ヤンデレ真秀ちゃんに死ぬほど愛される日常 作:コントラポストは全てを解決する
放課後、音楽室にて。優雅に軽やかに美しく。午後のティータイムのような爽やかな気持ちで、俺はグランドピアノを弾いていた。曲名は「忘却のワルツ」。俺が自作したグランドでエレガントな曲だ。いつか歌詞もつけてあげたい。
それにしても、グランドピアノの鍵盤は本当に重い。8000円の電子ピアノとはえらい違いだ。だが、ピアノを弾いているという実感がある。
家にもでっかいグランドピアノを置きたいが、生憎俺の部屋はそこまで広くないし、ただの一軒家だし。今は安物電子ピアノで我慢するとしよう。
あー、ピアノって楽しいな。初音ミクの千本桜とか消失とか、ピアノで弾くと楽しいよね。メロディ刻みながらの高速鍵盤連打で脳内麻薬ドバドバ出して最高にハイになりたい。
ここで一句。
ピアノはね、鍵盤叩くと、レボリューション──
「あ、やっべ指つった痛だだだだだ。あ〜神様が俺にグランドピアノに近づくなって今日も言ってる〜〜〜ふぁぁ(上擦った声)」
俺はいつもこうだ。グランドピアノで1分以上鍵盤を叩くとこうなる。まるで成長しやしない。これはお前の人生だ。何をしてもお前の不健康さが邪魔をする。お前は何も成し遂げられない。誰もお前を愛さない。
真秀に愛されてぇなぁ(しじみ)
「あの、まほろさん、大丈夫ですか?」
「ん?あ、麗か。大丈夫大丈夫。いつも通り指つっただけだから」
「お可愛そうに……」
俺のつった指を心配そうに撫でて癒してくれてるこの女性は渡月麗。ここ音楽室で放課後とかによくピアノを弾いてる。そして俺のピアノ仲間。
「俺のピアノ、どうだった?」
「いつも通り素晴らしい演奏でした。指使いもしなやかで、表現力もあり、かつ大胆さと繊細さを見事に使い分ける優雅な音。常に思ってますが、なぜコンクールに出ないんですか?」
「俺は曲を作るのが仕事だからね。それに、柄じゃないし俺の指じゃ出来ないし」
綺麗なお召し物を着て、大きいドームかなんかで審査員相手に演奏。うーん柄に合わない。俺はなんというか……こう……自由で皆とワイワイできるピアノがやりたいんだ。
「やはり、まほろさんに足りないのは指の力……。フィンガートレーニングをしましょう!」
「あー……専用器具使ってするトレーニングね。でも、お高いんでしょう?」
「大丈夫です!この間Amazonで1000円ぐらいのものを買っておきました!どうぞ!」
「うわーぉ。用意周到」
フィンガートレーニングの器具ってトランペットのあの押す部分みたいだよね。俺はこれから毎日毎分毎秒フィンガートレーニングをしなきゃいけないのか。俺のこの手が真っ赤に燃えそう。
「まほろさんは、もっとグランドピアノを弾きたいと思いませんか?」
「弾きたい」
「なら、トレーニングしましょう。私もお付き合います」
「このトレーニングなら俺1人で出来そうだけど──」
「……まほろさんは、私と特訓するのはお嫌でしたか……?」
え、何その顔。突然なに。なんでそんな捨てられた子犬みたいな目するの。……ははぁん?さては俺がその目に弱いこと知っててやってるな?真秀も昔その顔したんだよ。初めて見た時は思わず抱きしめたね。
「分かった分かった、一緒にやろう。それで、どうすれば宜しくて?」
「では、人差し指から1本ずつ、各10回でやりましょう。それを3セットほど」
「なるほど」
試しに、器具の人差し指のピンを押してみる。できる限り強く押して……押して……押し、て──
「何これ硬い。動かないんだけど」
「そ、そんなはずは……。まほろさん、少し貸してください」
麗に言われたので渡し、麗が俺と同じ指でピンを押す。そしたら押し込まれた。嘘やん。俺がやっても押し込まれなかったのに。さてはこの器具、選ばれしものしか押せないものだな?
