神も仏もいないなら   作:りっくんちゃん

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誤字報告ありがとうございます。

2021.03.01 冒頭の部分を修正しました。


2.閑静な街に微睡む洞

 日が傾き始める。

 

 私は公園の木陰に座って水を飲んでいた。

 

 前回の戦闘から二日がたった。その間、久しぶりに夜に寝て、昼に活動する生活をしていたが、この街は温かい雰囲気に包まれた街だった。

 

 比較的に栄えているであろう都市部にもビルはほとんど無く、ところどころに木々が立ち並んでいた。先日戦闘を行ったあの廃ビル群も建設されたはいいものの、雰囲気が合わないからなのかすぐ使われなくなったのだろう。しかし、人通りが少ないわけではなく昼は主婦や子供たちが買い物に出かけ、夜は仕事終わりの大人たちが飲み歩いているようで、喧騒が途絶えることもない。

 

 住宅街ではよく近所の人たちで井戸端会議をしている姿が見られるし、いつもいつも子供たちが集団で遊びまわっている。その分、余所者は目立つようですこしずつ私に目をつけられているような気がするが。

 

 この公園はそんな都市部から少し離れた住宅街に設けられているようだ。

 

 休日だからだろうか、公園は昨日よりも人通りが多く、大人も子供も入り混じっている。夕方でも夏のうだるような暑さが満ちているからだろう、公園では備え付けられている噴水をつかって子供たちがはしゃぎ、その様子を両親であろう大人たちがともに遊んだり、温かい目で見守っていた。

 

 誰もかれもが、そんな素敵な休日を謳歌している。誰もが経験していそうで、見る人の心が温まるような景色だ。

 

 そんな煌びやかな風景が私は嫌いだ。

 

 もう、この手にはないものだから。失って、取り戻せないものとわかっているから、妬ましい。

 

 無邪気に走り回っている子供が嫌いだ。日常を当たり前のように享受し、我が物顔でふるまう姿は昔の自分を思い出して吐き気がする。

 

 温かく子供を抱擁している親が嫌いだ。常に子供の隣にいるような顔をして安心させるくせにいざ危険が迫ると子供の前に立って真っ先にいなくなる。その後、こどもがどうなるかも知らずに。

 

 そして、何より、こんな歪んだ見方しかできなくなった今の私が死ぬほど嫌いだ。

 

「おねえちゃん、だいじょうぶ?たいちょうわるいの?」

 

 そんな子供の一人が私に話しかけてきた。中学生になったこの身はこの時間に一人で出歩いても違和感はないはずだ。それにもかかわらず話しかけてくるあたり、いよいよ私の存在がこの町で目立ち始めたか、私の顔がよほど歪んでいるのか。

 

「だいじょうぶだよ。気にしないで遊んでおいで。」

 

 そう言って公園から出る。流し目にその子を見ると彼女の親であろう人が知らない人に話しかけるなと叱っていた。はた目から見れば、自身を見つめていた不審者にでも見えていたのだろう。あながち間違いではない。

 

(いや、中学生が公園にいただけじゃ不審者とは思われんと思うぞ。)

 

 …しばらく黙っていたのに、突然茶々を入れ始めたな。何か公園では気になるものでもあった?

 

(なに、おぬしが感傷に浸っておるから静かにしてやろうと気を遣ってやっていただけよ。)

 

天下布武を謳ったかの御仁が随分と丸くなったものだ。

 

(…まあ、それが原因であの最期があったわけじゃし?同じ失敗を繰り返す愚か者になるわけにもいかんのでな。)

 

 そんなものか。

 

(さて、軽口はここまでとしておぬしが昨夜絡んだ呪霊の行方を追うぞ。)

 

 ええ、そうしよう。

 

 一昨日の夜に祓った呪霊はあれで全部ではない、というのが私たち二人の見解だった。理由は単純、まだ毒の影響が私の身体に残っているからだ。私の術式で大部分を無力化させたが脱力感が抜けず、呪力の消費の関係もあってこの二日間はろくに索敵ができなかった。こんなことなら、最初から術式を使うべきだったか。

 

(まあ、後悔は先に立たんし?それよりも、奴らの根城を直接たたくべきじゃろうな。)

 

 その通りだ。群れの呪霊であるなら、その巣が存在してもおかしくない。もちろん、生物としての蜂と呪霊として蜂を一緒にしてはいけないだろうが、それでもある程度奴らは合理性をもつ。

 

(蜂の巣、といえば住宅街の軒下とかにあるイメージじゃが。)

