ガン艦これくしょん ~U.C.からの漂流者~   作:d1199

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藍 戦士

 台湾北の海域から沖縄に向けて、金剛は三〇ノットで進んでいた。途中で燃料は切れるが仲間と合流できればどうにでもなると、彼女は判断したのだった。遠くの海域から届く、砲撃の閃光と音は、次第に小さくなっていった。船首が切る波の音だけがあった。

 アムロは、金剛の艤装に腰を下ろし背を向い合せる様に座っていた。彼は、浦風が死闘を繰り広げている海域を、ただじっと見ていた。金剛も、彼女の艤装も酷い有様だった。二番砲塔は大破、副砲・高角砲など細かい所のダメージは、数えればキリが無かった。

 それは彼が何度も目にしてきた光景だったので、彼は過去と未来を見る様に呟いた。

 

「また光った」

 

 金剛の足が止まった

 

「あぁやって一つ瞬く度に、誰かが死んでいった。悲しみが満ちていった。海も宇宙〈そら〉も同じだ」

 

 彼は誰の事を言っている訳では無かったが、金剛が思い浮べたのは浦風である。

 波は穏やかになっていたが、彼女は俯いたままだった。彼もまた海域を見たままだった。彼女は言った。

 

「いや。こんなのいやデス」

「なら戻るべきだ」

「でも浦風の犠牲を無駄にしてしまいマス……」

「その通りだ。君たち、二つの艦艇を失うなら片方だけでも助かるべきだ。この判断は正しい」

 

「どちらですカ」

「俺は部外者だから、二人の判断に口出しできない」

「アムロは気にならないの? 私が戻ると言ったら死んでしまうのに」

「俺は、二人に助けられなかったら死んでいた。君がどちらを選択しようとも非難なんてしない。帰投すると言うなら、微力ながら君の正当性を訴える……と言いたいのだけれど。もし、俺の存在が浦風の元へ戻る妨げになっているなら気にしなくて良い」

 

 振り返った彼女は驚きを隠さなかったので、彼は小さく笑って答えた。

 

「目の前で、恩人が闘い死んでいくと言うのに俺は何もできない。だったら、せめて。何もせずにそれを受け入れたくはない。残念だよ。ガンダムがあれば二人を助けられるのに。いや、海上ならベースジャバーも要るかな」

「ガンダム?」

「モビルスーツ、俺の機体だ」

 

 金剛は、夜の暗さが薄まりつつある水平線を見た。顎に指を添え考えた。最も近い宮古島が、五四海里〈一〇〇キロ〉の距離にあるならば、寄っている間に浦風が死んでしまう。論外だ。カッター〈多目的小型ボート〉で、ここに残すかとも考えたが制海権外であるならば危険すぎる。やはり論外だ。なにより放り出すという行為が気に入らない。浦風を放り出した事を悔んでいるというのに、アムロを放り投げるなど本末転倒だ。だが、彼を巻添いにする理由が無い。

 金剛は逡巡していたので、彼は素っ頓狂な声を出した。

 

「浦風の艦内にヘルメットを忘れてしまった。あれは高価な物だから取りに行かないといけない」

 

 呆気にとられていた彼女は、あははと涙を浮かべて笑い出した。

 彼女は転舵した。向かう先は、仲間が闘っている海域である。彼女の艦内は活気を取り戻していた。

 

『両舷・前進・全速!』

『総員戦闘配置ニ付ケ!』

『機関室! ケチ臭イノハ無シダ! アリッタケノ油ヲぼいらーニ食ワセロ!』

『アチチ!』

『燃エテキター!』

 

 金剛は目尻に浮かんだ涙を指で拭った。こう言った。

 

「アムロは軍艦に乗った経験はアル?」

「ある。ホワイトベース・アウドムラ・ラーカイラムその他」

「OK.現時刻を以て、それに金剛の名を付け加えるコト」

「良いのか?」

「船乗りは船と運命を供にするものデース。Do You Understand?」

 

 彼は、海の上に広がる宇宙〈そら〉を見た。

 

(この海と彼女たちが、今の俺の現実だ)

 

 彼もまた、彼女らと共にする事を決めた。

 

 

 金剛・艦内。檣楼〈しょうろう〉にエレベーターが無い事を不満に思いつつも、アムロがノックしたのは艦橋へ通じる扉だった。扉の隙間から顔を出したのは金剛である。扉の隙間は小さく、自室が見られる事を恥じらう娘の様であった。

 

