお付き合いをしてるって事はないと思うけど。オルコットさんや他の生徒は、興味津々といった様子で一夏を見ている。
「一夏とあたしが? ……ないない、ありえないって」
「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼なじみってだけだし、それに鈴は……」
「…………」
「ぅおっとと。……なんでもない」
「……命拾いしたわね」
……? なんだろ、今の変な間は。
「幼なじみ……?」
あ、そっか。箒は会った事ないんだよね。
「えっとだな。箒が引っ越していったのが小四の終わりだったろ? 鈴が越してきたのが小五の頭で、中二の終わりに一度国に帰ったから、こうして会うのは一年ちょっとぶりだな」
首を傾げる箒に、一夏が掻い摘んで説明をする。
「で、鈴。こっちが箒。ほら、前に話したろ。小学校からの幼なじみで、俺の通ってた剣術道場の娘。あと、まあ一応雪夫の従姉妹だな」
「ふぅん、雪夫のね……。そうなんだ?」
興味なさげな返事をする鈴だけど、その目はしっかり箒を見ている。箒はなんだか居心地が悪そうだ。
「初めまして。これからよろしくね」
「……ああ。こちらこそ」
二人の間にちょっと歪な空気が流れる。
「ンンンッ! わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん?」
「……誰?」
「なっ!? わ、わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存知ないの?」
「うん。あたし、
「な、な、なっ……!?」
あらら……。みるみるうちに顔が真っ赤になっていくオルコットさん。鈴が涼しい顔してるから、そこがすごく対照的。
「い、い、言っておきますけど、わたくしあなたのような方には負けませんわ!」
「そ。でも戦ったら勝つのはあたしだよ。悪いけど」
にべもなく言い切る鈴の表情には、僅かな陰りもない。こういうとこがすごいんだよなぁ鈴は。でも、同時にその自信が敵を作りやすくもあるんだ。
「…………」
「い、言ってくれますわね……」
箒が手を止め、オルコットさんも苛立った様子で拳を握りしめる。
二人ほどあからさまではないけれど、相席した一夏の連れも思う事があるのか神妙な表情を浮かべていた。
鈴は二人から決して目を離さない。
「あたしは負けられない。負けないほど強くなるの。雪夫のためにもね……」
え、僕?
「……そうでした、ところでそちらの方は? さっきから一言も喋っていませんけれど……」
オルコットさんにつられて、この場にいる全員の視線がこっちに向く……なんだか照れちゃうな。
っと、照れてる場合じゃない。誰って訊かれたんだから簡単な自己紹介くらいしとかないと。
(え、と……)
「こいつは宮田雪夫。俺の幼なじみで、箒の従兄弟だ」
「……よろしく」
「む、無口な方なのですね……」
うどんを一口すする。
あーあ、一夏に言いたい事全部言われちゃった。
僕が特別無口ってわけじゃなくて、単に言う事がもうないだけなんだよ。
皆、僕が何か言う前に話を進めてくんだから。
「篠ノ之さんの親戚……。という事は、篠ノ之束博士の……」
「ん、姉さんなら元気だよ。それが、どうかした?」
「あ、いえ、なんでも……」
とか言いつつ、箒をちらちらと見るオルコットさん。重たい空気をそっちから感じる。
うわ、嫌だ……。
「…………」
なんで僕は箒に睨まれてるんだろ……あれかな、実妹を放ったらかしにして姉さんが僕にばっかり構ってるから不貞腐れてるのかな。
ああ、でもそう考えると理屈が通る気がする。姉さんにもっと妹の相手をしてあげてって言っとかないと。
「あーっと。り、鈴、親父さんは元気にしてるか? まあ、あの人こそ病気とは無縁だよな!」
「……うん、元気──だと思う」
僕からどんぶりを掠め取って、勝手に具の餅を箸で切り分けはじめる鈴。
ああー、力うどんのメインがぁ……ちょっと、今大事な話してたんじゃなかったの?
なんかそんな雰囲気してたよ、一夏たちも目が点になってるよ。
「それよりさ、今日の放課後って時間ある? あるよね。久しぶりにまた、三人でどこか行こうよ。ほら、駅前のファミレスとかさ」
「鈴、そこ潰れたよ」
「あ……。そう。そうなの……」
「去年ね」
いつもの四人で勉強会とかに結構使ってたんだけど、いきなり閉店のお知らせが出て、そのまま潰れちゃったんだよね。
あの時はびっくりしたな……で、その後は結局僕の家に落ち着いたんだっけ。
「ふぅん。意外と寂しいわね……。はい、これちゃんと噛んで食べるのよ」
「介護かな?」
だから、白髪頭だけどまだおじいちゃんじゃないんだってば。
そりゃ油断してたら若い人でも詰まらせるよ、でも僕そんなうっかりじゃないと思うんだけどなぁ。
「それなら、最悪学食でもいいから。……ほら、ここ一年の事を一夏、アンタから聞いときたいの」
「うーん。去年は俺も受験勉強で忙しかったしな……。でもまあ、それくらいなら」
お、一夏も乗り気になってきた?
「──生憎だが、一夏は私とISの特訓をするのだ。放課後の予定は埋まっている」
と、箒。
あらら……一夏ってばすっかり箒のおしりに敷かれてらっしゃる。
「そうですわ。クラス対抗戦に向けて、特訓が必要ですもの。特にわたくしは専用機持ちですから? ええ、一夏さんの訓練には欠かせない存在なのです」
おや? 様子が変だと思ってたけどこれ、もしかしてオルコットさんも?
