ラストスタリオン   作:水月一人

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殺っちまった方が良いのかな?

 荒野の迷宮探索を終えた鳳たちは、荷物を置いてきたキャンプ地まで戻ってきた。ところが、あと少しといったところで、ギヨームが何かに気づき足を止めた。どうやら、鳳たちが留守の間に、何者かがキャンプに侵入していたらしいのだ。

 

 真っ先に気になったのは、留守番に残してきた三人のことだったが、ギヨームが言うには困ったことに、ギルド長もミーティアも、ルーシーの姿も見当たらないようである。捕らえられていなければ良いのだが、とにかく、このまま放置しておくわけにもいかないから、相手が油断している間に奇襲をかけようというギヨームの提案に乗って、鳳たちは動き出すことにした。

 

 とは言え、鳳はそのキャンプに武器を置いてきてしまったため、役に立ちそうもない。そんなわけで、まだキノコのせいで気持ち悪いと言っているメアリーの支援をすることになったのだが、

 

「うう……まだ頭がグワングワンするわ。もう少しゆっくり走ってよ、吐きそうだわ」

「おい、我慢してくれよ!? 頼りにしてんだから」

 

 今にも吐きそうだとぼやく危険人物(メアリー)を背中に背負いながら、鳳は岩陰から岩陰へとこそこそ駆け抜けた。隠密スキルがあるわけでもない彼が、こんな大胆に移動出来ているのは、レオナルドが認識阻害(インビジブル)の魔法をかけてくれているからだった。ただし、術者が同行していない現代魔法は、すぐに解除されてしまうそうだから、切れる前にこうして必死に走っているわけである。

 

 作戦はいつも通りである。まずはメアリーのスリープクラウドで敵を眠らせてから、近接のジャンヌが突入し、ギヨームが援護するというパターンだ。スタンじゃなくてスリープを使うのは、万が一、ギルド長達が捕まっていた場合、彼らを巻き込まないようにという配慮だった。スタンクラウドは、効果が切れても意外と尾を引くのだ。正座した後の足の痺れが全身に回ると言えば、どれほどの苦痛か想像出来るのではなかろうか。

 

 ともあれ、どうにかこうにか、持ち場の岩陰へと滑り込んだ鳳は、ぐったりしているメアリーを地面に下ろすと、一転して身を屈めて物陰からそーっと敵の方を覗き込んだ。認識阻害は掛かっている本人には、まだ効果があるのかないのかが分からないのだ。だからもう切れているつもりで慎重に行動しているのだが……

 

 ところが、物陰から敵を窺ってみたは良いものの、鳳はその様子がおかしいことに困惑するのであった。奇襲はまだかけていない。もちろん、相手にもまだ気づかれていないはずなのだが、何故か既に相手はパニック状態になっていたのだ。

 

 キャンプには見るからに野盗といった感じの、薄汚い格好をした男たちが10人くらい、鳳たちの荷物には目もくれないで、何かに怯えるように手足をばたつかせているのである。

 

 例えば、一人はうずくまってガタガタと震えていたり、別の男は虫の大群にでも襲われているかのように、体をくねらせて必死にもがいていたり、中には叫び声を上げて地面をのたうち回っている者までいる。しかし、鳳の見る限り、彼らの周囲に危険は何も存在しないのだ。

 

 なんだろう……? もしかして、鳳の残していったキノコを食べて、集団幻覚でも見ているのだろうか。それとも、あの迷宮の影響がここまで届いているのだろうか……その様子は、さっき迷宮に入って錯乱していた自分たちを思い起こす。

 

 明らかに尋常じゃない雰囲気に当惑していると、遠くの方で突入タイミングを測っていたギヨームも気づいたらしい。彼は鳳に向かってぶんぶん腕を振って合図してきた。どうやら予定を変えて、魔法を掛ける前にジャンヌを突っ込ませることにしたようだった。

 

「ちょっと! あなたたちぃ~!? 私の荷物に何してるのよっ!! 場合によったら、ただじゃおかないわよぉ~っっ!」

 