「部屋で温和しくしていて、そう言った筈デス」

「援軍を要請するべきだ」

「ダメ。私たちはレイテ沖海戦からの撤退中で、主力戦隊も相応のダメージを負っているんダカラ」

「金剛の責任感の強さは立派だ。けれど、最低連絡はしておくべきだ」

「デキマセン。これは電撃作戦ネ。電波を出せば勘付かれる」

「だったら戦闘開始後の連絡は可能だな?」

 

 はぁと彼女はため息をついた。

 

「……OK。打電シマス。もう良いネ? 船室に戻っテ」

「そこでだ。一門、担当水兵ごと貸してくれないか。これでも射撃は得意だから」

「それが本題だったのネ?」

「そんなところ」

 

「答はNoダヨ。航空機の機関銃と戦艦の砲を一緒にしないデ。そもそも、主砲は一番と三番しか残っていないんだカラ」

「なら。最後尾の砲、四番になるのか? それなら良いんだな?」

「調子が悪くて使えない……何を考えてるノ?」

「やれる事はやる主義だ。彼女〈妖精さん〉らを借りるぞ」

 

 彼は怒りもせず笑いもしていなかったが、有無を言わせない威圧があった。彼女はため息をつきつつもこう言った。

 

「OK.第四砲塔はアムロの好きにすると良いネ」

「ありがとう。砲術科員〈射撃員・武器整備員など〉と機関科員〈工作員・応急員など〉は一緒に来い」

「全員続ケー!」

「「「ワー! キャー!」」」

 

 どこからともなく現れた妖精さん達は、アムロの後を追っていった。重苦しい鉄色の艦内にあって、彼の白いパイロットスーツは映えた。彼女は、見詰めていた事を恥じらいつつも笑って言った。

 

「涼しい顔して強引ネ」

 

 分厚い金属で覆われたそこには、砲尾閉鎖機・測距儀・その他の計器盤などが、隙間無く詰め込まれていた。外から見た大きさの割にとても狭いと言うのが彼の印象だった。彼が連想したのは、三六〇度モニターが実用化される前の、狭苦しい最初の愛機である。第四砲塔内を左右に貫く金属製の筒にそっと触れた彼は、妖精さん〈砲術士〉に聞いた。

 

「左右を貫いているこの筒は? 詳しくないから簡単に説明してくれ」

「ソレハ測距儀デアリマス。照準ニ使ウ、光学式ノ測定機器デアリマス。射撃指揮所カラノ指示デ撃チマスノデ、通常ハ使イマセン」

 

 一通りの説明を受けたアムロは、その辺の触り始めた。妖精さん達は頭上にハテナマークを浮べるのみである。

 

「動力は?」

「水圧デス。砲ノ旋回と俯仰、ソノ他ニモ揚弾・装填・発砲時ノ駐退ト復座等ニ使用シテオリマス。ココ第四砲塔ハ、水圧機ガ不調デ、圧力ガ足リテオリマセン」

「足りていないってどれ位」

「四割不足シテオリマス」

 

 彼は腕を組んでしばらく考えた。こう言った。

 

「水圧機が不調で必要な圧力を供給できないから、ピストンを動かす時に圧力が落ちて、ここの砲が使えない。だったら、二つある砲の片方を殺したらどうなる? 片方だけでも使えないか?」

 

「「「ア」」」

 

 妖精さん達は、配管を変更し連装砲を単装砲に仕様変更していた。アムロは、妖精さん〈測的員〉から測距儀のレクチャーを受けていた。そのアムロの中を浦風が駆け抜けていった。妖精さん達が聞いたのは、音ならぬ音である。

 

「「「キュピーン?」」」

 

 金剛・艦橋。艦橋に戻った妖精さん〈砲術長〉が、艦長である金剛に言った。

 

「艦長。第四砲塔カラデアリマス」

 

 伝声管から届くのはアムロの声である。

 

『海域への到着時間は?』

「この調子だと四四分後ネ」

『間に合わなくなる。もっと速度を上げてくれ。浦風が危ない』

「そんな事は言われなくても知ってル。けれど現在三〇ノット。これ以上は無理デス」

『……主砲の射程距離と海域までの距離は?』

「最大射程は十九海里〈約三五キロ〉で、現場海域までは二二海里だけれド」

『分かった。十九海里になったら砲撃できる様に針路を少し変えてくれ』

「……は?」

 

 説明している暇は無いと、伝声管はそれ以上答えなかった。

 

「Hey! 何をするつもりネ!?」

 

