ガン艦これくしょん ~U.C.からの漂流者~   作:d1199

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このSSは艦娘を独自解釈をしています。

埠頭に立って足柄を見ると、彼女は人間サイズの人型です。つまり艦これ方式です。
ですが、彼女らに乗り込む事ができ、乗り込むと船型に変わります。つまりアルペジオ方式です。

切り替えではなくどちらも同時に成立します。
艤装を持つ人型の艦娘と登場しても、同時に船型でもありますのでクルーとして働く妖精さん達が存在します。
艦娘は、船型世界・人型世界という二つの世界を跨ぐ橋様な存在だと思ってください。

え? 意味が分からない?
感じろ!


黒鉄の十字架

 巡洋戦艦 金剛・艦橋。駆け込んできたのは、妖精さん〈通信士〉である。

 

「浦風ヨリ信号。『我、敵艦影ヲ発見セリ。指示ヲ求ム』」

 

 艦橋内が慌ただしくなった。艦橋内に立つ金剛は、風雨に曝らされ外側が雨の滝となっている窓の内側から、船外を双眼鏡で覗き込んだ。それは、乱高下する海面によって現れたり隠れたりしていた。それは、鮫と鯨を掛け合せた様なフォルムを持つ異形の艦艇だった。

 金剛の秀麗な表情が陰った。

 

「あの艦影は、駆逐艦イ級のEliteタイプ?」

 

 荒れ狂った海を二隻の深海棲艦が、荒れ狂った様に進んでいた。

 日没が近くなり、当海域は薄暗くなっていたが深海棲艦は灯火管制を敷いていなかった。つまり、相手は金剛らに気付いていないと言う事だった。

 

(機先を制する事は、勝敗を制する。浦風のお手柄デス。But,どうしてここに居るノ? こんな大時化の海を強行する理由……撤退中の私たちを追ってきたと見るべきネ)

 

 彼女はレンズ越しのそれをじっと見ていた。こちらは手負い。弱い敵だろうと戦闘は避けるべきだ。きっと逃げられる。いや、それは希望的観測に過ぎない。逃げてる最中に気付かれれば先手を取られる事になる。逃げるか・闘うか。金剛は決断した。

 

「浦風に返信。『強襲ヲ掛ケル。我ニ続ケ』」

 

 逃げた挙句に、撤退中の本隊に追い付かれ被害を出す。彼女はそれが認められなかったのである。

 

◆◆

 

「総員戦闘配置ニ付ケ! 愚図々スルナ!」

「「「キャー!」」」

「「「ワー!」」」

 

 浦風艦内の通路に立つアムロが摘み上げたのは、妖精さん〈水兵〉を追い立てる妖精さん〈下士官〉だった。妖精さんはジタバタと手足を振っていた。

 

「放シテー!」

「忙しいところ済まない。深海棲艦をこの目で見たいから、見える場所に案内してくれないか?」

「アッチアッチ」

 

 彼が案内されたのは、浦風の艦橋にある見張り台だった。ベランダに似た構造のその場所は、容赦の無い風雨に曝らされていた。

 水滴まみれの双眼鏡に映ったのは、嵐の中でトグロを巻く黒い何かである。

 

「あれが深海棲艦。二人の敵か……(内に秘めるのは、怒り、苦しみ、悲しみ。これじゃ、ただの戦争と何一つ変わらない)」

 

 イ級をネオジオン兵と同じ様に見ていたアムロは、突然明後日の方向を見た。妖精さん達も釣られる様にその方向を見た。その方には、ただ夜の荒れた海が広がっていた。

 

「「「?」」」

 

 アムロの奇行に、妖精さん達は首を傾げるのみである。

 

 

 駆逐艦 浦風・艦橋。

 

「見張リ所ヨリ艦橋。敵艦ニ動キ無シ」

 

 浦風が仁王立ちで立つ艦橋では、妖精さん〈機関長〉・妖精さん〈砲術長〉などが、キリッとした表情で詰めていた。艦橋の窓から見えるのは、荒波を踏破する排水量三万トンの戦艦金剛の後ろ姿だ。浦風は外から目を離さずに言った。

 

「妖精さん〈副長〉、敵艦までの距離はナンボじゃ」

「現在五海里〈約九キロ〉デアリマス」

「未だ攻撃命令が来ないちゅーことは、金剛姉さんは時化と薄暗さに紛れて際まで詰める気か。正に、逢う魔が時じゃ」

 

 深海棲艦に向いている十二てん七センチ連装砲の方位角と仰角が、一定間隔で小刻みに動いているのは、弾道計算を絶えず更新し、狙いを微調整し続けているからだが、それは射撃指揮所などに詰める妖精さん達の懸命なる働きの結果だ。妖精さん達は、知恵熱を出しながらも測距儀・方位盤・射撃盤などの照準を行う機械に向かっていたのだった。