 岩陰から、オネエ言葉の巨大なゴリラがのっしのっしと現れる。野盗たちはその声に、一瞬ビクッと体を震わせると、弾けるように飛び上がり、

 

「た……助けてくれええええ~~~っっっっ!!!!」

 

 っと、情けない悲鳴を上げながら駆け寄ってきた。襲いかかってくるのではなく、長剣を構えているジャンヌに向かって助けを求めているのである。

 

 突然の出来事に戸惑いながらも、ジャンヌは飛びついてくる盗賊たちを制すると、一人じゃ手に負えないと言わんばかりに、隠れている鳳たちを呼んだ。彼らが何に対し怯えているのかは分からないが、ともかく、武器を携帯した不審な集団を野放しにしておくわけにはいかない。鳳たちは野盗をふん縛った。

 

「一体全体、どういうことだ?」

 

 取り敢えず、最後の野盗を簀巻きにすると、一仕事終えた鳳は地面に腰を下ろして呟いた。縛り上げる際も、野盗たちはまるで無抵抗で、神妙にお縄についていた。その間、おまえたちが何に怯えているのか? と尋問はしてみたものの、不思議なことに、彼ら一人ひとりは言っていることがバラバラで、何の参考にもなりゃしなかったのだ。

 

 この様子が本当に迷宮に入った時の自分たちと似ていたので、鳳はもしやと思って自分の荷物を確かめてみたのだが……キャンプに置かれていた彼らの荷物は荒らされてはいたが、特に鳳のキノコは奪われたりもせず、そのまま放置されていた。まあ、普通に考えて、他人の荷物を漁っていて、出てきた乾燥キノコを喜んで食べる馬鹿はいない。

 

 それじゃ、何が起きたというのだろうか? もしや本当にあの迷宮の呪いか何かなのでは……と考えた時、ふと、鳳の背筋にゾクゾクとする悪寒が走った。なんだか気持ちが悪い……誰かいるのか? と思ってキョロキョロと周囲を見回してみたら、

 

「ん……?」「あれ?」「変ね……」

 

 見れば仲間たちも彼と同じように、何かに怯えるような表情で辺りを見回している。まさか、彼らも同じように感じているのだろうか。これは尋常じゃないことが起きているのでは……と思っていると、突然、鳳のすぐ近くで、

 

「く……くふふ……くふふふふ……」

 

 という、女性の含み笑いのような声が聞こえた。驚き振り返るも、そこにはもちろん誰もいない。すわ、悪霊か!? と念仏を唱えながら後退りすると、そんな鳳のことを押しのけるようにして、レオナルドがすたすたと声の聞こえる方へと歩いていって、いきなり杖を振り上げると、

 

「これ! いい加減にせぬか」

「あいたーっっ!!」

 

 老人が杖を振り下ろすと、まるでテレビのチャンネルが切り替わったかのように、ルーシーの姿がパッと現れた。彼女はレオナルドの杖で叩かれた頭を抱えてゴロゴロと転がっている。その痛みはついさっき殴られた鳳もよく分かる。しかし、同情している場合ではない。一体何が起きたのかと呆気にとられていると、

 

「ルーシーが認識阻害を使って隠れておったのじゃ。まったく……こんな悪戯をするのであれば、教えるんじゃなかったわい」

「あたたー……ごめんなさ~いっ!!」

 

 ルーシーは涙目になりながら、師匠であるレオナルドに頭を下げている。ぽかんとしながらジャンヌ達がやってきて、

 

「それじゃあ、もしかしてこの盗賊たちの様子がおかしかったのって、ルーシーちゃんがやったの?」

「うむ。そのようじゃのう。才能があると思ってはいたが、ギヨームにも気づかれぬのであれば本物のようじゃな」

「えへへ~」

 

 ルーシーは褒められて有頂天になっていたが、すぐに師匠に調子に乗るなと叱られてシュンとなった。

 

 そんなルーシーが説教されていると、騒ぎを聞きつけ遠くの方からひょっこりとギルド長とミーティアが帰ってきた。どうやらルーシーは、彼らのことを上手く逃してくれたらしい。鳳たちは彼らの無事を喜び合い、ふん縛った野盗を1箇所にまとめるのであった。