やるねぇ、一夏。さすがいい男だ……怖い女の子に挟まれてるのには同情するよ。
「じゃあそれが終わったら行くから。予定空けといてよね。……雪夫、口開けて」
「……?」
餅がもっちもち……なんてくだらない事を考えつつ、細切れにされた餅を食べながら会話がまとまっていくのを眺めていると、横から鈴が箸を出してきた。
「……!」
「はい、ナルト好きでしょ。食べたら行くよ」
「ん」
本当、鈴って僕以上に僕の事を知ってるよね。
◇
五月。来週からいよいよクラス対抗戦だというそんな平日の夕方に、顔を真っ青にさせた先生たちが僕の周囲を行き交っている。
(誰かの特訓以外でピットに入るのは何気にはじめてだな……)
僕がいるのはとあるアリーナのAピット。今日はここだけ生徒に解放されず、アリーナには先生しかいない。
本当は鈴もついてきたがっていたんだけど、あんまり先生に無理を言ってはいけないから今日は一夏たちの方に行ってもらった。
「こ、この中です……」
「ありがとうございます」
「い、いえ。……わ、私はもう行きますが、質問などはありますか?」
「大丈夫です」
「そ、そうですか。な、何かあったら近くの先生に訊いてみてください!」
いや、先生、この辺に人いませんけど……?
ここまで案内してくれた先生が足早に立ち去り、ひとまずここ一帯には僕と大きなコンテナだけが残された。
……そう、なんでも今日のお昼頃に姉さんから僕の専用機が届いたというのだ。
(姉さん、言ってくれればよかったのに……)
昨日の電話ではそんな事ひとっ言もなかった。
多分、姉さんなりのサプライズだったんだろうけど、思いっきり時間ズレちゃってるよ……先生にも迷惑かけちゃってるし、謝っとかないとね。
なんていうか、生徒宛の大切な荷物を預かる気苦労ってやつなのかな。ここに来るまでにすれ違った先生の顔みんな蒼白だった。
きっと責任感の強い先生ばかりで、生徒の荷物に何かあっちゃいけないって、お昼から神経すり減らしたんだろうな。お疲れ様です。
「…………」
目の前にあるのは、一般的なのものより一回り近く大きな金属のコンテナ。正面に液晶パネルがあって、その下にあからさまなタッチパネルがある。──というか、『← Touch me !』って張り紙がされてる……。
「……オープンセサミィ」
冷たいパネルに手のひらを合わせると、カシュッカシュッと空気の抜ける音がした。同時に中からモーターが唸る音も聞こえてくる。
高まる期待感……ロマンだね。
『パ、パカパーン! サプラァ〜イズゥ!』
「……姉さん?」
パッと液晶にご機嫌な姉さんが映し出された。
おー、開幕一言目がマトモな姉さんを見たのはかなり久しぶりだ。
『おっひさー、ゆっきー! やーやー、愛しの束さんだよ〜元気してた〜?』
「う、うん……?」
姉さん、なんか様子が変だな。
機嫌がいい時は大抵テンションが高い方だけど、こんな他人行儀な感じじゃないし……ていうか、久しぶりって毎日電話してるじゃん。
『さて、挨拶もそこそこにしとこっか。──で、まだそこにゆっきー以外の人間がいるなら出てってもらえるかな? 今、束さんとゆっきーが家族水入らずでお話しようとしてるんだけど? ねえ?』
「……いないけど」
金属の箱からニュッとうさぎ耳のような装置が飛び出して、回転しながら淡い光を照射し辺り一帯を照らしはじめた。──で、何これ?
一通り舐め回すように光を浴びせた後、うさぎ耳はまた箱の中に引っ込む。何だったの今の……。
『うんうん。賢い選択だね……はふぅ』
「お?」
『──うえ゛え゛え゛え゛え゛え゛……』
「えぇ……」
あ、いつもの姉さんだ……。
さっきまでとは打って変わって、堰を切ったように泣きはじめる姉さん。ダムの決壊も川のせせらぎに感じられる勢いで、大粒の涙を絶え間なく流し続ける。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……』
「姉さん、結構周りに響いてる」
『ゆ゛っきぃ゛……゛。これ録画だよぉ゛……゛』
液晶画面に姉さんの顔が頬から張り付く。
これがカートゥーンアニメとかなら、姉さんの上半身が画面から出てきてるとこだ。
……というか録画だったのね、これ。
『ボリュ゛ームは……タッ゛チパネル゛で調節できるよぉ゛……イ゛ヤホンジャックもある゛よぉ……』
「あ、うん……」
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん……゛』
本当、姉さんは泣き虫だなぁ……。
そっとスピーカーのボリュームを下げながら、僕は号泣する姉さんのお話を気長に聞くことにした。
クラス対抗戦の日程では、一回戦の組み合わせは鈴と一夏。
なんだか波乱の予感がする……なんてね。
後書き
こいつは大きいですね……。
予定通り、次回は専用機のお披露目になるはず。
はたして、束ちゃんのスーパーゆっきーウルトラゆりかご計画とは?
作者は感想を24時間いつでも受け付けております。
毎回の感想、誤字報告ありがとうございます。