 

 それはないだろう。この街はかなり地域のネットワークが発達している。もし不審死が続出している地域があれば話題になっているはずだ。

 

 そうなると、考えられる場所は山や畑といった人の少ない地域だろうか。実際のオオスズメバチは畑や山の斜面に巣をつくる傾向がある。

 

(その可能性も低いじゃろう。)

 

 なぜ。

 

(人が少ないからじゃ。確かに生物の蜂はそういう理由で巣を選ぶのかもしれんが、相手は呪霊。いくら蜂の呪霊でも彼らが生まれる場所は人が多い地域に限定されるじゃろう。そうでなければ人の恐れが顕在化できないからの。それに、呪霊とやらは生まれた場所にとどまろうとする傾向があるらしいし?)

 

 だけど、この町の建物にそれらしきものはなかった。回復中にあらかた見回ったが住宅街には時々、アシナガバチの巣がある程度で特別多いわけでもない。それもすぐに撤去されている。都市部には使われていない建物もいくつかあったが直接見て怪しい呪力が満ちた場所はなかった。

 

(なら、この町で有名な心霊スポットとかじゃろうな。)

 

 確かに、心霊スポットは人通りが少ない場所に多く、恐怖の象徴でもあるので呪霊は湧きやすい。実際何度か払った呪霊の中には心霊スポットにいるものもいた。だけど、こういった田舎の心霊スポットはネットで調べてもあまり出てくるものじゃない。

 

 …人に、聞くしかないか。

 

(いや、わしにいい考えがある。)

 

 

 

 

 

 じめじめとした暑さは変わらないまま時間が経過し、夜になった。呪霊の時間だ。私は住宅街から離れ、森と人里の間に近い草むらにしゃがんで身を隠している。

 

(別に呪霊は昼も出てくるのじゃがな。)

 

 それで一体、どういうつもりでこんなところで夜が来るまで待つことにしたのか。人がいない森にはいないって言ったのは貴方だったきがするが。

 

(確かにそういったがこうもあやつらを見ない以上、この辺りにしかいないと思っての。)

 

 どうして?

 

(一昨日の夜、おぬしが術式で奴らを祓った時、いくつか残骸が残ったのを覚えておるか?)

 

 確かに。全部回収しようと思ったけど、途中で警官が来たから諦めざるを得なかった蜂の死骸の破片があった。それがどうかしたのか。

 

(その死骸の欠片が残るということがおかしいじゃろ。おぬしの術式の性質上、呪霊が祓われたなら一片たりともその場には残らんはずじゃ。)

 

 そんなこと言ったって、私自身、この術式はよくわかっていないから例外だと思ったのだが。

 

(その可能性もある。じゃが、この場合は別じゃ。おぬしが拾った死骸のほとんどが石灰じゃった。)

 

 …石灰?貝殻などの成分をあの蜂が持ってたということか。

 

(そうじゃな。しかし、この地域は山に囲まれとるし海にわざわざ取りに行ったとは考えずらいじゃろ?)

 

 ということはつまり…この辺りがカルスト台地になっている。

 

(そうじゃ。いま居るあたりは他の地域と比べて地盤における石灰の含有率が高い。じゃからこの辺りに巣があるじゃろうと考えたわけじゃな。儂、頭いい!)

 

 …確かに一理あるか。それなら、別に夜まで待たず昼のうちに探し回ったほうがよかったと思うが。

 

(おぬし…いくら場所が絞られたといってもこの辺りの山をしらみつぶしに探すにはどれだけ時間がかかると思っておるのじゃ…。蜂の巣探しのやり方なんぞ決まっとるじゃろ。)

 

 その時、大きな何かが私の頭上を高速で飛び去った。

 

(追跡して蜂自身に教えてもらうんじゃよ。)

 

 

 

 

 

 走る。それも全速力で。

 

 一昨日の夜と構図は同じだが奇しくも立場が逆転している。今回はあの蜂が追われる側で、こちらが追う側だ。

 

(ま、あの蜂はおぬしのこと気づいてないようじゃがな。それどころじゃないのかの~)

 

 確かに呪力を強化に回して走っているにも関わらず、蜂は気づいたそぶりも見せない。呪力を使わないと追いつけないのでちょうどよかったが。気づいていないほど余裕がないのか、それとも気づいたうえで見逃しているのか。

 

