ラストスタリオン   作:水月一人

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停滞

 ゴブリン退治に行ったはずが、オークの群れと死闘を繰り広げる羽目となった。這々の体で帰ってきた鳳たちが、森での出来事をギルド長に告げると、案の定、彼は最初その話を信じてくれなかった。予想はしていたが、実際にされるとイラッとする。

 

 まあ、信じられないのも無理もないので、鳳が根気よく説明を続けると、最初は疑いの視線を浴びせていたギルド長も、だんだん顔色が悪くなってきて、最終的には青ざめた顔をしながら、ミーティアをレオナルドの館へ使いに出した。

 

 取り敢えず、自分たちだけではもう対処のしようもないので、村人たちに協力を頼もうと、猫たちの雇い主である牧場主に協力要請しにいったところ、牧童たちを集めて山狩りを行ってくれることになった。オークなんて生まれてこの方見たことがないと、最初は意味がわからないと渋っていた彼も、館から衛兵が駆けつけたのを見て、どうやら一大事と分かってくれたようである。

 

 村の男達が総出となって、松明を片手に続々と森へ入っていく。

 

 鳳たちは衛兵たちを連れて現場となった森の広場へと向かった。たどり着くと、現場に残っていた猫人たちが、仲間の墓穴を掘り終えて一息ついているところだった。何事もなくてホッとする。

 

 猫たちの無事を喜びあっている間、衛兵たちはオークの死体を検分していたが、結局の所、彼らもオークなどという魔族は見たことがなかったために、何も得られるものは無かったようだ。

 

 彼らは難しい顔をしながら、「取り敢えず、森の中という場所も悪いから、一旦村へ運び込もう……」ということになった。オークの死体を牧場に運び込むと牧場主が、「こんな巨大な魔族がいるのか」と言ってブルブル震えていた。

 

 その後、館からやってきたレオナルドが死体を前に慄然としながら、これは間違いなくオークであるとお墨付きをくれた。流石300年前に魔王討伐をしただけあって、彼は一目見るなりそれが何か分かったようである。

 

 その昔、魔族の侵入を許した帝国は、この巨大魔族に苦しめられたそうだ。従って、その強さも熟知していた老人は、間もなく村人たちを集めると、非常に危険な魔族が出たので、暫くは単独で行動したり、森へ近づかないように言い渡した。

 

 これによってまだ半信半疑であった村人たちは考えを改め、その日は一晩中、夜回りの声が響いていた。

 

 翌朝、レオナルドは冒険者ギルドに命じて、周辺の調査を開始した。大森林でのオアンネスの大移動に加え、こうして人里近くにオークが現れるなんて、何かが起きているのは間違いない。しかし、タイミングの悪いことに、戦争のせいで冒険者は殆ど集まらなかった。彼らはこの国難にあって戦場へ向かってしまっており、街にはあんまり残っていなかったのだ。

 

 結局、暇をしていた鳳たちくらいしかまともに対応が出来ず、もちろん彼らも血眼になって森林の調査をしたのであるが、何かが発見されることはついに無かった。森の周縁部はいつものように静かで、せいぜいゴブリンくらいしか見つからなかったのである。

 

 一体、あのオークどもはどこから現れたのだろうか? あんなものが、まるでボウフラのように湧いて出て、泡のように消えてしまうなんてあり得ない。かといって、他に考えようもない。あるとするなら、何かの間違いでネウロイに住むオークの群れが、大森林の獣人に見つからずにスルスルと、地球を半周もして勇者領まで来てしまったというくらいである。

 

 そんなこと、到底信じられなかったが、現状ではそう結論づける以外、これといった候補は見つからなかった。

 

 そんな謎を残しつつ……

 

 オークとの死闘を共にくぐり抜けた猫人たちとは、その後とても仲良くなった。同じ獣人同士で馬が合うのか、それとも単純に後輩が出来て嬉しいのだろうか、特にマニと仲が良くなり、マニもはじめて出来た村の外での仲間と一緒にいるのが楽しいようだった。あんなことがあったというのに、彼らはその後も怖がりもせずに、相変わらずお気楽なトークを繰り広げながら、森の魔物を退治して回っている。

 

 因みにマニはオークとの戦いにヒントを得て、あれから自作のスリングを使うようになった。スリングとはゴムパチンコのことではなく、なんというか、片乳バンドみたいな布の乳袋の部分に石を乗っけて、紐を持ってグルグルと回転させ、遠心力がついたところで紐を離してリリースするといった感じの武器である。

 

 簡単に作れる割に威力は抜群で、30~50メートルくらいの距離なら、上手く当てればゴリアテを倒したダビデよろしく、人間も倒せるほどの十分な殺傷力があった。マニはそれを使って、走ってるウサギを狙うことも出来るくらいの、かなり名手である。

