パワポケSS断片集 作:艶 紫苑
その2といいながらその2ではない部分も
下書きの山の中から見つけたもの
チラシの裏を下書きの整頓に使っても、バレへんか!
ってな感じでね
夜の公園。
和那は野球中継を見ていた。
休憩がてら。
画面の向こうで男がボールめがけて飛び込んだ。
身を投げ出すような格好で腕を伸ばし――見ようによっては足をもつれさせて、ゴロゴロと派手に転倒したと勘違いしてしまいそうな――にもかかわらず、その男はボールをしっかりとキャッチしていた。
グラブのなかをのぞきこみ、本人も驚いたような表情をしている。
ダイビングキャッチ成功。ファインプレー。
大歓声が響きわたる。実況も大興奮している。
「うんうん、さすがやな。やっぱりすごいわ」
和那は顔をほころばせて、我がことのように喜んだ。
野球中継に見入っていたせいか、まわりへの注意を怠っていた。
「驚いたな。千本槍などと恐れられているキミもあんな顔で笑うことがあるんだな」
不意の声に、和那は慌てて距離を取った。
不審な影がいつのまにかすぐ近くまで接近していた。
「あらら、恥ずかしいとこ見られてたみたいやね」
冗談ぽく笑いながら身構え、不審な影と向き合う。
(……こいつは誰や? 千本槍なんて呼び名を知っとるっちゅうことは、面倒くさい相手なのは間違いないやろうけど)
ヒーローとして戦う彼女には心当たりはあるものの、その数が多すぎて特定できない。
神経を張りつめたまま記憶の糸をたどっていると、妙な違和感に襲われた。
(……しまった! この感覚、ジャマーやな。能力を封じられたか……)
表情を険しくすると男が笑った。
「悪いな、能力ありで戦ってもいいが、それだと周囲への被害が大きくなる。お互いそういうのはなしにしよう」
「ん? あんたも超能力者なん?」
「似たようなものだ」
「へえ……」
和那は口元をゆるめた。はっと我にかえって、
「……って、なに戦う前提で話進めとんねん。うちはそんな野蛮なことはせえへんよ」
「どの口が言う」
「この口やこの口、見えるかな?」
腰をかがめ男の目線に合わせるようにして、歯を見せて笑った。
身を翻して立ち去ろうとする。
「怖いのか?」
「あ?」
「能力と最新鋭の装備がなければ怖くて戦えないか? 千本槍と名高いキミもその二つさえ封じてしまえば、体がデカいだけの臆病者というわけか」
「なんやと、こらっ!」
体を再度翻し、男につめよった。
「もういっぺん言ってみい! デカいって……そりゃウチもちょっと……ほんのちょこっと身長が高いかもしれんけどなあ……もうちょい言い方ってもんがあるやろ!」
目を剥いて怒鳴りつける。
挨拶がわりに両の手のひらで男の胸を軽く押した。
(ん……?)
軽くといっても、そこらの男なら尻餅をついてもおかしくないほどの強さ。
だが男はまったく動じない。
手のひらから伝わってきた強い感触に和那は眉を開いた。
「へぇ……うちにケンカを売りにきただけあって、そこそこ鍛えとるみたいやね」
「まあな」
男が両手を胸の高さにあげて、和那に突き出そうとした。
手のひらで胸を押そうとしているのだとわかり和那は慌てて間合いをとる。
「は……な、なに堂々と痴漢しようとしとんねん!」
「……痴漢? いや、こういうときは同じ攻撃をやり返すのが礼儀だと思ったんだが……」
「そんな礼儀あるか!」
無意識に身体をひねって胸をかばう。
男は何がなんだかという風に首を傾げていた。
(どういうことやねん……日常的に痴漢しすぎてわからんようになっとるってことか? 恐ろしい男やな……)
「……戦う前に、ひとつ聞きときたいんやけど」
「なんだ?」
「あんたは何者?」
「ある人物の依頼で最近暴走気味のキミにお灸をすえにきた、ただのお節介やきさ」
「ある人物……? 誰やそいつは?」
「それは言えない……だが、ヒントは出そう。……キミの身近な人物だ」
「なに……? そんなアホなこと……」
「ない、と言い切れるか?」
「それは……」
最近のみずからの荒れ具合がひどいのは自覚もあった。
不殺の信念も、いまは努力目標になっていた。
戦いのあと、気持ちの悪い笑い声を立てていたと指摘されたこともある。無意識に笑っていたらしい。
暴走と言われても仕方がない。ひょっとすると身内にも快く思っていないものもいるかもしれない。
視線を落とす和那の脳裏に共に戦う仲間の顔が浮かんだ。
「なんや、そういうことか。アホらし」
ある可能性に思いいたり和那は笑った。
「……何がおかしい?」
「そうやって揺さぶりをかけて、ウチらを仲違いさせようっちゅう魂胆やろ? けどな、そんなしょうもない手はくわん」
不敵な笑みを男に向ける。
「確かに最近のあたしの行動はひどいもんがあるかもしれん。自覚はあるよ。でも、それやったら直接言ってくるやろ。少なくとも、あんたみたいなどこの馬の骨か分からんような男に依頼するとは思えんな」
男は肩をすくめた。
「……俺の言葉を信じるか信じないかはキミの自由だ。……依頼を受けてから俺自身もキミのことについては調べさせてもらった。最近のキミの行動は目に余る」
「んで、ウチをぼこぼこにこらしめて改心させたろうっちゅうことか? なんや、まるで正義の味方みたいやね」
「正義の味方か、悪くない響きだな」
男はふふっと嬉しげにする。
和那はずっこけそうになった。
(否定せいへんのかい! なんやねん、こいつ……まさか、本気で正義の味方のつもりか……?)