いや違う。俺は主人公だから選ばれし者だ。ということは……まさか麗が……
「麗って、怪力ゴリラ……?」
「なっ……!?ち、違います!まほろさんが非力なだけです!私は決して、怪力ゴリラなどでは!」
「うんチーコングって知ってる?」
「知りません!!!」
う ん チ ー コ ン グ っ て 知 っ て る ? だ。に ど と ま ち が え る な く そ が。
「嗚呼、麗様。非力な私にどうかその怪力でお恵みを」
「私は!決して!!怪力などでは!!!ありません!!!!怒りますよ!!!!!」
「もう怒ってるやん」
ぷりぷりプリパラしながら怒ってますやん。怒った女性は怖いと聞くが、麗からは不思議と恐怖を感じない。きっと愛され体質なのだろう。可愛いね。
「まあ、冗談はこのくらいにして。これは真面目に俺の筋力の無さをどうにかしないといけないようだな」
「まほろさん、私に言うことがあると思います」
「ごめんなさい。麗は怪力ゴリラなんかじゃなくて可愛い可愛いラプンツェルだよね。君はシンデレラガール。うんうん」
「……あまり誠意を感じませんが、まあいいでしょう」
この誠意に満ち溢れた謝罪をおふざけと思われたらしい。お兄さん悲しいなぁ。まあ、それだけ麗が怒ってたわけだ。反省。
筋トレの話に時を戻そう。
「フィンガーだけじゃなくて、やっぱり体全体を鍛えた方がいいと思うんだ俺的に。毎日腕立て腹筋20回ずつやってるんだけどね」
「まほろさん、栄養が足りてないのでは。どれだけ身体を動かしても、それを筋肉に変えるエネルギーがないと意味ないと思います」
「もっと食えと」
胃袋が小さくてあんま入らないし、食もち良いから昼と夜しかご飯食べないし、食べたとしてもおにぎり2個とかカロリーメイトとかだし。栄養バランスはいいかもしれないが、量がダメと。そういうことだろうか。
「なんか、量は少ないけど栄養はめっちゃ取れて、筋肉増量する食べ物ありません?渡月研究所とかにさ」
「うちで紹介できるのは、出来てトレーニング器具とかです。そんな都合のいいものありません」
「厳しい世の中」
俺主人公なんだからもっと主役に優しい世界になってよ。筋肉増量する悪魔の実とかさ、ひみつ道具とか。助けて麗えもん。
「プロテインなどを飲んでみるのはどうでしょうか?」
「あー、プロテインって溶かしても粉っぽくて苦手なんだよね」
「あ、でしたら、家が作った新作のプロテインのサンプルがありましたよ。よく溶けて飲みやすいを目指して開発されたものなんです」
「でも、お高いんでしょう?(2回目)」
「まほろさんならタダでいいです。良かったらうちで試飲しませんか?」
「おお、いいね」
渡月家が作ったプロテイン、何味があるんだろう。個人的にはいちご味があると嬉しい。
じゃあ、麗の家に行く日は追追決めるとして、今日はピアノを。
「それではまほろさん、参りましょう」
「え、今から行くの?」
「?……そうですが」
気づけば麗が帰り自宅を初めていた。今から行くんだね。心做しか麗がウキウキしてるように感じる。
「いきなり上がっちゃって大丈夫?」
「大丈夫です!行きましょう!」
「アポ取った方が良くない?」
「大丈夫です!!!行きましょう!!!」
「お、おう」
なんだろう。麗からそこはかとない圧を感じる。俺をなんとしてでも家に連れて行きたいという念が送られてきた。ここは麗に従って彼女の家に行くとしよう。じゃなきゃ麗がまた捨てられた子犬みたいな目をしてしまう。
「……まほろさん、もしかして予定が合いませんでしたか?」
「ああ、大丈夫。失礼じゃないかなって思っただけだから。じゃあ行こっか」
「はい!」
麗は嬉しそうに笑っていた。なんだかこっちまで元気になってしまう。きっとこれも麗の魅力なんだろうな。さぞかしモテることだろう。麗は家も大きいし、きっと皆の憧れの的になっているはずだ。
俺は荷物をまとめて音楽室のドアを開けた。思い返せば、今日は騒がしかったな。真秀とむにがバチバチ火花散らしてて、それが飛び火して。学校じゃなかったら死んでたところだ。それに比べて、麗は大人しくて助かるよ。真秀もむにも麗のこういうところを見習って欲しい。今度紹介しようかな。まあ、今はとりあえず麗の家に行こう。話はそれからだ。
さらば音楽室。いざ外の世界へ──
「へぇ……まほろ、大鳴門さんのところにいないと思ったらこんなところで油売ってたんだ。
──で、その女は誰?」
俺は音楽室の扉を閉めた。
おかしい。昼休み修羅場だったから放課後も絶対修羅場になると思って真秀に気づかれぬよう音楽室に来たのに、なぜ真秀がここに。おかしい。
「あの……まほろさん、今の方は?」
「ああ、俺の幼なじみ。ちょっとビックリしちゃって」
「そ、そうですか」
つい反射神経でドアと鍵をかけちゃったけど真秀怒ってるかな。怒ってるよな。めっちゃドアノブガチャガチャさせてるもん。こっわ。ああ、ドアを開けたら光のない目の真秀がいるんだろうな。
俺はブレイブハートでドアを開けた。どうか生きて帰れますように。
「ご機嫌麗しゅう真秀さん、今日はいい天気ですね」
「まほろ、帰るよ」
「あ、待ってこれから大事な用事が──強い、引っ張る力が強い……!抗えない……!」
先程麗を怪力ゴリラと言ったが、真秀の方がよっぽど怪力ゴリラだ。真秀が引っ張る方向と逆の力に負荷をかけてるのに真秀が勝つ。おかしい。こういう時は男が勝つものでは?助けて麗ちゃんせんせー。
「あ、あの!」
「……何。私、まほろを連れ帰るので忙しんだけど」
「まほろさんは私の家に遊びに来る約束をしてるんです。つ、連れ帰らないでください!」
「まほろが……他の女の家に……遊びに行く……?ダメに決まってるじゃん。ごめんね。まほろは私のものなんだ」
「ッ!!!!」
別に遊びに行くぐらいいいじゃん。過保護な母ちゃんか。確かに俺は真秀のものかもしれないけど、今日くらい特別と言うことで──……麗はなんで俺の腕を掴んでるの?あ、待って真秀と反対の方向に力入れないで痛い痛い痛い痛いやっぱ麗も怪力ゴリラじゃまいか!