 

 スリングを作ろうと思いついたのは言うまでもなく、鳳が雑嚢に土を詰めて振り回していたのが切っ掛けであるが、あの時、スタンクラウドで倒れていたオークを仕留めたことで、彼に大量の経験値が入ったことも、もしかしたら関係あるのかも知れない。

 

 マニはあの戦闘で期せずしてレベルアップしたのであるが、そのお陰でかなりステータスが上がったようなのだ。

 

 以前、ガルガンチュアと話したこともあったが、獣人は人間とは全然違う成長の仕方をする。具体的にはSTR,DEX,AGIがガンガン上がるが、他のステータスは上がらない。そして最大の特徴はレベルキャップがあることだ。

 

 マニはオークを倒したお陰で、最初は7しかなかったレベルが一気に20まで上がり、あっという間に成長限界に達してしまった。彼はガルガンチュアの息子であったが、レベル上限はそんなに高くなかったらしい。それは非常に残念なことではあったが、代わりにステータスの方は父親譲りで、今や軒並み15を超える高ステータスを誇っていた。

 

 力強さ、器用さ、敏捷さを手に入れた彼は、あの日からまるで人が変わったかのように、色んなことが出来るようになった。スリングだけではなく、乗馬や隠密行動、持ち前の地頭の良さもあって、文字もかなりの早さで習得しつつあった。先生であるギヨームも、さぞかし鼻が高いだろう。

 

 ところで、レベルに関してであるが、こんなことがあった。

 

 ヴィンチ村に到着してから、ルーシーは館に缶詰にされ、現代魔法の習得を進めていたのであるが……初めは「ここんちの子になる!」と息巻いていた彼女も、あまりに綿密に計画されたスパルタ教育に心が折れたらしく、ある日、鳳が部屋で寛いでいると、匿ってくれと逃げ込んできた。

 

 聞けば彼女は家庭教師をつけられて、朝から晩までみっちりと勉強させられているらしい。それも現代魔法の勉強だけではなく、陰影法や遠近法、幾何学に算術に古典物理学、医学、解剖学に果ては礼儀作法に至るまで、どうやら老人の持っている全てを彼女に詰め込もうとしているようだ。

 

 このままじゃ体がもたないよという彼女に、

 

「まあ、ここんちの子になるつもりなら、これくらいはやんなきゃ駄目なんじゃないの?」

 

 と言ったら、

 

「こんなに毎日勉強しなきゃなら、大金持ちなんてなりたくないよ。私、決めた……やっぱり娼婦になる! 友達もいっぱいいるし、今からでも遅くないよね?」

 

 とか言い出した。大金持ちよりも娼婦のほうが良いときっぱり言い切れるのは、それはそれである意味清々しいが……ともあれ、自分のパーティーメンバーが娼婦になってしまっては困るので、頃合いを見計らって密告する。

 

 その後……執事のセバスチャンにがっちりとホールドされ、ずるずると引きずられていきながら、「裏切り者ー!」と叫ぶルーシーを合掌しながら見送っていると、彼女を迎えに来たレオナルドが物のついでにといった感じに、

 

「時に鳳よ。お主、この間オークを倒した時の経験値がまだ残っておるかいの?」

「共有経験値のこと? ああ、大して入ってなかったから、使わずに取っておいてるけど」

「ならばあれのレベルを上げてくれぬか。あやつは最近伸び悩んでおってのう。得るものが少ないから、やる気が起きないのかも知れぬ」

「いいけど……レベルと現代魔法と、何か関係あるの?」

「わからん……」

 

 すると老人はあっさりとそう認めつつも、

 

「しかし、あの子の成長力は儂からしても、はっきり言って異常なのじゃ。儂は今までにも多くの弟子を持ったが、あれほど容易くスポンジのように何でも吸収する弟子はおらんかった。あの、神人スカーサハですら、そこまでの才能はない。あの子個人の実力はもちろん認めるが、それだけとも考えにくかろう」

「なるほど……」

「考えられるのは、人間と獣人の混血に何か特殊な遺伝があるのか、もしくはレベルくらいしか思い浮かばんかった」

「レベルねえ……」

「普通、あれだけ高レベルになっておれば、得意技や魔法など、誰だって何かしらの色がついておるものじゃ。しかしルーシーにはそれがなかった。だから、もしかすると、そういった伸びしろのようなものが、レベルにはあるのかも知れん」

「ふーん……そういや俺も、レベルが上ったら新スキル覚えたしな。やってみる価値はあるか」

 