 

 ともあれ、留守の間、ここで起きた出来事はこうである。

 

 鳳たちがキノコを探しに行ったあと、ルーシーは暑さでバテてしまったミーティアを連れて、水場まで水浴びしにいったらしい。そして二人で水を掛け合いながら、キャッキャウフフしていた時、勘の鋭い彼女は、ふと何者かの視線を感じた。

 

 どうやら、半裸になった彼女らの姿を、物陰から誰かが覗いているようだ。初めは鳳のことを疑った彼女であったが、すぐに思い直し、服を着替えてキャンプに戻った。戻りがてら自分たちが囲まれていることをミーティアに知らせると、呑気に昼寝していたギルド長を叩き起こして、認識阻害の魔法を使ってスタコラ逃げ出したそうである。

 

 大した成長っぷりに感心するが、話はそれだけでは終わらなかった。

 

 こうして上手いこと野盗の魔の手から逃れたルーシーたちであったが……対する野盗たちは、突然居なくなった彼女らを探して、暫くキャンプの辺りをうろちょろしていたようだが、そのうち諦めて鳳たちの荷物を物色しはじめた。

 

 目的を切り替えてくれたは良いものの、このままじゃ、馬も荷物も盗まれてしまう。それじゃ何のために留守番に残ったのか分からないと思った彼女は、何とか彼らの行動を阻止できないかと思い、彼女が唯一使える他人を害することの出来る現代魔法・狂気(インサニティ)を使って、足止めをしようと考えた。

 

 これが思った以上に上手くいった。

 

 認識阻害の魔法を掛けて野盗に近づいた彼女は、岩陰に隠れてこそこそと狂気の魔法を使っていたのだが……初め、盗賊たちは、落ち着きなくソワソワする程度で何の意味もなさず、これは駄目かなと諦めかけたのであるが、一人が発狂し始めたら場の空気が一変した。恐怖というものは伝播するもので、一人がおかしな事を口走って暴れだすと、それを見ていた他の連中も、次々と混乱し始めたのだ。

 

 こうしてついに野盗全員を制圧してしまった彼女であったが、恐慌状態に陥っているとは言え、10人もの男たちをどうこう出来る力がない。正気に戻って逃げてくれればいいのだが、はっきりそうなるとも言い切れない。

 

 そんなわけで、彼女は鳳たちが帰ってくるまで物陰に隠れてずっと野盗たちの“狂気”を保ち続けていたそうである。

 

 大の大人が泣いて助けを求めるような狂気を延々とである。野盗たちは心身ともに疲れ果てて、身動き一つ取れないようだった。なんというか……エグい話である。

 

「やるじゃねえか。正直、見直したぜ」

 

 珍しく手放しで褒めるギヨームに、ルーシーは嬉しそうに微笑んでいた。初めの頃は足手まといと言っていたギヨームであるが、今では彼女もパーティーの一員であると認めているようである。それはともかく、

 

「取り敢えず、こいつらどうする? 殺っちまった方が良いのかな?」

 

 地面に転がっている野盗を突きながら、鳳が殺伐としたセリフをぽろりと漏らすと、そんな物騒なことを言うキャラだと思っていなかったのか、ミーティアがぎょっとした顔をしていた。そんな顔をされても困るのだが……バツが悪くなって視線を逸らすと、野盗の一人が必死になって命乞いを始めた。

 

「た、助けてください! 何でもしますから!」

 

 そのセリフはあっちのゴリラを喜ばすだけだぞ、などと思っていると、当のジャンヌが鳳を嗜めるように、

 

「白ちゃん、命まで取るのはやりすぎよ。可哀相じゃない」

「しかし、今回はやばかっただろう。もし、ルーシーがやられて、ギルド長やミーティアさんが人質に取られていたとしたら、タダで済んだとは思えない」

「そ、そんなことありません!! 私達は皆さんを、丁重に扱ったに違いない!!」

 

 野盗の一人がそんなことをほざいていたが、もちろん聞く耳持たなかった。

 

「それに、こいつらを縛ってる時に見つけたんだけど……見ろよ」

 