 

「弾道計算終了デアリマス」

「ヤリ直シ」

「エーッ!」

 

 場所は戻り浦風の艦橋である。攻撃命令を延頸鶴望〈えんけいかくぼう〉の念で待つ彼女は、仁王立ちだった。

 

(しかし。アムロ兄さんは、なんで深海棲艦に気がついたんじゃろ。優れた戦闘機操縦士は、目視せずとも感覚で敵の位置が分かると言うが……ただの偶然じゃ。そんなんなら、うち等が分からん筈が無い)

 

 難しい顔の浦風に話し掛けたのは、そのアムロだった。知らず、彼は艦橋に入って来てしまっていた。知らず、彼は深刻に言った。

 

「浦風。交戦は控えるべきだ」

「仕方ないんじゃ。逃げるにしても燃料の都合でうち等は速度がだせん。けれど心配せんでいい。こちらが手負いでもイ級如き一撃で沈め……」

 

 ギリギリとは、回る浦風の首が発する錆びたジョイントの様な音だった。彼女の顔は青ざめ、声は掠れていた。

 

「あ、あの、な。ここは、艦橋じゃけん。船の、うちの中枢じゃ、うちの、一番大事なところ……」

「軍規に抵触しているなら後でどうとでもしてくれ。それを押しても伝えたい事がある。遣り過ごすべきだ。推測だけれども、あれは追撃隊ではなく偵察隊だ。何処かに本隊が居るはず」

 

 浦風の青い髪がふさぁと逆立った。

 

「ひっ!」

「……なに?」

「ひやぁぁあぁぁああぁぁあっ!」

 

 浦風は双眼鏡を投げ付けた。アムロは器用に受け止めた。流石に彼は異議を申し立てようとしたが、彼女の憤る様は、彼の予想と異なっていたので彼は戸惑った。彼女は、威厳も余裕も無い素の表情をしていた。

 

「乗艦させたぐらいで何勘違いしてん!」

「非常時だとは理解してるがあれは偵――」

「チカン! ヘンタイ!」

「へん?」

「でてけーーーー!!!」

「話を聞け! あれは偵察!」

「んな与太話誰が聞くけ!」

「これは与太話じゃない!」

「本隊なんて幾らでもしごー〈こらしめる〉してやるけ! さっさと出てきーーーっ!」

 

 彼を艦橋から追い出した浦風は、バタンとハッチを閉めた。それを両手で押さえ付ける彼女の目尻には、涙が浮いていた。

 

「あんなすまし顔でこんなハレンチな事するなんて信じられん……どないしよ。一日も経つとらん奴に艦橋を土足で踏み躙られてもーたぁぁぁあぁぁぁ」

 

 彼女はヨヨヨと崩れ落ちた。

 妖精さんが「旗艦ヨリ信号。『攻撃開始セヨ』」と言ったので、浦風はがばりと起き上った。カツカツと靴音を立てて艦橋の定位置に戻った。

 

「砲雷攻撃始め。姉さん差し置いての一番槍じゃ。スカしおったら覚悟せい」

 

 それは、艦橋前方見張り所からの報告だった。

 

「敵艦艇ニ動キアリ!」

「勘付かれたか。じゃがもう遅いわ」

 

 金剛と浦風の主砲が一斉に火を噴いた。

 

 

 浦風の艦橋見張り台に立つアムロが、初めて見る艦砲射撃に驚いている頃だった。金剛の腰を巻く様に配置されている四つの主砲の内、三つから放たれた第一撃は、全て深海棲艦の周囲で水柱となった。高い波に足を取られながらも進む金剛は、険しい表情を見せた。

 

(強い風と強い波、予想はしていたけれど、一発ぐらい当てたかったデス)

 

 金剛の砲塔内では妖精さん〈砲術士〉達が懸命に働いていた。妖精さん〈砲術長〉から飛んだのは激である。

 

『次弾装填急ゲ!』

『急ゲー』

『急グー』

 

 妖精さん達は、一式徹甲弾を籠め、薬嚢を籠めた。そして尾栓を閉じた。

 

『射撃指揮所ヨリ艦橋。発射準備完了』

 

 金剛達はイ級から見て四時の方向から近づいていた。そのイ級は面舵を切り二人の針路を防ごうとした。深海棲艦がT字戦を狙っているのだと判断した金剛は、戦力差を考えて短期決戦を決めた。面舵を切り同航戦を仕掛ける事にした。