「……誰かは知らないけど、私の邪魔をしないでくれるかな。私とまほろの間に入らないで」
「私だって……まほろさんの友達です……!仲良くする権利はあると思います!」
「まほろに私以外の女はいらないの。帰って欲しいな」
「嫌です!!!!」
右へ左へ、俺は腕を引っ張られる。嗚呼、また修羅場が幕を開けてしまった。むにと言い麗と言い真秀と言い、なぜ俺をそこまで欲しがる。俺は1人しかいないんだからもっと優しく扱って欲しい。
「まほろを離してよ」
「嫌です!まほろさんは渡しません!!!」
「それはこっちのセリフだよ。私のまほろを……私からまほろを奪わないで!!!」
先程よりさらに強く腕を対極に引っ張られる。ちぎれるぞ、そろそろ腕が、ちぎれるぞ。真秀も麗ももう少し力加減というものを学んで欲しい。俺は今までこんなゴリラ達に囲まれて生きていたというのか。よく生きてたな。
「私のまほろなのに……」
「私のとか誰のとか、まほろさんはまほろさん自身のものです!あなたのものではありません!」
「ッ!言わせておけば!!!」
おうおう、ヒートアップしてきたな。熱さで俺の凍てついた背筋も溶けそうだね。
まあ、これ以上事が長引かないように、そろそろフォローを入れよう。
「真秀さん真秀さん、そろそろ腕を離してくれないと折れちゃいそうなんだけど」
「なんで私に言うの?そっちの女が引っ張るのがいけないんじゃん」
「麗とは約束があるんだ。だから、離して欲しい」
「まほろ、その女の味方するの?なんで?まほろは私のものなんだよ?私と一生を共にするんだよ?他の女なんていらないの。余所見なんて、絶対許さない」
うーん、珍しく真秀がわがままになっている。仕方ないから真秀も一緒に行こうか……。でも、いきなり知らない人が2人遊びに来て、麗のご両親の迷惑にならないか心配だ。やはりここは真秀を説得して先に帰宅してもらおう。大丈夫、俺の真秀ならわかってくれる。
「真秀、大丈夫だよ。俺はちゃんと帰るから」
「……小3の4月28日、同じこと言ったけど2日帰って来なかった」
「今度は大丈夫。ほら、約束するから」
「約束……」
真秀の俺を引っ張る力が少し弱まった。もう少しだろうか。てか、小3の4月28日の俺は何をしていたんだ。おかげで真秀がこんなに悲しそうな顔をしてるじゃないか。
「真秀、信じて欲しい。帰ったら真秀の言うこと何でも1つ聞くからさ」
「……ほんと?」
「ほんとほんと。真秀のために一肌脱いじゃう。だから待ってて欲しい」
何でもとか言ったら、二度と私から離れないで、とかお願いされたりするのだろうか。まあ、真秀のためならこの命だって捨てるけど。
「真秀、俺は真秀が好きだよ。真秀は俺の事好き?」
「……好き」
「お互いの気持ちが一緒なら大抵の事は大丈夫だ。俺は真秀を1人にしない。だから真秀は、安心して待っていて欲しい」
「まほろは……私が……好き……」
「おう、好きだ」
しばらく真秀は考え込んだ。好きという言葉がだいぶ響いているらしい。真秀は昔から、「好き」って言われるのが好きだったな。俺もよく真秀に好きって言っていた記憶がある。好きという言葉は特別だ。だから真秀もわかってくれると思う。あとは真秀次第。
「真秀」
「…………分かった。今日は特別に、その女の家に行ってもいい」
「うん、ありがと」
真秀が腕を離してくれた。良かった、わかってくれたみたいだ。
「でも、絶対絶対帰って来て。約束したからね」
「おう、絶対帰る」
「うん。……じゃあ、またね」
「また後でな」
そして、めっちゃ寂しそうな顔をしながら真秀は帰って行った。なんだか罪悪感がすごい。まあでも、ちゃんと帰るし、代わりにお願い1つ聞くって言ったし、大丈夫だろう。さてと、麗の家に行って例のブツを飲んでみましょうかね。
「さ、麗。行こっか」
「……まほろさんって、女の子を依存させる才能でもあるんですか?」
「なんじゃそりゃ。そんな才能があったら、今頃拗れて俺はこの世にいないよ」
「ですが、先程の幼なじみさんを見てると……その…………それに、私だって……」
「?」
ピンチを何とか片付けた俺は、この後無事麗の家にたどり着いた。試作のプロテインは結構上物で俺好みだったよ。ぜひ一般販売して欲しい。お前らも飲んでみな、飛ぶぞ。