 鳳がそう言って一枚の紙を手渡すと、ジャンヌの顔色が変わった。

 

「これは……!」

「俺たちの手配書だよ。すっかり忘れちゃってたけど、俺たちってお尋ね者だったんだよな。きっと、こいつらはどっかで俺たちの姿を見つけて後をつけて来てたんだ。こいつらを逃がすと、俺たちの居場所を誰かに言いふらすかも知れない」

「う、う~ん……」

 

 ジャンヌは自分の手配書を見ながら唸り声を上げている。もちろん、野盗は絶対に喋らないと言っているが、そんな言葉を信じるものは一人もいなかった。

 

 鳳は愛銃のレバーを引いて弾丸をチャンバーへ送ると、

 

「命乞いをする魔族なら、今までさんざん殺してきただろう。今更、躊躇する必要がどこにある?」

「で、でも……」

 

 ジャンヌはそれでも戸惑っている。鳳はため息を吐くと、ならば自分がやると引き金に指をかけた。

 

 魔族と人間はもちろん違う。だが、一度でも命のやり取りをしたのであれば、その重さは等価である。自分を害するものには容赦はしない。鳳はもう、自分の手を汚す覚悟はとっくに決まっていたのだ。

 

 しかし、そうして身動きが取れない野盗に銃口を向ける鳳の前に、思いがけずルーシーが立ちはだかった。

 

「ちょっと待った! 鳳くん、殺すのは流石にやりすぎだよ」

「おいおい、ルーシーまで……今の話を聞いてなかったのか?」

「もちろん聞いてたよ」

 

 彼女はそう言って、上目遣いで藪睨みしながら、

 

「でもね、鳳くん。この人達を捕まえたのは、実質私じゃない? だから生殺与奪権は私にあると思うんだ」

「ん……まあ、そうかも知れないけど……助けるつもりなのか?」

 

 彼女はこくりと頷いて、

 

「以前、君の身の上話を聞いたときから気になってたんだ。ずっと後悔してたんだと思う。つらい経験もしたんだと思う。君はいざとなったら何でも出来る人だと思うけど、だからって、こんなことで手を汚して欲しくないよ」

 

 以前の話とは、レイヴンの街を追い出された夜にした話だろうか……

 

「それに、殺すつもりなら私にも出来た。姿を隠したまま、全員が混乱したところで闇討ちする機会はいくらでもあったから。そうしないでみんなの帰りを待ったのは、誰かに嫌な役を押し付けたかったわけじゃない。殺す必要はないと思ったからなんだよ。だから、どうしてもやるっていうなら、私がやるよ」

 

 まさか彼女がそんな事を言うとは思わず、鳳が返事に困っていると、傍で聞いていたギヨームが言った。

 

「まあ、ルーシーの言うとおりだろう。今更、おまえがこんなことで躊躇するとは思っちゃいないから言うんだが、逆におまえ、意識しすぎじゃねえの? こんなつまんない殺ししたところで、胸糞悪くなるだけだぞ。もっとどっしりと構えて、また来たら返り討ちにしてやるくらい言ってみたらどうなんだよ」

「そうだよ。そっちの方が鳳くんらしいと思うな。それに、こういうのはギヨーム君の方が似合ってるしね」

「おまえ、喧嘩売ってんだろ。そうなんだろ」

 

 いつものニヤニヤ笑いをしたギヨームと、ニコニコ微笑むルーシーがやりあっている。初めて彼らに出会った酒場で、いつか見たような光景だった。鳳は何とはなしにため息を吐いた。思えば遠くに来たものである。

 

「はぁ~……わかったよ。確かに、ギヨームの言う通りだ。非戦闘員ばかりキャンプに残して、自分の判断ミスだったと思って焦っていたのかも知れない」

「別におまえがリーダーってわけでもないんだから、責任を感じる必要はないだろう。今度から俺もフォローするからよ」

 

 ギヨームは、鳳の肩をぽんと叩いてから、親指を簀巻きにされている野盗たちに向けて、ルーシーに話しかけた。

 

「それじゃ、こいつら全員解放するぞ? それで構わないんだな?」

「うん! あ、でもちょっと待って」

 