 砲撃の衝撃に備えて金剛の右足が海面を踏み抜いた事は、駆逐艦イ級の十二てん七センチ単装砲が、射撃準備をし終える前だった。

 

(遅いヨ。セカンドブリッドも頂クネ)

 

 その時、金剛から見て手前側になる駆逐艦イ級の右舷に、どす黒い水柱が突然立った。二隻のイ級は、致命的なまでに大きく揺れたのだった。

 

「What's Happen?〈何事?〉」

 

 金剛が首を傾げたのは、彼女がまだ砲撃していないからである。浦風が放った八本の魚雷のうち二本と一本がそれぞれに当ったのだった。続いて、ライフリングにより高速回転する十二てん七センチの徹甲弾が、イ級の頭上に降り注いだ。浦風の放った六発のうち二発が、それぞれの艦橋と右舷船側外板に命中した。

 金剛は、四海里〈約七キロ〉先で炎上する敵艦を、呆けた様に見ていた。荒れ狂う海の様は、彼女をあざ笑っているかの様だった。

 二隻の駆逐艦イ級は、悲鳴の様な大音響を掻き立てながら轟沈していった。吹き出していた黒煙も、強風に巻き上げられ消えた。風雨に曝らされながらも浦風は、海上で飛び跳ねた。

 

「いやっほーいっ! ざまぁみさらせ!」

 

 金剛は、借金の支払期日を失念していた様な顔で、ひぃふぅみぃと指折り計算しはじめた。

 

(エート。浦風の主砲は連装砲が三つデス。一斉打ち方なら弾数は六つで、着弾が二つ。放った八本の魚雷の内、命中が三本……悪天候なら三%が精々の命中率が三〇%以上? あ、アリエマセーン)

 

 浦風は喜びのあまり金剛の目の前で踊り続けていた。

 

「ざっとこんなもんじゃ! 金剛姉さん! 見てくれはってました!?♪」

「……」

 

 認めない訳にはいかない。かと言って戦艦としての矜持もあった。彼女は歪に笑って言った。

 

「Congratulations. ミテタヨ。でも弾着は統計だからこんな事もあるネ。これに慢心せず気を引き締め直さないとNoダカラ」

 

 だが浦風は聞いていなかった。

 

「なんでか分からないけど絶好調じゃ! 重巡だろうが戦艦だろうがナンボでも来んかい! うちが、まとめてしばいちゃる!」

 

 浦風の頬は、金剛の両指によって左右に伸びていた。

 

「いひゃい! 金剛姉さん! なにしはるぅぅぅっ!?」

「慢心・増長は破滅を招きマース。これは浦風の為デース」

「いひゃぁぁあぁぁいぃぃ!」

 

 浦風は涙目だったが、金剛も嫉妬と悔しさで目尻に涙を浮かべていた。砲撃による水柱が二人の近くに立ったのは、浦風が解放された直後だった。

 

 

 金剛と浦風は、荒れる海を尚荒らす複数の水柱を、縫う様に航進し続けた。

 

『取り舵! 針路二八〇度!』

 

 金剛艦内の妖精さん〈操舵士〉が舵を切った。アイススケーターの様に身を屈めて海面を蹴る金剛と浦風は、回避に専念していた。金剛は、後方から迫りつつあるそれを睨むのみである。

 

「Shit! イ級は偵察先遣隊でしたカ!」

 

 金剛の言葉を聞いた浦風が思い出したのはアムロの言葉だ。彼女は信じられないと思いつつ自分を罵った。二人の中では妖精さん達が大わらわだった。

 

『機関室! 蒸気タービンヲ限界マデ回セ!』

『機関長! エンジンが燃エチャウヨ!』

『泣キゴトナンカ聞キタカ無イネ。何トカシナ』

『アチチチッ!』

 

 金剛の妖精さん〈艦橋見張り員〉が叫んだ

 

『敵艦発砲!』

 

 複数の弾頭が、神経をさかなでる様な飛来音を奏でた。二人の左舷脇に立ち上った巨大な水柱は、二人を大きく揺らし二人を水浸しにした。バケツを引っ繰り返した様な飛沫の中から飛び出したのは浦風である。

 

「ぷはっ! あがーに〈あんなに〉バカスカ撃ちおって! 好かんのじゃ!」

 

 荒れる海の向こうに複数の艦影があった。二人は、艦種までは分からなかったが大型艦が二隻だと判断した。重鈍な戦艦のみならば、回避しつつ逃げ切れると金剛は考えた。

 

「浦風! 撤退シマース!」

「しゃーないですわ!」

 

 それは、金剛と浦風が面舵を切った直後だった。

 

