パワポケSS断片集 作:艶 紫苑
「どういうつもりだ!」
「暴れられたら困るからな」
「くっ、離せ!」
必死に抵抗するがヒーローには敵わない。
手足を拘束されてしまう。
口にガムテープまで貼られてしまった。
「あーあ。かわいそう」
「やりすぎだぞ」
二人の前にごろんと転がされた。
拘束という暴挙に出たヒーローはさっさと退散してしまった。
部屋に残ったのは三人。
彼女とレッドに哀れみの視線で見下ろされる。
「さて、どこから話せばいいかなぁ。」
「まずは出会いのきっかけからだな」
「そうだね♪あたしとレッド様が出会ったのは――」
説明を受ける。
怪しいところでバイトしていた彼女と、正義のヒーロー。
言われてみれば二人が対峙する可能性は十分にあった。
むしろ、いままで激突していなかったのが不思議なほど。
問題はそこではない。
なぜ彼女が様付けするほどレッドに心酔しているのか。
「――あたしはアジトに踏み込んできたヒーローたちをばったばったとなぎ倒してたんだ。あのときのあたしはバカだったから。レッド様にまで手をあげちゃって…」
心底申し訳なさそうにうなだれる。
その肩をレッドが抱いた。
目を丸くする。
「気にすることはない。それは過去の話だ。」
「はい♥ありがとうございます、レッド様♥」
彼女も同じように目を丸くしていたが、すぐに表情をゆるめた。
肩を抱かれるがまま。
身を委ねて頭をレッドの胸板のあたりに預けている。
「レッド様が来てくださらなかったら、あたしはもっと罪を重ねていたかもしれません…」
「過去のことはいい。未来を見るんだ」
「そうですね。ヒーローの一員として償っていきます――いえ、償わせてください」
レッドがうなずいた。
二人が見えない力で引かれ合うように――
「はああああああ!?」
思わず声をあげる。
キスを交わしそうだった二人が視線をこちらにむけた。
すさまじいほどの不機嫌顔。
「あ、そうだった。キミもいたんだった。ごめんね、完全に忘れてたよ」
…空気の読めない男は嫌われるよ。
舌打ちしそうな顔、こっちにギリギリ聞こえる声。
「いや、なに普通にキスしようとしてるんだよ!?」
「なにって…あらためてレッド様に忠誠を誓うため♥」
「彼氏の前だぞ!なんで他の男と…」
「あー、それね」
面倒臭そうに眉をあげる。
あらためて、という単語も気になったが、表情に圧倒されてしまう。
「あたしと別れて」
彼女が頭をさげた。
あっけにとられる。
「は…?え…?」
「ごめんね。他に好きな人ができちゃったんだ」
「好きな人…?」
「んー。いや、好きどころじゃないね。大好きな…。ちがう。愛する、なんて言葉でも足りない。なんていうのかな…。運命…そう!運命の人を見つけちゃったんだ。だから、別れてください」
彼女が再び頭をさげた。
さっきよりも深く丁寧に。
他人行儀な敬語が胸に突き刺さる。
「なんでだよ、誰なんだ、その運命の相手って…」
分かりきっているが、ついそんな間抜けな台詞を口にしてしまう。
「この状況でわかんない?それとも答え合わせがしたいのかな?いいよ、教えてあげる。あたしの運命の人。それは…」
いたぶるようにもったいぶる。
微笑で見下ろしてくる。
視線を外し、隣に立つ男へ向ける。
「レッド様♥」
彼にぎゅっと抱きついた。
腕を巻きつけ、胸を押しつけ、頭をすりすりと擦り付け思い切り甘えてみせる。
「なんでそんなやつと…」
「うわ…レッド様に向かって、そんな口の利き方――」
「うるさいな!!」
思わず声を荒げる。
彼女はきゃっと悲鳴をあげてレッドの腕にしがみついた。