「まあ、ええわ。あんたの望みどおり手合わせしたる。逆にぼこぼこにしたるから覚悟せえよ」
「それは怖いな。お手柔らかに頼むよ」
「無理やな。あんたから言い出したんやで? 手加減はなしや」
和那はみずからの拳を胸の前でぶつけ気合いを入れる。
笑みを浮かべつつ強い視線で男を見据えた。
男も笑みを浮かべている。
「やめるんやったらいまのうちやで。ごめんなさいしたら許したるわ」
「残念ながらそのつもりはない」
「言うたな。どうなっても知らんで」
………
最初こそ一進一退の攻防だったが男の驚異的な身体能力とタフさに徐々に押され始めた和那は噛みつき、目潰し、ひっかきとなりふり構わない攻撃をくりだして闘いの流れを取り戻そうとする。
………
「あのころのキミは、もういないようだな」
「なに……?」
「あとはとどめをさすだけという敵対勢力の男にとどめを刺すことができず、その男をあやめたのは他のものだったにも関わらず泣きながら手を洗っていた潔癖なキミはもういないんだな」
和那は呆然とした。
「なんで、それを……」
「昔のキミを知る数人の者から話を聞いた。それをつなぎあわせて推測したんだ。キミの反応を見るに、俺の推測は当たっていたようだな」
敵対勢力の男を始末できなかったという話を知っているものは何人かいるが、そのあと必死に手を洗っていたことを知っているのは一人しか心当たりがない。
「まさか、お前、あいつに何か――」
「安心しろ。彼には何もしていない。酒を酌み交わし、キミの昔話を聞いただけだ」
「んなもん、信用できるか!」
「さっき野球中継を見ていただろう。俺に何かされたように見えたか?」
「それは……」
見た限りは何も変わりはない、コンディションはむしろよさそうだった。
ただ内側はどうなっているかわからない。
経緯はわからないが、怪しい男にべらべらと昔話をしてしまうぐらいだ、何かされている可能性はある。
視線を鋭くする。唸る獣のように歯をむき出しにして男をにらみつける。
「ぼこぼこにして話をじっくり聞かせてもらわなアカンなあ……」
「悲しいな。やはりあのころの心優しいキミはもうどこにもいないのか」
………
飛び回し蹴りを頭部に受け、ふらつく。意識が吹き飛んでいた。
がしゃんと音が響いた。
公園のまわりを囲うフェンス。
(いったぁ……なんやねん、もう……)
これがなければ和那は地面に大の字になっていただろう。
(ははっ、ちょうどええわっ)
衝撃で目が覚めた。
同時に脳内にダイビングキャッチを成功させた彼の姿が浮かんだ。
フェンスにぶつかった反動を利用して男に向かっていく。身を投げるような形――倒れているだけといった方が正しいかもしれない。
「なっ……」
男が目を丸くしていた。
和那は腕を横に伸ばした。
飛び回し蹴り――それを長身の和那の頭部に命中させるほど跳躍した直後でまだ体勢を立て直せていない男めがけて腕を振り抜く。
「ぐぅっ!?」
振り抜いた腕の内側が男の喉元にめり込んだ。
(勝った! ウチの――えぇっ!?)
和那は驚愕に目を見開いた。
クローズラインを食らい吹き飛ぶと思っていた男が腕に絡みついてきたのだ。
(うそやろ……なんやねん、こいつ……)
決死の思いで放ったクローズラインでも男を倒すことはできなかった。
飛びつき式の腕十字を極められてしまう。
体を痛めつけられていなければ――もしくは能力を封じられていない状態なら極められたままでも男を持ち上げ地面に叩きつけることができた。
しかし、今はそれができない。
クローズライン
あえてアメリカ風で