 野盗たちは解放されると聞いてホッと安堵の息を漏らしている。そんな野盗たちに向かってルーシーは片手を腰に当て、もう片方の手で彼らの顔を指差しながら、まるで母親が子供を叱りつけるように言うのであった。

 

「いい? 解放してもらえて安心してるみたいだけど、聞いてね? あなた達が襲った私は、実はこのパーティーでは最弱なの。もしそれと知らずに、この怖~い人達を襲っていたら、きっと今頃、あなた達はこの世にいなかったと思うわ。そうならなかった幸運に感謝して、これに懲りたらもうこんな家業からは足を洗って、もっとまともな仕事に就いたほうがいいと思うよ?」

「うっ……すんません、(あね)さん。俺たちが間違っていました」

 

 野盗たちは縛られていた縄を解かれると、みっともなく涙を流し、鼻水まで垂らして、ルーシーに何度も何度もお礼を言いながら去っていった。彼女はブンブンと大きく手を振って、その背中を気持ちのいい笑顔で見送った。

 

 何度振り返っても、いつまでもいつまでも手を振り続けているルーシーの姿を見た彼らは、感極まって改心すると心に決めたようだった。次に会う時は必ずお礼をすると叫んで、彼らは荒野のどこかへと消えていった。

 

 ルーシーはそんな野盗たちを最後まで見送ると、ほっとため息を吐いた。正直なところ、彼らの命を守る義理など無かったのだが……そうすることで、鳳の手が汚れずに済んで、そして、剣呑なセリフを吐く彼の背後で、ずっとオロオロしていたミーティアの笑顔を守れて、本当に良かったと彼女は思った。

 

 鳳は、ミーティアの王子様なのだ。お世話になっているお姉さんのためにも、彼にはあんな殺し屋みたいな真似はして欲しくなかったのだ。今回はどうにか回避できたが、ともすると、あっさりと禁忌を踏み越えてしまいそうな彼が間違わないように、今後も気をつけないと……彼女はそう心に誓った。

 

 それはそれとして、

 

「ところでルーシー……さっき、荷物を調べていた時、妙な悪寒がしたんだが……おまえ、俺たちに隠れてコソコソなにやってたんだ?」

 

 背後から、ほんの少しトーンの下がったギヨームの声が聞こえて、彼女はギクリと肩を震わせた。

 

「そういや、レオに怒られてたな……今ステータス確認したんだけど、俺のSAN値が下がってるんだが」

「あは……あは……あはははは……」

「笑って誤魔化そうとしてんじゃねえよっ!!」

 

 ギヨームの怒鳴り声にルーシーは背中を丸めて縮こまりながら反論する。

 

「だって、退屈だったんだもん。みんなは探索に行って楽しそうだったのに、こっちは水浴びも邪魔されて、ずっと野盗の人たちの相手をしてたんだよ? ちょっとくらい悪戯したっていいじゃない」

「ちょっとで人のステータス削ってんじゃねえよ! これ、意外と戻るのに時間が掛かるんだぞっ」

「まあまあ、それくらいで良いじゃないか。ルーシーは今回の殊勲賞なんだし」

 

 ギヨームの小言に、鳳が割って入る。さすが王子様。どうやら彼の方はこれっぽっちも怒ってないようだ。ルーシーがホッとしていると、鳳は邪気のないにこやかな笑顔を浮かべたまま、

 

「ルーシー、退屈してたの? なら丁度良かったよ。実は俺たち、探索の途中で迷宮を見つけたんだ」

「え!? それって、確か凄いやつじゃなかったっけ? 本当に?」

「ああ、本当だ。少し探索してみたんだけど、入り口だけなら安全だから、行ってみたいと思わないか?」

「行きたい行きたい!」

 

 荷物を片付けたら、またちょっと探索しに行こうという鳳の提案に、誰も反対しなかった。ルーシーは目を輝かした。迷宮なんて信じられない、きっと素敵なところに違いない。少し怖い目に遭ったけど、今日は忘れられない特別な日になるぞと、彼女は無邪気に笑うのであった。

 


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