「なんなんだよ、レッド様レッド様って…どうしちゃったんだよ…」
「だーかーらぁ♥何度も言わせないで♥ま、レッド様とのことは話すだけでも嬉しいから、何回でもいってあげる♥けど照れ臭いんだよね」
「いや、まだ…」
あまりの心酔ぶりにドン引き。
怒りより、あっけにとられて口が鈍くなる。
「あ、まだ途中だっけ?どこまで話したかな?」
レッドが耳打ちする。
二人でこそこそ話。
奔放さがなりをひそめ、可憐な女の子の顔になっている。
何を話したのかは知らないが、レッドが席を外した。
彼女と二人きりになる。
「本当にごめん…」
「レッドのことをレッド様って呼ぶのはやめてくれ」
「なんで?レッド様はレッド様でしょ♥呼び捨てになんか畏れ多くてできない」
「様じゃなくて、レッド君とか」
「あー。ダメ。昔のあたしはそんな風に呼んじゃってたね。めまいがするよ」
「レッド様♥」彼女が情感のこもった声で言った。
羞じらいと他の男への敬愛が伝わってきてイライラする。
そんなこととは露知らず、彼女はうんうんと満足そうにうなずく。
「ご主人様…♥これもなかなか…♥あなた、は憧れるけど、ちょっと馴れ馴れしいね♥畏れ多いよ…やっぱりレッド様はレッド様♥」
どう考えてもおかしい。
レッドに何かされたとしか思えない。
「レッドに何かされたんだろ?」
「レッド様はあたしのことを叱ってくれたんだよ。それでキュンときちゃったんだ」
「叱った?それなら、俺だって…」
「キミのはただ怒ってただけ。レッド様はあたしのことを考えて叱ってくれたんだ。ちょっと怖くて泣いちゃった」
「泣いた…?」
「なにその顔。あたしだって泣くことぐらいあるよ。」
奔放で気丈な彼女が泣いている姿は想像できなかった。
レッドはその泣き顔を見たのだろう。
こちらが知らない彼女の顔。
「レッド様が怖く見えたのは、あたしのことを真剣に思ってくれてたから。叱られてる最中にその思いが伝わってきて、そのうえあとで優しく慰めてくれて…ギュッてされたり、頭撫でられたり…ああ、もう思い出しただけでキュンキュンしちゃうよ♥」
彼女はとろんとした視線を空中にさまよわせている。
瞳はどろりと愛欲ににごり、頬は赤に染まって、口元がだらしなく緩んでいる。
「本当はレッド様と対峙した瞬間に確信してたんだ。びびびっときたんだよ。この人が運命の人だってね。」
「でも、抵抗したんだろ?」
「素直になれなかったんだよ、たぶん。」
「たぶんって…」
「見つめあった瞬間にあたしの心は奪われてたけど、照れ隠しに――もしくはそれが愛情表現だと思ってたのかも♥うーん。レッド様との出会いが衝撃的すぎて、出会う前のあたしの気持ちが自分でもよくわかんないな」
「そりゃね。運命の人に出会えたし、夢も見つけられたから。だらしなくもなるよ」
「夢…?」
「レッド様の正義のために、身も心も捧げること。それがあたしの夢」
「はあ?」
「レッド様の夢があたしの夢♥レッド様とあたしが組めば……もう無敵だね♥文字通り、敵無し♥」
「なんだよ、それ…」
………
「これで彼は変わるだろう。憎しみを糧にさらに飛躍するはずだ」
ヒーローが言う。
となりにはリコがいた。
「君には嫌な思いをさせてしまった。すまない」
頭を撫でると彼女はうっとりと微笑んで、ヒーローの腕にしがみついた。
たくましい肩に頭をのせ、腕に胸をぎゅっと押し当てる。
「そんな…♥気にしないで。レッド様の力になれてむしろ喜んでるんだから」
それだけではない。
目を血走らせている元彼を見ていて、彼女の中にはある感情がふつふつとわきあがっていた。
それは哀れな男をいたぶり、喜ぶ、魔女のような感情。