 そして奇妙なことが一つ、山道が整備されている。山の夜道を月明りを頼りに走る以上、かなり気を付けないといけないと思っていたがおかげで気を張る必要がなくなった。地面は獣道ばかりではなく、人の靴によって踏みしめられた道ができているし、危ない場所には転落防止用のフェンスまでつけられている。

 

(人通りの多い場所、かつ普段は人が寄り付かない山の中。蜂と呪霊の両方に都合がいい場所があったわけじゃな。)

 

 よほど有名な心霊スポットか、それともこの町の観光名所でもあるのか。ともかくとして悪条件の重なった結果、呪霊の巣が生まれたわけだ。

 

 そんなことを考えながら呪力を頼りに呪霊を追っていると蜂が急激に高度と速度を落として呪力の反応が消えた。この辺りに巣があるということか。

 

(さて、本番じゃ。気をしっかりの。)

 

 言われなくとも。鞘からへし切長谷部を抜いて構えながらゆっくりと後を追う。すると、視界の先が急に開け、月明かりがその先を照らしていた。

 

 洞窟だ。この先のあたりで呪霊の反応は消えた。

 

(また、やっかいな場所に巣をつくったものじゃ。月明かりが全く入らんからなんも見えんぞ。)

 

 確かにライトも持ってきていないため、かなり不便な状況だ。が、そこに呪霊がいると分かっている以上、引くという選択肢はない。意を決して洞窟に踏み入れる。その瞬間。

 

 世界が、変わった。

 

(!これは、かなり厄介な呪霊を引き当てたようじゃな。)

 

 呪力によって自身の好きなように空間を作り変える能力。滅多にそれを用いる呪霊はいないが、そういった呪霊は須らく強力で凶暴。

 

 内部は鍾乳洞がベースになっていた。元来は観光名所だったのだろう。壁にはヒカリゴケらしきものがくっつき、淡い光を放出することで神秘的な景色を作り出している。

 

 そこら中に開けられた薄気味悪い無数の穴が無ければ、の話だが。

 

(退路も閉ざされとるな…。正直、おぬしには手に余ると思うが?)

 

 笑止。撤退なんてここまで来てあり得るわけがない。

 

(そうじゃろうな。…呪力に満ち溢れとるから正確にはわからんが現状、周りに呪霊はおらん。)

 

 彼女の言葉を信用して先に進む。どこもかしこも同じような風景で、ヒカリゴケのおかげで壁面の観察は滞りなく行うことができた。その薄気味悪い穴をじっくり見れるのが幸か不幸かはわからないが。

 

 バキッ

 

 何か固く、もろいものを踏んづけた。いくらヒカリゴケがあるからと言って十分な光源があるわけじゃない。暗くて見えなかったので目を凝らしてよく見ると、

 

「っ!」

 

 人の頭骨だ。よく見れば、地面のそこら中に人骨が広がっていた。あまりの数に息を吞む。

 

(よくもまあ、ばれずにこんだけ食ったもんじゃの。)

 

 その通りだ。明らかに被害者の数とあの町の雰囲気が合わない。こんな数が消失していれば大騒ぎになるはずだ。何かがおかしい。

 

 そう思いながらも先へ進んでいくと、開けた場所に出た。気味の悪い穴も、鍾乳石もない平坦な場所。そこに一人の女の子が倒れている。

 

 見覚えがある。昼、私に声をかけてきた女の子だ。

 

(まて!うかつに近寄るんじゃ…)

 

 そう認識したとたん、彼女のもとに駆け出していた。頭に響く制止もろくに聞かず彼女を抱き上げる。

 

「大丈夫っ!?」

 

 外傷はみたところ何もない。少し泥が服についているだけだ。何度も呼びかけて、体を揺らすとゆっくりと目を覚ました。

 

「ひるまの、おねえちゃん?…ここ、どこ?」

 

 よかった。目を覚ました。無事だった。不安に思ったのか、途端に涙声になり始めたが大声で泣きださないだけ聡明な子だ。

 

「大丈夫。すぐに家に連れていくからね。」

 

 呪霊を祓うのは後回しだ。先にこの子をこの空間から出さないと。出口は消えているけれど私の術式で無理やり突破すれば…

 

 そう脱出の算段を立てながらとりあえずこの空間に入った方向へ戻ろうと振り返った瞬間、

 

 女の子の腹を大きな針が突き破り、私の心臓を貫いた。




 ご読了ありがとうございました。

 暇つぶしに書いたものでしたが思ったよりも読んでくださった方が多くて驚いています。どれだけ呪術廻戦が面白いかということが実感できました。
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