 鳳はそう言って、軽い気持ちでルーシーに経験値を振り込んでおいた。これによって彼女のレベルは35から47に上がった。

 

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ルーシー

STR 10        DEX 11

AGI 13→14        VIT 12

INT 14→16        CHA 10

 

LEVEL 35→47     EXP/NEXT 3411/180000

HP/MP 757→842/292→331  AC 10  PL 0  PIE 10  SAN 10

JOB MAGE Lv1

 

PER/ALI NEUTRAL/NEUTRAL   BT A

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 ところが、本当になんとなしに上げたのだが、老人によれば、その後、彼女の現代魔法の取得率が実際に上がったそうである。相変わらず勉強嫌いで、目を離すとすぐに逃げ出そうとするそうだが、無理矢理にでもやらせてみれば、何でもすぐに上達し理解も早いらしい。彼女は新しく魔法を覚えられた喜びのお陰で、勉強に辛うじて踏みとどまっているようだ。それは大変重畳であるが……

 

 ところで、本当に、このレベルとは一体、何なんだろうか? ステータスとは関係がないと思いきや、ギヨームに言わせればやっぱり関係あるようだし、ルーシーの成長を見ていると、どうやらスキルの習得にも効いているようだ。そして鳳が以前自分で試した限りでは、ステータスは能力の絶対値ではなくバフであるらしい。

 

 これらを鑑みれば、どうも何かがこの世界に住む人々をアシストしているようにしか思えないのだが……それは神なのだろうか、それとも精霊なのだろうか。はたまた、この世界には鳳たちが気づいていないだけで、まだ他にもそういった仕組みが隠されているのかも知れない。

 

 なにはともあれ、分からないものをいくら考えたところで憶測の域を出ない。それよりも、今は目の前のものを一つずつ片付けていく方が、合理的と言えるだろう。

 

 特にオークの問題は人々の安全にも直結するのだし、今後も警戒を怠るわけにはいかない。

 

 それから、伝説の禁呪リザレクションを習得したいというメアリーの夢も忘れちゃいけない。

 

 もし、ルーシーの成長が裏付けるように、レベルがスキル習得の鍵になっているならば、それにはやはりメアリーのレベルを上げるのが一番の近道だろう。しかし、そう思って共有経験値を得ようとしても、なかなか難しいものがあった。

 

 鳳たちはヴィンチ村に来てからも、冒険者ギルドの依頼を積極的にこなし続けていたのであるが……オークの退治以降、彼らに共有経験値は全く入っていなかったのだ。

 

 それは、ある意味当然かも知れない。オークの存在が異常だっただけで、この近辺の魔物のレベルは低いのだ。それは今までずっと大森林で、凶悪な魔族と戦ってきた鳳たちパーティーにとっては、どうしたって物足りないものだった。

 

 現実問題、この世界の人々がレベル30くらいで成長が頭打ちになってしまうのは、いくら雑魚敵を倒していても、経験値が入ってこなくなるからだ。それを覆せるのは、唯一、鳳の共有経験値だけなのだが、今までの傾向からしても、難易度の低いクエストや、同じことを繰り返していては、それは得られないだろう。

 

 だから、リザレクションを覚えるには、環境を変える必要があるのだろうが……例えば、ネウロイに行って、オーク級の魔族と戦っていたら、いつか彼女の夢は叶うかも知れない。しかし、そのためにパーティーを危険に晒すのか……? ここを出て、より危険な世界へ向かうというのは、果たして正しい選択と言えるのだろうか……?

 

 彼女もそれが分かっているだろうから、特に何も言ってはこないが、ここ最近の鳳たちのパーティーは、少し行き詰まりを感じていた。

 

 パーティーについてはもう一つ、気になる点があった。

 

 鳳のパーティーメンバーは、ジャンヌ、ギヨーム、メアリー、ルーシーの計5人である。そこにマニは入ってない。

 

 ガルガンチュアの村を出てから今までずっと一緒に行動し、鳳はもちろん、ギヨームも弟分として認めているくらいなのに、彼の名前はパーティーリストには入っていなかった。

 

 まあ、考えても見れば、レオナルドやガルガンチュアも入ってないのだから、不思議じゃないのかも知れないが……

 

 実際、鳳の共有経験値はかなりのチート能力なので、誰にでも分け与えられたら、とんでもないことになるから、制限があるのはある意味仕方ないことかも知れない。しかし、それなら基準は何なんだろうか。

 

 そんなモヤモヤとしたものを抱えたまま、ヴィンチ村に来て一ヶ月が経過した。季節は夏真っ盛り。赤道直下の太陽に灼かれながら、鳳パーティーは停滞期を過ごしていた。

 

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