 彼女の第四砲塔が向いた先は、ただの水平線である。

 

 

 艤装の砲塔はひしゃげていた。艤装の外板に亀裂が入り浸水していると言うのに、黒煙は噴きだし続けていた。それでも駆ける事を止めなかった浦風だったが、足元で立った水柱に煽られ等々転倒してしまった。

 海面に突っ伏していた浦風に、十六インチ三連装砲をを突き付けたのは、戦艦ル級だった。浦風はヤレヤレと仰向けになった。力無く落ちた右腕は、海面をピチャリと叩いた

 

「弾薬が尽きた。燃料もすっからかん。正真正銘、満身創痍じゃ……じゃが。駆逐艦一隻撃沈・駆逐艦二隻小破・重巡小破、戦艦が無傷なのが口惜しいがまずますじゃ。すきにせい」

 

 浦風の釣り上った目尻に浮かんだのは、涙である。

 

(うちも焼きが回ったわ。今際に海軍のカの字もない兄さんを思い出すなんてな)

 

 その浦風に贈られたのは、一発の赤い砲弾であった。

 砲身のライフリングにより高速回転するその徹甲弾は、ヒュルヒュルと音を立てて夜明けの空を斬り裂いていた。

 弾道は、様々な因子に影響され同条件で撃っても同じ軌道を取らない。敵の思考を読めるアムロとて、例えガンダムに乗っていた所で、大気圏内で実弾兵器を使うならば、遠距離を当てるのは至難の業だ。ただし。その弾頭が、アクシズを押し返した光を微量でも帯びているならば話は別である。

 深海棲艦達は砲弾の飛翔音に気がついた。周囲に艦影が無いならば長距離からの砲撃だ。おそらく金剛型が戻ってきたのだろう。ならば、この駆逐艦に止めを刺すのは延期だ。誘き寄せ一緒に沈める。それにしても愚かしい。この距離で当るとでも思ったのか。砲を浦風に突き付けていたル級の目の前にあったのは、一式徹甲弾であった。

 

「――ッ!?」

 

 その海域を揺るがす様な図太い音が走った。ル級は弾き飛ばされ海上を転がった。海上に立ち籠めた水飛沫から姿を現したそれは、額から血を流し呻き声を上げていた。幽鬼の様に海上を彷徨い始めた。撃沈こそ免れたが頭部〈艦橋〉に直撃を受け、戦闘続行不可能となった。事実上の大破である。何が起ったのかと深海棲艦達は浮き足立ったが、それは浦風も同じだった。

 現場海域より十八海里〈約三三キロ〉。金剛の腰を覆う様なシルエットを持つ艤装の端に、砲門から煙を吐く第四砲塔があった。金剛は絶句していた。薄暗い水平線の彼方で瞬いたのは灯火だ。弾頭が徹甲弾ならば、火の手が上がるのは命中した証に他ならない。

 

(十九海里を狙って撃った? 偶然に決まってル……)

 

 彼女はその思い込みを止めた。艦橋最上部にある十メートル測距儀も電探も使わずに、彼は当てた。偶然ならばその確率は奇跡の範疇だ。砲撃を何百何千と繰り返してきた彼女にとっては、運と判断する方が許しがたい事だった。

 

(浦風が気に入る筈デス……)

 

 ムカと彼女が苛立ったのは、仲よさそうに話す二人の姿を思い出したからだった。

 第四砲塔内で測距儀を手にするアムロが飛ばしたのは、檄である。

 

「次弾装填急げ! 次からの目標は動くぞ!」

「「「ワー! キャー!」」」

「第四砲塔より艦橋! 金剛は連中を攪乱しろ! 俺が尻を持つ!」

『レディのお尻を持つなんて、いやらしいでーす』

「遊んでるんじゃない!」

 

 

 深海棲艦の探照灯が一斉に動いた。撃ち上げられた吊光弾が、海域を広く照らした。現れたのは、暁の水平線を背にする金剛型 一番艦 戦艦 金剛であった。

 海を疾走するそれは、美しくも鋭い笑みを浮かべていた。海風に靡いたのは彼女の長い髪である。

 妖精さん達が叫んだ。

 

『深海棲艦急速接近!』

『砲術ヨリ艦橋! 一番砲塔準備良シ!』

『三番砲塔準備良シ!』

『副砲・ソノ他マトメテ準備ヨシ!!』

 

 金剛は、大きく息を吸った。

 

「交互撃ち方始め! Fire~~っ!」

 

 ありったけの砲門が火を噴いた。

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