「金剛姉さん! 本隊に打電を……ちょ、アムロ兄さん! 今取込み中じゃけん……え、なん? 回避先に、何かがおる?」

 

 浦風の妖精さん〈艦橋見張り員〉が、悲鳴の様な報告を上げた。

 

『右、十五度! 駆逐艦イ級三隻!』

『取リ舵一杯!』

 

 浦風が直前までいた航路に複数の砲弾が落ちた。気付くのが遅れた目の前の金剛からは、火の手が上がった。金剛の悲鳴が、嵐を斬り裂いた。

 

「Ahaaaaa!」

『旗艦 金剛被弾!』

 

 その光景を見た浦風は愕然とするのみだ。

 

 

 海軍戦艦の中で最も火力が弱く防御に劣ろうとも、戦艦の名を頂く以上立ち止る事はありえない。金剛は、額や左腕から血を流しながらも前進を止めなかった。だが彼女の艦内は大混乱だった。

 

『被害状況知ラセ!』

『第二主砲塔ニ直撃! 大破!』

『火災ト負傷兵発生!』

『消火急ゲ! 弾薬庫ニ火ガ点ク!』

『衛生兵! 衛生兵!』

 

 キレた浦風が、「大概にせぇよワレ!」金剛を砲撃した三隻の駆逐艦イ級に、全ての砲を向けたが、彼女の体は大きく揺れ、砲弾はあらぬ方向に飛んでいった。深海棲艦の大型艦に、背後から砲撃を受けたのだった。浦風は悪鬼の如く睨み上げた。

 

「うちらがおとなしーしてれば、調子にのりおーて……こ、このダボがぁっ!」

 

 第一主砲塔・第三主砲塔・五つの副砲で応戦する金剛だったが被弾した。

 

「っ! ……まだまだデース!」

 

 浦風は左右からの砲撃に煽られながらも、イ級の一隻に主砲十二てん七センチの砲弾を一発喰らわした。他は外れた。被弾し魚雷発射管が破損した。二人は探照灯を頼りに応戦するが、夜の海において船体から立ち上る火焔という名の火災は絶好の的だった。

 突然、夜の海が明るくなった。金剛が、吊光弾〈ちょうこうだん〉を撃ち上げたのは嵐が収まりつつあったからだ。金剛と浦風が見たモノは、右舷から追い立てる駆逐艦イ級三隻と、左舷から迫りつつある戦艦ル級・雷巡リ級だった。裂けた振袖を破り捨てた金剛は、悔しさを隠さなかった。

 

「深海棲艦が囮をするとは思いませんでしたネ。最初のイ級はエサで、右舷の駆逐艦は追い立てる役で、左舷の大型艦が狩人役。狐狩りの猟犬〈FoxHound〉デス」

 

 浦風は忌々しく言い放った。

 

「勝てん。そして逃げられん」

「Yesデス。そしてButネ。せめて一太刀打ち込むワ」

「いいえ。うちが足止めをしますから、金剛姉さんはアムロ兄さんを連れてこの海域を離脱してください」

「No! そんなのはNo!」

「嵐も治まりつつある。夜が明ければそれこそ逃げるのも不可能じゃ。二人ともが沈むのだけは避けんとならん。“戦艦”である金剛姉さんなら“駆逐艦”であるうちの立場も分かるじゃろ?」

「But,私、私は……」

「アムロ兄さんは、きっとうち等の力になる。安全距離まで離れたら打電して皆と一緒に佐世保へ帰ってください。ほな、後は頼みました」

 

 

 金剛は、針路を一旦一〇〇度に切った。甲板や見張り台などに立つ金剛の妖精さん達は、目に涙を浮かべながら浦風に敬礼を送っていた。

 火を噴いたのは彼女らに背を向ける浦風の砲塔である。飛翔する多数の砲弾は、イ級に命中する事は無かったが、金剛を追撃するのを怯ませるのに十分だった。

 海面を鋭く駆けつつも、浦風は自嘲するのみである。

 

「なんじゃ。先とちごうてちぃーとも冴えんな、うち。そうか、アムロ兄さんは毘沙門様の化身じゃったか。その兄さんの進言を受けておきながら、むざむざ……尚更この不始末はうちがつけんとならん」

 

 砲弾が飛来したので、彼女は海面を蹴り跳躍した。敵の砲弾は彼女の後方で弾けた。大型艦を傍目に彼女が向かうのは、三隻のイ級である。

 

「陽炎型 十一番艦 駆逐艦 浦風! おんどれらに目に物見せてくれる!」

 

 凪ぎつつあるそこは、台湾の最北の町〈基隆市〉から北西五五海里〈約十キロ〉の海域であった。

 

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